少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音の叔父さん登場。

・UA69,000・70,000を突破しました。ありがとうございます。

・ゴルシが「うけ」という言葉を使いますが、意味としては『食(うけ):食物、食もつの神』という意味で取ってます。ニュアンスとしては「飯だー!」みたいな感じだと考えてます。



知識以外に必要なもの/シークレット味のたい焼きはやめておけ…まじで

「ふっ……ふっ……」

 

『1、2! 1、2!』

 

 叔父さんが持ってきてくれたロードバイクの乗り心地を肌で感じ、同時にロードバイクの乗り方を思い出していくかのように漕ぎ続ける。

 

 走って30分くらいしたが、なんとか慣れてきた。

 

 ただウマ娘の走るスピードは普通の人よりも早いので、置いて行かれないようにするので精一杯だ。

 

 まぁレースで走るほどの早さではないが、それでも自転車くらいのスピードが出ているからな。

 

「玲音、すごいキツそうだけど、大丈夫?」

 

「心配すんなテイオー……今は乗り方を思い出しているだけだっ……何せ、半年ぶりくらいに乗ったからな」

 

 自分としてはそんなに苦悶の表情を浮かべていたつもりはなかったが、どうやら自然と浮かべてしまっていたらしい。テイオーがわざわざ速度を落として、俺の隣で併走している。

 

 そしてそれに気づいた先生はテイオーに元の場所に戻るように大声で言って、テイオーをみんなの中に戻し、スピードを落として俺の前まで移動し、後ろを振り向きながら声を上げる。

 

「どうした玲音? もうくたばったか?」

 

「別に……こんくらいどうって事ねえっすよ」

 

「口調変わってるぞ」

 

 あ〜くそ、周りに疲れているように見られているって自覚した瞬間から、足がすごく重くなっている。

 

 呼吸も少し浅くて、汗もぶわっと出てくる。

 

「玲音、トレーナーには戦略や知識以外にも必要なものがある。それは何か分かるか?」

 

「さぁ……信頼性とか、ですか?」

 

「それも大切だが、もっと簡単でかつ大事なものだ」

 

 信頼性以上に簡単で……大事なもの。

 

 そう言われて考えてみるが、うまく思考が回らない。

 

 思考に頭を使ってしまうとただでさえ不安定なロードバイクなのに、バランスを崩してしまいそうだ。

 

「トレーナーに必要なもの……それは”体力”だ!」

 

「た、体力……?」

 

 確かに先生が言った事は簡単な事だったが……なぜ体力が大切なんだ? むしろそれを大切にするのはウマ娘の方だと思うんだが……。

 

 そんな風に疑問に思っていると先生が答えてくれる。

 

「ウマ娘の練習を考えるのはトレーナーの仕事だ。だがそれに付き合うための体力と根気もトレーナーには必要だ」

 

「根気と体力……でもトレーナーは指示しているだけでいいんじゃないですか?」

 

「まぁそこは意見が割れるところだが、俺は必要だと思っている」

 

 先生曰く、トレーナーには2つのタイプが存在している。

 

 一つは俺が考えていたように、担当のウマ娘に合ったトレーニングを用意し、それを担当ウマ娘に連絡しその後は任せる傍観主義。

 

 もう一つは先生のように担当のウマ娘のトレーニングメニューを出してあげ、それにトレーナーも付き添いトレーニングを共にする同伴主義。

 

 他にも異なる方法でトレーナーをしている人もいるが、大まかにはこう分けられる。

 

 ただその説明を聞いても、俺はピンと来ないどころか新たな疑問が生まれた。

 

「その同伴主義っておかしくないですか?」

 

「なんでだ?」

 

「だってサッカーや卓球……他のスポーツでも、”監督”は選手たちの練習には参加しませんよね?」

 

 そう、どんなに優れたチームの監督でも、練習の内容は指示するが監督自らが練習に加わる事なんて中々……いやほぼない。

 

 だから同伴主義って言うのはある事自体がおかしいんじゃないだろうか?

