少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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・第5Rのタイトル・32話の最後のシーンを修正しました。
スペとテイオーからプレゼントを受け取り、スズカの提案を聞いた後、俺は寮に戻って芝埋めでかいた汗をシャワーで流してさっぱりする。
やっぱり汗をかいた後のシャワーは心地よい……水道代がかかってしまうというのは分かっているが、実家ではシャワーを長く使いすぎて怒られたこともある。
「そんなにシャワーするなら湯船に貯めなさい!」とも言われたことがあるが、シャワーにはシャワー独特の気持ち良さというものがあるから、中々辞められないのだ。
っと、流石にそろそろ出ないと用意する時間がなくなるな。俺はハンドルを回して水を止める。
タオルで体を拭きながら、お昼ご飯をどうしようかと考える……適当にパスタでいいか。
そう思いながら、俺は鍋に水をびゃっとたくさん入れて火にかけた。
・ ・ ・
約束の時間まで残り5分、俺は少し足早で駅前を歩いていた。
まさか靴下が全然ペアになっていなくて、思った以上に時間を取られたのは想定外だった。
ここから走っていけば間に合うだろうけど、休日ということもあり、人で混んでいる。だから走ると誰かにぶつかってしまう可能性があるから、走ることはできない。
となると5分くらい遅れちゃうかな。マックイーンって結構時間に厳しいから、ちょっと面倒なことになりそうだが、それは自業自得だからあるがまま受け入れよう。
っと、そんなことを考えているうちに集合場所に着く。しかしそこにマックイーンの姿はなかった。
「あれ?」
マックイーンが時間に遅れるなんて珍しいなぁ……なんかあったのかな?
少し心配になり、俺はポケットから携帯を取り出しマックイーンに電話しようとした……その瞬間、人混みからマックイーンがひょっこりと出てきた。
「も、申し訳ありません! す、少し遅れました」
「いや、全然いいよ。俺も5分くらい遅れたし、来たのもついさっきだし」
「そ、そうですか……」
マックイーンは少し息を整えている……そんなに急いで来たのかな。
「ふぅ……では行きましょうか」
「うん……あれ、マックイーンそんな服持ってたっけ?」
マックイーンが今着ているのは黒色のレースが付いた長袖のブラウスに、グラデーションがかかった緑色のミディスカート(腰から先にかけて濃くなる)、黒色のブーツを履いている。
ブーツは確かにあんなの持ってた気がするけど、ブラウスとミディスカートは絶対初めて見た。
「今日のために買ってみたんです。どう、ですかね?」
「似合ってる」
「そ、即答ですか!?」
「だって似合ってるんだもん、ちょっと大人びているけど」
「そ、そうですか」
俺は何回かマックイーンと何回かお出かけをしているが、その中で学んだのだ。素直に思った感想はそのまま口にした方がいいと……まぁ、マックイーンが似合わない服を着て来たことなんてないが……。
それにしても、本当に似合った大人びたコーデだ。
「……んっ?」
マックイーンから何かいい匂いがしたので、俺は自分自身の鼻をマックイーンに近づける。
「ひゃああああぁぁ!? な、なんなんですの!?」
急に顔を近づけたからか、マックイーンは大声を上げながら尻尾も真っ直ぐにピンッと伸ばす。
けど俺は気にせずに(いや、気にするけど)匂いを嗅いでみる。なんだろう、甘い……優しい香りがする。
「……マックイーン、もしかして香水か何かしてる?」
「へっ!? は、はい……ちょっと挑戦でつけてみました。でもまさかこんなすぐに気がつくなんて……」
「3年も近くにいれば変化は気づくよ……薄いけどネイルもしてるね」
「そ、それも見抜いて……」
そう思うと今日のマックイーンって、全体的に大人っぽいなぁ……別に香水やネイルをしなくても可愛いのに……。
まぁマックイーンももう2年生、そういう大人向けのファッションに興味が湧くのも別に不思議なことではないだろう。
それにマックイーンはもともと周りには大人びた態度で接することが多いから、別に違和感はない。
「どうした? 早く行こうよ」
戸惑って足が止まっているマックイーンの手を掴んで、俺は映画館に向かおうとーーー。
「あ、あの! 今日はそちらの映画館ではないです!」
「……ハズカシ」
握っていた手はいつの間にか握り返されていた。
・ ・ ・
マックイーンに連れられてやって来たのは有名な映画館……ではなく、ビルの一角にある見るに小さな映画館だった。これはいわゆる……個人経営の映画館?
