少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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「なるほど……ゲームセンターか」
目の前に広がっていたのは様々なクレーンゲームの音楽が入り混じっているゲームセンターだった……てかうるさい!?
自分は一応、ゲームセンターに行ったことは何度かある。だけどここまでうるさいゲームセンターは初めてだ。
なんでこんなにうるさいんだと思っていると、俺は店前にデカデカと書かれている文字を見て理解した。
そこに書かれていたのは「祝ギネス認定!」と「世界最多級のクレーンゲーム数!」の文字だった。
なるほど、それは確かにうるさいわな。
「ここに来たってことは、俺とライスはゲーセンによく行ってたてことか?」
「うん、結構な頻度で行っていたから、体はよく覚えていると思うの……」
「そうか……んで、何をやるんだ?」
「こっちだよ」
ライスがゲームセンターに入っていくので、自分も付いていく。
流石世界最多級のクレーンゲーム数……奥に行っても左右みんなクレーンゲームだ。
しかしライスは真っ直ぐとその筐体に進んで行った。
ライスが選んだ筐体……それはレーシーングゲームだった。それも普通のレーシングゲームではなく、某配管工のおじさんたちが出てくるゲームのレース版のゲームだ。
実際、今は4台あるうちの2台で小学生らしき子たちが遊んでいる。
「懐かしいなぁ……もしかして向こうでも俺たちはこれをやってたのか?」
「うん、ゲームセンターに来たらほとんどこれをやっていたから」
そう言いながらライスは空いている筐体のシートに座る……どうやらこれをやることが今日の目的みたいだな。
俺も空いている筐体に座って、100円を取り出して投入口に入れる。
これは幼い頃やったことあるなぁ……。覚えている限り小一以来だけど……ライスさんの発言が正しいってなると小一以降もやっていたんだな。
「スピーカーは後ろに、シートは調整可能、画質は俄然よくなっている……ほんとすごいなぁ」
全然やっていない間に筐体が凄まじい進化を遂げていることに感心しながら、十何年ぶりにハンドルでゲームを操作する。
操作キャラはとりあえず、そのシリーズの主人公である赤い髭のおっさんにしておいた。
あっ、写真撮られた……そしてその写真の枠に用意されたフレームが用意されていて、俺はMと描かれた赤い帽子と鼻髭が、ライスは頭にちょこんとティアラが乗っていた。
時が経っても、この最初の撮影は行われているんだな。
さて、今はコース選択(グランプリエントリー)だが、ライスはどこのカップを選択するのか。
「お兄さまはどこのカップをやってみたい?」
と思ってたら、自分にカップを選ばせてくれるらしい。俺は2P側扱いなので、コース選択の決定権は1P側であるライスにある。
「ん〜……無難にここら辺で」
俺が指差したのは左から二番目に表示されていたグランプリだ。難易度は「ふつう」と書かれているから、そこまで難しいコースではないだろう。
こういうゲームの「かんたん」っていうのは本当に簡単過ぎるから、「ふつう」くらいが丁度いいだろう。こういうキャラ物のレースゲーではないが、レースゲームは経験者だからな、キャラゲー系でもこの玲音、容赦せん!
ライスがそのグランプリを選択すると、少しのロード時間があった。だが断然昔よりもロード時間は早かった。
さらにその後に出てくるコースの簡単な全体図が出て来たが、それを見ただけでもかなり細部まで作り込まれているのが分かった。
視点が自分のキャラに移り、雲に乗った本来は敵のキャラがシグナルを知らせる。
3……2……俺はここでアクセルを踏む。確かこのタイミングでスタートダッシュが決まったはずだ。
そしてその感覚は当たっており、STARTの文字が出た瞬間に自分のカートはターボを吹かしスタートダッシュを決めた。
スタートダッシュを決め、順位は1位……これが普通のレースゲームだったらここをキープするように立ち回るが、このゲームはビリから1位に返り咲くのは難しいことではない。
第一コーナを通過し、初めてのアイテムボックスを取る。出たのはバナナの皮……最低限の防御手段は確保できた。
さて、向こうのアイテムは……なんだあれ、金色に光る……甲羅?
緑や赤だったらよく見るけど……このゲーム限定の色の甲羅なのだろうか?
そんな風に思っているとライスが一つ甲羅を投げる。見た感じ直撃コースだったので、俺はバナナを生け贄にして事を得る。
……と思ったら、もう一つ甲羅が飛んで来ていた。なるほど一つ目はブラフだったか。
でもまぁ一つ当たっただけなら、リカバリーは可能だがーーー
ーーーどかーん!
「……へっ?」
何が……起きた?
金色の甲羅がカートに当たった瞬間、広範囲の爆発が起こった。
いや待て待て、確かにこのゲームにはボムソルジャーという爆弾みたいなアイテムはあるけどさ……甲羅が爆発するってどういうこと?
