少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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チーム練習が終わった後、俺は後生寮の自分の部屋でくつろいでいた。
あのお昼休みでゴルシと会わなかったがチーム練習に会えるだろうと思っていた。だが結論としてゴルシはチーム練習にも顔を出さなかった。
先生曰くゴルシは急用で休みとのことらしい。
あのゴルシが急用? って思ったが、練習が終わった後に「私の中の小宇宙が運命を感じている!」とか言って突然去って行くとか訳分からないこともするのでそこまで変だとは思わなかった。
「(あっ、そうだ。マックイーンに電話するか)」
テイオーにマックイーンを説得するようにと言われたことを思い出し、俺はポケットの中から携帯を取り出してマックイーンの連絡番号をタップする。
プルルルルッと耳元のスピーカーからコール音が鳴り響く。
いつもだったら2回くらいコール音が繰り返した時くらいに電話が繋がるが……おかしい、5コール繰り返しても出ることはなかった。
そして待ったが……電話は繋がらなかった。
まぁマックイーンにも電話が出られない時だってあるだろうし、そこまで急ぐことでもないか。
けど改めて思う、なんでゴルシがマックイーンをスピカに入れようとしているのか。
5限目辺りからずっと考えていたけど……やっぱり分からない。
ゴルシは実はメジロ家と関わりがある人なのかと気になり、爺やさんに電話して聞いてみたが「そんな方は存じ上げません」とあっさり言われた。つまり関係者の線は消える。
そして後残った可能性としては……マックイーンに惚れているとか?
それだったら急に抱きついたり、マックイーンに執着する理由も納得できるが……。
ーーコンコンコン
色々考えに耽っていると、部屋の扉がノックする音が部屋中に響く。
「はーい」
俺は返事をしながら玄関まで歩き、玄関の扉を開けた。
そしてそこにいたのは、マックイーンだった。
「こんばんわ玲音さん、部屋入ってもいいですか?」
「あ、あぁ……別にいいけど、なんで?」
「ちょっと匿って欲しいんです」
そう言いながら寮室の中へと入っていくマックイーン、自分は少し困惑したが玄関の扉に鍵を閉めて、マックイーンの背中を追うようにして部屋の中に戻る。
「それで、なんで匿って欲しいんだ?」
「実はある人に追われていて……あっ、ついでに耳かきもお願いできますか?」
「別にいいよ」
俺は耳かきに必要な小道具を用意する。
あっそうだ。この前道からアロマオイルの使い方を教えてもらったんだ。なんでも香りなどによって肩こりや腰痛、目の疲れに効くのだという。んで実際にこの前やったが、気持ち楽になった。
マックイーンにもやってあげよう。
一回浴室に行って桶にお湯を貯める。
そしてその桶にアロマオイルを3滴くらい落とす。
タオルをたるませるように入れ、水分と精油分をしみこませたら精油を含む面が内側になるように折りたたんで軽く絞る。
ちなみに今回使っているアロマオイルはフレンチラベンダー、道が言う限りでは目の疲れによく効くらしい。
「玲音さん? なんですかそのタオル」
「ちょっと香りのいいアロマを含ませたタオルだよ。ほら、こうやって顔に被せれば」
「あっ、いい香りですね」
「これならリラクゼーションの効果もあるかなって。はいマックイーン、お膝にどうぞ」
マックイーンは失礼しますと言いながら自分の頭を俺の膝に預ける。
マックイーンのヒト耳・ウマ耳を順番に見る。ヒト耳の方はあまり汚れはない。ウマ耳もない訳ではないがほぼ綺麗だ。
「今日はウマ耳の方だけやっていくよ」
「お願いします……」
マックイーンはウマ耳を器用に横に向けて耳掃除を受け入れる態勢を取る。
まずはお湯で湿らせたタオルで耳周りをマッサージするように揉みながら拭く。
「耳かき棒を入れるよ〜」
「はい……」
ウマ耳に耳かき棒を入れるとマックイーンの体がびくりっと小さく動く。
だが耳掃除をしていない方のウマ耳が前に二回ぴょこぴょこ小さく動いているため、お気に召しているらしい。
「そういえばマックイーン、誰かに追われているって言っていたけど……誰に追われていたんだ?」
「んあっ……ゴールドシップさんですわ」
「……ゴルシ?」
ゴルシは確か急用で練習を休んでいたはず。なのにマックイーンはゴルシに追われたと言っている。
それって……その急用がマックイーンを追う事だったのか?
