少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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「……やっぱり、そういう事だったのか」
ライスさんとゲーセンに行き、そして別れた日の晩。俺はネットでURAの公式HPにアクセスし、今日からちょうど一週間経った皐月賞のハイライト動画を視聴している。
そして分かった事だが……やっぱりセイウンスカイは上手く他の娘たちの後ろに位置付けて、最後の坂まで極力空気抵抗を減らして体力を温存していた。
セイウンスカイ……普段はおっとりしていると聞いているが、レースの知識やセンス、そして仕掛けるタイミングの良さは他の娘と比べて見ても頭一つ抜けている。
とりあえず、この事を先生に言ってみよう……先生は俺と違ってプロのトレーナーだからもう気づいているだろうが。
・ ・ ・
次の日、4時間目のチャイムが鳴り、お昼ご飯を道と尊野と一緒に取った後、俺は先生がいるであろう教員室に訪れたが……先生はいなかった。
だが現在地表と書かれた黒板に、先生の名前が書いてあった。どうやら先生が今いるところはトレーナー室というところらしい。
俺は知らなかったので近くにいた教員の先生に聞いてみると、チームを持っているトレーナーにはそれぞれの個室が用意されるのだという。
その先生からチーム・スピカのトレーナー室の場所を聞いて教員室を出る。
教えられたトレーナー室は普段の学園生活では寄らない別の校舎の2階にあるらしい。
というか……こんなところがあったんだな。この学園に来てから一年と少しが経つが、こんなところがあるなんて知らなかった。
俺は校舎の中に入る。入った先に各チームのトレーナー室の場所が記されている掲示板があったので分かりやすかった。
階段を上がり2階へ……廊下を歩き、部屋に付けられているルームプレートを見て確認する。
この階にはスピカの他にリギルやカノープス……あと黒沼さんのチームのトレーナー室もあるらしい。
そしてスピカのトレーナー室は一番端っこにあった。俺はドアをノックする。すると「どうぞ〜」と中から先生の声が聞こえたので、俺はドアを開けトレーナー室に入る。
入った瞬間に先生はイスに座っている事に気がついた。その視線は机の上に乗せられているノートパソコンに向けられている。
先生は一度こっちを軽く見た後、またノートパソコンの方を見直した。
「どした玲音、お前がここに来るのは初めてじゃないか?」
「えぇ……こんなところがあるとは思いませんでしたよ」
俺はそう言いながら先生が見ているノートパソコンを覗いて見る。そこに映っていたのは坂を駆け上がっているスペ……の足元だった。
もう一つのタブにはセイウンスカイの足元が映っていた。
「先生、その映像って……」
「あ〜、これはなーーー」
「足フェチなんですか?」
「ちげえよ!」
バンッと机を両手で強く叩きながら勢いよく立ち上がり、自分に詰め寄る先生。
うん、まぁ……ほぼ冗談で言ったつもりだけど、正直言って先生、変なところでHENTAIなところもあるからなぁ……スペの足をこの前触ろうとしていたし。
「……ちょっとこれを見てみろ」
そう言って、先生はノートパソコンを俺の真っ正面になるようにずらした。
そしてスペースキーを押して、動画を再生させる。
するとさっきまで止まっていたスペとセイウンスカイの足が動き始める。
中山レース場にある最後の坂を登っている時の映像だろう。だけど走っているだけでどこもおかしなところはないような……。
「何か気づくことはあるか?」
「いや……此れと言って変なところはないような」
「2人の足の着地点とテンポを見てみろ」
「……テンポ?」
先生に言われたところを意識して、もう一度さっきの映像を見てみる。
……心なしか、セイウンスカイの歩幅が狭くて、素早い?
