少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音は夢で昔の夢を見る。スズカは玲音の部屋に訪れる。

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2日目のバースデー / 多くの人に支えられて

 ……なんか、柔らかいものが俺の唇に当たっている気がする。

 

 その感触が気になり、俺はうっすらと目を開ける。そしてそこにいたのは、スズカ(のぬいぐるみ)だった。

 

「……おはよう?」

 

「うわああああぁぁ!?」

 

 俺は某苗木くんくらい叫ぶ……だって目の前にぬいぐるみがいたりしたら、誰でも驚くよね? というかそんなことあってたまるか!? それにスズカのぬいぐるみが、スズカの声で喋ったんだぞ!? キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!! 状態だよ?!

 

 俺は驚いて、布団から飛び起きる。

 

「きゃ……!?」

 

 しかしそれによって驚いてしまった子がいた。というかなんでそこにいるの?

 

 そこにいたのは栗色の長い髪に緑色のウマ耳カバーを着けた女の子、サイレンススズカが部屋の床に尻もちをついていた。そしてその手にはこの前テイオーからもらったスズカのぬいぐるみを持っている。

 

「す、スズちゃん!? だ、大丈夫?!」

 

「え、えぇ……平気よ」

 

 俺はスズカに手を差し出す。スズカは自分の手を取るとひょいと立ち上がる。

 

 なんか今思ったけど、自分の部屋ってよくウマ娘(というか知人)がいつの間にか入っているような気がする。マックイーンといい、今日のスズカといい。

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

「えっと、昨日お出かけを提案したけど、場所や時間は伝えてなかったからメッセージを送ったんだけど……全然既読が付かなかったから、少し心配になって」

 

 スズカはぬいぐるみを元のところを戻しながら、この部屋に来た理由を話してくれる。

 

 そう言われて俺は枕元にある携帯を手に取って、ロックボタンを一押しする。すると携帯の画面に表示されたのは画面いっぱいに広がる未読メッセージ、その時間帯を見るとほぼ早朝。なるほど、これは確かに心配するな。

 

 というか自分スズカが来るまでずっと寝ていたんだな……いや寝すぎだろ、俺。あっやばい、意識してから少し頭痛が……。

 

「なるほど……わざわざありがとう」

 

「ううん、大丈夫……それに……」

 

 そう言いながら、スズカはある方向を見つめる。その方向にあるのはスズカに似たぬいぐるみだ。

 

 なんであれを見て……あっ、尻尾が少し揺れている。あの揺れ方は確か、マックイーンが内心嬉しい時に表情には出さない時にする仕草だ。

 

 そういえばスズカのぬいぐるみが起きた時に顔元にあったんだよなぁ……でも確かその前に顔を近づけーー。

 

 あれ? あれは夢の中の出来事だよな? あ〜いやでも、夢を見ていたのは何かを終えて眠ってたところまで……あれ、その後のアレも夢? あれ、あれれ? 時間が経っているからか夢がぼんやりとしている。

 

 なんか分からなくなってきて、自分は頭を抱える。

 

「レオくん? 頭を抱えてどうしたの?」

 

「あぁ〜……いや、なんか懐かしい夢を見てた気がして……」

 

「懐かしい、夢?」

 

「そうそう……夢の内容はもうぼんやりとしちゃったんだけど、久しぶりに、お母さんに会えた気がするんだ」

 

「琥珀さんに……そう、なのね」

 

「「……」」

 

 なんか少しだけしんみりとした雰囲気になってしまう……いやいやダメだ、今日はスズカの誕生日。こんな暗いテンションじゃダメだ。

 

 それにきっと、あっちにいるお母さんもこう思ってくれるはず。「ちゃんとスズカちゃんの誕生日を祝ってあげなさい」って。

 

 しんみりとしていた雰囲気を破るかのようにパンッと手を叩く。

 

「さっ! 俺は私服に着替えるから、扉の前で待っててくれるかな?」

 

「えぇ、分かったわ」

 

   ・ ・ ・

 

 学園の最寄り駅から特別急行で30分くらいかけて終着駅の新宿に到着。この駅に来るのは皐月賞で乗り継ぎで使った時以来かな。今日はここで降りるらしいけど。

 

