少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音とスズカ、お互いブレスレットを贈った。

・UA106,000・107,000を突破しました、ありがとうございます。



ダービーへ向けて

『エルコンドルパサーだ! エルコンドルパサーだ! 一気に先頭に立った!』

 

 テレビのスピーカーから聞こえてくる観客の歓声、興奮気味な実況……その視線はあるターフを舞う怪鳥に集中していた。

 

 今日はNHKマイルカップの日……俺たちチーム・スピカは部室に置かれているテレビでそのレースを観戦し、イメージトレーニングをしていた。スペに対してはライバルの走りを目に焼きつかせるという意味もあるだろう。

 

 レースの内容としては最初好スタートを切った逃げの二人のウマ娘に対して、エルコンドルパサーは馬群に捕まってしまったが最終コーナー前には3位に位置付け、最終コーナーを抜けた後の直線で急加速、そのまま逃げていた二人を交わし、そのまま1バ身以上は離した。

 

『エルコンドルパサー! 無傷でGⅠ制覇!!』

 

「「「「「「「おお〜」」」」」」」

 

 その走りにチームの全員が感嘆のため息を漏らす。スペに至ってはその走りが素晴らしかったのか「すごいすごい!」と言いながらテレビ越しにエルコンドルパサーへ拍手を送り、先生は静かに「お見事」と賞賛した。

 

 ファンに手を振ったりとファンサービスをしたりした後、コースから地下バ道に戻り、インタビューを受けるエルコンドルパサー、その隣にはチームトレーナーのハナさんもおり、ハナさんは次走は日本ダービーだと強く宣言した。

 

 それに対して先生は「やっぱりこうなるかと」少し面倒臭そうな口調で言った。

 

「ワタシ! ダービーでも勝ちマース!!スペちゃん! ガチンコ勝負デース!! 待っててくださいネー!! でも勝つのはデスよ! イイですか? 聞いてますカー??」

 

 テレビ越しに映るエルコンドルパサーは、今見ているであろうスペに語り掛ける……なんてものを越して瞳を覗き込むかのようにしてカメラに顔を近づけている。

 

 これはスペに対する宣戦布告だ。この部室にいる誰もがそう感じただろう。各々表情は違うが、全員スペの方を向いていた。

 

 スペは少し困惑しているようだ……だからちょっと背中を押してあげようと思った。

 

「宣戦布告されたな、スペ……どうだ、今の心情は?」

 

「えっと、急で少し困惑してますけど……わ、私……1着取ってみせます!」

 

 そう言ったスペは多分、腕をグッと胸元に振り上げようとしたのだろう。しかし右手は机にぶつかってしまった。

 

 なんとも締まらないけど、でもスペっぽいなと全員が思った。

 

   ・ ・ ・

 

 ”エル”がNHKマイルカップを制覇した次の月曜、俺はいつものようにトレセン学園に向かっていた。

 

 また辛い学業生活……そして楽しい見習いトレーナー生活の一週間が始まる。

 

 このトレセン学園、ウマ娘やトレーナーを育て上げるのを表面に出しているが、実際蓋を開けてみたら他の中学や高校と変わらず学業に励むことが本業だ。

 

 そして今の時期……5月の中旬には中間試験というものがある。これに合格しなければ追試はもちろん、学生トレーナーはチーム練習の参加禁止、ウマ娘の生徒には練習禁止に加え、合格するまでレース参加も禁止なのだ。

 

 そういうことで、昨日は苦手な数学の基礎問題と英語の英単語暗記をずっとしていた。正直この2教科は諦めているに等しいので簡単に取れる問題だけを解くという手段を取ろうとしている。そうすれば赤点回避はできるだろう。

 

「玲音さーん!」

 

 後ろから誰かに呼びかけられ、俺は声のしたへ体を振り向かせる。

 

 そしてそこにいたのは覆面レスラーが着けるようなマスクを着けた黒茶色の長い髪の毛を持ったウマ娘がいた。

 