スペは第4コーナーの出口で走っていた歩幅でそのまま心臓破りの坂に入っている。それに対しセイウンスカイは一気に左の空いたスペースで加速していった歩幅と坂に入った時の歩幅に違いがあった……ような気がする。
その事を先生に言ってみると……先生はゆっくりと首を縦に振った。
「レースで使われる走法は、大きく分けて二つある」
先生はレースで走法の事を話してくれた。
まず先に先生が言ったように走法には大きく分けて二つに分けられる。
一つはストライド走法と言い、これは距離(ストライド)を大きく取って走る走法、簡単に言えば一歩一歩大きく踏み出して走ること。
この方法で走るともう一つの走法と比べて加速力は劣るが、その分最高速度に達した時の速度を維持することができるのだという。さらに体力の消費は抑えられ、長い時間ロングスパートを掛けられる。
そしてもう一つの走法がピッチ走法と言うらしい。
「ピッチ走法はストライド走法とは逆で、ストライドを減らす代わりに脚の回転力を上げて走る方法だ」
「ストライドを……つまり、加速が早くなる?」
「そう、だがそれ以外にもダートや重馬場の芝、そして坂路で多く使われる」
「……坂路」
そう言えばうろ覚えだけど、2位だったキングヘイローも歩幅が狭かったような……。
「あいつらは一年前から走っている。そこの経験値の差と俺の指導不足が……あの時の敗北に繋がってしまった」
その時の先生の顔は……本気で悔しい思いをした人がする後悔の表情だった。
そして微かにだが、先生の瞳は燃えていた。
「……そう言えば玲音、お前も何か気づいた事があったからここに来たんじゃないか?」
「っ、そうでした。ちょっと拝借しますね」
俺は先生のノートパソコンを操作して、セイウンスカイがトウ(先生には伝わらなかったからスリップストリームと言った)を得ていた事を先生に説明した。
「お前これ、自分で考えたのか?」
「……いえ、ただ友達と一緒にフォーミュラーのレースをテレビで見ていたら思いついて」
流石にゲーセンに行って、そこでやったゲーム内で思いついた……なんて正直な事は言えない。
でもまぁ今考えた理由もかなり自然な理由になるだろう。それにトウ自体は本当に知っていた事だ。
「そうか……だが思いついてそれを自分の目で確かめた。それだけでもトレーナーを志す人間としてはいい事だ」
「……はい!」
先生に肩をポンッと軽く叩かれる。それを俺は「引き続き頑張れよ」という激励の言葉の代わりとして受け取る。
「んで、ここからが本題だ」
・ ・ ・
「……」
放課後のチャイムが鳴った後、俺はチームの部室には行かず、そのままトラックの方へと移動した。
手にはメモ帳とシャーペンを持っていて、目の前で練習しているウマ娘たちの観察をする。
”いつもは”スピカの練習に参加しているからこそ、”別のチーム”の練習を見るって言うのはかなり新鮮だ。
「……あれ、谷崎くん?」
聞き覚えのある声が聞こえ、声がした方に体を向ける。
そこにいたのは……学園の指定ジャージ(紺色)を着て、手にペンとクリップボードを持った道がそこにいた。
……ダンスの授業やその他の授業でも見慣れているはずなのに、なんでこんなにも違う人のように見えるんだろう?