 流石東京の中心地と認識されている街、うちの町とは全然世界が違う。同じ都なはずだけど、ここまで違いがあるんだな。まぁ、叔父夫婦が住んでいるところも多摩の方だからそんな都会の方ではなかったから、むしろ田舎な方が合っているんだろうな。

 

 ……それにしても、スズカの着こなしめっちゃかっこいいなぁ。キャラメル色のカーディガンに緑色のブラウス、そして黒色のロングスカートととても落ち着いた、それでいて緑を上手く活かす服になっている。(個人の感想……デス!)

 

 実際、街を行き交う人々の一部はスズカの姿を見て二度見したり、振り返ったりと周りから見てもかなり美しいと思われているらしい。

 

 しかしウマ娘はみな容姿端麗であり、別にスズカが特別容姿が綺麗って訳ではない。まぁ可愛いし綺麗だけど。

 

「確かここら辺に……」

 

 駅を出てビルとビルの間にある狭い道路を歩き、携帯の地図案内を頼りにスズカは今日行くお店を探している。

 

 駅前はThe都会みたいな感じだったのに、こう言う細かい所に入ると飲み屋などがかなり増える。あまり直視できないお店とかも時々目に入るが、スズカは携帯の地図に夢中だったから気付かなかった。

 

 帰り道は、ちょっとだけ遠回りするように誘導するか。

 

「あっ、あった。多分ここね」

 

 スズカはお店の扉をを一指しした後、その扉をゆっくりと開けて中に入る。自分も後に続く。

 

 店内は昨日入ったフレンチ料理店Charlotteとは全然違い、こっちは個室タイプ……それも照明は暖かい色を越えて、真っ赤な照明。なんか全然入ったことのない感じのお店だ。

 

「お母さんたち、もう少しで着くから、さきに飲み物とか頼んでていいって」

 

「そう? じゃあ……すみません!」

 

 俺は店員さんを呼び、カプチーノ、スズカはイタリア大手の微炭酸みかんジュースを注文した。

 

 カプチーノはカフェラテと違い、蒸気で温めたスチームミルク(ラテでもこっちは使っている)と蒸気で泡立てたフォームドミルクの二種類を使ったイタリア発祥のコーヒー。見た目は泡立ったミルクにより、ラテよりも苦味はまろやかなように見えるが、実際はカプチーノの方がエスプレッソを多く入れるため、意外とビターなのだ。

 

「あっ、美味しい」

 

「この飲み物も美味しいよ、一口どう?」

 

「んじゃあお互いに一口ずつってことで」

 

 俺は持っていたカップをソーサーに戻し、そのままソーサーをスズカの方に押す。こうすればスズカはそのまま左手で持って飲めば、自分が口をつけた所には口を付けない。つまり間接キスは回避できるのだ。

 

 スズカもこっちにコップを向けてくる。当然ストローは一つしかないが、これはまぁ仕方ない。だったらコップに口をつければいいだけ。間接キスっていうのは液体を介してだと成立しないからな。

 

 ちなみにスズカが差し出してくれたジュースは普通に炭酸のオレンジジュースといった感じで普通に美味しかった。

 

 自分はコップをスズカに戻し、スズカが戻してくれたカップの取っ手を右手で摘み”180度反時計回りに回し”カップを上げてカプチーノを飲む……んっ、ちょっとビターなのがまたいい。

 

「あっ、どうやら来たみたい」

 

 個室のドア前に人影が見え、その人影が個室のドアを開ける。

 

 そこにいたのは黒色のジャケットを着た眼鏡の男性と茶褐色の長い髪の毛を持ったウマ娘……あれ、この姿どこかで。

 

「や〜や〜悪いね、ちょっと仕事が忙しくて」

 

「久しぶり玲音くん、10年ぶりくらいになるのかしら」

 

 そこにいたのは十数年ぶりに見たスズカのお母さんであるワキアさんと、その旦那さんがいた。

 

   ・ ・ ・

 

 スズカの家族が全員揃い、スズカの誕生日会が始まった。

 

