少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA103,000・104,000を突破しました。ありがとうございます。
・今回ちょっとだけキャラ崩壊……かも?(恋愛成分多めかも?)
・誕生会は次回です。
200◯年 5月1日
ここは、どこだろう。なんか頭がぼーっとする。体を起こして辺りを見てみる。棚の上にはスーパー戦隊シリーズのロボのおもちゃに仮面ライダーの変身ベルト、ウルトラマンの変身グッズ。
間違いない、”ぼく”の部屋だ。
自分が着ているパジャマはじゅーけん戦隊とデンオーの光るパジャマ……うん、普通だ。でも、何でこんなにも不思議に、懐かしく感じるんだろう?
「……おかーさん?」
本当に何でだろう……急にお母さんに会いたくなった。別に別れてしまった訳でもないのに、心がとても苦しくなった。
そう考えると、ぼくは自分の部屋から出て壁に手を添えながら階段を降りる。いつも降り慣れているはずなのに、まるで十数年ぶりに降りるようだった。
とた……とた……と一段一段踏みしめて降りる。フローリングのひんやりとした感触が足の裏全体に伝わる。
階段を降りて一階に辿り着くと……リビングの方からいい香りと水が流れる音が聞こえた。
ぼくはその音と香りがする方へ足を進める。そしてその先にあったドアを開ける。
「おっ、おはよう玲音。もう目が覚めたのね」
そこにはぼくのお母さん……谷崎琥珀が朝食を作っていた。その瞬間、ぼくの目から暖かい水の滴が溢れてくる。その滴はやがて重力に従って頬を伝い、そして床に落ちた。
ぼくは……泣いているの?
「あれ、どうしたの玲音、そんなに涙を流して……」
部屋に入った途端に泣き始めたから、お母さんは心配になってぼくのもとに近づいてくる。
でも近づくたびに涙が次々と溢れる……悲しい気持ちもないし、どこも痛くないのに、むしろ幸福感を感じているのに。
「分からない……何で涙が出るか、分からないよ……」
むしろ原因不明で溢れている涙が少し怖くなってきて、そっちの方がとても気になってしまう。
すると……優しい香りと感覚が、ぼくの頭を包む。
これは……お母さんに抱きしめられている? それに頭をポンポンと撫でられている。
「よしよし、きっと悪い夢でも見てたんだね……大丈夫、泣き止むまでこうしてあげるから」
そうしてお母さんはぼくが泣き止むまで、ずっと、ずっと、優しく頭を撫でてくれた。
よく撫でられているはずなのに……とても懐かしい、忘れていたことを思い出したような感じがして、ぼくは中々泣き止まなかった。
・ ・ ・
なんとか泣き止んで、お母さんが作ってくれた朝食(トースト・スクランブルエッグ・サラダ・ソーセージ)を食べた後、ぼくはリビングにあるテレビで録画しているウルトラマンを見ていた。
ぼくが見ているのはウルトラマンメビウス、そして話数は第34話「故郷のない男」。昭和ウルトラマンであるウルトラマンレオが出てくる回だ。
ぼくは昭和ウルトラマンもあらかた見ていて、その中でも特に好きなのがレオだった。その理由は単純、ぼくと名前が似ているから……というのもあるけど、人間ドラマと主人公の成長がとても心にグッと来るものがあるからだ。
同世代の子たちとかはウルトラマンが戦うだけのシーンで盛り上がることも多いが、ぼくは戦うシーンよりも防衛チームと主人公(ウルトラマン)の掛け合いがとても好きだ。だが知っている人はいると思うが、レオはウルトラマンの中で防衛チームが壊滅した作品。過去のウルトラマンと比べても多くの喪失や別れ、苦しみを味わっている。
だからこそ戦い抜いた主人公の言動の一つひとつには、心を動かされるものがある。
そしてそんなレオが客演しているのがこのお話だ。
