少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA114,000・第8話のUAが10000を突破しました。本当にありがとうございます!
日本ダービー……それは生涯に一度しか参加できないクラシック三冠の2戦目。
トレセン学園に入る娘の中には、この大一番のためだけに入学し、参戦を願い勝利へ焦がれる娘もいる。それほど日本ダービーを勝利するという栄光は、全ウマ娘にとって特別なものなのだ。
そしてこの日本ダービー、世間では「最も運のいいウマ娘が勝つ」と言われている。
その理由としては昔、皐月賞や菊花賞と比べて大人数のレースになりやすく、その数は二十数人、最高は30人まで行ったことがあり、そんなレースで大外枠を取ってしまえば勝つことはほぼ不可能だった。
ただし現在ではフルゲートは18人という制度が設けられ、前よりは運の要素は少なくなった。
しかし完璧に無くなった訳ではない。枠番の内外はもちろんのことだが、レース場のバ場状態、天候などその全てが自分自身に有利になるように運を高める。そのために涙ぐましい努力を重ねる。
ダービーとは強いだけでは勝てないレースであり、運を呼び込むだけの準備をして来られたウマ娘が勝つ……現在ではそう捉えられている。
・ ・ ・
「運を呼び込む方法……ですか?」
試験が明け、ダービーに向けての練習が再開された。
スペはあれから何度も何度も階段ダッシュを行い、ピッチ走法を体に沁み込ませながら、東京レース場の長い直線を攻略するためにロングスパートの練習もしている。
そして練習が終わり、階段に腰掛けているスペにスポーツドリンクとタオルを渡しながら、俺はある提案をスペに出してみた。
「そっ、ちょっと見てみて」
スペは俺が用意した紙の内容を確認する。ついでに隣にいたスズカと、ちょっと足を捻って背中で負ぶって運んでいたテイオーがその紙を覗き見る。
そして段々と……3人の顔が何とも言えない微妙な表情になる。テイオーに関しては「えぇ〜」と声を漏らしている。
「ねぇねぇ玲音これって何なの〜?」
「運を上げる方法だけど?」
「えぇ〜これが〜?! これのどこが運を上げる方法なのさ!?」
そう言ってテイオーは自分が書いたところをトントンと指で叩く。そこに書かれていることは、
・あいさつ
・ゴミ拾い
・部屋そうじ
・道具を大切にする
・職員さんへの態度
・プラス思考
・応援されるウマ娘になる
・本を読む
この8つだ。
「すみません玲音さん。私もテイオーさんと同じでこれと運がどう結びつくのか分かりません……」
「私も……レオくん、これはどういうことなの?」
まぁこんな風な反応されるのは予想していた。
だから俺はポケットから携帯を取り出し、インターネットを起動しある記事を3人に見えるように見せる。
「この人知っているか?」
「この人って……確か最近メジャーに挑戦しに行った野球選手だよね?」
「そう。試験が終わった後に運を高める方法を調べていたんだけど、そうしたらこの人に当たってね。ちょっと詳しく見てみたんだ」
運というのは辞書で引いてみると『その人の意思や努力ではどうしようもない巡りあわせ』と出るのだが、この選手はそう考えずに『努力によって引き寄せることができるもの……偶然の産物ではなく必然の産物である』と考えているのだ。
実際その行動をしているところは野球中継のカメラや取材陣のカメラで捉えられている。そして日本でプロ野球選手になりメジャーへ挑戦しに行っている。
つまり、効果はあるのだ。
「やらないよりかはいいと思うんだ……はいこれ」
そう言って俺は寮から持ってきた本を取り出しスペに向かって差し出す。
自分が卓球をやっていた時に読んでいたメンタル関係の本とポジティブシンキングに関する読みやすくかつ、書いてある事も理解しやすく、実践もしやすい。
多分だがレースにも応用することができるだろう。
「えぇ〜スペちゃん、流石にこれは嘘臭いと思うよ〜?」
「そうですね……でもーー」
スペは自分が差し出した本を両手で受け取る。
「やれる事は、やっておきたいです!」
笑顔で……しかし真剣な眼差しでそう言うスペに、テイオーは何も言えなくなっていた。
さて、目標のブツを渡せたし先生の車に向かおうか。そう思って先生にメッセージを送ろうとした……その時、メジャーリーグに行った日本選手の画像の下に出てきた広告に俺は目が止まった。
