少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA85,000・86,000を突破しました。ありがとうございます! またあらすじを大幅に変更いたしました。
・今回の話は脱線(趣味全力ゼンカーイ!)回となっております。そして今回ウマ娘は出ません。「本当に申し訳ない」(ブレイク博士)
ここは……どこだろう。ていうか俺は何をしていた?
確か昨日の夜までずっとスペの対戦相手はどうするか悩んで……そうしてたら寝落ちしてしまって。
その後また考えた後に携帯のカレンダーを見て用事を思い出して、気分転換に街へ一人で訪れた。
そうして駅前に着いたら……突然目の前に奇妙な扉が現れて……。
そんな風に冷静に今までの状況を思い出していると……徐々に霞がかっていた風景がクリアになってくる。
周りは青っぽい……そして、なんか揺れている?
そんな風に考えていると……二つの人影が浮かび上がってきた。
「ようこそ、我が『ビロードの部屋』へ」
***
「ん〜……どうするかなぁ……」
そう独り言を呟きながら、右手に持っているシャーペンを頭にコンコンとぶつけながら体も前後に揺らす。
今、俺はとても悩んでいる……何に困っているのかと言われれば、それはスペとの模擬レースに一体誰を走らせるかである。
とりあえず候補として外したのは同期のエルコンドルパサーとメイクデビュー前のテイエムオペラオーだ……しかし決まっているのはそれだけである。
個人的な考えとして、俺はドリームトロフィーに進んでいるウマ娘……つまりシンボリルドルフやマルゼンスキー、フジキセキとやらせてみても面白いかもと考えている。
ただ今回の模擬レースの目的として狙っているのは、経験を重ねるだけではない。ピッチ走法やスリップストリーム(トウよりもこっちの方がウマ娘の業界だと普通らしい)の感覚を養うという目的もある。
だがそれとは全く関係なく俺が心配にしていることが……もし圧倒的な敗北を味わった時、スペはどうなってしまうのだろうか?
「……」
スペは負けるはずがない、そんな事は分かっている。
だが元々スポーツをやっていたから思ってしまうのだ……負けを何度も味わうと足元が泥が纏わりついたかのように重くなって、目の前が真っ暗になり、自分が今何をしているのかも分からなくなる。あの嫌な感情。
あれをもしスペが味わう事になったら……ウマ娘がレースで生きていくのがどれほど難しいか痛感してしまったら、その先はちゃんと走れるのだろうか。
そんな風に考えていると……ある一つの案も浮かんできたのだ。
それは……模擬レースをしない、若しくは先生に判断を委ねるというものだ。
いやいや、何を考えているんだ俺は! スペを勝たせたいんじゃないのかよ!!
もちろんスペには勝ってほしい……だけど、俺のこの判断によってスペのコンディションを完璧に崩してしまった時、俺はどうすればいい?
スペの覚悟、お母さんの想いを果たそうという意思を知った。
だからこそ、俺が全てを壊してしまったら?
俺は誰に謝ればいい? スペか? 先生か? 周りの人たちか? それとも北海道で活躍を期待している育てのお母さんにか? はたまたあっちの世界でスペを見守っている産みのお母さんにか?
……自分自身でこれがとんだ自害妄想だっていうのは、心の奥では理解している。だが俺はまだ高校生……その重圧に耐えられるほど大人にはなっていない。
「……でも、先生は自分にやらせようとした」
恐らくこれもトレーナーになるための一つの試練なのだろう。自分自身で決定・申告したものには、しっかり自己で責任を取れというトレーナーになってからは当たり前になる事。
だったらここを超えなければいけない……一人前のトレーナーになるためにも。
「……ちょっとリフレッシュするか」
俺は一度席から立って冷蔵庫から飲むヨーグルトを出して、それをコップに入れる。
一口飲むと飲むヨーグルト特有のどろっとした(サラサラしているやつもあるが、これは少しどろっとしている)感覚が口内に広がり、飲み込むとそれがゆっくりと食道を通っているのがはっきりと分かる。
そんな風にしてヨーグルトを飲み干した辺りで携帯が独特なアラーム音を発した。それは普段目覚ましで使っているアラームとも、メッセージアプリのメッセージを受信した音でもない。
不思議に思いながら、俺は携帯を取り出してみる。真っ暗な画面からロック画面が映し出された時、日付が書いてある少し下のところに白帯が出ていた。
そこに書かれているのは「5/1 誕プレ」という文字だった。
そしてそれを見た瞬間に、これは一週間前に記入しておいたリマインダーだという事と、今日俺は元々何をするつもりだったのかを思い出す。
