少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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・この話でウマ娘の学年が出てきますが、これは自分がアニメやアプリのプロフ、他の考察している人も参考にしているため、正しいものとは限りません。予めご了承ください。
「次、トラック周回! 併走する者はこちらで指示する、では始め!」
『はい!』
シンボリルドルフから許可を得てから1時間くらい、俺はリギルのトレーニングをずっと見ていた。
そして思ったことは……やはりみんなすごい。東条さんの指導に熱が入っているのはもちろん、メンバー一人一人の意識がとても高いと感じた。
返事をしっかりやり、カウントに合わせて体を動かす。誰一人たるんでおらず、誰もがその時にできる精一杯の事をやっている。
スピカも別に練習に集中できていないチームとは思っていない。だがよくゴルシがふざけ始めたり、ウオッカとスカーレットが闘争心に剥き出しになって勝手な勝負をしたりする。
今のリギルとスピカの練習風景を比べていると……極端に言ってしまえば、同じ部活でも強豪校と弱小校くらい違うものだと言える。
そこは恐らく、チームトレーナーの意向というものもあるのだろうが……それでもここまで違うものなのかと思った。
東条さんの近くには道がいる。そして東条さんが言っている事を一生懸命にメモしている。
自分は雑用や実際に触れて見る事でトレーナーとしての経験を高めているが、リギルはどうやら理論とか知識を中心に教えているらしい。
まぁリギルは道以外にも数人の見習いトレーナーがいるから、実戦で行うのはかなり難しいんだろう。そう考えるとスピカは自分一人しか見習いはいないのでマンツーマンになるから、そこは恵まれている所なんだろう。
……さて、観察に戻ろう。
リギルのメンバーは縦2列でトラックを回っている……その列はとても綺麗に揃っており、コーナーを回っても乱れる様子はない。まるで自衛隊の隊列移動を見ているかのようだ。
「オペラオー、ブライアン!」
東条さんの声をかけたのと同時に2人のウマ娘が加速を始めた。
俺は咄嗟に先生が用意してくれたチーム・リギルの簡単なプロフィールを見てみる。
オペラオーと呼ばれたのはテイエムオペラオー……メイクデビューはまだ済んでおらず、まだ未知数なウマ娘。しかし先生の分析では彼女はいい脚を持っており「将来前人未踏の功績を上げるかもしれない」と最後に書かれている。
「はーはっはっは! ボクの走りをとくと見たまえ!!」
ただ俺から見たテイエムオペラオーは……生粋のナルシストだ。
そういえば年齢としてはウオッカやスカーレット、マックイーンと同じ中学2年生なんだよな……中二が厨二を患う。うん、全然ダジャレになっていないな。
***
「むっ?」
「どうしましたか、会長?」
「エアグルーヴ……いや、どこかでダジャレを考えた生徒がいたような気がしてね」
「……会長、この学園にダジャレを考える人は会長以外はいないですよ」
***
テイエムオペラオーがある程度先行しているとそれを抜くように──が更に加速した。
「っ……!」
テイエムオペラオーがある程度先行していると、それを抜くようにリギルに所属しているウマ娘が更に加速した。
まだ実績は上がっていなく名前もわからないが、坂路に差し掛かった時足元を見てみたが、どうやらこの娘ははストライド走法で坂を登っているらしい。それでも加速や速度が落ちていないのは恐らく先輩の意地とプライドがあるんだろう。
スぺとやらせてみてもいいかもしれない。
「次、マルゼン、フジ!」
マルゼンスキー……その走りからスーパーカーという異名があり、現在ではトゥインクルシリーズの更に上のシリーズ、ドリームトロフィーリーグで数々の実績を残している。
トゥインクルシリーズでは8戦8勝……GⅠなどでの勝利はなかったが、参戦したレースの2位との着差を全て足すと61着差になるらしい。
マジか……平均で約8バ身の差を毎回つけていていたのか。
「うふふ、今日は可愛いお客さんがいるから、もう一つギアを上げるわよ!」
自分が居るところでさらに加速した……さっきのでもかなり早かったのに、まだ加速する余裕があるのか……最初はそう思った、しかしすぐにその考えはできなくなる。
