少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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・勉強\(^o^)/オワタ
※この作品ではキングはチーム・アスケラに所属している設定です。
「……なんだこれ?」
いよいよダービーの週になったこの日、俺は早めにスピカの部室に訪れて掃除をしていた。
しばらくすると先生が部室の中に入ってきた。そして入った瞬間にこの部室の違和感に気がついた。
先生はロッカーの上を指差す。その指の先にあるものは招き猫だ。
一昨日の土曜日まではなかったものが突然現れたのだ。そりゃ疑問に思うはずだ。
「あぁそれですか? この前スペとスズカとテイオーで世田谷行ったんですよ、そのお土産です。ちなみに名前はムギです、名前はあります」
「名前もう決めてあんのか……その名前の理由は?」
「スピカっておとめ座のα星の名前ですよね。そしておとめ座は麦を持っている……そこから取りました」
「意外としっかりと考えているんだな」
「自分の叔父がマンガ家なんでネーミング一緒に考えたりとかしてるんですよ」
その癖が抜けないのか分からないが、ゲームとかで主人公の名前を決めるときかなり悩んで決めたりとかする。
某アトラスのRPGとかは主人公以外にもヒロインの名前やクラスメイトの名前を決められたので名前決めで30分以上使ったのはいい思い出だ。
「えっ、お前の叔父さんマンガ家なの?」
「えぇ、東蜜甘江って言いますけど」
「えっ!? あの人が東蜜甘江さんだったのか!?」
おっとこれはファンだった人の反応。生きている中で10人くらいは見てきた。
「『NOTE』や『ひこうき雲に導かれて』、『日食の娘』を描いてる?」
「あぁはいその東蜜です」
先生が今取り上げた三つはそれぞれ初作品(人気No.1)・人気No.2・現在連載中のマンガだ。
叔父さんはマンガ家としては普通に成功している人だと思う。アニメや実写映画(成功した、失敗もあるけど)も作られていて、持っている家が一軒家なのと乗っている愛車が外国車(イギリス製)であることが物語っている。
「まじか……今度サインもらっとこ」
「先生甘江を知ってるんですね」
「おう、初作品からずっと見てるぞ」
ほ〜、初作品から見ているって人はこれで2人目だ。ちなみに1人目は中学校の担任の先生。
「っと、そんな事を話したいわけじゃなかった」
こほんと咳払いをし、真剣な顔になるトレーナー。これはちゃんとしたお話だと思い、俺は一回箒を立て掛ける。
「お前には皐月賞の時同様、偵察を行ってもらう」
やはりそうだった。ダービーまで1週間を切って、先生が真剣な顔をして頼んでくるのだからレース関係……そして前の偵察もこの時期だったのでまた偵察を頼むのだろうと予想はできた。
ただこの前偵察した人物……セイウンスカイの偵察に関しては何というか、トレーニング6割、4割昼寝または猫と戯れるもしくは釣りに行くとか……はっきり言ってこれが皐月賞に出ようとしているウマ娘なのだろうかと内心すごく疑った。
だけどそれがある一つの作戦だとうことを俺はある日に知った。
息は切らしているがその額には汗をかいていなかったり、1人でいる時などに皐月賞やレースの話などは全然しなかった。
詰まる所、セイウンスカイは俺という偵察がいる間、ずっと本気で走ろうとはしなかったのだ。それによりセイウンスカイのデータはなかなか取れず、この前みたいな結果に繋がった……つまり、自分の偵察不足だ。
しかしそれは偵察がいる時は本気を出さずに初GⅠ、クラシックの初戦で本気を出すというセイウンスカイの策にまんまとかかってしまったと言ってもいいだろう。
だから今度の偵察は……しっかりとやる。
「分かりました、またセイウンスカイですか?」
「いや、また行ったところでお前がいるところではあいつは本性を出さない。それに要注意人物だということはあの皐月賞でよく知れた」
そうなるとエルだろうか……でもエルのすごさはリギルの観察の時に肌で感じている。
成長スピード・レースセンス・基礎能力……彼女の口癖的に言うなら、全てが世界級だ。
「エルコンドルパサーも確かに強大なライバルになるが……玲音が今回偵察してもらいたいのは、こいつだ」
そう言って先生は胸ポケットから一枚の写真を取り出す。そこには1人のウマ娘が写っていた。
そしてそのウマ娘に見覚えがあった……いや、むしろ今回のダービー、エルやセイウンスカイで隠れてしまっているだけであって彼女も大きなライバルになるに違いない。
「キング、ヘイロー」
弥生賞では3着、前回の皐月賞ではスペから逃げ切って2着……この結果だけ見れば、クラシックを戦うウマ娘としては申し分ない結果だ。
むしろなぜ世間はキングヘイローに目が行かないのか。この前出ていた日刊ウマ娘で出されたファン投票では四位だった……正直、皐月で2着を取ったのにそこまで評価されていないのはなぜだろう。
「ただ、困ったことがあってな……」
「困ったこと……ですか?」
「キングヘイローはアスケラに所属しているんだが……最近チームの練習には参加していないらしいんだ」
「えっ、こんな大切な時にですか?」
ダービーまでは残り一週間を切っている。それなのにチーム練習に参加していない?
