少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA78,000を突破、第5話のUAが10,000を超えていました。本当にありがとうございます。
・このライスシャワー回は前編と後編で分けます。
「……これでいいかな」
クローゼットの中に入れてあった私服に着替えて、鏡の前で髪の毛を調整する。
その様子を同室のゼンノロブロイちゃんに見られている。
ライスが出かける事自体はそこまで珍しいことではないんだろうけど、ここまで鏡の前で髪を気にしているのは珍しいので、どうしたんだろうと気になっているのかもしれない。
「ライスさん、どこか遊びに行くんですか?」
「うん、ちょっと街の方に……」
「……その、こんなことを聞いてしまうのは失礼だと思うんですけど、もしかしてデートとかですか?」
「え、えっと……」
確かに普段ここまで髪を弄っていないライスを知っているロブロイちゃんが今のライスを見たら、そう思ってしまうだろう。
そしてデートっていう言葉は悪くは聞こえなかった……でもそれと同時に、少しだけ何かが違うような気もした。
だって、今からやろうとしていることは……デートよりも重いものだろうから。
「デートとは……ちょっと違うかな。お出かけって言うならそうなんだけどね」
「あっ、もしかして前言っていた再会したお兄さんとですか?」
「……うん、じゃあ行ってくるね」
「はい、どうぞお気をつけて」
ライスは自室……そして美浦寮を出てトレーナー寮の方に足を進めた。
***
「いてて……これは完璧に筋肉痛ですわ、もう動けませんわ、パクパクですわ(?)」
目を覚ました瞬間、下半身に刺すような痛みが駆け巡った。
そりゃそうだ、あんなに歩いていれば、筋肉痛の一つや二つ起きるもんだ。実際、卓球やサッカーやっていた時も最初の一週間は筋肉痛地獄に遭っているからな……。
んまあ、特に出掛ける用事とかないから、今日は部屋の中で安静かな。
筋肉痛の時は余計に体を動かせって卓球部の顧問に言われたことがあるが、ネットで調べると超回復は48〜72時間のスパンが必要であり、それまで体は動かさない方がいいと書いてあった。
でも部活動だったから休むわけには行かなかったんだよな……でも今なら休むのも自由、ほぼ縛られていないから気楽な物である。
そうだ、この前電子書籍で話題のマンガとかを買い溜めしていたんだった。今日はそれを読みまくるかな。
う〜ん……トニカクカワイイウマ娘のお話か、地方最強のウマ娘のマンガだったら、どっち見ようかな……。
トニカクカワイイ方は最近ヒロインのウマ娘が不老不死だってことが分かってきたところだし、地方最強の方は地方から中央に殴り込みして来たところだし……う〜んどっちから見ようか。
……なんて考えていると、自室に設置されている固定電話が鳴った。
俺は重たい腰を起こして、固定電話を取る。
「もしもし?」
「谷崎くんかな、寮長の未浪です」
「あっ、お世話になってます」
自然と俺は姿勢を正していた。
というか、寮長さんから電話が来るのってかなり久し振りな気がする……滅多なことがないと電話しないからなぁ。
「実は谷崎くんに会いにきたって子が寮の受付に来ていてね、通しても大丈夫かな?」
「俺に会いたい子……ですか?」
わざわざ休日に自分の部屋に来たい子……か。
うん、マックイーンだな。スズカの可能性もあるけど、高確率でマックイーンだな、なんなら2ポンド賭けてもいい……誰に?