 

「そこだよ玲音」

 

「えっ……どこっすか?」

 

 俺は辺りをキョロキョロと見渡す……しかし先生は自分のボケを無視して話を続ける。

 

「今玲音はトレーナーは監督だって言ったよな?」

 

「っ? え、えぇ……」

 

「そこが違うんだよ。俺が考えるにトレーナーっていうのは、監督と言うより”マネージャー”に近いと思ってる」

 

「……マネージャー?」

 

 マネージャーって言うと、ユニフォームを洗ったりとかボール拾いとかスコア記入などの雑務を行ってくれる人だよな。

 

「監督はチームを広い目で見る。だがマネージャーは競技者とほぼ同じ視点で競技者をサポートをする事が出来る」

 

「……同じ視点で、支える……」

 

 そう言えばこのチームに入って来てから俺がやって来たのは基本雑務が中心だった。みんなのためにスポドリを手渡したり……勝負服の受け取りだって、部活の買い出しとほぼ同じと見てもいいだろう。

 

 そう思うと、トレーナーの仕事は結構マネージャーに近いものがあるのかもしれない。

 

「一応言っておくが、これは俺はこういう派っていうだけだからな。実際最強のリギル様は傍観主義。だが、同伴主義はウマ娘の側で練習を見られる。だからトラックで遠目でみるより、ウマ娘の状態などが把握しやすくなるんだ」

 

「なるほど」

 

「そしてそのウマ娘の練習について行くには体力や根気が必要って事だ」

 

 ここで初めて先生が言った事が理解できた。

 

 なるほど、トレーナーは監督ではなくマネージャーに近い……その考えは自分のトレーナーという職業のイメージをひっくり返すものだ。

 

 やっぱり、先生からは色んな事が学べる。

 

「よーし、そこの公園で休憩!」

 

『はい!』

 

   ・ ・ ・

 

 チームのみんなが近くの公園に入っていき、先生と俺も遅れてその公園に入り合流する。

 

 ひょいとバイクを降りて、一息ついて太ももや脛辺りをマッサージする。

 

 やっぱり久々のロードバイクだったという事もあり、もう脚がパンパンである。

 

「今日は控えめにしておくが、次からまた距離を増やすからな?」

 

「は……はい!」

 

 中学生や小学生の時の俺が今のセリフを聞いたら「勘弁してくれ!」と思っていたが、今は自然と声が出ている。

 

 これも全て、一流のトレーナーになるため……そのためには如何なる苦難も乗り越えてみせる!

 

 ……とりあえず最初は自室で出来るスタミナトレーニングから始めるとするか。

 

「あー!」

 

 ゴールドシップが突然、叫んだので俺たちは一斉にゴールドシップの方を向く。

 

 特にウオッカとスカーレットは真後ろにいたので、突然の大声に驚き尻尾とウマ耳がビクッと跳ねた。

 

「急に大っきい声出すなよ!」

 

 しかしゴールドシップは謝ることなく、人差し指をある方向へ向けていた。

 

 俺たちはその指の先を視線で追ってみる。

 

 するとそこにはキッチンカーが停められており、周りに『たい焼き』と書かれた幟が立てられていた。

 

 今気づいたが皮の焼ける香ばしい匂いが、ここまで風に乗っかって鼻腔に届いている。

 

「たい焼き屋さんか……」

 

 自分がそう言った瞬間「ぐ〜〜」とひょうきんな音が聞こえ、みんなその音がした方に振り返る。

 

 その音の正体はスペがお腹を空かせて鳴らしていた音だったらしい。少しお腹を手で抑えている。

 

「しょうがねぇな〜、奢ってやるよ」

 

「わーーい! うけーー!!」

「おおおおおお!!」

「「わあああ! やったーー!!」」

 

 トレーナーのその言葉を聞いた瞬間、一斉にたい焼き屋さんの方に走って行く。心なしかランニングしていた時よりも速い様な気がする。

 

「あいつらまだ元気じゃねえか……」

 

 残された俺とスズカ……そしてスペも先に行った4人の後を追う。

 

「俺ウィンナーマヨ!」

 

「はぁ? たい焼きと言えば白あんでしょ!」

 

「……どっちも違うような……」

 

 ウオッカとスカーレットは「それが当たり前!」と言うように言っているけど……まだ白あんは分かる。ただウオッカのウィンナーマヨってそれはたい焼きに入るのか?