スペやグラス・エルと会う時、キングヘイローとセイウンスカイが基本セットになっているので、キングヘイローのことは分かっている。
そこまで長く話した訳ではないが……普段のやりとりを見ているだけでも、キングヘイローという娘が練習を無断でサボるような性格ではないことは分かる。
というかこれをそのままスペに話したら絶対信じないだろうな。それくらいキングヘイローはしっかりした娘だ。
なんかの間違いなんじゃないか……しかし先生の表情を見るにどうやら本当みたいだ。
「だからお前に任せたいのは偵察というよりも調査だ。キングヘイローの現在の状態を確認して欲しい。
「それは……結構骨の折れる任務になりそうですね」
とはいえ、やっぱり俺も気になり始めていた。
あんなにしっかりとした子が練習をしていない……そんなことはあるのだろうかと。
・ ・ ・
「キングちゃんが今日学園に来ていたか……ですか?」
「そう、今日来てた?」
とりあえずまずはキングにかなり近い存在であるスペに話しを聞いてみる事にした。
スペはキングヘイローとはクラスメート……何か大きな変化があれば気付くはずだ。
「はい、来てましたよ?」
「どこか変わったところとかなかった?」
「別に普通でしたよ? というかなんで玲音さんがキングちゃんのことを問いかけるんですか?」
俺は本当のことを言おうとしたが……すぐにその考えを捨てた。
もし本当のことをスペに言ったらどうなるか。スペは間違いなく心の隅や頭の隅にキングヘイローが練習に参加していないという印象に残ってしまう。それはスペのコンディションを乱す要因の一つになる可能性がある。
だから俺は先生にキングヘイローのことを調べて欲しいと言われたとだけ言った。
「あの、キングちゃんじゃないんですけど……グラスちゃんが少し悲しそうな顔をしているのは見ています」
「グラス……あぁ、そっか」
グラスは脚を怪我している。同世代の中で走らないのはグラスだけなのだ。
自分以外がダービーに出て、自分は外から傍観することしかできない……それはどれほど辛いものだろうか。
まぁ、それを分かっていても俺に出来ることなんて何もない。悔しいことに。
「……そういえばキングちゃん、帰りのSHRが終わったらすぐに教室を出ていったような……練習熱心ですね、私もキングちゃんを見習って頑張らないと!」
帰りのSHRが終わったらすぐに教室を出ていった?
おかしい、キングヘイローはチームの練習には参加していないはず。なのに教室をすぐに出ていった?
これは……ちょっと気になる矛盾点だな。
・ ・ ・
「では連絡事項は以上です。学級委員号令をお願いします」
「起立、礼、さようなら」
『さようなら』
帰りのSHRが終わった後、俺はゆっくりと鞄を持とうとした。
その次の瞬間、後ろかたドタンガコン! と何か大きな音が立ち俺はびっくりして反射的にその音がした方向に振り向いた。
そしてその音の正体は……尊野が慌ただしくカバンを掴み取ってダッシュでこの教室を去って行く音だった。
「な……なにごと?」
なんで尊野はあんなにもダッシュでこの教室を出たんだ?