爆発を喰らい、俺はかなり下位に落ちてしまった。だがまぁまだ大丈夫だ。レースはまだ始まったばかりだ。
・ ・ ・
レースもファイナルラップに突入し、順位は3位。2位にいるのはCPU、そして1位にライスのキャラである。
ライスとの差は大体8台くらいだろうか……その間にCPUがいる感じである。
最終コーナーまで、残り3コーナー。その間はアイテムボックスが一つだけで後はテクニックの差が物を言う。
そして隣を見てみると、先にアイテムボックスがある場所に辿り着いていたライスが引き当てたのは防御系のアイテムだ。それに対しCPUもアイテムを引く。そして引いたのは赤色の甲羅だった。確かあの色の甲羅の性能は前にいるカートに自動追尾するものだったはず。つまりライスは必ずあの甲羅を防ぐために防御アイテムを使ってくるはず。
そうなれば自分のアイテム運次第だが、一位に返り咲くことができるはず……さぁ、アイテムCome on!!
……しかし俺が引いたのは、バナナの皮だった。
『ナムアミダブツ! なんて滑稽な状況か!』
ゲーム内のアナウンサーもこれでもかと言うくらい煽るようなセリフを……待って、さっきまで元気はつらつ系の声だったのに、なんでニンジャの世界線のナレーター=サンに変わっているんだ?
しかしこの状況は確かに不味い。こうなってしまったらこのまま3位でチェッカーを受けるか。
……いや待てよ? この後はコーナーが続く……ドリフトターボによって加速を何度も繰り返せばCPUの後ろは取れる。そしてそのままトウ(スリップストリーム)を受けれる事が出来れば、最後の直線でライスに並べる可能性が出てくるはずだ。
(……よし、いくぞ!)
俺は集中をした。ドリフトに入るタイミング、ハンドルをリバースするタイミング、加速のタイミングを完璧にし、極限までタイムを縮める。
そして少しずつ、前との差は縮まっていき……最終コーナーで2位のCPUの真後ろを取れた。
最終コーナーを回ったところで、ライスは5台先を行っている。そしてCPUの真後ろを取る俺はぴったりと相手のカートギリギリまで自分のカートを近づける。その時、自分のカートの周りに風のエフェクトが現れる。
2秒……3秒……次の瞬間、自分のカートは驚異的な加速を見せた。
「スリップストリーム……!?」
隣で独走しかけていたライスは自分の急加速を見て、大いに驚いていた。
さっきまで遠くにいたライスが操っているキャラのカートが一気に近づく。しかしそれと同時にゴールラインも残り僅かである。
届くか……届かないか……!
最後の数メートル、俺とライスのカートは横に並んだように見えた……そしてそのままの状態でチェッカーフラッグを受けた。
どっちが勝ったかは肉眼では分からなかったが……音楽とゲームのアナウンサーのセリフが先のレースの順位を物語った。
「……2位か」
自分は惜しくも2位だったらしい。しかしライスの方も余裕はなかったらしく「ふ〜」と一つ深い息を吐いた。
いやぁそれにしても、まさかあそこから並べるなんて……やっぱトウはすごい。
ゲームだからここまでオーバーに表現しているが、実際のレースも後ろに入る事によって空気抵抗を減らし、直線の速度を稼ぐ。まぁ、ダウンフォースが無くなるから全然曲がらなくなるんだけど。
……ふと、思考の隅でこの前の皐月賞のレース場面が浮かんだ。
あれ、あの時セイウンスカイ……後ろからぬるりと来ていたよな。
もしかして、あの時セイウンスカイはトウを得ていた?
確かマラソンとかでも風除けのために選手の後ろに着くことはある。そしてウマ娘のレースは基本時速60〜70kmは出る。モータースポーツほどではなくても、スリップストリームの効果は出るのではないのだろうか?
