少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:スペ、日本ダービーへの決意を固める。

・UA65,000・66,000・67,000・68,000を突破しました。ありがとうございます!

・たい焼きの前に一つ挟みます。



第4R「夢を叶えるために」
玲音の叔父


「自転車の用意……ですか?」

 

「そうだ」

 

 皐月賞から一日経ち、チーム練習を見守っている最中、先生に「自転車を明後日までに用意してほしい」と言われた。

 

 唐突なことで驚いたが、理由を聞いてみると学園の外を出てランニングを行おうと考えており、ウマ娘の足に着いて行くなら自転車があったほうがいいだろうと言われた。

 

「まさか、自転車を持っていないとかそんな事はないよな?」

 

「それはありませんけど……でも」

 

 そう、一応自転車は持っているのだ。

 

 ただ、その自転車っていうのが、普通の自転車ではなく……。

 

「ロードバイクなんですよね……持っているの」

 

 元々太り気味の叔父さんが健康のためにサイクリングをしようと思い、街中の自転車ショップで買ったが、三日坊主で飽きていたので俺が貰ったのが、今持っているロードバイクだ。

 

 ただ、この学園に来るに至って、そんな遠くに行って遊ぶわけでもなく、仮に遠くに行くにしても電車で事が足りるのでロードバイクはこっちに持ってこなかったのだ。

 

「別にロードでも大丈夫だぞ、なんだったらバイクでもいいしな」

 

「そうですか……ちょっと抜けますね」

 

 俺はトレーニングをしていたトラックから一回出て、ポケットに入れていた携帯を取り出し、ある電話番号に電話をかける。

 

 この人に電話するのはかなり久々だし、仕事で携帯の電源をオフにしている可能性もあるが……まぁあの人基本は暇だからいいだろう。

 

『はい、東蜜です……』

 

 5コールくらいした後、気怠くて眠そうな声をした中年の男性の声がスピーカー越しに聞こえて来る

 

 東蜜と名乗った男性は俺の叔父さんである。本当の名前は鞍安徹夫と言うが、東蜜って言うのは叔父さんが仕事で使っているペンネームみたいなものだ。

 

 ちなみに叔父さんの仕事はマンガ家である。昔一回描いていたマンガがアニメになった事もあるらしい。(見た事はないが)

 

 ……この人、またワインを飲んでいたのかな。

 

「叔父さん、俺です、谷崎です」

 

『んっ……玲音くんじゃあないか。どうしたんだい? 君から電話するなんて珍しいじゃないか』

 

「確かに……叔父さんにお願いしたい事があるですけど、自分の部屋に置いてあるバイクを点検に出して、明日くらいに持ってきてほしいんですけど」

 

「随分と唐突だね、どうしてだい?」

 

 俺は叔父さんに明後日までに自転車を用意して欲しいと言われた事を叔父さんに話す。

 

 叔父さんは最初唐突過ぎるという事で少々渋っていたが、なんとか分かったという言葉を言わせる事ができた。

 

『そういえばメジロのお嬢様とはどうなんだい?』

 

「マックイーンとは普通に仲良くして貰っていますよ」

 

『そうかい……あともう一つ』

 

「なんですか?」

 

『”あの子”には会えたのかい? 君はあの子と会うためにトレセンに行っただろ?』

 

「……」

 

 叔父さんが言っているあの子というのは、スズちゃんの事だ。

 

 元々トレセン学園に行った理由は……あんだけ走るのが速かったスズちゃんなら、中央に行っているはずだと勝手に思っていたからだ。

 

 もちろん、それは俺の勝手な考えで、必ずそこにスズちゃんがいるという保証はどこにもなかった。

 

 中学3年で進路を聞かれた時、トレセン学園に行きたいですというと周りは強く反対した。

 

『トレーナーなんて夢を見るのはやめろ』

 

『普通に進学しなさい』

 