「どうしたの? ”リギル”の練習なんか見にきて?」
そう、今俺がいるのはチーム・リギルがトレーニングしているトラックだ。
なぜ、スピカの見習い学生である自分がリギルの練習を見に来ているのか……俺は先生から出されたある宿題のことを道に言う。
「リギルメンバーの誰かと……そっちの娘で模擬レース?」
「あぁ」
スペに足りないものはレース上で使える知識、そして経験ということはあの昼休みで分かった。
だから仮に俺や先生がそれを口で教えたとしても、恐らくスペは分からないだろう。
そこで、先生は一つの案を考えていた。簡単に言ってしまえば「経験がないならレースをすればいいじゃない」と言うものだった。
『スペとリギルメンバーの一人で模擬レースを行う。レースでしか得られない”感覚”っていうものがあるからな』
それを聞いて不思議に思った。先生ってリギルのトレーナーとラインが繋がっているのかと。
まぁ、一回東条ハナさんと話した事があるけど、その時も先生の事知っていそうだったしな。
それにスペにとってもリギルの誰かとレースというのは貴重な体験になるだろう。
『でも先生、そうするにしても、誰とやらせるんですか? リギルってかなりの数のウマ娘がいたような気がしますけど』
『誰とやるかは決めてない……が、決めてもらうつもりだ』
「その模擬レースの対戦相手を、谷崎くんが観察して決めてこいってこと?」
そう、俺がここにいるのは模擬レースでスペと対戦する相手を確認するためだ。
正直に言ってしまえば「あぁ、またか」みたいな感情が大きかった。
観察に関しては皐月賞の前にセイウンスカイやキングヘイローで行っていて、そこまで毛嫌いするものでもなかった。
しかし「またか」という思いはすぐに消えた。それよりも「スペのコンディションを整えたい」という気持ちが大きくなった。同時に「スペの役に立ちたい」という思いも湧いた。
「そっ、それが俺がここにいる理由で、観察しているのはその為……邪魔になるんだったらどこかに行くけど」
「う〜ん……一応東条さんに確認を取ってみてーーー」
「いや、その必要はないよ橘くん」
後ろからどこかで聞いたことがある声が聞こえ、俺と道は振り返る。ちなみに橘は道の名字である。
そしてそこにいたのは……茶色の髪と特徴のある三日月に近い白色の前髪を靡かせながら、腕を組んでこちらを見ている。学園指定のジャージ(赤色)を身に纏ったシンボリルドルフがそこにいた。
「し、シンボリーーー」
「シンボリルドルフさん!? dddどどどどうしてこちらに!?」
んっ? なんか隣にいる道がおかしい。いつもはお淑やかというか淑女みたいなタイプなのに……今の道はなんかこう、推しが近くにいてパニックている人みたいな挙動をしている。
道の知らない顔を知った……そして本人もそれは不味いことだったらしく、一回こっちを見た後咳払いをして、いつもの冷静そうな表情にも戻る。
何だろう……なんか既視感があるな、どこでこれを見たんだっけ……。
「生徒会の仕事が終わって練習に行こうと思ったら、見知った顔がここにいると分かってね。それで少し挨拶でもと思った訳だ」
「そんな……わざわざこちらまで顔を出さなくてーーー」
「”谷崎”、あんたシンボリルドルフさんと面識があるの?」
「あ、あぁ……あるけど……み、道? なんか怖いんだけど?」
なんか呼び方変わっているし……瞳にハイライトが宿っていない気がする。普通に怖いですお願いです助けてください。
「ーーして、どうしてどうしてどうしてどうして!! リギルのメンバーでもないあんたがシンボリルドルフ様と!!」
「うぐえ!?」
自分の襟元を掴み、前後に頭を揺らされる……てか道ってこんなキャラだったのか、なんか意外だな。
そう何度も揺らされながら思った……ちょっと気持ち悪くなってきたかも。
「……ふふっ、君たちは本当に仲がいいんだな」
「えっ……そ、そうですね」
道はシンボリルドルフの問いに答えながら、襟元を掴んでいた手を放す。
た……助かった。
「谷崎玲音くん。君は我々の練習を観察したいんだな、なら存分に観察してくれ。我々は皆
そう言うと、シンボリルドルフはトラックの方へと降りて行った。次いでその後を道も追って行った。
「……りくりょくきょうしんって、何なんだ?」
まぁいい。シンボリルドルフから許可が下りたんだから、お言葉に甘えて存分に観察しよう。
……あっ、そうだ。さっきの道の顔どこかで既視感があると思ったら、スイーツのことになって少し暴走した時のマックイーンに似ていたな。
※戮力協心……全員の力を集結させ、物事に取り組むこと。
・B+しか育てれない奴にグレードリーグは無理やったんや……。
・この作品書いてると、小4でやってた体験乗馬を思い出します。
・次回はリギルのトレーニングのお話をやります。(リギルメンバーの一人と玲音との交流もやる”予定”です)