少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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次の日、いつもの学校生活が終わりそのまま帰りのSHRとなる。
そして昨日と同じく、尊野は誰よりも早く教室を出て行った……さて、俺も行くか。
今日、本来であればダービーに出走するウマ娘たちのインタビューが行われて、それにスペが出るから付き添いでこの学園にいる予定だった。
ただ今日は尊野の後をつけると決めたので、来れないと昼休みに先生へ報告しておいた。
「行くか」
少し間を置いて俺はカバンを肩に掛けて、尊野を追うように少し駆け足で昇降口に向かう。ここでもし尊野が立ち止まっていて追いついてしまったとしても、今から練習に行くと嘘をつけばいい。
ただそんなことはなく、そのまま外靴に履き替えて外に出る。目を凝らしてみると学園の門と後者の中間くらいのところに全力疾走している尊野の姿が見えた。こっちを振り向く素振りはない。
俺は尊野の行動に気をつけながら早足で尊野を追いかける。しばらくすると尊野は学園を出て右に曲がった。こうなれば尊野は気づく可能性は絶対にないのでダッシュで学園の門まで寄る。
さて、学園を出て尊野は右に曲がった。このまま追いかけてもいいが、俺は二つ保険を掛ける。
第一の保険は服、昼休みにワイシャツの下に長袖のシャツを着込んでおいた。俺は着ていたワイシャツを脱いでシャツ姿になる、こうすれば「あれってうちの制服……って玲音!?」という可能性を減らせる。
だが念には念を入れてカバンに入れてあった黒い帽子を深く被る。これが第二の保険だ。
「(さて尊野、お前はどこに行く?)」
・ ・ ・
少し走っては休憩、少し走っては休憩を繰り返し30分くらい経った。
ここまで来ると人影というのは少なくなって来ていて、人混みに紛れるのは難しくなって来た。だから電柱やダンボールに隠れながら尾行して来た。
「(それにしてもこんなところまで来て尊野は何がしたいんだ?)」
そんな風に考えていると尊野は右に曲がった。俺は角に隠れながら顔だけ出すようにして覗いてみる。そこは坂になっていて尊野は全速力で駆け上がっている。しかしここで後を追うと流石にバレてしまうだろうから、尊野が上がり切るまで待機する。
というか尊野、全然後ろを見ないんだよな。人の視線に疎いのか……でも横断歩道を渡る時も後ろを見ないのはどうなんだろうか。
尊野が登り切って姿が見えなくなったのを確認して、俺は坂を登り始める。
結構急勾配な坂だが、特訓で行っている神社の階段よりはキツくはない。
坂を登り切ると、その先は下り坂になっていた。しかしその先に尊野の姿は見えなかった。急な坂になっているからここを走って下るのは危険だろう。
つまり尊野は今自分がいる角を曲がった……そしてそこにはある建物があった。
「(ここは……廃校か?)」
そこにあったのは寂れた小学校だった。門らしきところは錆びれており、道路のアスファルトは所々剥げている。
尊野はこっちに行った可能性が高い。だがこんなところに来て尊野は何がしたいんだ?
それに廃校とはいえ学校の敷地内へ勝手に入るのは建造物侵入罪になりそうだが……俺は錆びた校門に手をかけて乗り越える。
尊野は建物の中か? いや、昇降口は開いていないし隙間もあるわけではない。どこかに隙間があるのかな、俺は校舎をぐるっと回るように歩く。
後者の側面まで足を進めた時、音が聞こえた。
ザッザッザッっと土の上を走るような音だ。音がした方向に俺は歩いてみる。
そしてそこにいたのは……。
「(尊野……それに、キングヘイロー)」
内心で俺はとても驚いた。だがこれは仮説していた結果の一つだ。
同じチームのウマ娘と学生トレーナーが同じタイミングで休むのはあまりにも一致しすぎていると思っていた。
それにスペはこう言っていた。
『……そういえばキングちゃん、帰りのSHRが終わったらすぐに教室を出ていったような』
そして尊野も同じく帰りのSHRが終わった後、誰よりも早く出て行った。そんな不思議な行動を同じタイミングでするだろうか。いやしない。
ただし、2人に共通の目的があるなら話は別だ。
「もう、いつまで私を待たせる気なの!!」
「だって俺そんなに体力ないし、これでも全力疾走だったんだよ……」
「言い訳無用! このキングを待たせることは極刑に値するわよ!」
「本当ごめんって!」
2人が大声で言い合っている間に俺は木の影に隠れながら、できるだけ近くまで接近する。大丈夫、2人はお互い向かい合っているから自分の姿を視界内に入ることはないだろう。
「キング、昨日頼まれた”逃げ”を物にするトレーニングメニューのことなんだけど」
「(……何?)」
尊野が言った言葉を俺は脳内で反芻させる。
逃げを物にするトレーニングメニュー? 確かに尊野はそう言った。
だが待て、キングヘイローは弥生・皐月では前側につく先行策を取っていたはずだ。
なのに逃げ……これはもしかして、作戦の変更なのか?