「分かりました、通して大丈夫です」
「分かったよ、お嬢ちゃん通っていいよ。それじゃ私はこれで」
プツッと電話が切れる。
俺は受話器を固定電話に戻して、マックイーンが来るのを待つ。
というかマックイーン、用事があるんだったら携帯に電話くらいすればいいのに……まぁ、最近は連絡無しで来ることが多いけど。
また耳かきかな……耳かき棒を用意しておくかな。
「え〜っと、耳かき棒は〜……」
そんな風に耳かきを探していると、コンコンと自室の扉がノックする音が響く。
もう来たか……待たせようかと思ったけど、耳かきじゃない可能性もあるから先に出ておこうかな。
「はい、今開けます〜」
俺はさっさと扉の前に移動して、ドアノブを捻りながら扉を押し開ける。
そしてそこにいたのは紫がかった髪……ではなく黒髪と、他のウマ娘よりも少し大きな黒いウマ耳だった。
そして少し視線を下げて見ると、そこには少し俯き気味だが上目で自分の方を見ているベージュ色の服を着たライスシャワーさんがそこにいた。
「あっ、あの……おはよう、玲音くん」
「ら、ライスさん?」
てっきりマックイーンが遊びに来たんだと思った俺は、意外の人の登場で少しだけ頭が真っ白になる。
なんでここにライスさんが……そう困惑しているとライスさんが「あの!」と少しだけ語気を強めてある提案を口に出した。
「今から……ライスとお出かけしませんか?」
・ ・ ・
一時間後、俺とライスさんは駅前に来ていた。
本当はさっきから昨日のハイキングで出来た筋肉痛の痛みが足を襲っているが、それでも今日は出かける価値があると思って今ここにいる。
ライスさんに提案された案……それは俺の空白の4年間に関することだった。
「あの、ライスさん。今日はどこに行こうとしているんですか?」
「着くまで秘密だよ。あとさん付けじゃなくて呼び捨てで、敬語も無しだといいかも」
「あっそっか、自分たちは仲が良かったんですよね」
「うん……あと……その……」
ライスさんは少しモジモジと体をくねらせて、少し頬を赤くしている。
俺はその様子を見ながら、彼女がなんて言うか黙って待つ。
「玲音くんのこと……お兄さまって呼んでもいいかな?」
「えっ?」
うん、待ってくれ。なんでお兄さま?
ライスさんと自分はそんなにも深い関係だったのか? つまり今覚えている自分とスズカみたいな……。
いやでも、ライスさんの方が一つ年上だよな? それだったら俺がライスさんの事をお姉さまと呼ぶんじゃ……『ライスお姉さま』あっ、なんかしっくり来る。
「えっと……逆なんじゃないの? ライスお姉さま……一応そっちが年上だよね?」
「ううん、ライスは玲音くんの事を『お兄さま』って呼んで、玲音くんはライスのことを呼び捨てで呼んでいたの」
「えぇ……」
詳しく聞いてみると、俺は最初にライスさんの事を同世代と勘違いして「俺をお兄ちゃんだと思ってもいいよ!」と言ったんだという。
やべえな……覚えてはいないが、スズカの兄として浮かれていた当時の自分だったら、ガチで言いそうである。というか想像できる。
ていうか一つ違ったら行事とかで同じ学年じゃないってすぐ分かりそうな気がするけど……何をぼーっとしていたんだ、昔の俺は……。
「これも全て、れお……お兄さまに記憶を思い出してもらうためだから」
「……」
そう、このお出かけは、俺の空白の4年間を少しでも思い出させようと、ライスさんが考えて来た事である。
この前、空白の4年間の原因となった事件を知った時、俺は恐怖心に駆られた。
記憶は忘れているが、俺の心と体はそれを覚えている……そうライスさんは考えた。
そしてライスさんは一つの案を思いついた。
その案とは、昔やったことを追体験することで、記憶を思い起こさせるというものだった。
「……分かったよ、ライス」
俺も、できることなら空白の4年間を思い出したい。
だから俺はライスさ……ライスの提案を受け入れ、体に鞭を打って外に出ているのだ。
・ ・ ・
歩き続けて十数分、ライスが足を止めたので目の前にあるこの施設が今日の目的地だと察する。
そしてその施設は……映画館だった。
多分日本一有名な、あの丸くて赤いロゴがトレードマークの映画館だ。
「映画を見に来たの?」
「確かにここは映画館も併設されているけど、今日は違うよ」
そう言って入り口に入っていくライス。俺もライスの背中を追うように施設の中に入った。
どうやらここは複合商業施設みたいだな……食べ物屋さんもあれば、色んなジャンルのお店が並んでいる。
しかしライスはどこにも目を呉れずに、人混みをひょいひょいと避けながらエスカレーターに乗る。
どうやらその目的の場所はB1Fにあるらしい。
そしてエスカレーターに乗った瞬間に、何やら騒々しい音楽や機動音が聞こえてきた。
一瞬なんだろうと思ったが、すぐにその音の正体が分かった。
そして分かったのと同時にエスカレーターから降りる。
「ここだよ、お兄さま」
・後半へ続く〜(ちび◯子ちゃんのナレ風)