今日は……スズカの誕生日プレゼントを選ぼうとしていたんだった。
スズカの誕生日は俺が覚えている限りは5月1日……今日から数えればちょうど一週間後だ。
この学園に来てチーム・スピカに入った結果、奇跡的に再会できたのだ……今まで祝えなかった分、素敵な誕生日プレゼントを贈りたい。
「……よし!」
ここでうじうじしているくらいなら、気分転換に街に行こう。そしてスズカに何を贈るかゆっくりと考えよう。その後にこの問題を考えればいい。
そう考えて、俺は外出の準備を始めた。
・ ・ ・
駅に着いた時間帯としてはちょうどお昼ぐらいだったので、適当に駅前の牛丼屋さんで昼食を取った。
ちなみに頼んだのはネギ玉牛丼の大盛りだったが……自分の両隣に座ったお客さんはなんか特殊だった。
一人はそのお店一番のサイズであるキング牛丼を食べていた。そういえばあの白髪のウマ娘、トレセン学園で見たような……まぁいいか。
そしてもう一人は入店してすぐ牛丼並と生卵をメニューを見ずに注文した。その頼み方から慣れている人なのだろうと思ったが……なんか動きがそわそわしていた。
そして頼んだものが到着すると、その人は慣れた手つきで生卵を牛丼にびゃっと入れた。そして丼とスプーンを手に持ったかと思ったら、凄まじい早さで牛丼を掻き込んだ……そして口の動きは全然咀嚼せずに喉だけを動かし牛丼を飲み込んでいたのだ。
そして体感時間1分くらいで食べ終わるとそそくさと会計し出て行った……何だったんだろう、あれ。
まぁそんな事はあったが、その後は普通にご飯を食べ終え店を出た。
さて、スズカの誕生日プレゼントは何にするか……俺の記憶が正しければ、最後スズカに誕生日プレゼントを渡したのは小学校3年生の時、図工で作ったスノードームをプレゼントした時のはず。(本当は小2の時に作ったやつだが、5月まで保管していた)
まぁでもあの日から約8年くらい会っていなかったから、スズカの好きなものとかも変わっているのかな……。
だったら万人受け……つまり差し支えないものをプレゼントにしようか。
そうなるとやっぱり文房具系、シャーペンかボールペンが無難だろうな。
そうと決まれば近くの文房具屋さんにーーー。
その瞬間、俺の意識はぷつりと途切れた。
***
遠くから……音が聞こえてくる。
それはどんな音かと聞かれたら、どう表現すればいいのか分からない。
カタカタと何かが地面に擦れている音、ぱからぱからと何かがリズム良く歩いている音。
横を見てみると覗き窓があったので覗いて見るが、霧に覆われていてどこを走っているのかは分からなかったが、水滴が横に流れていくのを見てこの乗り物は俺から見て右の方向へ真っ直ぐに進んでいる事が分かった。
覗き窓から頭を離して周りを見てみる。下には紺色の絨毯が敷かれており、周りの壁も青色一色である。
不思議なところだなって思っていると、ある方向から人の視線を感じ、俺はその方向に振り向く。
そこにいたのは……二人の人だった。
一人はとてもひょろっとした体格と長い鼻が特徴的で髪色が白髪になっているところから老人という事が分かる。
そしてもう一人はその老人の隣で立っており、青い修道服みたいな服を着た背の小さな女の子だ。
「ようこそ、我が『ビロードの部屋』へ。ここは、夢や現実。物体や精神などは一切関与できない”形而上”にある場所」
「申し遅れましたな、私の名前はクレンペ。以後お見知り置きを……そしてこちらが」
老人は右手をすっと女の子の方に向けて、自己紹介を促す。
女の子もそれが分かったのか背筋をピンと真っ直ぐにして、胸を張る。そして大きく息を吸って。
「我は神である!」
「厨二病?」
「厨二病でもなああああぁぁい! 我は本当に神であるんじゃぞ!?」
自らを神と自称する女の子……俺はどう反応すればいいんだろう。
しかも厨二病? って聞いた瞬間めっちゃ叫んでその場で地団駄踏んでいる……この乗り物全体がすごく揺れる。
その時隣にいたクレンペが深い溜め息を吐いた。
そしてそれを聞いた自称神の女の子はしゅんと大人しくなった。
「大変ご無礼を……彼女の名はサフィー、ちゃんと挨拶しなさい」
「は、はい……我はサフィー、神じゃ♪」
「神の設定は変わらないのか……」
「設定とか言うなあ!!」
すごく可愛い声で自己紹介したかと思ったら、汚い声で突っ込むサフィー……まぁ神だって言うんだったら、そう言うことにしておこう。
まだ若そうだからな、この子……いつか分かる時が来るだろうな。
「度重なりの無礼失礼を……彼女はまだ経験浅く、貴方が初めて担当する客人なのです」
「は、はぁ……」
そうは言ってもまだ状況が飲めない。
ここはどこなんだ……いやビロードの部屋とか言っていたが、なぜ俺はここにいる?