その理由は……その加速について行くウマ娘がいたからである。
そのウマ娘の名前は……フジキセキ。チーム・スピカのみんなが暮らしている栗東寮の寮長を務めているウマ娘だ。
そしてこちらもドリームトロフィーリーグで実績を残している優駿である。トゥインクルシリーズでは4戦4勝、うち重賞は2勝、クラシック級では三冠を期待されていたが、治療に1年かかる怪我を発症しクラシック級での出走はできなかった。その足の良さと怪我のことから「幻の三冠ウマ娘」とも呼ばれている。
そしてそんなフジキセキは怪我を治した後、シニア級で復帰するかと思えばドリームトロフィーリーグへの参戦を表明……フジキセキは人を楽しませるのが大好きなエンターテイナータイプのウマ娘であり、これも全て人を驚かせ、楽しませるものだったと思われる。
しかし口だけではないのがフジキセキというウマ娘、しっかりと成績も残している。
「簡単には振り切らせないよ、マルゼン……!」
「あら、やはり貴女と走ると心地がいいわね、フジ!」
「……」
マルゼンスキーとフジキセキの併走は……なんか、異次元の世界に踏み入れた人たちの領域に達していた。
……この人たちとスペをぶつけるか? いや、これは教わる前にぶっちぎられて惨敗を味わうような気がする……。
「次、エアグルーヴ、アマゾン!」
エアグルーヴ……現在トゥインクルシリーズで重賞を5勝しており、うち2つはGⅠレースを制覇。その凛々しい走りと普段の佇まいから「女帝」と言われている。
スズカと同じ学年であり、次に出るレースはおよそ1ヶ月後にある宝塚記念とされている。
「うっし、タイマンだエアグルーヴ!」
「ふっ、望むところだ!」
ヒシアマゾン……現在トゥインクルシリーズで重賞を7勝、うち2つはGⅠレースを制覇。同じチームであるナリタブライアンとは去年の有馬記念で競い合ったライバルである。
また栗東寮とは違う寮である美浦寮の寮長もしている。
「次、ルドルフ、エル!」
シンボリルドルフはトゥインクルシリーズで7冠を達成しており、その走りから皇帝と言われている。そしてこのトレセン学園の生徒会長でもある。
それはほぼ一般人に近い俺でも知っていた……だが、実際の皇帝の走りを見るのは初めてだ。
しかし先に加速したのはエル……覆面レスラーがするようなマスクを着けたウマ娘が加速したのだった。
「世界へ羽ばたく怪鳥! エルコンドルパサーとはアタシのコトデース!!」
なんかすごい大きな声で自分自身の名前を言ったので、俺は手元にあったプロフィールを見てみる。
エルコンドルパサー……どうやらスペと同期らしく、同じクラスでもあるらしい。
ジュニア級ではそこまでレースに参加しておらず、その代わり万全な調整に成功し、クラシック級に入ってから重賞を二回勝利している。
ウマ娘にしては珍しく、三冠ウマ娘を狙わずに目標としているのは、クラシック級でのジャパンカップ制覇、その後の世界進出である。
次に出走されると思われるレースはNHKマイルカップ。現時点で無敗であることから、世間では「ターフを舞う怪鳥」と呼ばれている。
……そして先生の予想では、今度の日本ダービーにも出走する。つまりスペが越えなければいけない壁になるだろうと書かれている。
実際エルコンドルパサー の走りを見ていると、それは”駆ける”というよりは”飛んでいる”かのようにターフの上の走っている……怪鳥と言われる理由が少し分かったかもしれない。
「流石だエルコンドルパサー、これが並みのウマ娘なら君には追いつけないだろう……だが……!」
その瞬間、このトラック周辺の空気がピリッと張り詰めたような気がした。どこかで雷が落ちたような音も聞こえた気がした。それはなぜか……皇帝が動くからだ。
「我は皇帝、何人たりとも我の前には出さん!」
皇帝が……加速を開始した。その時に激しい衝撃が俺に襲って来る……こ、これは一体?
俺はその衝撃が最初何なのかは分からなかった。しかし少し経ってからそれが何なのか理解した。
それは皇帝から発せられているオーラとプレッシャーだ……何と無くだが分かる、皇帝の周りには電撃が迸っていた。
あれは……何なんだ? 人やウマ娘から電撃が出るなんて……これが、皇帝の実力から出るオーラなのか?