訳がわからないまま口をあんぐりと開けていると、隣に道がやってくる。
「今日もやったんだ、尊野くん」
「へっ? 今日”も”?? 昨日もやったの?」
「谷崎くんは帰りのSHRの時にお腹壊してお手洗いに行ってたから知らないと思うけど、昨日も尊野くんは同じようなことしたよ」
マジか……確かに昨日はお腹を痛めたけど、でもこんなうるさいことを昨日も行っていたのか。
尊野の入っているチームって時間に厳しかったりするのかな。いや、でも前まではこんな感じではなく、むしろ俺よりも教室に出るのが嫌だったはずだ。
「尊野くんも気合入っているのかな……私も頑張らないと」
「俺も……っつっても、偵察だけどな」
「えっ、谷崎くん偵察頼まれているの?!」
すごい意外な事を聞いたというような表情をする道。えっ、何に驚いているんだ?
「偵察なんて3年の……それもトレーナーとして認められた生徒でもやらせてくれるかくれないかくらいの大仕事なんだよ!?」
……あぁ、なるほど。
リギルの観察を行っていた時に同年代の生徒から嫌な目で見られていたのは、「2年生でもう偵察しやがって」って目だったのか。
「スピカとリギルの考え方が根本的に違うだけなんじゃないかな。うちは実戦と経験が第一と考えているし」
「確かにリギルは数値や理論の方が多めだけど……それでもすごいね、谷崎くん」
・ ・ ・
今日はチーム・アスケラを視察しに来た。ちなみにチームトレーナーには視察に行くということはあらかじめ昼休みの時に言いに行った。
アスケラのチームトレーナーは少し歳の取った優しそうな顔をしている眼鏡をかけたおじいさんだ。
「アスケラは主にGⅡやGⅢなど様々な重賞に積極的に参戦するようにしている。ここにいるのはみんな輝ける原石たちだ」
「GⅠもよく出ているんですか?」
「そりゃあ勿論、一戦に2人は出てるよ……キングさんと一緒に走っているのは、あの子だね」
トレーナさんが指差したので俺はその先をずっと追って行く。そしてそこにいたのは茶褐色の長い髪に特徴的な白色の前髪、その娘の走りはかなり綺麗だった。
トレーナーさん曰く、弥生・皐月賞では5着、その間に出走したGⅢでは2着となかなかの戦績らしい。
「正直、あの娘がチーム練習に参加してこないのは僕自身が驚いているんだ。どこで何をしているのか……」
「探しに行ったりとかしないんですか?」
「この老体じゃあ少しキツいねぇ」
確かにキングヘイローがどこにいるのかも分からない。この学園の周辺かもしれないし、街の端っこかもしれない。
その場合探しに行くのはかなり老体にはキツいものがあるだろう。だけど別に本人が探さなくてもいい。
「アスケラにいる学生トレーナーに頼まないんですか?」
「それも勿論考えたよ。けど、同じくして練習に参加していない者に頼むというのは無理なことだとは思わないかね?」
「……えっ?」
トレーナーにそう言われて、俺はトラック全体をよく見てみる。そしてそこには尊野の姿は見えなかった。
でも、それはおかしいはずだ。だって今日尊野は誰よりも早く教室に出て行ったはず。なのにここには来ていない?
これはどういうことだ?
「そうだ、君は尊野くんとクラスメートだよね?」
「は、はい」
「練習に参加するように、君からも言っておいてくれないかな」
「……分りました」
その後もアスケラのチーム練習が続いたが……キングヘイロー、そして尊野の姿が現れることはなかった。
これは明日教室で問いただしてーーいや、待てよ?
キングヘイローと尊野は同じチーム・アスケラの所属している。そんな2人が同じタイミングで練習不参加……これって関係性があるんじゃないか?
それに尊野は練習に参加しないのにあんなに急いで教室を出て行った。普通にサボるだけなら別に急ぐ必要もない、なのになぜ急いで教室を出た?
発想を逆転すれば、練習に参加しないから急いでいた……ならその用事は? 第一の前提として家の事情という可能性は低い、それならトレーナーに報告しているはずだ。
新作のゲーム……違う、それなら1日でいい。2日休むようなことじゃない。
それじゃあ残る仮説は……いや、下手に仮説を立てるよりかは実際にこの目で確認した方がいいに決まってる。
「(……明日、後をつけてみるか)」
・もう学校再開かよ。イヤダ…イヤダ……アツイヨ~。
・3rdライブ2日目めっちゃ楽しみですなぁ。
・次回は次の日の放課後、後編(扱い)のお話です。