少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:チーム・スピカ、中山レース場に殴りこむ。

・UA63,000・64,000を突破しました。ありがとうございます!

・途中『馬』と言う漢字が出ますが仕様です、予めご了承下さい。


夢 8991 914 〜皐月賞・後編〜

 俺たちチーム・スピカは学園の最寄り駅から中山レース場を目指して出発した。

 

 乗り換え数としては大体3回くらいで、途中新宿や秋葉原などを経由した。

 

 その道中、車内の案内表示装置で流れていた皐月賞の宣伝を見たスペが嬉しそうに尻尾を動かしており、その毛先が自分の手の甲にさわさわと触れてメチャクチャくすぐったかった。

 

 まぁ、そんな事は置いといて、俺たちは最後の乗り換えを済ませ、後は最寄り駅である西船橋まで座っているだけだ。

 

 ……と行きたかったのだが、座席に座れなかったのだ。

 

 それはなぜか……だって今この車内はかなりの鮨詰め状態だからだ。

 

「こんなに人来るとか……聞いてませんよ先生〜!」

 

「GⅠはこれくらいが普通だ。入場者数は10万は行く」

 

「「10万!?」」

 

 俺の隣にいたスペもその入場者数を聞いて驚きの声を上げる。

 

 だってテレビでよく聞く「〇〇ドーム何個分」っていうフレーズが使われるあの野球ドームでも確か55,000人くらいだったはず……その約2倍の人たちががレース場に集まるのか!?

 

「確か去年の日本ダービーが過去最高の18万人を記録していたな」

 

「「じゅ……18!?」」

 

 またしてもスペと声が被りながら驚きの声を上げる。

 

 あの東京レース場に18万の観戦客が……俄には信じられないが、先生が言っているなら間違い無いだろう。

 

 それにしても、スペはそんな大観衆の前で走るのか……すごいな。

 

「私、今日そんなところで走るんですね……」

 

「確かにプレッシャーはあるだろうが、お前の夢は日本一なんだろ? だったら早く観衆に慣れたほうがいい」

 

「は、はい」

 

 そう言うが、話を聞いてから尻尾を両脚の間に挟んでいるスペ……確かウマ娘がこうする時は恐怖や緊張している場合だったはず。

 

 しかし無理もない。急に10万人の前で走れなんて普通は萎縮するに決まってる。

 

 そんな様子を見て、俺はスペを励まそうと声を掛けようとするが、中々言葉が浮かんでこない。

 

 自分が心の中で頭を抱えながら考えていると、スペを挟んで反対の方にいるスズカがギュッとスペの左手を握っていた。

 

 スペは急に手を握られて少し動揺していたが、少しだけ自分自身も握る手に力を入れる。

 

「大丈夫よ、スペちゃんはあんなに頑張っていたんだから……自信を持って走って……!」

 

「スズカさん……はい!」

 

 ……どうやら自分が声をかける必要はなさそうだ。

 

 確かにスペはスズカに憧れているし、声を掛けるならスズカが適任だな、うん。

 

「レオくんも何か言いたいことがあるんじゃないの?」

 

「……この流れ前もあったな〜」

 

 ほらスペもなんか期待するような目で見て来るよ……やめてくれ、そんな純粋無垢でピュアな目で俺を見ないでくれ、言うこと全然頭に入っていないから……。

 

「そうだな。スズカの言う通り、スペは練習を頑張ってきた……それは俺が近くで見てたから分かる」

 

「……」

 

「だけど俺は別に『勝ってこい』とか』『ぶっちぎってやれ』とか言う気はない」

 

「えっ? じゃあ何を言ってくれるんですか?」

 

 確かにここはスペを鼓舞するような、あのメイクデビューの時みたいな熱い言葉でもいいかなとは思ったが、それは今の俺が本当に言いたい言葉ではない。

 

「勝っても負けても……悔いのないレースをやれ」

 

「悔いの……ない」

 

「後でこうしてば良かったって言い訳をしないように、自分自身の力を限界まで出し切れって事だよ」

 

「つまり……全力でやれって事ですか?」

 

「Exactly!」

 

 某ホラー映画に出て来るピエロ風に声を変えて俺はそう言う。

 

 まぁネタが古い&マイナーだったこともあり、スペやスズカは全然気付かなかったが……。

 

   ・ ・ ・

 

 中山レース場の最寄り駅である西船橋駅に着いた後、臨時バスで中山レース場に向かう。

 

 ここではスペだけ座席を取れ、レース前にちょっとでも体力を温存をさせる。

 

 それにしても、ここまでバスの中がぎゅうぎゅうなのは中々ない経験だな……ちょっと息苦しいかも?

