少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA94,000・95,000・96,000を突破しました。誠にありがとうございます!
・お久しぶりです。模擬レースは次回に回します。すぐに出しますのでお許しください!
「ほら若いの、もっとテキパキ動け〜!」
「は、はい!!」
二日後……俺は早朝からトレセン学園の中にある一つのトラックに訪れていた。
先生にスペの対戦相手を告げて、昨日先生はリギルのトレーナー、東条ハナさんに直談判しに行った。その結果、交渉は成立、スペの模擬レースが晴れて決まった。
しかしそのために先生は学園の理事長に許可を取りに行っていたらしいのだが、その際一つの条件を提示された。
その条件が……トラックの手入れを手伝うというものだったらしい。らしいと言うのは俺が直接聞いたわけではなく、先生からそう伝えられたのだ。
そしてその条件を守るために俺は先生に渡された”手書き”の紙の指示通り、こうして早朝のトラックで中腰になって芝を植えていた。
予め芝が入っているバケツがあり、その近くには紙があり、今回やることが書かれていた。
簡単に言ってしまえば、前日コースをウマ娘が走って芝生が剥がれてしまったところをこのバケツの中に入っている芝生で埋めてほしいとのことだった。
それくらいなら……と思っていたが、実際やってみると意外とキツい。さっきからほぼ中腰体勢なのでこの歳で腰痛が出て来ていた。
そんな頃だった、謎のおっさんが現れたのは。頭にはバンダナの様なもの、その口には葉巻が咥えられている。但し火はつけてない。
「ほらほらそこのところ埋め方が曖昧だぞ、もっと一回いっかい丁寧にやるんだな……ちょっと俺のやり方を見とけ」
そう言うとおっさんはバケツから芝を取って剥がれている所を芝で埋めた。繊細な動きかつ埋める力は強くとても慣れている様子だった。
俺も負けじと芝で隙間を埋める。
「なぁ若いの、お前は昔のウマ娘たちを知っているか?」
「どうしたんですか急に」
「いいから、知っているか?」
「……いえ、そこまで知らないです」
今思えば、俺はあまりウマ娘には詳しくない。知っているのはこの学園に入ってから身につけた知識だけ。
しかし仕方ないだろう、俺はマックイーンと会うまでレースとは無関係だったし、トレセン学園に入る事を決意したのも中3の夏くらいだったしな。
分かりやすい風に言うなら、全然車に乗ってこなかった自転車乗りがある日ドライバーになるようなもんだ。(それで成功してる人もいるけど)
「今ではこんな風に整備するようになったが……昔はそんな事はなかった。それどころか、走る事を強要されていた時代もある」
「そうなんですか? そんなの耳に入ったことも、ましてや歴史で習ったこともーー」
「多くの国ではウマ娘の人権を尊重するためにその事を隠蔽している。しかし一部の国ではそう言う歴史があった事を公にしている」
おっさんはウマ娘の歴史を話してくれた。ある国ではウマ娘は普通の人よりも身体能力が良いことに、優秀な労働力としてこき使われていたこと、またある国ではウマ娘を競わせてその勝ち負けで賭博したりしていたなど、俄かには信じられないような話だった。
しかしおっさんのどこか真剣な声音で話しており、その話が本当であると何と無く雰囲気で感じた。
「日本もかなり昔からレースをやっていてその歴史は200年にもなる」
「200年!?」
想像以上の歴史の厚さに俺は素直に驚いてしまう。
ていうかなんでこの人は隠蔽されているはずの情報を持っているんだ?
「だがこんな風に整備されるようになったのは、つい最近のことなんだ」
「そうなんですか?」
おっさんは胸ポケットから少し古そうな写真を取り出し、それを俺に渡してくる。
俺はその写真を受け取る、どうやら少し前のカラー写真のようだ。勝負服を着ているウマ娘が”茶色”の地面でレースをしている。
ダートのレースなんだろうか?
「これは数十年前の”有馬記念”の光景だ」
「……えっ、有馬?」
有馬記念って確か、中山で行われるレースだよな……そもそも芝のコースのはず。
でも写真の中山レース場は茶色い。
「なんで茶色いか分かるか?」
「……いえ」
「それはな、芝が枯れているからだ」
芝が……枯れている? そんなことってあるのか?