そしてその広告をタップして別サイトへジャンプする。そこに書かれていた紹介記事を見て俺はピンッときた。
「なぁスペ、もしよかったらさ……」
俺はその記事をスペに見えるように見せる。
「パワースポットにも行ってみないか?」
「エッ!?」
「っ……」
「ぱわーすぼっと、ですか?」
自分が見つけたそのパワースポットは世田谷にあるお寺だ。
なんでもそこは招き猫の発祥の地ということらしい。招き猫と言えば幸運の象徴、とても安直ではあるけど、昔から縁起物として扱われてきた物の発祥の地という事はかなりのパワースポットなんだろう。
「面白そうですね! 今週の日曜日にしますか?」
「そうだな、この前と同じ時間に駅で」
「はい、分かりました!」
……そういえばこの学園に入って誰かとお出かけしたのってマックイーンとスズカ、そしてスペになるのか。
まぁそう言ってもまだ2回目だし、1回目に関してはダイエットというちゃんとした理由があるし、今回も日本ダービーのためだからお出かけとは少し違うと思うけど。
「ねぇレオくん、この前って前もスペちゃんとどこか出かけたの?」
「あ〜ボクもそれ気になる〜」
「スピカでスペのダイエットを手伝った時があったでしょ? その時に自分でもできるダイエットとしてハイキングに誘ったこともあるんだ」
「そうなのね……」
「へ〜そーなんだー」
そういうスズカは少し物悲しそうな表情をし、テイオーはなんか不満そうな顔をしていた。
・ ・ ・
そして次の日曜日、俺は学園の最寄り駅に先に来ていた……のだが。
「なんでここにいるの、テイオー」
そこにいたのはテイオーだった。
すごい自然とスペとの待ち合わせ場所に一番に来ていたのだ。
「だって玲音とスペちゃんだけお出かけするなんてずるいじゃん!」
「ずるいって……そんな子どもじゃーー」
いや待てよ? テイオーって確か今は中学一年生だよな。てことは子どもに近いってことになるのかな。
マックイーンが中2にしてはかなり大人びているから少し感覚が麻痺しているが、中1は一年前なんかまだ小学生だったんだ。テイオーのこの反応はある意味正しいのかもしれない。
「分かった、ただ交通費とお昼ご飯代は自腹だからな?」
「もう、それくらい分かってるよ!!」
そう言うとテイオーはポーチから折りたたみ財布を取り出して、中に入っている樋口さんを見せてくる。
まぁ五千円もあれば大丈夫だろう。それに一人二人増えたとしてもそこまで支障はないだろうし、スペからしたら男性と二人きりって訳じゃなくなるから心も楽になるだろう。
「玲音さーん!」
そう考えているとスペの声が聞こえた。よしちょっと予想外だったけど、3人で世田谷へーー。
「おはよう、レオくん」
「……おはよう、スズちゃん」
訂正、4人になった。
・ ・ ・
まさか本当に2人増えるとは驚いたが、当初のスケジュール通りに俺たちは最寄り駅を出発した。
スペとテイオーは座席に座っており、俺とスズカはつり革を使って立っている。
スペは俺が用意した本を読んでいる。開いているページはもう半分になっている……結構読むの早いのかな。
テイオーはずっと視線を窓の方に向けている。あまり電車に乗っていないのだろうか尻尾がゆさゆさと楽しそうに揺れている。
そしてスズカは……ずっと無言でこっちをじーっと見ている。
「(えっ、なんで? なんでそんなじーっとこっちの顔を見てくるの?)」
けど理由を聞いてみたいけど、直接言うわけにも行かないし……そう悶々しながら俺は車内ビジョンを眺めるしかなかった。
そんな風にして車内ビジョンを見ていると今日行われているオークスに関する記事(ドキュメント?)が流れていた。
なんでも過去のオークス特集ということらしく、そこに映っていたのは……メジロドーベルだった。それもどうやら去年のオークスらしい。
東京レース場のラスト200mで3人横並びしていたが、ドーベルは加速して2人をぶっちぎった。
……そういえばトレセン学園に上がった時、ドーベルがマックイーンと一緒にやって来て「よかったら観に来てよ」って誘われたことがあったな。
ただその時は『メジロ家の関係者』として誘われたので「自分はメジロ家との関係者ではないから」と断った。ただし、オークスは絶対に観に行くと宣言した。
まぁその日は熱を引いてしまって、ただでさえ男嫌いで距離を取られていたのにさらに距離を取られて次のレースにも「あなたは来ないで!」って言われて実際に護衛に監視されてて観に行けなかったからなぁ。