いやそうだとしても、なぜそれをトレーナーに教えてもらわない?
「……」
「キング、どうしたの?」
「そこの木陰にいる人、大人しく出てきなさい!」
その声の方向は明らかに俺がいる方向へ向けられている。どうやらバレたらしい。
だがどうやってバレた? 視界内には入っていないし、音も大きな音は立てていないはず。下は草が生えているから足音は消えていた。
しかしこうなっては元も子もないので、俺は黙って木から離れ姿を見せる。
「あなた、確かスペシャルウィークさんの……」
「……なんで分かったんだ?」
そう訊くとキングヘイローは自分自身のぴこぴこと動くウマ耳を指差した。
それで思い出した。ウマ娘というのは普通の人と違って聴覚がいいのだ。それこそ遠くの人間の声も聞き取れるくらい。ただいつも聞こえると騒音で苦しむことになるため普段は聴覚を絞り、意識を集中させることによって聴覚を研ぎ澄ませるのだと言う。
そしてキングヘイローは自分が草を踏む音をその聴覚で聞いていたのだろう。
「谷崎!? 何でお前がこんなところに!?」
「キングヘイローの偵察をトレーナーから任されていてね」
ここは素直に目的を言っておく、というか誤魔化しようがない。
「そう、私の偵察……ね」
「谷崎、悪いけど帰ってくれ」
まぁそうなることは分かっていた。わざわざこんなところまでやってきて、チームトレーナーに頼らないという事は自分たちだけで特訓をしているという事なんだから。
そして逃げという言葉……それがキングのダービーになる。それが分かれば今回の偵察は成功に等しいだろう。
俺はその場から去ろうとする。
「待ちなさい……あなたにキングの練習を見る権利を与えるわ!」
「っ! キング、どうして!」
「一流のウマ娘はたとえ人に見られていても動じないものよ……さっ、トレーニングをやりましょ」
そうしてキングヘイローはそのまま練習を始めた。
・ ・ ・
「はっ、はっ、はっ!」
1人の少女の呼吸音が淡い風に乗っかって聞こえてくる。グラウンドに響くのは少女が地面を蹴る音だけ。
そんな中、尊野はずっとストップウォッチ握っている。その横で俺がキングヘイローの走りを見る。
この小学校のグラウンドを仮に300mくらいとしたら、日本ダービーはこのグラウンドを8周した時と同じくらいの距離を走る。
しかし、この場所はあまりにも練習には不向きだ。
まずは地面、トレセン学園のトラックやレース場の芝にはエクイターフが使われている。それによってウマ娘の脚に掛かる負担を減らしながら、早いタイムが出るようになっている。
だがこのグラウンドは岩瀬砂……とてもさらさらしていて固い地面だ。こんなところで走ってしまえば脚に負担は掛かり、踏み込みの力は芝生よりも分散してしまう。
さらにレース場は大きく一周するのに対して、このグラウンドは少しの直線の後にすぐコーナー、また直線、コーナーとなっている。
それにより本番よりも悪いタイムが出ることはほぼ明らかだ。
何よりこんなところで走らせるのはキングヘイローのためにならない。ダービーの前に負傷なんてしたら洒落では済まされない。
「はぁ! はぁ、はぁ……何分!?」
「……とても口に出せない」
「っ、もう一回、行くわよ」
そう言うとキングはスタンディングスタートの姿勢を取る。そして尊野はストップウォッチを取る。
「位置について、スタート!」
そしてキングヘイローは走り始める。ただいくらウマ娘といえど慣れない走法、走るに適していない地面、そして本番さながらの距離を走ってすぐに走り始めれば疲労も溜まる。現にフォームが乱れている。
「……走らせすぎじゃないか」
キングヘイローがグラウンドを5周走った時くらいに俺は思ったことを口に出した。
これでキングは5本目……普通のメニューで考えても2400m×5本はオーバーワークに入るだろう。
「キングが走ろうって言っているんだ。俺は彼女の意思を尊重するだけだ」
「だけどこのままじゃ彼女の脚が壊れるぞ! 土のグラウンドは脚を痛める、それにレースが芝の上で行われる。彼女がここで練習をする意味なんてどこにもーー」
「彼女はここで終わってはいけない才能を持っているんだ!!」