 自分はマルゲリータピッツァにシーザーサラダ、スズカやワキアさんたちは記念日用のディナーコースを食べていた。別に自分も同じものでいいと言われたのだが、誕生日という家族水入らずな出来事に関係ない自分がいる。さらに昨日フレンチのコースを食べたのもあり、遠慮した。

 

「それにしても、元気そうでよかったわ」

 

 向かいにいるワキアさんがこっちに向かって話しかけてくる。ちなみに場所はスズカが自分の隣に来ている。

 

「スズカから玲音くんと再会したって聞いて、一度会いたかったのよ」

 

「そんな……こちとら普通の男子高校生ですよ」

 

「それでもトレセン学園、それもあのトレーナー学科……こんな偶然があるなんてね」

 

 まぁ確かにそこは本当に奇跡みたいな出来事だ。

 

 それに普通だったら、俺はトレセン学園には相応しくない人間……あそこに通えている時点で本当に奇跡なんだよな。

 

「それに、よかったじゃないスズカ。諦めないでトレセン学園に残って……」

 

「そうそう。いや〜一時期はどうなるかと」

 

「お、お母さん! お父さん! その話はあんまりレオくんの前じゃ……!」

 

 珍しいな、スズカがこんなに取り乱すなんて。

 

 何だろう。少しだけ興味が出てきた。まぁ、なんか勝手に話し始めようとしているけど。

 

   ***

 

 あれは2年前。ある日突然、スズカがこっちに帰ってきたことがあったのよ。

 

 急に帰ってきたものだから聞いたのよ、どうしたのって。

 

 そうしたらスズカはねこう言ったの「走るのが怖くなった、だからトレセン学園から逃げてきた」って。

 

 最初は私たちも驚いたわ。うちの娘は走ることだけに楽しさを見出すような娘だった。そんな娘が走るのが怖い、走るのが嫌だと言った。数日は泊めてあげて一回は帰ったんだけど、また帰って来た。

 

 今度はいつ戻るかと思っていたら「もう戻らない」って言って、そのまましばらく家に滞在した。

 

 学力の差を出さないため通信学習などをさせたけど、私たちに出来るのはここまでだった。

 

   ***

 

 走るのが怖い……それってもしかして、皐月賞の時に話してくれた弥生賞の時の話か。

 

 あの時のスズカにはレースの緊張が、感じたことのない負の感情の塊だったって言っていた。それはレース後も……とは思っていたが、まさかそんなに長続きしていたなんて。

 

 てっきり明るめの話が来るかと思っていたから、予想外の真実に開いた口を閉じられなかった。

 

「スズカの友人やチームの人たち、学校関係者やカウンセラーの人たちが家に来て説得して、ようやく戻った頃には中3の二学期」

 

「……」

 

 一学期の何割か休んだってことになるのか。

 

 そんなバカな……なんて言わない。スズカにはそれほど苦しいものだったのだ。

 

 そしてワキアさんはそのまま、スズカが今に至るまでの話をしてくれた。

 

 中3の二学期からトレセン学園に復学したスズカはその後元々いたチームをやめて、走ることからも遠ざかり、中3は勉学に励んでいた。しかしそれだったら高校生に上がる時に他の学校に行くことを勧められていた。しかしスズカはトレセン学園に残った。その理由はワキアさんにも分かっていない。

 

 と思ってたら隣で聞いていたスズカが説明してくれた。

 

「私の友達にフクキタルっていう子がいてね。その子は占いが趣味で『このままトレセン学園にいた方がいいのか』占ってもらったの。そうしたら残った方がいい、そしてまた走った方がいいって言われたの」

 

 そうしてスズカは高校生に上がってもトレセン学園に残り、その時にチーム・リギルの入部テストがありそれに合格。GⅡで2着を取った後、マイルCS、天皇賞・秋を目標としたが思うように走れなかった……ということらしい。

 

「正直、私たちは途中退学も考えた、それでもスズカの意思を尊重したわ。その結果が、今ではトゥインクル・シリーズで快挙を成し遂げるウマ娘になるなんてね……以前に言ったかもしれないけど、スズカ」

 

