少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・通算UAが2000超えました。本当にありがとうございます。
「おっ、帰って来たな」
俺は手に持っていたストップウォッチを押す用意をする。
俺から見て左からやって来たのは、今俺がチームに欲しいと思っているウマ娘だ。
本当はリギルに所属しているウマ娘だが、あのリギルのトレーナーであるおハナさんが固すぎるせいで、こいつの脚質や個性を最大限活用できていない。
彼女が真横を通り過ぎたところでストップウォッチを止める。
「おいおい、嘘だろ……」
思わず笑みが漏れてしまう。何せそこに示されていたタイムはエグいタイムを叩き出していたのだ。
やっぱり俺が合っていた。彼女は逃げ……それも最初から一気に引き離し最後まで先頭を譲らない大逃げスタイルが彼女には合っている。
いやそれでも、このタイムは異次元すぎるだろう。
「どうしましたか?」
「いや何、面白いものが出てきたんでね……どうだ自由に走ってみて?」
「……」
「”スズカ”、お前は逃げに向いている。自分ではそうは思わないか?」
「……それでも、トレーナーの言うことは聞かないといけません。それがリギルの原則ですから」
「本当にそれでいいのか?」
はっきり言っておハナさんは指導力はある。だが、勝つためのレースに拘り過ぎているんだ。
結局走るのは彼女で、ターフの上では彼女の判断が最終決定になる。
それに前回の香港国際カップの時、彼女は逃げでレースに負けた。だがあれは体調が良くなかったからだ。
「いいんです。それで私の見たい景色を見れれば……それだけで」
「大逃げでそれが見られるとしてもか?」
「えっ?」
「想像してみろ? 君は先頭だ。そして目の前には誰もいない。誰もお前に追いつけないんだ」
「誰も……追いつけない……」
「そうだ、そしてその先にお前が見たい景色……世界が待ってるんだ」
「見たい……景色……」
……そろそろ限界かな。
でも、これで彼女には『自由に走る』という選択肢が生まれた。それだけでも儲け物だ。
「明日、もう一度レース場で会おう。その時にお前の素直な気持ちを聞かせてくれ」
「……」
サイレンススズカ……あいつはいいウマ娘になる。
でもそのためには自分の走りを貫いて貰わないといけない……。
さてさて、明日はどんなレースになるか……楽しみになってきたな。
***
「……今日もか」
今日も終業のチャイムと同時に教室を出て教員室に訪れたが先生の姿はなく、また紙しか置かれていなかった。
内容は昨日とは違うみたいだが……いやいや冷静に考えるな俺!
流石に二日も来ないのは普通に考えてトレーナー失格だろ! 何を考えているんだあの人は!
しかしそう先生の愚痴を心の中で叫んでいると、用意された紙に一枚のメモ帳用紙が挟まれていた。
俺はそれを手に取り、その内容を確認する。
そこには『仲間を増やしてくる』と簡潔に書かれていた。
仲間を増やす……つまり、誰かをスカウトしに行っているってことか?