学園のトラックの芝は俺が見ている限り、年中緑が生い茂っているはずだ。
「昔の娘たちはとても走るには酷な環境で走っていた。しかしURAが設立されて野芝の上に洋芝のタネを蒔くオーバーシート、各レース場のコース整備、エクイターフの開発・導入するなどをして、今の娘たちは良い環境で走れるようになった」
「エクイターフ?」
「簡単に言ってしまえば根が深く、芝が密でちぎれにくく、クッション性に優れ、成長も速く、反発力がある芝だ。導入してからタイムが大幅に早くなっている」
なるほど、普通の芝だと思っていたけど地味に違うものきだったのか。
でも確かに公園やサッカー場の芝とは何か違う感覚だった気がする。
「沖野の坊主はお前に知ってもらいたかったんだろうな、レースにはウマ娘とトレーナーだけで作っているものではない。影で支えている奴もいるってな」
「……そうですね」
自分は今日まで知らなかった。ウマ娘が毎日ああして満足に走れるのは、この人みたいな人たちがいるから。レースはトレーナーとウマ娘だけでやっているわけではない。たくさんの人たちに支えられているからこそ、出来るものなんだ。
……ん? なんか今のおっさんのセリフに違和感。
なんで先生の名前がこの人から出て来るんだ?
そんな風に思っているとトラックの外を行き交うウマ娘の生徒が多くなっているのが見えた。
さらに携帯で確認してみると時刻は11時を大きく過ぎたところだった……模擬レースは確か12時に行うと言っていたはず、だったらそろそろ人が入ったりスペや先生たちが来てもおかしくない時間帯だ。
「そう言えば若いの、お前さんは模擬レースを見に行かなくてもいいのか?」
「えっ? いや、模擬レースってここでやるんじゃ?」
「何を言っているんだ、ここは今日は誰も使わないトラックだぞ?」
……んん? ちょっと一回整理をしよう。
昨日先生は模擬レースを行うことを理事長に伝えた。そして了承を得た代わりにこのトラックの整備を頼まれたはず、なのにおっさんが言うにはここを使う人(チーム)はいないと言う。
まさか先生、この整備をやらせるために嘘の情報を伝えたんじゃ……。今思えばその条件は理事長から直接聞かされた訳じゃない、それに理事長と言う学園の最高権利者が手書きの紙で指示なんてするか?
そんな風に思っていると自分の携帯が震えた。俺はすぐに取り出す。すると先生からメッセージが送られてきた。
『そろそろ切り上げて、第〇トラックに来い』
「……」
うん、これ確定だわ。先生にハメられたわ。
俺は「はぁ〜」と深いため息を立てながら、まだ痛む腰を上げる。
「あのすみません、そろそろ行かないといけないところがあるので失礼してもいいですか?」
「おおもう行くのか? 沖野の坊主によろしくと言っておいてくれ」
・ ・ ・
少し足早に先生がメッセージで言っていたトラックに向かう。
この学園はかなり広くて時々迷いそうになるが、今回は迷うことはなかった。というのも制服を着ているウマ娘の生徒があるトラックに集まっていたからだ。だから何となくそこが目的のトラックだと直感が囁いた。
そして訪れてみれば……ビンゴだった。
ただ一つ意外だったのは……。
「今日どっちが勝つと思う?」
「そりゃーーーさんでしょ〜?」
「でもでもスペシャルウィークさんっていう人も結構最近調子良いらしいよ?」
「まさかーーーさんのレースを見られるなんて……神様仏様シラオキ様ありがとうございます!」
「言い過ぎじゃあ……というかシラオキ様って誰?」
「(ワイワイ、ガヤガヤ!!)」
「……わーお」
この模擬レースを見に来ている人がとても多かったということだ。それこそウマ娘はもちろん他のチームのトレーナー、学園関係者、そしてマスコミの人も見える。
その多さはゆうに1000は超えているだろう。
「あっ、来た。レオく〜ん!」
スズカの声が聞こえて、俺はその方向に体を向ける。するとこちらに手を振っているスズカの姿が見えた。近くにはテイオー・スカーレット・ウオッカもいた……あれ、ゴルシは?
「ふぅ……結構売れたぜ〜!」
なんて思っていると俺の横に並んだのは法被を着て「特性焼きそば」と書かれたプラスチック製のバットを肩に下げているゴルシだった。
……何で焼きそば?