「レオくんどうしたの? そんな遠くを見るような目をして」
「あぁいや、ちょっとね……」
『次は平大前、平大前です。お出口は左側です』
俺たちが乗っていた電車は乗換駅に着く。ここから各駅で3駅乗った後に別の私鉄に乗り換えてまた3駅行ったところが今日訪れるお寺の最寄り駅だ。
読書に集中しているスペと景色に夢中になっているテイオーに「そろそろ降りるよ」と伝える。
・ ・ ・
「私、お寺に来たの初めてかもしれないです」
「俺もあまりお寺には来たことないかな」
「えっ、そうなの?」
「そういえば北海道の地元にもあんまりお寺はなかったっけ……」
お寺の最寄り駅に着いてお寺に向かって歩きながら軽い雑談を交わす。
そういえばお寺だから神社とは参拝のルールが違ったりとかするのかな。
まぁそんなに気にすることじゃないと思うが……そう思って携帯を取り出してお寺の参拝方法をネットで調べ……ようとしたのだがひょいと携帯を取られた。
そして目の前には耳を後ろに倒して不機嫌そうにしているテイオー。
「もう、ボクやスペちゃんたちと一緒にいるのにスマホを見るってどういう神経しているの!」
「えっ、いや……お寺の参拝方法をーー」
「言い訳無用! 今日はスマホ禁止だからね!!」
そう言ってテイオーは携帯を返してくれるが、ホームボタンを押しても画面が表示されない。どうやら電源を落とされたらしい。
まぁお寺までの道のりならあっちこっちの電柱や旗などに招き猫が描かれているから大体の方向は分かるが……。
「どうしたんですか〜! 置いていきますよ〜?」
先に進んでいたスペとスズカが後ろを振り返りかなり後ろにいる自分たちに声をかける。
それを受けて俺とテイオーは少し駆け足で2人の後を追った。
・ ・ ・
歩いて大体10分くらい、お目当てのお寺らしきものが見えて来た。
「昨日友達に聞いてみたんだけど、どうやらお寺と神社では参拝方法が違うらしいの」
「へぇそうなのか」
スズカの話では門の敷居は踏まずに右足から入る。お賽銭を入れた後一礼・合掌をし、お焼香というものをする。神社では二礼二拍一礼をするが、寺院は合掌し祈願、そして一礼をするなど細かいルールが違うらしい。
そうしてでっかい門の前まで来たのでさっきスズカが言っていた通りに右足から敷地を踏まずに境内に入る。
そしてそのまま歩き香炉と呼ばれる線香を立てるところまで歩く。ライターと線香が用意されており、それで火をつけろってことなんだろう。
「ちなみにお寺によってお参りの仕方がかなり違うらしいわ」
「へぇ……」
返事を返しながら線香を香炉に立てる。
左にはご立派な三重塔、そして目の前にあるのは区の指定有形文化財にも選ばれた仏殿がある。そこで賽銭を入れて、祈願をする。
そうだな……『何事もなくダービー……そしてこの一年が終わりますように』。
まぁ、寝坊したり迷子になったり色々あったが……多分もうここまで不運なことは起きないだろう。
「玲音さんは何を祈願しましたか?」
「何事もなくダービーが終わりますようにって。スペはダービーで勝つとか?」
「はい!」
「ちなみにボクはカイチョーを越えるウマ娘になる! って祈願したよ!」
「テイオーらしいな……スズは?」
「私は……次に出るレースで最高の景色が見れますようにってお願いしたわ」
なるほど……各々の祈願はちゃんと行われたようだ。
ちなみにここは賽銭箱が建物の中にあるらしく、賽銭は小窓を開けて入れるみたいだ。結構違和感があるけど。
そして俺たちは仏殿を離れて目的地である招福殿へやって来た。
「すっごーい! 招き猫がこんなにも!?」
「これ、一体どんだけの招き猫がここにあるんですか!?」
「一応約1000体って言われているな」
そこにあったのは大小関係なくびっしりと置かれている(奉納されている)招き猫たち。
1000体と言われてはいるが、多分それ以上あるんじゃないか? そう思うくらいには迫力があった。
ちなみにこの招き猫たちは客人が買って、かけた願いが叶った時にこのお寺に返すのだという。そうすることでさらにご利益がいただけるといわれている。
「おっ、この招き猫ボクっぽい!」
「あっ、こっちにはスズカさんらしき招き猫さんが!」
「その隣はスペちゃんみたいね」
などとはしゃいでいるが……招き猫ってほとんど同じ顔じゃないか?