マックイーンよくこんなところ知ってたな。というかまだ個人経営の映画館ってあったんだ。
不思議に思いながら俺はマックイーンの背中を追ってビルの中に入る……暖かい色の照明が俺たちを迎えてくれる。
少し狭目のロビー。その隅っこにチケット売り場と書いてあるところがあり、そこには1人の老人がいた。
マックイーンは慣れたように売り場の前まで来る。
「お久しぶりです、義之さま」
「お〜マッちゃんじゃないかぁ、久しぶりだねぇ」
どうやらこの老人とマックイーンは知り合いらしい……聞いてみると、この人は昔メジロ家で専属トレーナーをしていたが引退、その後メジロ家の支援を受けて個人経営の映画館を開いた。
今日はそこまで人は来ていないが、いつもは一定の人は入るらしい。
そしてマックイーンは幼い時からよくここで映画館を見に来ているらしい。つまりここはマックイーンの思い出の場所?
「お〜お〜そちらの美男子が、マッちゃんがよく話してくれる玲音くんって子かい?」
「はい、義之さまは会うのは初めてですよね」
「えーっと、美男子というより微男子だと思いますけど……谷崎玲音です」
「どうも義之です、いつもマッちゃんがお世話になってるねぇ」
「あぁいえ! こちらもお世話になってます!」
「礼儀の良い子だぁ……これならメジロ家も安泰だねぇ」
「義之さま、流石に気が早いですわ!」
その後少し雑談する。元トレーナーということもあるから、何か良いことが聞ける機会だと思ったが、何せ昔のことだということであんまりトレーナーに関しては聞けなかった。
だが、昔のメジロ家の強さは話してくれた……やはり名門、昔からとても強い。あまりメジロ家に関わっている人からメジロ家の話は聞けないから、とても興味深いお話が聞けた。
「っと、長話し過ぎたのぉ……今日はどれを見るんだい?」
「こちらでお願いします。どうぞ」
そう言ってマックイーンは野口さん2人を財布から取り出す……個人経営だから1人の料金が高めなのかな? そう思い、俺は財布から2千円を取り出す。
しかし義之さんが出したチケットは高校生・中学生チケット2枚分だった。
「いやいや、自分の分は自分で払うよ」
「玲音さんは誕生日ですから、今日は私に奢らせてください」
「おや、玲音くんは誕生日なのかい? じゃったらドリンクは2人とも無料にしよう」
「義之さま……いいのですか?」
「2人分のドリンク無料するくらい平気平気」
なんか申し訳なさが後をたたないけど……今日は好意に甘えよう。
「私は紅茶を……玲音さんは何にしますか?」
「じゃあ、コーラを」
「◯プシとコカ・コー◯、どっちがいいんだい?」
「◯プシで」
どっちも似たような味もするが、炭酸そのものを楽しむならコカ・コー◯、泡を楽しむなら◯プシだと考えている。
・ ・ ・
座席に座って上映を待つ……赤い座席で普通の映画館よりもフカフカだ。
マックイーンが選んでくれた映画のタイトルは『白金の戦闘機 -プラティナムクラフト -』と言うものらしく、原作は小説。こういうところで上映されているから昔の作品かと思ったら、今年、しかもつい3日前から上映開始された新作らしい。それも駅前にある映画館でも普通にやっているらしい。
そういえば1週間前マックイーンは映画の雑誌を見ていたな……それで知ったのかな。
それにしても最新作も扱っているって、この映画館すごいな。
「あっ、始まるみたいですよ」
照明が暗くなり、上映前の禁止事項説明、そしてこの映画館の紹介ムービーを流した後、本編が始まる。
戦闘機とタイトルがついているから、てっきりT◯P GUNみたいな戦闘機ものだと思っていたけど、どうやらウマ娘と高校生主人公の恋愛ものみたいだ。実際最初のシーンはある駅のホームで主人公がヒロインのパスケースを拾って渡してあげるというシーンだった。
「ふわぁ」
あれ、俺いまあくびした? おかしいなぁ、昨日しっかりぐっすり快眠で寝たはずなのに……。
あぁ……そっか、午前は草むしりとかしたし、快眠って言ってもそれは急ピッチでHPに掲示を作っていたから、そのまま疲れてぐっすりだったんだ。
やばい……ガチで……眠……い。
いや、ダメだダメだ! マックイーンが奢ってくれたんだぞ!? 義之さんがコーラを無料にしてくれたんだぞ!? それにこの話だって普通に面白そうじゃないか、ほら今ヒロインが「えっ……この前、駅のホームでパスケースを拾ってくれた……」って同じ高校で主人公と再会しているじゃねえか! 王道のパターンじゃねえか!!