地球にやってきた新人、つまりメビウスが地球を守るのに相応しいか拳を交わし合い確かめる。その後人間態のミライの姿に戻るメビウス、その時悔し涙を流す。そんなミライにレオの人間態、ゲンが言った。
『お前の涙でこの地球が救えるのか!?』
困難な目に遭い、そして辛い修行を乗り越え、そして死闘を繰り広げたゲンだからこそ、中途半端な力では何も守れないことを知っている。だからメビウスに喝を入れるのだ。
メビウスのお話の中でも、このお話は片手の指に数えられるくらい好きなお話だ。もちろん、メビウスは全体を通してもすごく面白い。仲間と主人公の成長はこの作品で語らずにはいられないところだろう。
そして何よりメビウスという単語だけでもうかっこいい。行っている幼稚園でも「チーム・メビウス」という遊び集団をぼくたちは結成している。
「我が息子ながら、よくそんな難しいお話を見るね〜」
ちなみにお母さんはウルトラマンや仮面ライダーなどには詳しくない、単語を知っているのとスペシウム光線を知っているくらいだ。
お母さんが言っていたけど、こういうヒーロー物はお父さんの方が大好きだったらしい……それも遺伝だったのか、あるいは男の子の運命というべきか。
「あれ、おかしいなぁ……」
「どうしたのおかーさん?」
「ちょっとお誕生日パーティーに必要なものが見つからないの。切らしちゃったのかなぁ」
「……誕生日パーティー?」
「そうよ、ほら去年も行ったでしょ、スズカちゃんと玲音くんを祝った集まり」
そう言われて、ぼくは記憶を辿ってみる。一年前の出来事だったら最近の事で覚えているはずだけど……なんでだろう、すごく記憶に靄がかかっている。
「何が足りないの?」
「オリーブオイル……あれがないと料理ができないし……」
「じゃあ買って来るよ?」
「えっ……いいの? はじめてのおつかいの撮影はしていないよ?」
お母さんは『はじめてのおつかい』という番組が好きで、よく観ている。その番組ではぼくと同じくらいの子たちがおつかいに行くというもの。まぁ、それを見てもぼくは何も思わないけど……。
「大丈夫、車に気をつければいいんだよね?」
「悪い人たちにもね……でもやっぱ心配だなぁ」
「大丈夫だよ、今おかーさんはネコの手も借りたい状態だよね」
「そんな言葉どこで覚えたの? でも、そうだね。ちょっとお願いしようかな」
そう言うとお母さんはおつかい代とスーパーの場所が記されている手描き地図、買うものリストを渡してくれる。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね!」
いつも言っている言葉なはずなのに……また酷く懐かしく感じた。
・ ・ ・
「(オリーブオイルとパーティー用のジュースを入れた……のはいいものの)」
ぼくは今、窮地に陥っている。
それはリストに書かれたものをほぼ入れ終えて、最後の食品が売られている棚の前に来たのだが……『チーズ』としか書かれていないのに、一体どれを買えばいいの!?
そこには30……いや、60種類くらいはある大きなチーズ売り場があった。
バリエーションとしてはおやつとかでよく食べているベビーチーズやさけるチーズなどよく見るやつもあれば、なんか変な英語……いや英語にもなっていない商品もあったりと……あ、頭が混乱する。
そしてそこで20分くらい立ち往生していると、声をかけて来る人がいた。ぼくは振り返るが……だれ、このお姉さん?
そこにいたのは茶褐色の髪の毛で、ウマ耳が生えた女性だった。
「やっぱり玲音くんだ、こんにちわ」
……誰?
こんな美人さんの知り合いいたっけ? でもなんかえらく懐かしい感じもする。
「あ、あら〜、ほぼ毎日会っているはずなのだけど、もしかしてまだ名前覚えられていないのかしら……いつもスズカのお母さんって呼んでいるものね」
自分が不思議そうな顔をしていると、目の前の女性が少し困ったような顔をする。
……ん、スズカのお母さん?