 それでも俺はトレセン学園に入りたくて、必死に勉強をし、叔父夫婦を説得を試みることにした。

 

 学力や周りを納得させたとしても、トレセン学園は普通の高校よりも学費が多く掛かる。

 

 だから親の説得は一筋縄では行かないだろう……そう思っていたが……。

 

『いいんじゃないかい?』

 

 そうあっさりと言われて、トレセン学園の学費をポンッと払ってくれたのだ。

 

 もし叔父さんが払ってくれなかったら、スズちゃんとの再会はなかった。

 

「会えましたよ……数年ぶりに」

 

『そうかいそうかい……良かったね玲音くん』

 

「いえ、叔父さんがトレセン学園に行かせてくれたからですよ」

 

『あはは……さて、明後日までに用意すればいいんだね?』

 

「はい」

 

『今日は近くの自転車ショップは閉じてるから、明日出して、明後日に直接受け渡すって感じで良いかい?』

 

「はい、大丈夫です」

 

『それじゃ、また明後日に』

 

 叔父さんがそう言うとプツッと電話が切れた。

 

   ・ ・ ・

 

 叔父さんに電話してから二日が経ち、俺は学園の外で叔父さんの到着を待つ。

 

 周りではスピカのみんなが各々準備体操やストとレッチを行っており、自分のバイクが来たらすぐに外周できるように調整している。

 

 ……そんな中異様にずっとお腹を触っているスペの姿が視界に入ったのだから、なんでだろうと不思議になった。

 

 でもそんな不思議を解明しようとする前に、叔父さんの車が見えた。

 

 叔父さんが乗っているのはイギリスの有名メーカーの乗用車、渋い緑色が遠くから見ても目立つ。

 

 そしてそんな緑色の車が俺たちの近くに止まり、ドアを開けて叔父さんが出て来る。

 

「やあ玲音くん、待たせたね」

 

「叔父さん……忙しいのにわざわざすみません」

 

「いいよ全然。ブツは後部席にあるよ」

 

「分かりました」

 

 自分は緑色の車体に取り付けられているドアを引っ張り開け、その中にあったバイクを引っ張り出す。

 

 ハンドルやサドル、フレームの色は基本黒だが、サドルに向かって行くに連れオーシャンネイビー色のグラデーションが施されている。

 

 確か叔父さん曰く、「ただの市販車では詰まらない」と言う理由でメーカーの公式から受注できるカラーオーダーをしたらしく、このカラーは市販では売っていない。似たような色なら何度か見たことはあるが、ほぼこれは世界に一つのバイクと言っても過言ではないだろう。

 

 俺は車からバイクを引っ張り出した後、スタンドをかけてからタイヤの空気圧チェック、ブレーキのチェックを行う。

 

 うん、大丈夫そうだな。

 

 さて、改めて叔父さんにお礼を……と思ったら、さっきまでそこにいた叔父さんがぽっかり居なくなっていた。

 

 あれ? と思い、俺は腰を上げて辺りを見回してみる。

 

 そして見つけたは見つけたが……うん、あれは止めた方が良さそうだ。

 

「おー! 君はゴールドシップだね、ジュニアでは2着を2回、そして昔君が見せてくれた皐月賞の追い上げはとても素晴らしいものだったよ! まさか稍重のバ場状態だった中山レース場で他の子たちが外を走る中、君だけは内を走り抜き、1着を見事に勝ち取るなんてね。いや〜、あの時は面白いものを見せてもらったよ。記念に握手してもいいかな?」

 

「な、なんだこいつ……トレーナー、こいつ蹴ってもいいか?」

 

「いやダメに決まっているだろう」

 

「ウマ娘の蹴りか……マンガの表現で何回かやったことはあるが、この身では一回も受けたことがなかったな……よし、ゴールドシップどんと来い!」

 

「やべぇ、こいつトレーナーと同レベルの変態だ……」

 

「おい俺が変態ってどういう事だよ」

 