 リギルの若手……そしてこの前のNHKマイルCに勝った張本人、そう、彼女こそ世界を駆ける怪鳥! エルコンドルパサーだ。

 

「おはようエル」

 

「おはようございます! 玲音さん!」

 

 なぜリギルに所属しているエルコンドルパサーが俺に声を掛けてくるのか。その理由は単純、グラスやマルゼンさんみたいに観察中に仲良くなったのだ。

 

 きっかけは趣味を聞いた時格闘技観戦と聞いた時、某SEGAの格闘ゲームの知識で話をしてみると、意外にも意気投合し友達になったのだ。

 

 まぁもう一つあるが……それはまた今度。

 

「玲音さん玲音さん! 昨日のレース、見てくれましたか!!」

 

「あぁ見てたよ。4戦無敗でGⅠ制覇本当におめでとう」

 

「ありがとうございます! お祝いになでなでして欲しいデス!!」

 

「ここは人多いからダメ」

 

「ケッ!? そ、そんな〜!!」

 

 ガガガーン! というSEが聞こえてくるくらいオチコンドルパサー……そんなにがっかりすることなのかな。

 

 その後は他愛のない世間話でトレセン学園まで一緒に登校する。あっ、そうだ、少し気になっているところがあるからちょっと聞いてみよう。

 

「エル、次のレースって日本ダービーに出るんだよな?」

 

「ハイ! そのつもりデース!」

 

「じゃあ”中間試験”も自信があるってことだよな」

 

 その言葉を言った瞬間、エルの体はまるで石になったかのように固まった。

 

 ……少しツンツンとつついてみたが、その感触はまさに石そのものだった。

 

「……チュウカンシケン? アタシニホンゴワカリマセーン」

 

「あらあら〜、なら私が英語で訳してあげましょうか? midterm examって」

 

「ぐ、グラス!? お、おはよう……」

 

「おはようエル。玲音さんもおはようございます」

 

 いつの間に近くにいたのはエルのチームメイトであり、クラスメートであり、ルームメイトでもあるグラス(ワンダー)だ。

 

「おはよう、グラス」

 

「中間試験のお話ですか?」

 

「そう、グラスは大丈夫か」

 

 まぁ、グラスだったら大丈夫だろう。普通に中3の時の俺よりも学力はあるだろうし、アメリカから日本へ留学してきたって事はその分勉強もできるという事だろうしな。

 

「私は大丈夫ですけど……そこにいる娘とスペちゃんが心配ですね」

 

「まんま次の日本ダービー注目株じゃねえか……」

 

 いやいや、まさかその二人が赤点で日本ダービー不参加なんて事、ないよな?

 

「大丈夫ですよ、玲音さんが今考えている事にはならないように、ちゃんと対策しますから」

 

「た、頼りにしてマース……」

 

 まぁ、こっちはグラスに任せて大丈夫だろう……教えてあげられたらいいんだけど、自分自身で精一杯だからな。

 

「そうデス! 玲音さん、アタシに勉強をーーー」

 

「エールっ?」

 

「ぁ痛ぁい!? ぐ、グラスっ!? 偶然にしてはいいツボを抓りましたよ今!!」

 

   ・ ・ ・

 

 放課後になり誰よりも部室に来ると、部室に置かれた机の上に置手紙が置かれていた。

 

 そこに書いていたのは一言、「今日はここで練習!」と書かれており、裏にはその練習場所が記された簡単な地図が手描きで書かれていた。

 

「ここって……神社か?」

 

 携帯でその辺りを検索してみると、そこにあったのは神社だった。詳細を調べてみると、都内でも屈指の長さの階段があるらしい。

 

 つまりこれは……階段で特訓をするのかな。なんか少し前に流行ってた学女子高生アイドルアニメでも神社の階段で階段ダッシュしていたなぁ。あんな感じでやるのかな。

 

 とりあえず学園からは距離があるので、そこまでランニングで全員来るようにという事らしい。

 

 ランニングってなると、自分はロードバイクでここに行くことになるな。そうなったら部室前に置いている自転車を整備しておこう。

 