まるでこちらを射殺すかのように鋭い目付きでこちらを向き、大声を上げて怒りを露わにする尊野。
そんな尊野の姿は一度も見てきたことがなかったため、俺は目を見開いて驚いた。
「ちょっと一真! あなた今タイムちゃんと計ってた!?」
「えっ、あっごめん!」
「もう! キングを待たせた挙句、走りも見ないとはどういうことよ!!」
俺と尊野が話している間にキングヘイローは8周を走り終えていた。
ウマ娘は最大で時速70kmで走ると言われている。残り3周などレースでは最後の直線、俺らが喋っている間に走り切るのは造作もないことだろう。
「キングヘイロー、悪い事は言わない。休憩は取った方がいい」
「……そうね、そろそろアレが始まるからついでに休むわ」
「「アレ?」」
「一真、スマホを出してくれないかしら?」
そう言われて尊野は自分自身のズボンのポケットの中をまさぐる……しかしどうやら忘れていたらしく申し訳なさそうな顔をしてキングヘイローに謝った。
すると今度は俺の方に顔を向けてきた。何となくそれが催促だと察して俺は胸ポケットに入れていた携帯を取り出す。
「ネットでトレセン学園のHPにアクセスして、多分トップに出ていると思うわ」
そう言われて彼女の言われた通りに指を動かす。すると学園HPのトップに『日本ダービー 記者会見』と書かれていた。
恐らくこれだろうと思い、その表示をタップする。
すると学園HPから動画配信サイトへと飛んだ。そしてそこに映ったのは緑と白のツートンカラーのバックボードが映し出されていた。白色の四角の中には日本ウマ娘トレーニングセンター学園の校章と略称であるJUTの文字が、緑色の四角の中にはトゥインクル・シリーズの公式ロゴが描かれている。
『ただいまより、記者会見を始めます。まず初めにこの会はーー』
そうして進行役と思われる男性の記者会見でのマナー説明が行われる。
特に気にすることでもなかったので、俺はキングヘイローの顔を横目で窺ってみる。
キングヘイローは……唇を少し噛んでいた。
『初めにNHKマイルカップ制覇し、今回事前ファン投票で1番人気を得ましたエルコンドルパサーさん、前へお願いします』
そう言うとチーム・トレーナーの東条ハナさんと一緒に現れるエル、その瞬間会場はフラッシュの光とシャッター音で包まれる。
1ヶ月前にあったGⅠのNHKマイルCで1着、さらに事前ファン投票でも一番人気を取っているのだから、記者やマスコミたちにとってはエルが一番の目的なんだろう。
ある程度記者たちの動きが静かになってきたところで、日本ダービーへ向けてのエルの現状を東条さんは話す。
そうして3・4分くらい話し終わると今度は質疑応答になる。
『エルコンドルパサーさん、今のお気持ちはどうですか?』
『快調デース! だってワタシ、ターフを舞う怪鳥って呼ばれてますから!』
小洒落た? ダジャレで場を和やかなにするエル。きっとどこかのリギル出身の会長も喜んでいるだろう。
その後、いくつかの質問に答えてエルは出て行く。
『続きまして、皐月賞ウマ娘であり事前ファン投票3番人気を得ましたセイウンスカイさん、前へお願いします』
続いて出てきたのはセイウンスカイだった。
エルの時と同じくチームトレーナーがセイウンスカイの現状を話す。どうやらいつもみたいにサボる日もあるらしく日本ダービーへ向けて心配ないがそこだけは玉に瑕だということらしい。セイウンスカイも苦笑いを浮かべており、記者たちも笑っている。
『セイウンスカイさん、今の心境を一言!』
『皐月賞勝ったのに3番人気か~。じゃあ勝ったらビックリ!? あ、そうでもない?』
そもそも3番人気でもかなり期待されているので勝ったとしてもびっくりとはならないだろう。
だがこの発言はある意味自分がダービーに勝てると自負しているからできることだ。少なくとも俺はそう受け取った。
『続きまして事前ファン投票では番人気を得ましたスペシャルウィークさん、前へお願いします』
『は、はい!!』
他の2人とは違い大声を出したスペ、その動きもどこかぎこちない。というか右足と右手が同時に出ていないか?