ぼくはその女性を凝視してみる……そういえば、どことなくスズカに似ているような……。
「スズちゃんの……おかーさん?」
「そうよ、名前はワキアって言うの、よかったら覚えてね……それで玲音くんは何をしているのかな?」
目の前の女性がスズカのお母さんだと言うことが分かり、ぼくは立ち往生している理由をスズカのお母さんに話す。
すると、スズカのお母さん……ワキアさんは一緒に考えてくれた。ワキアさんは去年のお誕生日会でうちのお母さんがイタリア料理を振る舞ったこと、そして今カゴに入っている食材と持たされたお金からちょうど良さそうなチーズを選んでくれた。
「あの、ワキアさんはなんでここに?」
「今日の誕生日会でティラミスを持って行こうと思っていてね。ほら去年持って来たらスズカと玲音くん気に入ってくれたでしょ? だから今年もティラミスのバースデーケーキにしようかなって考えてるのよ」
そう言うとワキアさんは買い物かごの中身を見せてくれる。ホットケーキミックスにココア、無塩バター、クリームチーズ、生クリーム、インスタントコーヒー。この中にある以外にも家にある卵やらなんやらを色々すると、ティラミスができるらしい。
そうしてお話ししながら、ぼくはレジで精算する。店員さんがレジ袋に商品を入れ、ぼくはお金を払ってレジから離れようとしたが……レジ袋が想像以上に重かった。なんとか上に持ち上げようとしても引きずってしまう。
そんな様子を見てワキアさんが「よかったら送ろうか?」と言ってくれたので、ぼくはお言葉に甘えて車に乗せてもらった。
・ ・ ・
買い物から帰って、ぼくはお母さんにレジ袋を預けると、そのまま二階の自室に行き、そのままロケットベッドダイブした。
成長して来たとはいえ、まだ子ども……片道30分の買い物はかなり体力を消費していたのだ。だからぼくは泥に沈んでいくかのように意識が途切れた……………………少しずつ意識が覚醒していると、かちゃりと部屋の扉が開く音が聞こえる。そして誰かの足音が少しずつ、こっちに近づいて来る。
その足音はぼくの近くまで来ると、ぼくの体を優しくゆさゆさと揺らす。しかし自分が起きないと分かると、耳元まで顔を近づけて来る。そして優しい声音で語りかけるように囁いた。
『レオくん?』
***
時刻としては17時を回ろうとしている頃、私はレオくんがいる後生寮の方に足を進めていた。
昨日レースが終わった後、私の家族に会う……というよりも私の誕生日会に参加しないかと提案しレオくんはそれを受け入れてくれたけど、集合場所や時間など全然知らせていないと気づいて、早朝にメッセージを送った。
しかしお昼を過ぎても送ったメッセージが既読になる事はなかった。部屋の中で何度も何度もメッセージアプリを開いてはため息を漏らしていたので、同居しているスペちゃんにとても心配された。
そして約束の1時間前になっても音沙汰がなかったので、私はこうして自分自身の足でレオくんのところに向かっている。
それにしても、こうしてレオくんの部屋に訪れるのって、あの約束を交わした日以来かもしれない。
そうやって考えると結構久しぶりなので、意識した途端に緊張してきた。昔は家が向かいにあって、どちらかの家に必ずいるというのが当たり前だったからこそ、この距離感はまだどうにも慣れない。
他人に戻った……とは言っても、やっぱり私とレオくんの距離感はまだあの頃のままだ。いや、もしかすると会っていなかった分、もっと短くなったかもしれない。
「はあ……ふう……よし」
私は寮の扉で深呼吸をして、扉の取っ手を引く。寮に入って目の前に設けられている寮長室の窓口の前まで歩み寄る。
そこでしばらく立っていると、奥からおじいさんが現れた。この寮の寮長を勤めている未浪さんだ。
「はい〜お待たせしました〜……って、あんさんはいつぞやの」
「あっ、はい。サイレンススズカです。お久しぶりです」
「そう〜そう! スズカちゃんだ! ひっさしぶりだね〜元気にしてたかい?」
「はい」
私は未浪さんに今日ここに来た理由を簡単に話す。
「そうかい、朝から音信不通……そういや今日は谷崎くんを見てないね〜」
「ですからこうして直接来たんです」
「事情は分かった……ちょっと待ってておくれ」
そう言うと未浪さんは部屋の奥へ行き、施錠棚から小さな鍵を取り出し、それをこっちへ持って来る。
「はい、谷崎くんの部屋鍵。分かっていると思うけど30分を越えたら様子見で開けるからね」
「分かり……あれ、でもこの前は普通に30分以上経ってた気がするんですけど」
「まぁ、一応見に入ったんだけどねぇ……十数年ぶりの再会に水を差すのも間が悪いと思ってね。この前のは特別だよ」
嘘でしょ……あのシーンを他の人に見られていたの……?