「ここは何かの形で契約された者か私が招いた場合でしか入れない部屋……私が貴方をこの部屋へ招いたのです」
「……それは、どうして?」
「貴方には運命を見る力がある……しかしそれは大きな変革をもたらす場合がある。私があなた様をここへ招いたのは忠告をするためなのです」
運命を……見る力?
いやいや、何を言っているんだこの老人は……なんか変な人たちみたいだからここから出ようそうしよう。
そう思い俺は近くにあった扉の取っ手を手に取った。
「待つのじゃ、お主ここから出るつもりなのか?」
「あぁ……だって君といいそこの爺さんといい、怪しさ満載じゃないか。俺は変な勧誘はお断りしているんです」
「ほう、我々を変な勧誘とは……今回の客人はなかなか面白い方のようだ」
「あんまりここから出るのはおすすめしないぞ?」
胡散臭い爺さんと自称神が何かを言っているが、そんな事は関係ない……俺は扉を開けた。その瞬間、扉が謎の力で引っ張られ一気に外側に持ってかれた。そしてそのドアの取っ手を俺は握っていたので俺の体は外に飛び出てしまう。
……と思ったが、何かが俺を逆側に引っ張って飛び出すのを阻止してくれた。そしてその引っ張った人物はあの神を自称した女の子だった。
「だから言ったじゃろ、この”駅馬車”は通常の世界の5倍……つまり時速55キロくらいで走っておる。そこから飛び降りるなど自殺行為に等しいものじゃぞ?」
「ーーーー」
「それにここはお主の精神の在り方そのものを反映しておる。つまりこの駅馬車はお主そのものじゃ」
サフィーは軽々と俺を引っ張り、設けられていた座席に俺を置いた。
正直俺は今生死の狭間を通ったから、心ここに在らずである。
・ ・ ・
「落ち着きましたかな?」
「えぇ……まぁ」
あの後、俺はクレンペさんからこの部屋について細かい説明をしてもらった。
簡単にまとめれば、ここは自分の夢ということであり、現実の俺は外で棒立ちしているのだという。
……うん、結構街中だし急に棒立ちになったらめっちゃ目立ちそう。
ある程度の話を聞けばこの状況も納得……いくはずがない。
「あの、さっき運命を見ることが出来るって言ってましたけど、俺にそんな能力はありませんよ?」
というかそんな能力があったら、自分自身で驚くわ。
「お主に自覚はなくても、その力は実際に発動しておる」
「そう言われても……」
「現にお主は普通だったら一回死んでおる」
「……は?」
サフィーが何か戯れ言を言っている……いや、戯れ言でも誰かの死を思わせるような発言はダメだ。
ここは人生の先輩として注意をしなければ……そんな風に思っているとサフィーはどこからか分厚い本を取り出し、あるページを開ける。そしてそのページを自分に見せた。
そこに映っていたのは……俺だった。とても急いでいる様子で全力疾走で何処かへ向かっている。
そして交差点を渡ろうとした……その時だった。自分の方へトラックが突っ込んできたのだ。そして俺の身体はいとも簡単に吹っ飛んだ。さらに吹っ飛んだ先には壁、トラックがさらに加速しその壁にぶつかる。俺の身体は壁とトラックにサンドイッチされ、身体の至るところから赤黒い血が大量に噴き出ていた。
「……冗談はよしてくれ」
「冗談などではない、これはどこかで起きた紛れもない出来事なのじゃ。実際記録に残っておる」
なんかの冗談だよな? あれは超凄腕のCG班がトラックと俺を合成して事故った様に見せかけただけだよな? いや誰に需要があるんだよんなもん。
おかしい……あれは自分じゃないはずなのに悪寒が体全体を駆け巡る。
自分の手を心臓部に当ててみる……大丈夫、脈はある。ちゃんと今俺は生きているんだ。
じゃあ何なんだよ今のは、いたずらにしては度が過ぎてるぞ。
「お主はこの世界で一度は死ぬはずじゃった。じゃがお主は”夢”という形でこの未来を予知し、事故を事前に避けたのじゃ」
「……夢?」
そういえば……スペのデビューレースの日に遅刻した時、俺は新幹線内で夢を見ていた。
なんて悪夢だって思ったが……あれが予知夢?