 

 叔父さんの家は東京の中でも田舎の方にあたる街にあったから、人混みって言うものとはほぼ無関係な人間だった。

 

 だからちょっとだけ、人混みに酔っているかもしれない……。

 

「レオくん……顔色悪いけど、大丈夫?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 とは言うけど、ちょっとキツイかも……。

 

 そう言えばバスもあんまり得意ではなかった。しばらく乗っていなかったから忘れていた。

 

「れ、玲音さん。席座りますか?」

 

「いや、いいよ……スペはレースがあるんだから、ちょっとでも体力は温存させないと……」

 

「……いえ」

 

「っ? うおっ!?」

 

 スペがなにか小さく呟いたのが気になり、体をスペに近づけたその瞬間、スペは俺の右手首を掴みながら席を立ち、座席に押し付けるようにして無理やり俺を座らせた。

 

 俺は慌てて席を立とうとするが、弱った体は思った以上に力が入らない。

 

「やっぱり玲音さんは休んでください……ちゃんと見てもらいたいですから……」

 

「……分かったよ」

 

 スペの尻尾とウマ耳が元気がなさそうに垂れ下がっていたので、本気で心配されているんだと分かった。

 

 だったらこれ以上心配させないためにも、今の俺がする事はスペの言う通りにして少しでも体調を良くすることだ。

 

「ふぅ〜……」

 

 自分は深く息を吐き、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

   ***

 

「(ガコンッ!)」

 

「(ワーー!!)」

 

 後ろの方からゲートが開く音と有り得ないくらい大きな歓声が聞こえて来る。

 

 俺は後ろを振り返るが……見えるのは真っ白な背景。

 

 そんな時だった……辺りがまるでイラストがその場で描かれていくかの様に背景が描かれ始めたのだ。

 

 シャーペンや鉛筆みたいなもので周りの輪郭が出来ていく。

 

 そこで分かったのは、周りには人がおり、その手には紙みたいなものを持っており、みんなある一点を見つめていた。

 

 俺もその方向を見てみる。

 

 そこにいたのは墨で描かれた四足歩行の謎の生物……それが十何頭も走っており、走る度に墨が飛び散っている。

 

 そんな不思議な光景を見ていると……その生物たちがレース場で言う第4コーナー辺りに差し掛かった。

 

 そしてその瞬間から、世界が色付き始めた。

 

 まるで絵の具を塗るかの様に……謎の生物がゴール板に近づく度にその周辺は色が付き始めている。

 

 ターフの綺麗な緑、晴れ晴れとしているコバルトブルーの空、観客たちの様々な色の服。

 

 これは……現実なのか? そう思えるくらいの色だった。

 

『さぁ先頭はセイウンスカイ! 2馬身のリードをキープ!』

 

「いけぇ! セイウンスカイ!!」

 

「来るな来るな来るな!!」

 

「キングヘイロー!! まだ行けるぞー!!」

 

「……」

 

 四足歩行の謎の生物に向かって観衆は声を上げる。

 

 というか待て、セイウンスカイに……キングヘイロー?

 

 あの四足歩行の生物があの娘たちと……同じ名前?

 

 じゃ、じゃあまさか!

 

 一つの可能性を考える内にセイウンスカイと呼ばれている謎の生物はゴール板まで残り200mを切っていた。

 

『キングヘイローがその差1馬身に詰めてきた! ”スペシャルウィーク”は3番手! セイウンスカイ粘って粘ってゴールイン!!』

 

「(ワアアアァァーー!!)

 

「うおっしゃああ!! 当たったぞおお!!」

 

「どおおして! そこで粘らねえんだよクソが!!」

 

「……」

 

 なんだ……これは……?

 

 レース場に似た場所、紙を片手にあの娘たちと同名の謎の四足歩行生物を見守る観衆たち、頭上にばら撒かれる紙屑。

 

 そして何より……ウマ娘のレースとは違う。あの観衆たちの視線、声、仕草。

 

 まるでその生物に人生を賭けているかのような……そんな気迫。

 

 泣いて喜ぶ人も居れば、絶望で泣き叫ぶ人もいた。

 

 この世界は……なんなんだ?