シンボリルドルフはその圧倒的な加速とスピードでエルコンドルパサーを抜いた。そして差もどんどん離している。
「っ……流石会長、次元が違いマース……けど!!」
エルコンドルパサーもさらに加速する……少しずつだが、着実に背中に近づいている。
だが一周回った時、着差は3バ身くらい離れていた。
「……すごい」
素直な感想が口から漏れてしまう。
ここまでレベルが……迫力が違う、そしてそれが全員にあてはまる。やはりリギルは学園一のチームだということを改めて認識させられた。
「次、タイキシャトル!」
「OK! Here we Go!!」
タイキシャトル……アメリカから来た留学生徒であり、そのポテンシャルはとても高い。実際前年の短距離GⅠであるマイルチャンピオンステークス・スプリンターズステークスを制覇している。
次に出ると明言しているGⅠレースは6月にある安田記念としている。
そして俺が見て一番いいと思ったのは……坂路の登り方がピッチ走法だ。そしてとても速い。
今回のスペの模擬レースの目的は坂路でのピッチ走法、そしてスリップストリームをレースの中で覚えさせ、ハンデとなっている経験の差を縮めることだ。
そう考えればタイキシャトルは相手にとってはいいかもしれない。
だがそう思うのと同時に、もっと上の世界にいる人と戦わせてみたいという俺自身の好奇心もある。
(……そういえば、なんでタイキシャトルは一人だけなんだ? リギルには現在10人のウマ娘がいるって道から聞いてたが……)
俺は今トラックにいるウマ娘を確認した後、プロフィール表をもう一回見てみる。
……この子か、名前は……。
「グラスワンダー……」
「お呼びしましたか?」
「……えっ?」
横から声がしたので、俺はその方向に振り返る。
そこにいたのは、お淑やかに佇まい、トレセン学園指定の制服を着ている栗髪のウマ娘……俺はプロフィールに目を落とし、再びそのウマ娘と目を合わせる。
そして確認するように……声を出す。
「君が……グラスワンダー?」
「はい、お初にお目にかかります。私はグラスワンダーと申します」
会ってまだ1分にも満たないが、グラスワンダーは自分に自己紹介をしてくれた。
姿勢や礼の角度……その動作一つ一つがとても洗練されている。この様子を四字熟語に当てはめるなら大和撫子……その言葉が相応しいだろう。
挨拶を相手がしたならば、こちらも返すのが礼儀だ。古事記にも書かれている。(書かれていません)
「これはご丁寧に……どうもグラスワンダーさん、谷崎玲音です」
「やはりそうでしたか。スペちゃんからお話は何度も伺っていたので、もしかしたらと思って声をかけてみたんです。人違いではなくて安心しました」
「ってことは、グラスワンダーさんは──」
「グラスで構いませんよ? 谷崎さんの方が上級生ですから」
「そう? じゃあ、グラスはスペの友達なの?」
プロフィール表にはスペと同じ学年、同じクラスだって事は書かれている。だが先生も流石にウマ娘一人一人の人間関係までは把握していないだろう。というか把握したらそれはそれでどうなんだろう?
「はい、同じ釜の飯を食う……と言う程ではありませんが、学業と昼食は一緒にいる事が多いですね」
「そうか……あっ」
ふと視線を下に向けた時、俺の目はあるものを視界内に捉えた。
それはグラスの右腿に巻き付けられている包帯だった。
そして俺の視線が右腿に行っていることをグラスワンダーは感じ取ったらしく、その怪我した右腿を自分自身で優しく撫でた。
「これ……気になりますか?」
「あっ、いや……その……」
「大丈夫ですよ……これは私の落ち度が招いたものですから」
グラスワンダーはメイクデビューした後、オープン、GⅡ、そしてGⅠレースを制覇し、去年のジュニアチャンピオンの称号を獲得している。だからクラシックへの社会の期待もすごく大きかった。
だからこそ、彼女にとって怪我をしたという社会の重圧はどれほど重いものだったのだろう……。
「……谷崎さん。もしかして私の事を考えてくれてますか?」
「えっ……」
グラスワンダーは優しく微笑みながらそう問いかけてきた。まるで「考えてる事はお見通しですよ」と言われているみたいに。
俺はどう返事するか悩んだが、ゆっくりと首を縦に振った。
「心配してくださりありがとうございます。ですが怪我は怪我……『走れば躓く』何事も急ぐ時ほど慎重にならなければいけません」
「……グラス」
「ですから私は、己が今出来る最大限の事を実行するだけです」
そう言うグラスワンダーの語気は……とても強く真剣なものだった。
そして俺は見えたような気がした……彼女の瞳に宿っている、静かに闘志を燃やした青い焔を……。
・現時点でグラスワンダーのタグはつける予定はありませんが、ちょくちょくお話に出すつもりです。
・最近ウマ娘を愛でるためだけにログインする日々が増えている……。
・次回は宝塚記念の前には出したいなぁ……。(願望)