スカウトの交渉をするために長い間チームを留守にしてた……そう考えればウオッカやダイワスカーレットが言っていた「また」とか「最近」という言葉と辻褄が合う。
でも交渉ってそんなに長くやるものなのかな……それも自分のチームの練習を見ないで……。
「まっ、いっか。今日も1日頑張りますか!」
・ ・ ・
「玲音先輩、今日もありがとうございます!」
「本当すみません、うちのトレーナーがいなくて……」
「いやウオッカとスカーレットが謝る必要はないよ。それに紙に書いている事は的確で分かりやすいし……ちょっと楽しいからさ」
「まっ、トレーナーなんてものは知識より経験。習うより慣れた方が良いからな。んじゃ片付けよろしくな〜新人」
そう言うと真っ先にゴールドシップが部室に出て……行かず、部室の入り口のところで立ち止まってしまった。
「あら、どうしたのゴールドシップ?」
スカーレットが呼びかけるが全然反応がない。少し心配になり俺も「ゴールドシップ?」っと呼びかける。
「……何なんだ。この感情は……」
「えっ、どうしたの急に?」
「う……うおおおおおおおぉぉ!! 聞こえる、アタシの心の中にある
「「「……はあ?」」」
急に変なことを言い出すゴールドシップに、俺とウオッカとスカーレットは思わず声が被ってしまう。
「運命はあっちの方か! うおおおおお待ってろ運命!!」
そう叫ぶとゴールドシップは颯爽とこの場を後にした。
あまりにも急な展開すぎて、俺たちはポカーンと唖然とするしかなかった。
「……あれ、いいの?」
「「……まぁ、ゴールドシップ先輩ですから…‥」」
「えぇ……」
まぁ、なんか変な事はあったが今日も無事に練習を終えられた。
***
「……」
私は自由に走った。
最初から先頭を譲らない……あのトレーナーが言っていた通り大逃げ(私は先頭を譲りたくないだけなんだけど、レースとしてはそう言うらしい)でレースを走った。
その結果かなりの差をつけて一位になった。
そして何より……走っていて気持ち良かった。
でもその代償として、私はリギルを脱退することになった。
私はどうすればいいんだろう……そう思っているとスピカのトレーナーが近づいてきた。
……なぜだかお腹をさすりながら。
「いてて……おハナさん容赦無く腹パンするな〜……」
「あの、大丈夫ですか?」
「あ〜平気平気、慣れてるから」
「慣れてる?」
「いやでも慣れているのは顔の方だったな、流石に腹は食らった事はないな」
「は、はぁ……」
私はどうすればいいのか分からなくて、少し吃ってしまう。
「まぁそんな事はどうでもいいんだ。どうだった、今日のレースは?」
「……とても気持ち良かったです」
「そうか……スズカ、お前うちのチームに入らないか」
「えっ……」
「大逃げを指示し、そして脱退に追い込んだのは俺の責任だ。だから俺は責任を取る。お前がやりたい走り方でレースに勝てるようにしてやる」
「私の……やりたいように……」
正直言ってこの人がいなかったら……私は苦しみながら走る方法で今日を走っていた。
でも私はこの人の言葉で……自由になった。
私はもっと走りたい……それを叶えてくれる場所が欲しい。
なら、答えはもう決まっている。
「トレーナーさん、私をチーム・スピカに加入させてもらえませんか」
「もちろんだ、歓迎するぜサイレンススズカ」
「はい!」
トレーナーさんが差し出して来た手を握る。
ここから私はまた始めるんだ……そしていつか、あの約束をーー。
「スズカ、早速で悪いんだが俺と一緒に来てくれないか?」
「今からですか?」
「あぁ、どうしても会わせたい奴がいるんだよ」
そう言うとトレーナーさんは握手を解くと、ポケットから携帯電話を取り出し何か操作をして耳に当てる。
「あぁ”玲音”? オレだけど……いや詐欺じゃないからトレーナーだから、今どこにいる? はぁ? まだ部室なのか……まぁいいや。お前そこで待機な……なんでって、紹介したい奴がいるんだよ。そっメモ帳のな、そう言う事だからよろしく」
少し長めの電話を終えて、トレーナーがこっちを見る。
「よし、じゃあ行こうか」
「はっ、はい……」
そう言うとトレーナーさんは出口の方へ歩いていく。
でも私の足は動かなかった。
レースで疲れたという訳ではない。
私は震えていたのだ……トレーナーさんが言った言葉に対して……。
まさか……まさか本当に……でも私の記憶のあの子の名前は二文字のはず。
いや、三文字だった? 確か向こうも私を二文字で呼んでいた……。
うそ……嘘でしょ……。
「どうしたスズカ〜? 早くしないと帰るの遅くなるぞ〜?」
「は、はい……!」
トレーナーさんがだいぶ先に行っていたので、私は駆け足で寄る。
落ち着こう私……まだ決まったわけじゃない。
変な期待はしない方がいいって……ずっと前から言い続けてきたんだから。
・ウオッカってゴルシのことどう呼んでたかな……分かる人いたら教えてくださると嬉しいです。
・サイドストーリとはちょっと違う展開です。
・メインウマ娘の一人はサイレンススズカさんでした〜。
・次回は主人公とスズカが再会する予定。