……気になる。セイウンスカイがどう動いていたのか……気になる。
「あ、あの〜お兄さま? 次のレースに行かない?」
「えっ、あぁごめん!」
考え事をしていたせいでゲームの方を完全に忘れており、ずっとリザルト画面を開きっぱなしだった。俺はハンドルを操作して、次のレースに備える。
しかし次のレースはさっきの事をずっと考えていながら走っていたので……
「ぎゃあああああ!?(巨大化したCPUに踏みつけられる)」
「えんだああああ!?(無敵になったCPUにぶつけられる)」
「あべし!?(自ら置いたバナナに引っかかってスピン)」
とまぁ色々あり、ビリになってしまった……。
・ ・ ・
「今日はありがとう、ライス」
「うん……ライスも楽しかったよ、お兄さま!」
あの後も俺とライスは太鼓の音ゲーやシューティングゲーム、エアホッケーなど様々なゲームを行った。
とても楽しくて途中から昨日の山登りの筋肉痛はどこかに行ってしまった……が、肝心な事はと言うと。
「それで……そのお兄さま。何か思い出せた?」
「……」
そう、今日ライスがゲームセンターに誘ってくれたのは、自分の空白の4年間を思い出すためだ。
しかし、その目的は……全然果たせていない。
「ごめん……どうしても思い出そうとしたんだけど、無理だった」
「っ……そう、なんだ……」
俺の返事を聞いて、ライスは少し苦しそうな……悲しそうな顔を浮かべた。
その表情を見た瞬間、俺は声をかけようとしたが、なんて言えばいいのか分からない。
「”玲音くん”は……今日楽しかった?」
「えっ? ……はい」
実際楽しかったのは事実なので、俺は素直な気持ちをライスさんに伝える。
思い出せなかったのは……本当に申し訳ないが……。
「玲音くんが楽しかったなら、ライスはとても嬉しいかな」
そう言いながら少し前を歩き始めるライスさん。
そんな彼女の背中を俺は黙って見ていた。
……あれ、ライスさんが一瞬、横に顔を向けた。
何か気になるものがあったんだろうか……俺も釣られてそっちの方向を見てみる。
そこにあったのは一台のクレーンゲームだった。中の景品は……クロワッサンや食パン、メロンパンなど、様々なパンが象ったスクイーズ。
それを見た瞬間、俺はポケットに手を入れて、残りの小銭の数を確認する……3枚か。
「ライスさん! ちょっとこのクレーンゲームやっていいですか?」
「いいけど……玲音くん、それが欲しいの?」
「いえいえ、あげるのはライスさんにですよ」
「えっ……?」
困惑しているライスさんを余所に、俺はクレーンゲームに100円を入れる。
起動音と共に音楽が鳴り始める。これは左右前後好きなように操作できるタイプのやつだ。
「ライスさんはどれが欲しいですか?」
「えっと……じゃあメロンパンのを……」
「WILLCOM、やってやりますよ」
俺は一番取れそうなメロンパンに標準を定める。ちょんちょんとコントローラーを倒してアームの微調整をして……決定ボタンを押す!
アームは勢いよく降下して行き、メロンパンを掴む。そしてメロンパンが上空に持ち上がるが……アーム自体がぐわんぐわんと揺れており、とても不安定である。
結果、メロンパンは運ばれている途中で落下してしまった。
「あっ、落ちちゃった……」
「大丈夫です、まだありますから」
そう言いながら、俺は2枚目の100円玉を入れる。
しかし今度は掴むこともなく、アームは虚空を掬い上げた。
隣で少し心配そうにこっちを見てくるライスさんを尻目に、俺は最後の100円玉を入れる。
これで最後……しかしさっき落っことしてしまったメロンパンはもう取れないことが2回目で分かった。だから狙うのはまだ少し他の景品に埋れているメロンパンだ。
1回目と同じように……いや、それ以上に微調整を行い、決定ボタンを押す。
勢いよく降下して行ったアームは埋れている景品をガッチリとホールドする。問題は掴みあげるのがメロンパンかどうかだが……上手く行った、アームはメロンパンを掴み、上空に持ち上げた。
しかしさっきと同じように左右にふらふらと揺れている。
「落ちないで〜……落ちないで〜……!」
横にいるライスさんも……そして俺も静かにメロンパンが受け取り口に入ることを祈る。
そして最後までメロンパンを運び切ったアームは、最後の最後でメロンパンを滑り落とす……受け取り口に。
「や……やった〜!」
隣で飛び跳ねるライスさん……そんなライスさんを落ち着かせるためにも、俺は受け取り口に落ちたメロンパンのスクイーズを手に取り、隣のライスさんに差し出す。
「どうぞ、ライスさん。今日のお礼みたいなものです」
「う……うん!」
ライスさんは差し出されたスクイーズを両手で包み込み、それを胸元まで寄せる。
目を瞑り、頭も少し下を向いており……まるでお祈りを捧げているみたいだった。
「……玲音くん」
『……お兄さま』
そして目を開け、こっちの瞳を見てくるライスさん……その時だった。ライスさんの隣に背の低い黒髪のウマ娘の子が現れた。その顔は幼いが……ライスさんにすごく似ている。
「『ありがとう……ライスのために取ってくれて』」
「……いえ、お安い御用ですよ」
そう行った瞬間、幼いウマ娘の女の子はパッと消えて、俺の目の前にいるのはライスさんだけだった。
いや、それでも……今のライスさんって、もしかして幼い頃の……俺が覚えているライスシャワーという女の子なのか?
今日のことは……無駄じゃなかったのか。
「……ライスさん、またどこかに行きましょうね」
「っ? うん、別にいいよ?」
ライスさんからしたら「また一緒に遊ぼう」という意味に聞こえただろう。
でも、このままやっていた事を追体験すれば、いつかはあの空白の記憶を思い出せるような……そんな気がした。
「あっ、そうだ、ライスさんがよかったら、これからはライスお姉さまって呼んでもいいですか?」
「そ、それは恥ずかしいからやめて欲しい……かな?」
・ドーナツの真ん中を開けるバイトがあったのでやってみたが……あれは無になりますわ。
・次回のお話は未定です、お楽しみに。