そう思いながら近くにある招き猫たちを見てみるが……うん、同じだ。
というかこのお寺で売っているんだから個体差はあまりないと思うが。
「玲音によく似ている招き猫は〜」
「玲音さんに似た招き猫さんは〜」
「(レオくんに似ている招き猫……)」
「「「これ(です)!」」」
どうやら3人は自分に似た招き猫を見つけたらしい。似てないとは思うが一応3人が指差している招き猫を見てみる。
……やっぱりどう見ても同じ顔だった。こういうのって女性の方が細かく感じ取れるものなんだろうか。
あっ、だったらスピカの部室に置こうと考えていた招き猫、この3人に決めてもらおうかな。
そう思い全員でこのお寺の事務所に寄る。ここで招き猫が売られていると昨日寝る前にネットで確認している。
そして3人は一緒にどの子がいいか慎重に決めている。その様子をお寺の職員が見守っている。
「この子はどうですか?」
「おぉ! いいね!!」
「うん、いいと思う」
どうやら決まったらしいので、俺はスペからその招き猫を受け取り会計を済ませる。
そしてその子はスピカの守り神的な存在として部室に君臨するのだった。
・ ・ ・
「よし、じゃあそろそろお昼ご飯にするか」
「はい……あれ?」
時間としては11時半を過ぎたくらいでお昼にはちょうどいい時間だ。
招き猫をゲットし祈願も終了した自分たちがここに残る理由はないに等しい。
しかしスペは振り返って、何も言わずにまた招福殿の方へと走って行った。
俺たちは困惑したがすぐに後を追った。そしてそこにいたのは……セイウンスカイだった。
「セイウンスカイさん!」
「おや。おやおや〜? な〜んでこんなところにスペちゃんがこんなところにいるのかな〜……まぁ目的なんて一つだろうけど」
「セイウンスカイさんも祈願ですか?」
「そうだよ〜、次のダービーは運が肝だからね……私自身、猫が好きだからって理由もあるけど」
なるほど、次のライバルの姿が見えたから走ったってことなのか。
そしてこんな風に自らライバルの前に出たのだ。やることと言えば一つだろう。
「セイウンスカイさん、次のダービー、絶対に負けませんから」
「おりょ? スペちゃんが真っ向から宣戦布告だなんて……なんかあったのかにゃ?」
「次のダービーはトレーナーさんと玲音さん……そしておかあちゃんとの約束が掛かっているんです。だから、絶対に私が勝ちます」
この時、セイウンスカイの顔はすごく涼しそうな顔をしていた。しかし実際は眉をピクリと動かし胸を自然と張っている。
つまり同期の宣戦布告に対して……明らかな闘志に対してセイウンスカイは緊張しているのだ。
「へぇ、あんなに優しかったスペちゃんがこんなになっちゃうのか。やっぱり今年のダービーは簡単には行かなそうだね……」
そう言うとセイウンスカイは一歩二歩とスペの方に歩み寄る。
そして自分の手をスペに向かって差し出す。
「受けて立つよ、その宣戦布告」
その言葉を聞いた瞬間、スペは差し出されたセイウンスカイの右手を同じく右手で握る。
そしてお互い顔を向けあった……まるでお互いの瞳の奥にある熱い闘志の炎を見るめるように。
そのまま時が30秒くらい経って、お互い手を解いた。
そしてスペはこっちに戻ってきて、セイウンスカイは招福殿の方に歩き……またこっちの方へ振り返った。
「スペちゃん!」
「っ?」
「”セイちゃん”」
「……えっ?」
「もう出会って2ヶ月以上経つんだからさ、さん付けはやめてくれると嬉しいかな〜? 同期で、かつライバルでもあるんだしさ」
「……うん、分かったよセイちゃん!!」
「私はダービーもヌルッと一着取るからね〜」
そう言うとセイウンスカイは招福殿の奥へ消えて行った。
・トウカイテイオーでAランク行ったり、ラインミュージックでウマ娘の楽曲(2021リマスター)が解放されていたり、MachicoさんのASMRが最高すぎたり……今週は最高だった。
※夏休みの宿題をするため投稿を少し開けます。31日に出せたらいいなと考えてます。(夏休み終わりにするタイプです)
・次回はダービーに挑むお嬢様を偵察するお話の”予定”です。