「そしてそこにいるのはスペシャルウィークだね、いや〜皐月賞は惜しかったねぇ。でもこの先にはまだ日本ダービーや菊花賞、他の重賞レースもあるんだから気を落とさないようにね。君はとても素晴らしい脚質を持っている、特に弥生賞の坂を登り切った後のラストスパートは目を見張るものがあったよ。あんな走りをまた見せてね」

 

「は……はい。ありがとうございます」

 

「そして君はーーー」

 

「ストップ叔父さん、ウマ娘に興奮するのはそこまで」

 

 俺はスズカの方に移動してきた叔父さんの襟を強く引っ張る。「ぐえっ」と小さく言った叔父さんは俺の方に振り返って何かを言っているが、そんな重要な事ではないので聞き流す。

 

 まぁ叔父さんのこの発作はある意味ウマ娘とヒトの恋愛マンガなどをよく描いている叔父さんの職業病みたいなものだ。

 

 ある時は引退したウマ娘に直接アポを取ったこともあるし、もっと若い時にはトレセン学園の門の前でずっと張り付いていたという伝説を残しているとかないとか……。

 

「す、すまないね玲音くん。止めてくれて助かったよ」

 

「全く、叔父さんのその病のせいでウマ娘の子たちが怯えたりとかしたらどうするんですか」

 

 実際スズカは叔父さんに滲み寄られてた時、恐怖を感じてか耳を垂れ下げていた。

 

「本当に申し訳ない……それでこの中には玲音くんが会いたがっていた子はいるのかい?」

 

「……まぁ、居ますけど」

 

「ほ〜う、誰なんだい?」

 

 俺は別に言わなくてもよかったが、この人の場合スズちゃんを特定するまで学園に居座りそうだから、他の人に迷惑をかけないためにもすっととスズカの隣に移動して、手をスズカの方に向ける。

 

「この子だよ、サイレンススズカ。自分はスズって呼んでるけど」

 

「……」

 

 その時のおじさんの顔はあっけらかんな表情を浮かべていた。そして次に口をぽか〜んと開ける……これがマンガだったら、顎も伸びていただろう。

 

 きょろきょろと俺とスズカを交互に見た後、乾いた笑みを漏らす。

 

「嘘だろ……あの時の可愛い娘がサイレンススズカだったなんて……」

 

「えっ、叔父さんスズにあったことあるんですか?」

 

「一回だけね。君たちが3・4歳のくらいの時に姉さんに用事があって、その時に仲睦まじい兄妹のような子が居たのを覚えている」

 

 へ〜と俺は声を漏らす。

 

 俺なんか3・4歳のことなんてスズカと仲良していた以外の記憶は全然ない。

 

 だから叔父さんの記憶力に素直に感心した。

 

「そうかい……君があの時の子か。大きくなったねぇ……」

 

「は、はぁ……」

 

 スズカからしたら、全く面識のない男性に訳も分からず感心させられているという意味不明な状況であり、どう反応すればいいのか戸惑っていた。

 

 だけど叔父さんはスズカの方へ体を向け……そして静かに腰を折った。

 

「お、叔父さん。一体何を……」

 

「スズカちゃん、これからも、玲音くんの事をよろしくお願いするよ」

 

「えっ? えっと……」

 

 叔父さんに急な頼み事をされ、スズカは困惑していた。

 

 だけど、おじさんの真剣な顔を見てそれに感化されたのか、スズカも真剣な顔になって。

 

「はい……」

 

 と返事をしたのだった。

 

 そして叔父さんは帰って行き、チーム・スピカは外周トレーニングをし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 




・テストも終わり、文化祭が今週にあるんですよね。うちはカジノをやる予定です。CMの編集係になってタヒぬかと思った。

・日本ダービーも楽しみですねぇ……。

・マヤちゃんと女帝様のウェディングドレス姿、可愛い&ふつくしい……。

・次回はたい焼きのお話の”予定”です。
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