 自分の名前を呼ばれて少しだけ体を跳ねさせ、強張らせる。

 

「あなたは、私たちの誇りよ」

 

「……うん」

 

 スズカは少しだけ恥ずかしそうに、それでも嬉しそうな表情を浮かべながら尻尾を振っていた。

 

「玲音くんもありがとうね、スズカの近くにいてくれて」

 

「……はい」

 

 自分は本当に近くにいるだけだ。スズカの役に立ったことはないし、それだったら先生の方がスズカに転機を作ったりしている。

 

 だけど俺もいつか必ず、スズカの役に立てるようになりたい。 

 

 ……今、俺のショルダーバッグの中に入っている翡翠のブレスレット。その石に込められた石言葉は「飛躍」。

 

 これは厄除けで渡すのもあるが、これは自分の意思表示の表れなのかもしれない。

 

 俺はショルダーバッグから黒い手のひらサイズの箱を取り出し、そのままスズカの前にそれを出す。

 

「レオくん、これは?」

 

「ハッピーバースデー、スズちゃん。開けてみれくないかな?」

 

 そう言うとスズカはその黒い箱を両手で持ち上げて、ゆっくりと箱の蓋を開ける。

 

 そして中に入っていた翡翠のブレスレットを右手の指で掬い取るようにして取り、自分の目元まで持って来る。

 

「綺麗……」

 

「翡翠って石でさ、弥生時代から厄除けのお守りとして使われているんだ」

 

 そう説明しても、スズカはずっと翡翠のブレスレットに目を輝かせている。

 

 とりあえず気に入ってくれたらしいので、そこはよかった点だと思おう。

 

「ありがとうレオくん、大切にするね。……」

 

 感謝の言葉を言ってくれるスズカ、しかし少し俯いて何かを考えている。

 

 一体何を考えているのかと思って聞こうとすると、スズカは翡翠のブレスレットを俺の右手に乗せた。そしてすっと、自分の左手をこっちに向けてくる。

 

「……スズちゃん?」

 

「よかったら……レオくんに着けてほしい」

 

「へっ? 俺に?」

 

 それってつまり、スズちゃんの手にこの翡翠のブレスレットを通すってことだよな?

 

 なぜそんなことをするんだろう……なんか意味があったりするのかな。まぁスズカそう言って満足してくれるんだったら、喜んで引き受けよう。

 

 俺は少し困惑しながらも、左手でスズカの左手を支えるようにして下から持つ、そして右手に置かれた翡翠のブレスレットをスズカの左手に通す。

 

 うん、やっぱりスズカに合っていると俺は心の中で思う。

 

 スズカは左手首に付けられたブレスレットを眺めている。その頬は微かに紅潮していた。

 

「私も、お返ししないとね」

 

 そう言うとスズカは持ってきていたポーチから白い箱を取り出す。そして中に合ったものを取り出す。それは透明色の数珠ブレスレットだ。

 

 スズカは俺の右手を自分の左手で支えるように下から持って、そのブレスレットを俺の右手首に通してくる。

 

「……これは?」

 

「水晶のブレスレット、潜在能力やエネルギーを高めてくれるって言われているの……誕生日おめでとう、レオ……ううん、玲音!」

 

「……ありがとう、スズカ!」

 

 俺もスズカがやっていたように右手首に着けられたブレスレットを見る。その純粋無垢で穢れのない透明……それを見て俺は思った。

 

 俺のトレーナー生活も、これくらい穢れのないものにしてやるって……。

 

 俺とスズカは互いのブレスレットを触れ合うように、手を交わした。

 

「(……ねぇ、これって)」

 

「(あぁ、あれみたいだね)」

 

「(指輪の交換みたいよね)」

「(指輪の交換みたいだね)」

 

 にやにやしているワキアさんたちに、俺たちは気づかなかった。

 

 

 




・スズカと玲音の年齢を合わせるために、少しオリジナルの時間軸を創作しました。(二人は高2という設定)

・余談ですが学年はテイオー・中1、ダスウオマック・中2、スペ・中3、スズレオ・高2、ゴルシ・???です。

・次回の話は未定(第5Rに入るか、NHKくらいにするか)です。
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