 

 まぁ今のご時世タコの入っていないたこ焼きや、鰻の代わりにナスを使った蒲焼きとかもあるから、形さえ整っていれば〇〇! って言うのはあるのかもしれない。

 

「ボクはね〜……カスタード!」

 

 よかった、ようやく普通の味が出てきた。

 

 そう言ったテイオーは両手をちょこちょこと動かしてそわそわとたい焼きを待っている……その仕草が餌を待っているネコみたいで、ちょっと可愛らしい。

 

「おっちゃ〜ん、シークレット10個」

 

「(えっ?)」

 

 声にはなっていない……が、先生はゴールドシップから出てきた言葉に驚いていた。

 

 たい焼きはおよそ180円……それが10個ってことは1800円。オマケに先生はそこまでお金が無い方だ。

 

 先生……ドンマイです。

 

「私はこしあん一つ……レオくんは?」

 

「えっ……」

 

 俺は先生の顔色を伺うように先生の方を向く。

 

 ゴールドシップが10個買って想像以上の出費のはず……自分は食べない方がいいんじゃ無いかと。

 

 だが先生は俺の視線に気づくと……サムズアップを返してくれた。

 

 これは……大丈夫ってことなのかな。

 

 なら、お言葉に甘えよう。

 

「俺は粒あん一つ、スペはどうする?」

 

「私は……大丈夫です」

 

   ・ ・ ・

 

 その後、俺たちは近くのベンチに座って、たい焼きを食べ始める。

 

 みんなは頭から食べているけど、俺は尻尾から食べる。

 

 ……うん、美味い。

 

 皮がパリッとしていて、かつ中はしっとり……中に入っている粒あんもそこそこの大きさで甘さは少し控えめである。

 

「んでどしたスペ、なんでたい焼きを食わないんだ?」

 

「それは……その……ットです……」

 

「んっ? もう一回言ってくれるか?」

 

「ですから! ……ダイエットです」

 

「ダイエット〜?」

 

 なるほど……彼女だって年頃のウマ娘だ。そう言う体重とかを気にするのは至って普通なことだろう。

 

 でもいつもあんなにお腹を膨らませるくらい食べていたスペが急にダイエット……失礼かもしれないが、ちょっと意外である。

 

「はい……皐月賞、勝負服のホック留まらなくて……だからかなって……」

 

 ふと皐月賞の前日……勝負服を受け取った時のことを俺は思い出す。

 

 そういえばあの時、スペは服の後ろの方に手をやっていた。それに気のせいだと思っていたがブチッて言う音も聞こえた。

 

 あれは気のせいではなく、ホックが外れた音だったんだな。

 

「そう言えばパドックの時も、スペ先輩手を後ろの方にやってましたね。もしかしてあの時も?」

 

「う、うん」

 

 スペは少し申し訳なさそうに、小さくウオッカの問いに答える。

 

「……スペ、体重が増えるのは悪いことじゃ無い。早く走るための体が出来上がってきた証拠だ。強くなるためにはどんどん食って、筋肉量を上げた方がいい」

 

 先生の言い分を聞いていると、サッカーや卓球をやっていた時も同じことを言われたな〜と俺は物思いに耽っていた。

 

『ご飯は2杯は食べろ』『間食を入れて5食食べろ』『バランスは取れ』と色々言われたものだ。

 

 実際、スポーツは食べる才能も必要とされている。とある格闘家は『体を作る時に何が一番辛かった』という問いに対して「食事が辛かった」と言った。

 

 それくらい食とスポーツ(体)は密接に関係している。

 

「でも! やっぱり私は少しでもやれること全部やってみたいんです」

 

「納得行かないってことか」

 

「……はい」

 

 でもレースは軽ければ軽い方がいい……そのための無駄な肉はいらないとスペは考えているらしい。

 

 だからちょっと蛇足かもしれないが、俺は自分が知っている事をスペに言おうとスペの方に体を向ける。

 

「スペ、一応言っとくけど、脂肪と筋肉だったら、筋肉の方が重たいんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「体重が増える=太ったって訳にはならない。むしろ筋肉が出来た方がもっと重たくなるんだ」

 

「重たく……」

 

「体重ばかり気にするな、それよりも体脂肪率を減らして筋肉量を増すんだ」

 

「……」

 

 俺の話を聞いたスペは少し俯いてしまう。

 

 まだ体重を減らした方がいいという考えと筋肉量を増やせばいいという考え、どちらを取ればいいのかまだ悩んでいるんだろう。

 

「まぁ玲音の言う通り、筋肉量を増やして体重を落とす事自体は悪い事じゃ無い」

 

「でも……」

 

 先生はなぜだかその場から立ち上がり、スペの真正面に向く。

 

 そしてその場にしゃがみこんだ。

 

「特に脚は……」

 

 そう言いながら両手をスペの足に伸ばしている。

 

 この人……なんでナチュラルに女性の脚に触れようとしているんだ!? それってセクハラだろ!?