でも、それでも空気を読んでくれた未浪さんにはお礼を言わないといけない。
「ありがとうございます、未浪さん」
「いいっていいって……ほら、早く行ってやんな」
私は未浪さんの言う通り、その場を去って階段(奥に螺旋階段が設けられている)でレオくんの部屋がある階層まで登る。
レオくんの部屋は確か1番奥の右側だったはず。私はその部屋の前に立つと一度ノックをしてみる。そして扉に顔を近づけウマ耳を立ててみるが、何かが動く音はしなかった。
「(……何かあったのかな)」
少し心配になり、私は未浪さんからもらった鍵を使って部屋を解錠し、ドアノブを捻りながら扉を引く。
「お、お邪魔しま〜す」
玄関で靴を脱いでレオくんの部屋にあがる。レオくんがいる……にしては、とても静かだ。
どこかに出かけたのかなと思ったけど、未浪さんが言っていた。今日は見ていないと。つまり外にも出ていないということになる。
それじゃどこに……そう思って辺りを見ると、どこにいるのかすぐに分かった。それはベッドの上、布団が不自然に膨らんでいて、上下に膨らんだり縮んでいる。
私はベッドに近づく……そこにいたのは壁の方に向いて寝息を立てているレオくんがいた。体勢は横向きで両手を顔の前に置いている。
「すぅ……んっ……」
レオくん……結構、可愛く寝るんだ……じゃなくて!?
私は乱れそうになった心を落ち着かせるために一回深呼吸……私自分の寮からここに来るまでどれくらい深呼吸したのだろう。
「レオくん?」
一度声を掛けて体をゆさゆさと揺さぶってみるが……反応は特に無い。
こんなこと、前にもやったような……確かあれは十数年前の私の誕生日パーティーの時。確かレオくんの家に言った後、レオくんのお母さんである琥珀さんに「レオくんはどこですか?」って言って、そうしたら上の階にいると教えてくれて……それで階段を登って、レオくんの部屋に入った。
すると寝息を立てているレオくんがいて、私は起きて欲しくて何度も何度も揺さぶって呼びかけた。それでも目覚めることはなくて……。
諦めようかなって思ってたらごろんと寝返りを打って、いわゆる仰向けの状態になって、寝息を立てている唇がどうしても気になって……それで……そぉれぇでえええ!?
私、キスをしちゃったんだ……童話でよく読んでたキスで目覚めるシーンを真似して……。
「ーーッ〜〜っーーッ〜〜っ」
なんでそんな恥ずかしいことをこのタイミングで思い出しちゃったの私!?
声にならない悲鳴をあげながら悶える……するとのっそりとした動きでレオくんが寝返りを打った。
「……っ!」
その姿勢は仰向けになっており、私の視線は彼の唇に集中する。
そしてあの時の記憶を思い出してしまったのと、今のシチュエーションはあの時とほぼ同じだったこともあり、私の思考は少し昔の考えで埋め尽くされる。
「(……レオ、くん)」
おそらく今唇と唇を重ねても……レオくんにはバレない。
私はゆっくり……ゆっくりと自分の唇を彼の唇に近づける。
そしてお互いの唇が残り数センチまで近づいて……私はーーーーーー。
・もう8月なのか……(絶望)ワクチン打ちましたけど、二日間くらい打ったところが筋肉痛になりましたわw
・キャンサー杯でオープン一位取れた……いよっしゃあ!!
・次回こそスズカの誕生日会のお話です。