あっ、先生がスペに何か言っている。と思ったら歩き方が自然になった。どうやら指摘されたそうだ。
バックボードの前までやってくるとスペは胸に手を置いていた。なんかめっちゃ緊張しているみたいだ。
俺は心の中で「頑張れ」と応援する。
『スピカのトレーナーです。スペシャルウィークは日本ダービーへ向けてーー』
先生がスペの現状を話す。内容としては日本ダービーへ向けて減量を行い、坂路の対策と体力の向上を中心に練習を実施しコンディションは過去一良いと公言した。
そしてスペへの質疑応答に移る。
『スペシャルウィークさん、今度のダービーはずばり勝てそうですか』
記者さんの問いに対してスペはどう答えようか悩んでいる……そんな時だった見覚えのある帽子を被った薄灰色の髪のウマ娘が、なんかカンペみたいなものを持って記者たちの間をすり抜けている。
スペもその人物に気が付いたのか視線を下げる。
『えぇー!! ボケるのー!?』
おそらくそのカンペには「ボケろ!!」みたいな無茶振りな指示が書かれていたんだろう。くっ、俺が今日そっちにいれば事前に防げたかもしれない。
突然のボケる発言に笑う記者さんたち……スペのウマ耳は元気なさそうに垂れ下がり、その頬は紅潮している。顔も俯いてしまった。
その姿を見たからか、先生は右手を顔に当ててため息を吐いた。まさかゴルシが乱入するとは思っていなかったんだろう。
『あー、すみません。スペシャルウィークへの質疑応答はこれでーー』
『待ってくださいトレーナーさん!』
顔を俯かせていたスペが大きな声を発してトレーナーの言葉を遮る。
『……あの、ボケることは私にはできませんけど!』
そうして顔を上げたスペ……その瞳はとても力強いものなっていた。
『おかあちゃんと約束したんです。日本一になるって。だから今度のダービーはーー絶対に勝ちます!!』
スペの発言によって、会場は記者たちの感嘆のため息で包まれた。後ろにいる先生も微笑んでいた。
「母親との、約束……ね」
「どうしたんだキング?」
「一真……なんでも無いわ。さっ、逃げの練習を続けましょう」
キングヘイローは大きく伸びをした後、スタート位置でスタンディングスタートの構えを取る。
ただ、俺はそんなキングヘイローの前に立つ。
「……どういうことかしら? 走ろうとしているウマ娘の前に立つなんて、あなた正気?」
「キングヘイロー、俺は君に一つ聞きたいことがあるんだ」
「何かしら?」
「君はどうしてそんなに逃げにこだわるんだ」
「……」
キングヘイローは先行策を今まで取っていた。それはスペのレースを通して見てきているから分かる。
だが、ダービーという大舞台でわざわざ逃げの作戦へ変える理由が全然思いつかない。
「…… 今まで通りってわけには行かないのよ」
そう言うキングヘイローの表情は……とても悔しそうな顔をしていた。
「今まで通りやっても、GⅠに勝利しているエルさんやスカイさん、そしてこのダービーに想いを馳せているスペさんに勝てるわけない……このダービーでは確かな変化が必要なの、とても大きな変化が!」
その言葉を聞いて俺はある人物を思い出した。それは中学校の時卓球部で一緒だったやつ。
そいつは大きな大会に負けてしまいとても落ち込んでいた。しかししばらくすると部活に復帰した……のだが、帰って来たそいつは戦型を変えたのだ。
つまり、大きく変化を得ることで流れがいい方向になるようにしたのだろう。
……だけど、それをウマ娘でやるのはどうなのだろうか。
ウマ娘の脚というのはどう足掻いても脚質適性というものがある。学園にいるトレーナーはその脚の適性を見極めてレースの作戦や戦い方を考えるものだ。
時々全ての適性を持っているウマ娘もいるが、基本は二つ。それも逃げと先行、先行と差し、差しと追込みと言ったように似たようなもの同士が多い。
そしてキングヘイローは差し寄りの先行だ。だから逃げというのは本来の適性には合わないはずなのだ。
「あなた、今こう思っているでしょ。「何でそんなことをするのか」って……そんなの簡単、勝つためよ」
「……勝つため?」
「そう、私が考えた、私なりの勝利への活路よ」
そう言うキングヘイローの視線は目の前の自分ではなく、もっと先……ダービーを見据えていた。
その真剣な瞳を見て……俺は何も言えなくなった。
・ ・ ・
数時間後、俺は寮に戻りベッドの上でずっと今日のことを考えていた。
「(適性が合っていなくても練習をし、それを実践する)」
「(わずかな可能性だけど、奇跡を起こそうとしている)」
「(だけど、逃げに関してはセイウンスカイに勝てるのだろうか)」
「(それにやっぱり練習をするにしてもあの地面はダメだ……逃げをこの短期間で習得するにしても、その前に彼女の脚が壊れてしまう)」
「(彼女の脚が壊れて出走取り消しになった場合、困るのは彼女自身……そして恐らくスペもその事に気が取られる可能性がある)」
そう思ったところで、俺は胸ポケットから携帯を取り出してある施設の詳細を調べ始める。
「(これはキングヘイローのためじゃない、スペが本気を出せるようにするだけだ)」
・3rdライブめっちゃ楽しかったぁ……まさかトレーナVerのうまぴょいから入るとはw
・二学期かぁ……ツライ。
・ライスのサポートカード、あれは引かなければこちらも無作法というもの。
・次回も次の日(朝)、そして第5Rに絡む話の”予定”です。