 そう思い部室に出る……するとその先にゴルシがいた。

 

「おん? どうしたんだ新人?」

 

「あぁゴルシか。いやな? 先生が新しいところで練習するって紙に書いてあってな、そこまでランニングで行けって指示だから自転車を準備しようと思って」

 

 そう言いながら、ゴルシにその紙を渡す。裏面を見た瞬間、面倒臭そうな表情を浮かべるゴルシ。

 

 そんなゴルシを横目に自転車の油差しやブレーキチェックを行う。うん、問題はない。

 

 あとはいつも通りの装備をくっつけてっと……。

 

「なぁ、お前いつもそのマフラーを着けてるよな?」

 

「えっ、あぁ……これ?」

 

 俺の首元にあるのは確かにマフラーのように見えてしまうが、これはマフラーではない。自転車に乗りには必要不可欠なあるものだ。

 

 そうそれは……ヘルーー。

 

「いや待て、当ててやる。んー、その形状、何処と無く近代的だな……首に自転車、つまり脊髄か頭部を……よし分かった」

 

 は、早い……ゴルシっていつもふざけているけど、こういう時変に頭が回るのが早いよなぁ。

 

「頭部だけ爆発する小型爆弾だな!」

 

「何がどうしてそうなるんだよぉお!?」

 

 何をどうやってとち狂えば、小型爆弾を首に装着しているって結論に至るんだよ!?

 

「冗談ジョーダン、トーセンジョーダン! ヘルメットだろ?」

 

「……まぁ合ってる」

 

 叔父さんがロードバイクを三日三晩で飽きた時、同時にこのエアバッグヘルメットをもらった。

 

 調べてみるとスウェーデンで研究・開発が行われ、普段はマフラーのように装着していざと言う緊急事態の時は頭を覆うようにエアバッグが作動してくれるのだ。

 

 まぁ一回も立ちゴケしたり、事故にあった事はないので本当に作動するかどうかは分からないが、センサーが一定の速度を察知するとか役の爆発によってエアバッグが作動する。エアバッグは普通のヘルメットの3倍の衝撃吸収性能がある。

 

「はぇ〜、最近のヘルメットも進化しているんだな」

 

「まぁ、数年前の技術だけどな」

 

 そんな風に話していると、他のチームメイトも合流した。

 

   ・ ・ ・

 

「ようし、ちゃんと来たな」

 

 紙で記されたところまでランニングすると、そこにいたのは飴を咥え、腕を組んで仁王立ちしていた先生だった。

 

 そしてその後ろにはえげつない長さ・高さの階段が見える。

 

「と、トレーナーさん。後ろにある階段は一体……」

 

「今日から定期的に、ここで階段ダッシュを行う」

 

 あ〜……やっぱりそう言うパターンか。

 

「スペ、この前のマルゼンスキーとの模擬レースで何を学んだ?」

 

「えっと、誰かの後ろにつくと空気抵抗が少なくなるのと、坂だと歩幅が小さくすると走りやすくなる……とかですかね」

 

「そうだ。スリップストリームに関しては併走トレーニングをすれば身に付けられる。だが坂でのピッチ走法を身に付ける方法は坂路でのダッシュしかない」

 

 先生はまだ話を続ける。

 

 坂でのピッチ走法は坂路でしか取得できない。だが坂路ダッシュができるほどの坂があるトラックは三つしかない。しかし学園は多くのチームがあり、坂路があるトラックは予約が埋まっている。仮に今から抑えると早くて中間明けかそれより先か……しかしそれだとスペの日本ダービーには間に合わない。

 

 そこでこの神社の都内屈指の長さを誇る階段を利用することによって、ピッチ走法を身に付けるらしい。さらにここまで距離があれば、普通にダッシュしても他のみんなも持久力がつくと一石二鳥……と言うことらしい。

 

「普通にやるよりも面白そー! ねぇねぇ、まずはボクにやらせてよ!」

 

「あーずるい! アタシもやりたい!!」

 

「オレが先だ!!」

 

「……」

 