 

「ちょ、何をしようとして……!」

 

「「「「こーーらーー!!」」」」

 

 ズバーン! とえげつない音が辺りに響く。

 

「どうわああああああ!?」

 

「なーにまともらしい事を言って、エロい事をしようとしてやがるんだ!」

 

 ウマ娘4人の……それも本気の強さで蹴られた先生はまるでサッカーボールのように宙に浮き……勢いよく墜落した。

 

 うわぁ……あの体勢から落ちるのは、ちょっと勘弁したいなぁ。

 

 ……てか、本当に大丈夫か? あれ。

 

「……ナムアミダブツッ」

 

 とりあえず全然ピクリとも動かない先生の方を向いて、某ニンジャアニメのナレーターのような口調でそう言っといた。

 

 そんな事をしている間に、チームのみんなはスペのダイエットに全面協力することになったらしい。

 

「みんな……ありがとう!」

 

 チームのみんなの好意を受け取って……そう言うスペは笑っていた。

 

 明日から……忙しくなりそうだ。

 

「ねぇ、シークレットってなんだったの?」

 

 スカーレットのその言葉を聞いて、そうだと思い出した。

 

 実はシークレット味が気になっていた俺氏、ゴールドシップに一口分けてもらおうかと思ってたんだった。

 

「なぁゴールドシップ、よかったらなんだけど、一口くれないか?」

 

「いやだ」

 

「……えっ?」

 

「言い方が違うだろ?」

 

 言い……方?

 

 もしかして、めちゃくちゃ丁寧にかつ尊敬するように言わないとダメなのか?

 

 ゴールドシップ様とか? ……なんだろう、あんまり言いたくない。

 

「皐月賞の時、言っただろ?」

 

「……ゴルシ呼び?」

 

「……」

 

 そう言えばおんぶしてもらったお礼はゴルシ呼びでって言っていたような……でもあれって寝起きの思考だったし、ゴールドシップなりのジョークだと思っていたが……違うのか。

 

「ゴルシ、シークレット一口いいか?」

 

「ほい」

 

 今度は普通にたい焼きを差し出してくれるゴルシ……俺は指で一部を千切って一口分をもらう。

 

 千切ってみると、中に黄色いソース見たいなものが入っている事が分かった。

 

 黄色い……レモン味とか柑橘系かな?

 

「ゴルシゴルシ! ボクにも一口ちょうだい?」

 

「んっ」

 

「「はむっ」」

 

「「……」」

 

 うん……どうやら甘い系ではなさそう。

 

 咀嚼を続けると口内、そして鼻腔を駆けていく……fs&$(%’ヂェ*wクァy>¥おlp(その次の瞬間、強烈な辛味が俺の口内を支配した)!?!?!?

 

「オ゛オ゛エエエ゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

「ヒョウエエエ゛エ゛エ゛!!」

 

 玲音とテイオーの発狂を見て、スカーレットとウオッカはドン引きしていた。しかしそれと同時にシークレットの中身が何なのか益々気になってしまい、差し上げた張本人に聞いてみる事にした。

 

「な……なんだったの、そのシークレットの中身」

 

「カラシ、もぐっ」

 

「「えぇ〜……」」

 

 この2人の困惑は二つあった。

 

 一つはたい焼きにカラシを入れるという常軌を逸する事をやっていた、たい焼き屋さんへの困惑。

 

 そしてもう一つは……2人が発狂するくらい辛いたい焼きなはずなのに、それを涼しい顔でパクパクと食べているゴールドシップへの困惑だった。

 

 

 




・文化祭が延期になってしまった(´;ω;`)

・4Rを見ながら書いたんですけどやっぱゴルシ「うっけ−!」としか聞こえない……みなさんはどう聞こえてますか? あとテイオーの悲鳴も。

・次回はスペの減量計画の話の”予定”です。
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