「追われただけなの?」
「いえ、なんか「練習を見に来い」ってしつこく言ってましたわ……明日お伺いしますって言っても「そんなにちんたらしていられないんだよ!」って言って無理矢理拉致しようとして来たり……」
「それってここ最近もそんな感じ?」
「はい……なんであんなにしつこく纏わり付いてくるのか、理由が全然分かりませんわ」
「メジロ家の遠い親戚って訳でも無いんだよね?」
「もちろんです。わたくしとゴールドシップさんは、あの花見で初めて会ったはずですけど」
こうなってくると、ゴルシがマックイーンのことをつけているみたいになってくるな。
でも練習を休んでまでマックイーンを追う理由はなんなんだ?
確かにマックイーンは同年代のウマ娘たちと比べても頭一つ抜けている存在だ。
だけどトレーナーならともかく、一人のウマ娘でしかないゴルシがなぜそこまで執拗に追うのか。
……やっぱり本人に直接聞くしかないか。
「玲音さん。わたくしは明日、スピカの練習を覗いてみようと思います」
「へぇ意外……そこまでしつこいと行きたくないって言うと思った」
「もともとどの日にどのチームに行くかは予め決めているんです。それにテイオーからのお誘いもありましたから」
そういえばテイオーはゴルシに脅されていたっけ。
「それに……(好きな人もそこにいますし)」
「んっ、マックイーン今なんて言った?」
「いえ、何でもありませんわ」
顔にタオルを被せているということもあり、マックイーンの言葉が上手く聞き取れなかった。
その後、マックイーンは耳かきが気持ちよかったのか、幸せそうな顔をしながら寝てしまい、また爺やさんにお迎えに来てもらうことになった。
・ ・ ・
次の日の昼休み、自分は昼食を食べ終えた後、すぐにウマ娘の生徒が集まる教室の前の廊下に陣取ってゴルシが来ないか監視していた。
トレーナー学科の生徒がウマ娘の教室の前にいるのは珍しいのか、知人(主にスピカ・リギルメンバーやライスお姉さま)はもちろん、他の初めて会うような娘にも話し掛けられた。
だが、多くのウマ娘は来ても目的の人物であるゴルシには会えなかった。
そうして昼休みが終わり放課後、俺はチームの部室で色々な準備をしていた。
「にしてもゴルシ……あいつ本当にトレセン学園にいるのかってくらい会わないなぁ」
昨日だけだったらまだしも、今日も会えないなんて……まさかゴルシってトレセン学園に在籍していない?
「いやいや、まさか……」
それだったらこのチームに入っていること自体おかしいじゃないか。
でもチームメンバーは全員受け入れている。スカーレットやウォッカも先輩として認めているし、ゴルシはチームの中で最古参のメンバー……会わなかったのだってやっぱり偶然だろう。
そう思いながら俺は机の上に置いたカバンから紺色の学園指定ジャージを取り出す。そしてカバンを持ってそれを自分のロッカーの中に入れようとロッカーの扉を開けた。
「わはぁ……」いるいるいるいる
俺は反射的にバンッと勢いよくロッカーの扉を閉めた。
「え? どういう事?」なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?
俺は右側頭部を右手で掻きながら、これからどうするべきか考える。
ここは一回外に出て外の空気を吸ってからまた開けるべきか? いや、それだと何も変わらない。
てかなんで制服姿のゴルシが俺のロッカーの中に隠れていたの? 伝説の傭兵なの? ジャック・ザ・リッパーなの??