偶然の文字で片付けられるのか、これは……。
「もう一つはあの……さつきしょー? の時じゃ、あの時は特に運命が変わらなかったが、お主は夢で既にレース結果を知っておったじゃろ」
皐月賞の時ってなると……あの変な4足歩行の生き物たちが十数頭競い合っていた夢か。
確かに今言われてみればあの夢のレース展開や結果と、その後にあったスペのレース展開と結果は瓜二つだった。
あれも偶然だと思っていた……だが、今の話を聞いてからだと、それも偶然って言えるのか分からなくなる。
「ただ気掛かりなのが、死の運命を避けたのはともかく、勝敗のビジョンは”馬”に見えたことじゃ」
「……何を言っているんだ? あそこにはウマ娘はいなかったじゃないか」
「ウマ娘じゃなく馬じゃ、見たじゃろあの4足歩行の生物」
うま……ウマ娘のことじゃないのか。
でも”うま”なんて生物はいただろうか? いや、いないはずだ。
「なぜあちらの世界の住人であるお主が、向こうの世界である生物のビジョンが見えたのか……それをクレンペ様は気になさったのじゃ」
「左様……」
クレンペさんは頷くと目の前にあるテーブルに何かカード状のものを置き始めた。
「占いは信じますかな?」
「えっ? ……いや、あんまりです」
「占いには運命を縛る力も、ましてや操る力もありませぬ……ですが、この世には占いを信じている人がいる。それはなぜだか分かりますかな?」
「……いえ」
そうは言ってもクランぺさんはカードを並べている……あとこれどこかで見たことがあるなと思ったら、タロットカードか。昔中学のクラスメートの一人がはまっていたことを思い出した。
「それは原動力……何かしらの刺激を欲しがっているからなのです。例えば「仕事で成功をするでしょう」と言われた星座の方はそれを糧に「自分は上手く行く」と自己催眠をかけ、あたかも占いの結果通りだと錯覚し、それが占いを信じることへ繋がるのです」
「逆も然りじゃ、「仕事が上手くいかない」と言われた星座の人間は「そんなことはない」と意地を張る。じゃがそれが空回りすれば、それは占いが当たってしまったと錯覚する。まあこれは自然と防衛機制が働いて、ミスを占いのせいにしているところがあるんじゃがな」
「貴方のその力はまさに占いそのもの……それがいい方に進むこともあれば、それによって傷つく可能性もあるのです」
ある程度並べ終えたのかクランぺさんは一度顔を上げ、こちらを見る。
「貴方の未来を少し覗いてみましょう」
そう言いながら、クランぺさんはテーブルに並べたカードを一枚めくった。
「ほう……近い将来を示すのは”力”の逆位置。どうやら貴方は貴方自身の無力さを痛感する時が来るでしょう」
「……無力さ」
これは近い将来に起きること……そしてそれには心当たりが一つある。
だからこそこの占いをバカにできない……してはいけないと別の俺が俺に問いかけた様な気がした。
「そんな身構えなくても大丈夫じゃ、近い将来と言ってもそれは数ヶ月後かもしれぬ。じゃが無力さをいつかは痛感するじゃろうが」
「……」
「これサフィー、客人を不安がらせるような発言を無闇にするでは無い」
「も、申し訳ありませんクランぺ様……」
クランぺさんはサフィーを叱りつけると、再びテーブルに並んだカードを一枚めくる。
「その先の未来を示すカードは”吊るされた男”の正位置。試練・努力などの意味を持つカードですな。貴方は、この先無力感に苛まれるでしょう、しかしそれを乗り越える試練を成し得る時、今までの苦労は報われるでしょう」
「努力が……報われる……」
それはつまり……トレーナーになれるって事なのかな。
そんな風に考えていると……急に目の前が白んできた。
「時間のようですな……では、再び相まみえる時まで、御機嫌よう」
そこで意識が遠くなる……しかしその寸前、サフィーの声が聞こえた。
『今お主が抱えている問題……周りの知人に相談するのじゃ』
・「どうした急に」→私にも分からん(但し、交通事故の話(16話)を書いた時からビロードの部屋は考えていました。イメージは某RPGのベルなんとかルームです)
・次回は幼馴染の誕生日プレゼントを買う・相談する幼馴染”たち”の回です。