 

   ***

 

「ん、ん〜……あれ、俺は……」

 

「よっ、目ぇ覚めたか?」

 

「……ゴールドシップ?」

 

 なんでゴールドシップの顔がこんな近くに……てか、俺何をしていて……。

 

 そう思い、俺は辺りを見渡す。

 

 ……俺はゴールドシップにおんぶされてた。Why?

 

「お前、あのバスでそのままグッスリ眠っちまったんだよ。だからこの優しいゴルシちゃんがお前を背負ってやったって訳よ」

 

「眠って……っ、今何時くらいなんだ!?」

 

「安心しろ、丁度いいタイミングで目が覚めたからな」

 

 ゴールドシップがそう言った瞬間、中山レース場にファンファーレが鳴り響く。

 

 って事は……丁度出走時間って訳か。

 

 ゴールドシップは俺を地面に下ろしてくれる。

 

「大丈夫そうか?」

 

「あぁ、ありがとうゴールドシップ」

 

「お代金はゴルシちゃん呼びで許してやるよ!」

 

「それは安いな」

 

 俺がそう言うのと同時にファンファーレは終わり、徐々にウマ娘たちがゲートに入っていく。

 

 スペは……大外か。

 

 ゲートインが完了し、中山レース場に一時の静寂が訪れる。最近、この静寂も楽しめるようになってきた。

 

 まだか……まだか……気持ちだけが先行する。

 

「(ガコンッ!)」

 

「(ワーー!!)」

 

 ゲートが開かれ、レースがスタートした!

 

 スペは後ろから4番手くらいに着き、足を貯めている状態だ。

 

 この流れとしてはこの前の弥生賞と同じ形になる……が、俺が視界に捉えていたのはスペではない……その前、今のところ先頭集団にいる2人のウマ娘、キングヘイローとセイウンスカイ。

 

 あの夢を信じる訳じゃない……だけど、あんな偶然があるのだろうかという思いがずっと俺の心の中で彷徨っている。

 

 実際、今日のあの2人は調子が良さそうだ。

 

「弥生賞と同じような展開だな」

 

「って事は坂を登った後の直線勝負ね!」

 

「ねぇ、またあの追い込みが見られるのかな玲音?」

 

「……」

 

「あれ、玲音?」

 

「……レオくん?」

 

 レースは後半、第4コーナーに差し掛かる頃だ。

 

 仕掛けるとしたらそろそろだが……スペの顔を見ると仕掛けようとしている。

 

 だが、それよりも先に動いた娘がいた。

 

 ーーーセイウンスカイだ。

 

 坂に入る残り数十mのところで一気に外に広がる事で前を開け、スパートをかけた。

 

 先に仕掛けられたスペは続くように仕掛ける。

 

 そして2回目となる心臓破りの坂だが……セイウンスカイは全然スピードを落とす気配は無かった。

 

 いや、むしろ早くなっている。

 

 スペもその事に気付いたのか、視線をセイウンスカイの後ろ姿から登った先のターフに変える。

 

 前と同じように坂を登り切った後の直線で勝負するつもりだ。

 

 順位は1番手セイウンスカイ、続いてキングヘイロー、そしてスペシャルウィーク……。

 

 ついさっきまで見てた夢と……同じ。

 

 そんなことを思っているとスペが坂を登り切り、スパートを掛ける……が、追いつけない。

 

 前のセイウンスカイはここで一杯になっていたが、今のセイウンスカイはちゃんと足も残っている。

 

 そしてそれは2番手のキングヘイローにも言えることだった。

 

 スペは歯を食いしばり、目をきつく瞑り、腕を大きく振る……が、それでもスペのスピードは上がらずセイウンスカイどころかキングヘイローにも届かない。

 

『セイウンスカイ! 粘って粘ってゴール!! 2着はキングヘイロー! スペシャルウィークは3着に敗れました!』

 

 この瞬間、スペの初めて敗北……そして、三冠ウマ娘の可能性はなくなった。

 

 チーム・スピカのみんなはウマ耳を垂れ下げ、先生は静かに目を瞑るのだった。

 

 

 




・オークス、楽しみですね。

・キャラガチャが爆死ン……。

・次回はレース後の話をちょろっとする予定です。
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