とりあえずここで外に出ても何も状況は変わらないだろうから、俺はもう一回ロッカーの扉を開ける。
「わはぁ……」
「……なにやっているんだゴルシ」
「いやよ? ここでずっと待っていれば驚くかなって思ってな」
「うん、めっちゃ驚いたよ。思わず周りに「いる」と「なんで?」と書かれたスタンプが浮かび上がったわ」
「なんだそれ? ……まぁいいや、よっと」
ゴルシは俺のロッカーから出てくる。ゴルシって結構体格がいいはずだけど……どうやってロッカーに入っていたんだろう。
大きく伸びをしているゴルシを見ながら、俺はテイオーの約束や昨日のマックイーンが言っていたことを思い出し声を掛けることにする。
「なぁゴルシ、ちょっといいか?」
「んっ、なんだ? マグロ漁船の乗り方を教えて欲しいのか?」
「んなもん乗りたくねえよ……昨日テイオーから聞いたんだが、マックイーンをスピカに入れようとしているんだって?」
「おん? それがどうしたよ?」
「そして昨日ゴルシはマックイーンを追っていた……単刀直入に言う、なんでそんなにマックイーンに拘るんだ?」
「……」
ここで初めて、ゴルシの表情は固いものに変わった。
そんな彼女から発せられている空気は……とても独特な冷たさを持っていた。
「それを聞いて……何になるんだ?」
「気になるんだよ。マックイーンは俺にとって妹みたいな存在だ。だから妹が変な奴に絡まれているって聞いたら放っておけないんだよ」
「おいおい、その変な奴ってまさかこのゴルシちゃんのことじゃねえよな?」
「逆にお前以外に誰がいるんだ?」
「まっ、いねえよな」
あまりにもあっさりとマックイーンを追っていたことを自白するゴルシ。まぁ、それはもう分かっていた。
俺が聞きたいのはただ一つ、なぜマックイーンをスピカに入れたいか。ただそれだけだ。
「……分かったよ。どうせいつかは言わないといけねえことだからな、先に言っちまった方が自分のためになるか」
「なんだその言い方、まるでマックイーンを入れたい理由が、深刻な理由だったりするのか?」
「……」
自分はもっとふざけた理由だと思っていた、だから少し戯けるように発言をした。
しかし直後にゴルシが浮かべた真剣な表情から、決してバカに出来ないことだということを俺は直感で感じた。
唇を少しきつく結び、しっかりとゴルシの瞳を見る。そして彼女から言い出すのを待つ。
「あいつは……このチームに入らねえといけないんだよ」
「それは……理由になっているのか? そもそもなんでマックイーンがーー」
「なぁ玲音……もしアタシがーー」
次の瞬間、外では非常に強い風が吹いた。
それによりプレハブみたいな構造になっている部室はドンドンッと大きな音を立てる。取り付けられている窓にも強風が当たり、うるさい音を立てている。
その結果この部室中がうるさい音で充満し、ゴルシの言ったことが聞き取れなかった。
「……悪いゴルシ、もう一回言ってくれないか?」
ゴルシならもう一回言ってくれるだろうと思った……だが、ゴルシは首を横に振った。
「いや、やっぱいい。ここで話したこと全部忘れてくれ」
「はっ? いやいや、何を言ってるんだよ。俺はマックイーンを入れたい理由をーー」
「玲音は何も見なかった。何も聞かなかった。何も話さなかった。ゴールドシップというウマ娘ともここでは会っていない」
そう言いながらゴルシは俺の方に近づいてくる。
瞬間、俺の本能は警鐘を鳴らした。ここから逃げた方がいい、今すぐここを離れた方がいいと。
しかし本能の考えとは裏腹に、体はびくりとも動かなかった。
「次に目覚めれば、またいつも通り……アタシがマックイーンを入れたい理由も適当な理由になり、玲音はそれを信じる」
そうしてゴルシは俺の目と鼻の先まで近づき、立ち止まる。
「悪りぃ……ちょっとくすぐったいぞ」
そうゴルシが呟いた瞬間、頭全体に強い衝撃が走る。
俺の体はその衝撃に耐え切れず崩れ落ち、意識が遠退いていく。
意識が完全に彼方へと行ってしまうその時、俺は見た……悲しい顔に笑いを浮かべて涙を流しているゴールドシップを。
しかし次目覚めた時、俺は彼女の表情を覚えていない。
そして意識が……完全に闇に落ちた。
・「いる」と「なんで?」のネタ分かる人いるかな。
・学校から帰るとYouTubeでスズカの怪文書を書くのがルーティンになってますw
・アオハル杯マジでたのちい。
・次回は第5RのAパート終盤のお話の予定です。