「お〜新人か、どうだ? あの野郎に騙されて芝の整備をした感想は?」
「芝整備は楽しかった、だが先生てめーだけはぜってえ許さねぇって感じだな」
「なるほどな……焼きそば食うか、美味いぞ」
「……サンキュ」
そうやって売れ残っている焼きそばを取ろうとすると……ゴルシに手を叩かれた。
少し困惑していると、ゴルシは叩いた手のひらを向ける。
「400円」
「……金取んのかよ」
「そりゃそうだろぉこちとら商売でやってるんだ。でもまぁ今日はおめえの誕生日だから心優しいゴルシちゃんの奢りでいいぜ」
「そりゃどーも」
あれ、ゴルシに俺の誕生日って教えたっけ……まぁいいか。
俺はゴルシから焼きそばを受け取って、スズカの隣に立つ。
スズカの顔はずっと一方向を向いていた。その先にいるのはスペだ、その近くには先生もいる。
スペを見ているスズカの目には、明らかに不安な気持ちが乗っていた。
「……心配?」
「うん……やっぱり今回の模擬レースはやらない方がよかったとまだ私は考えている」
スズカはこの模擬レースに否定的だった。でもそれは一回走れなくなる事を経験した彼女だからこそ考える不安だと思う。
それにスズカの気持ちは分からない訳ではない……俺も一回そう考えた口だから……。
「何でレオくんはこんな提案をしたの……最初から勝ち目がないこのレースを……」
そう、今からスペと一緒に走る相手は経験、実績、キャリア、全てを引っくるめても完全に上だ。はっきり言って、スペが勝てるところなど、たった3・4歳違う若さだけだろう。
それでも俺は対戦相手に相応しいと思って、あの人を選んだ。
「理由は二つある。一つはレースの楽しさを思い出して貰うこと」
「……こんな勝てないレースで、スペちゃんは楽しめるの?」
「スズの言うことはごもっとも。だけど俺はいいと思っている」
「……どうして?」
「スペは幼い時にその人の走りをテレビで見ているらしいんだ。だからテレビで見た憧れの人と走れることが出来たらスペは楽しんでくれるかなって」
「……それでも勝たなければ意味はない。もしこれで負けたらーーー」
「そこなんだよ、二つ目の理由」
俺はスズカの言葉を遮るように真剣な声で言った。言葉を遮られてスズカは驚いていた。
「スペは確かに負けた……だけど、スペには変えてもらわないといけない認知がある」
「……認知?」
スペに変えてもらいたい認知……それは、速い走りだ。
スペはこの前の皐月賞を含めて参加したレースは3回、そして前回の皐月賞はGⅠで、そのレースでスペは負けた。
だから今スペが追っているのは……皐月賞で一位だったセイウンスカイの背中だ。
でも、それはいけないことだと思った。
それはスペの夢が、日本一のウマ娘だからだ。
こう言うのはあれだけど、セイウンスカイの走りが日本一の走りという訳ではない。だけど敗北で目の前しか見えていないスペはあの走りを日本一だと無意識に考えている可能性がある。
それはこの後のダービーを制覇したとしても、その認知は奥深くまで残る……少し時が経てばもっと強い相手と当たる、それこそ同期のエルコンドルパサーやグラスワンダーなど。
だからこの認知は一刻も早く直さないといけないと考えた。
「それが……理由……」
「心配し過ぎと言われてもいい……俺はスペの夢を叶えるために、一番出来ることをやるだけだ」
「……」
俺は向こうにいるスペを見る……あれ、先生と向かい合って何をやっているんだ?
なんて思っているとポケットに入れていた携帯が震えた。
取り出してみると先生表示で電話が来ていた。俺は出てみる。
「もしもし先せーー」
『玲音さん! 私です、スペシャルウィークです!!』
・改めてお久しぶりです。高校生として文学賞に出す小説を書き始めたり、文化祭の準備・本番があったりなどでかなり遅れてしまいました……人前で歌ったりしたのが夢のようです。HR展のカジノもかなり盛況でしたし、とても楽しい文化祭でした。さらなる報告になりますが、第28回電撃大賞の一次選考を通過しました。
・最後に温泉旅行に行ってから通算60回……温泉旅行券が出ない! _:(´ཀ`」 ∠):_
・次回こそ模擬レース回です。(今日中、もしくは明日0時に投稿予定)