いや落ち着け俺、こういう時はコーラを飲むんだ。炭酸で眠気が目覚めるはず。
そう思って俺はコーラの容器に手を伸ばした……しかし、自分はその前に意識がぷつりと落ちた。
***
カチカチと……機械式の時計が動く音が部屋に響いている。
私はその音を聞きながら暗い部屋で椅子に背中を預けてゆっくりとするのが私は好きだ。しかし私はただただゆっくりとしている訳ではない。目を閉じ、意識を集中させ……香りを堪能しているのだ。
その香りは簡単に言ってしまえば甘い……とても優しい香り。私はその香りを感じる事で幸福感を得ている。そして昔に想いを馳せるのだ……素晴らしかったあの日々のことを。
いつから私はこんな風にするようになったのかは分からない。だがわたしはこの時間以外で幸福感を感じられることは無くなった。私の娘が進学・進級・高校大学合格した時も、私に孫が出来た時も私は幸福感は訪れなかった。
私はあの時からすでに無であり、有に戻れる懐かしきこの香りこそが私の心を唯一満たす物なのだ……今などどうでもいい。
ーーコンッコンッ
私が香りを堪能していると時計の音とは全く違う音が響く。この音は私の部屋の扉がノックされた音だ。私は少し億劫になりがらも「どうぞ」と入室の許可をする。少し間があり、ゆっくりと扉が開かれる……その瞬間、少し懐かしい香りが扉の方向から感じられた。その時私は目を閉じていたので思いがけず名前を口に出してしまった。
しかし私の部屋に入ってきた少女は「違う」とだけ申し訳なさそうに言う。そうだこの部屋に入ってきたのは彼女ではない。私は目を開けて少女を見る。栗色の髪だが前髪の一部分が白髪になっている。
「ーーーかい、いらっしゃい」
「こんにちはお祖父ちゃん。また本を借りに来たよ」
「もう読み終わったのかい? まぁいい……ちょっと待ってなさい」
少女は本が好きだ。理由としては「退屈が凌げるから」と言う理由らしい。少女は一応もう中学生と年頃の女性であるが、他の同級生や友達とは遊ばないのだろうか。そうは言っても自分も同級生と遊んだ記憶は薄いが……。
さて、隣にある書庫に入った私は顎に手を当てながら考える。この前はイギリスの推理ものとアメリカの連続殺人犯もの……次は生物ものや雑学ものを渡してあげよう。そう思い私は本棚から5冊くらい取り出して自室に戻る。その時、少女は私の自室に設置されている机の上に置かれていた物を手に取っている。私は一度本を机に置く。
「ーーー、何をやっているんだい?」
「あぁお祖父ちゃん。いや、ずっと気になっていたの、この部屋の匂いの正体が何なのか……この香水だったんだね」
「……」
「教えて、お祖父ちゃん。この香水は女性向けの香水……誰が使って”いた”の?」
少女はあえてこっちに答えを求めるようだ……もう答えは分かっているだろうに、私から口にさせたいらしい。
「”ーーー”、知らないとは言わないな」
「……やっぱり、そうなんだ」
少女はそう言うと手に持っていた香水を机に置き、私が持って来た本を持ってそのまま扉の方に向かう。
「自分が知っているお祖父ちゃんの香りは、見た事も会った事もない”お祖母ちゃん”の香りなんだ……」
少女は出る前、こっちを振り返らずに、しかしこっちへ聞こえるくらいの声でそう言葉を漏らし、そして出て行った。
ーー少女は自分の祖父の部屋から出た後、ずっと祖父のことを考えていた。出る前にあんな事を言ってしまったが少女は祖父のことが好きである。だからこそ今の……暗い過去から立ち直られていない、ありもしない空想に囚われている祖父を救いたいと考えている。だからこれまで様々な本を読んで来た。様々な人に相談もした。しかし自分自身の力だけではどうしようもない。いや、本で得た知識もあの祖父に対しては無力に等しい。
祖父を救うにはーーその暗くなる未来を丸ごと変える……それくらいの改変が必要だと、少女は考えていた。
・水谷さんと伊藤さん金メダルおめでとうございます!! いやぁ、すごかった! もうすごかった!!(語彙力)
・キャンサー杯はとりあえずオープンのAグループは行った……。
・次はマックイーン視点から始まる予定です。