「待て待て順番だ、階段は逃げねえよ……玲音、お前はこっちでスターターをやってくれ」

 

 スターター……あれか、50m走を測るときに「よーいどん!」って言って旗を振るやつか。

 

 あれって50m走一回走った後引き受けると時間が潰せて結構楽なんだよなぁ……じゃなくて。

 

「分かりました……旗の代わりはこのタオルでいいですか?」

 

「分かりやすければなんでもいいぞ。んじゃ向こう着いたら早速始めるからな、お前ら! ちゃんとウォーミングアップしておくように」

 

『はい!」

 

 先生がゆっくりと階段を登っている間、みんなは念入りにストレッチをしている。

 

「スズカさんはこういう練習したことってありますか?」

 

「いえ……むしろランニングや観戦以外で学園を離れること自体初めてかも」

 

「ってことは……リギルでも行ってねえ練習ってことか! ウッヒョー! 面白くなって来たぜ!!」

 

 みんなすごく楽しみにしているらしいが……俺には分かる。これ絶対数分後死屍累々な情景になっているんだろうな。

 

 何せツイスターゲームをやっただけでダウンしていたレベルだしなぁ。

 

「ようし! まずはテイオーとゴルシ! 次にスカーレット・ウオッカ、最後にスペとスズカだ!」

 

「ふっふ〜ん、無敵のボクならこれくらいヨユーだよ! 見ててね玲音!」

 

「ははっ、張り切りすぎるなよ」

 

「行くぞー! 位置について、よーいドン!」

 

   ・ ・ ・

 

 夕焼けの空にカラスの群れの影ができ始めた頃、スペとスズカが最後の階段ダッシュを走り切り、先生がこっちへ登って来いというジェスチャーをした。

 

 俺は少しの駆け足で階段を登るが……少しの駆け足でもかなり登るのが大変だ。

 

 そんな坂をみんなは何本も全力で走ったのだ、かなり疲労が溜まるだろう。

 

 そう思いながら息を少し乱れさせながら階段を登り切ると……そこで待っていたのは地に力なく倒れているスズカ以外のチームのみんなの姿だった。

 

 そしてスズカも少しだけ息を切らしている……なんだかんだスズカがここまで息を切らしているのはサーキットトレーニングでも見た記憶がない。

 

「これ、は……かなり脚に来る……」

 

「今後はこの練習を多く取り入れる。明日もやるから休養はしっかりな、あと勉強も忘れるなよ」

 

 そう言いながら階段を降りていく先生……えっ、この状況で俺に振るの?

 

 ど、どうしようかな、これ。

 

「あうっ……これ、玲音が考えたトレーニングの数倍はきついよぉ〜」

 

「まぁ初日だからな、いずれ慣れるさ……多分」

 

「確かにキツいですけど……それでも、ダービーを取るにはこれくらいしないといけませんよね!」

 

 地面に倒れてはいるが、どうやらスペの心は燃えているらしい。

 

 いやでも燃えているのはいいけど、この死屍累々している人たちを一体どうやってトレセン学園に戻らせるんだ?

 

 あれこれ考えていると、先生からメッセージが届いた。

 

『あいつらなら俺の車で送れるぞ』

 

 どうやら心配はなさそうだ……あっ、俺自転車だから自転車で帰らないといけないやん……。

 

「みんな! 先生が車用意しているってさ」

 

「おお! トレーナーの野郎気が利くじゃねえか!」

 

「でもレオくんは? 確か自転車だったよね」

 

「俺は自転車で帰るよ、だから今日はここでお別れ」

 

「そう……帰り道気をつけてね」

 

「あぁ、みんなもまた明日ね!」

 

『お疲れ様(でした)!』

 

 そうして俺はそのまま神社からトレセン学園まで自転車で帰った……って言いたいところだった。

 

   ・ ・ ・

 

「……ココドコ?」

 

 谷崎玲音、高2で道に迷いました。

 

 

 




・レースの日に寝坊したり、道に迷ったりと……玲音は意外と間抜けみたいです。

・次回は迷子回をやる”予定”です。
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