少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:ゴルシがマックイーンをスピカに入れようとしていることを知った玲音は部室でーーーー玲音は早めに部室に行き、練習の準備をするが途中で意識を失ってしまった。

・UA121,000・122,000を突破しました。ありがとうございます!

・なんか前回の話でUA112,000と書いていました……。



それもまた才能の一つ

「ぐっ、あっ……」

 

 頭がズキズキと痛む……ゆっくりと俺は頭を起こし、右手で頭を押さえる。

 

 俺は何をしていた? 見渡してみるとそこはスピカの部室だった。

 

 なんで自分は部室にいるのだろう。確か魂が抜けたように真っ白になっている尊野に「ドンマイ」って言って、それで俺は確か早めに部室に来て何かをしていた。

 

 でもなんでだ……その何かを全然思い出せない。

 

 それになんだか、忘れてはいけないことがあったような気がする。

 

 だがそれはなんだ?

 

「(くっそ、頭がズキズキして思い出せねえ……)」

 

「おっ、目ぇ覚めたか?」

 

 後ろからゴルシの声が聞こえてくる。振り返ってみるとゴルシが机に頬杖をした状態でこっちを見ていた。

 

「ゴルシ? なんでここに……」

 

「そりゃアタシはこのチームの一員だからだろ」

 

 いやまぁそうか、俺は何を当たり前のことを聞いているのだろうか。

 

 なんて思っていると俺は足元に何かが落ちているのを見つけた。

 

 それはバナナ、それも食べ終わった後の皮だけの状態だった。

 

 俺はそれを拾い上げる。

 

「いやー、にしても新人にはビビったぜ。まさかあんな事になるなんてな」

 

「はっ? あんなこと?」

 

「お前覚えてないのか? まぁ、あそこまで盛大にやっちまえば無理もないか」

 

 ゴルシは立ち上がってこっちに近づいてくる。

 

 そして俺が持っていたバナナの皮をひょいと掴み上げると、そのままゴミ箱に向かってシュート。

 

 バナナの皮は綺麗な弧線を描いてゴミ箱にそのまま入る。ゴルシの方を見てみるとゴルシは大きくガッツポーズをしていた。

 

「んで、俺は何をやらかしたんだ?」

 

「それはもう某内村チェンのコケ芸バナナ式みたいに見事な滑りっぷりで頭から床にぶつかっていたな」

 

「こけ……芸?」

 

「まぁ要するにバナナでツルーンって滑って頭を打ったってこった」

 

 なるほど、だから足元にバナナがあったのか。

 

 というかバナナの皮で滑って頭を打つなんて、そんなマンガみたいな展開が本当にあるんだな。

 

「とりあえず目立った外傷はねえし、気絶はしたけどそこまで強い衝撃じゃなかったみてぇだな」

 

「……あれ?」

 

 頭を押さえてみると、自分の頭には包帯が巻かれていることに気がつく。そしてゴルシが頬杖していた辺りのところに包帯が置かれていた。

 

 もしかして……ゴルシがやってくれたのか?

 

「っ! 新人大変だ! 今すぐ40秒で支度しな!」

 

「ど、どうしたんだ急に!?」

 

「アタシの専用人工衛星『120BY』がマックイーンに近づく不審者の影を発見した! こうしちゃいられねえ、すぐに神社に向かうぞ!」

 

 ゴルシがまた変なことを言い始めた……いや、マジでこれは何言っているんだか分からない。

 

 まぁ、またいつものおふざけだろうけど

 

「ちんたらすんなって! あーもう行くぞ!!」

 

「えっちょ、待っーー!?」

 

 ゴルシはしびれを切らしたのか俺を赤子のように担ぎ上げて、そのまま部室を出た。

 

 そういえばスピカに最初来た時もこんな風に担がれていたっけ……などとゴルシの肩の上で揺れながら冷静に考えていた。

 

   ・ ・ ・

 

 ウマ娘は本気で走ると法定速度を守っている車よりも早く走ることができる。

 

 そんなのは当たり前のことだが、こうして担がれて車が視界の後ろから現れ距離が離れていくのを見ると、改めてウマ娘は早いんだなということを再認識させられる。

 

 というか運転している人たちが信じられないものを見るような目で俺を見てくる。結構恥ずかしい。

 

 ……あっ、そうだ。ちょうどゴルシといるんだから、ずっと聞きたかったことを聞いてみよう。

 

 というかゴルシ、昼休みは学園のどこにいるんだろう?

 

「なぁゴルシ」

 

「なんだ? 下手に喋ると舌を噛むぞ?」

 

「ゴルシって昼休みどこにいたんだ?」

 

「……どうしたんだ急に?」

 

 自分はゴルシに聞きたいことがあって昼休みにずっと学園中を探し回ってたことを話した。

 

 今思えば、チーム練習に参加していれば基本参加するんだから探し回らなくてもよかったな。実際昨日は来なかったが今日来ているわけだし。

 

「今日は学園の木の上で昼寝してたけど……もしかして新人、アタシに惚れーー」

 

「そんなことはない」

 

 俺はゴルシのセリフを遮るようにはっきりと否定した。

 

「まっそうだな、なったらなったらで色々問題になるしな……」

 

「んっ? なんか言ったか?」

 

「なんでもねーよ。もうちょっと飛ばすぞ」

 

 そう言うとゴルシはもう人段階スピードを上げた……それにしても自分を掲げ上げているのに走るフォームが全然ブレないのは地味にすごいことなんじゃないか?

 

 まるでカメラのスタビライザーでブレ修正を行っているのかと思うくらい軸が綺麗だ。

 

「あ、あとゴルシ、なんでーー」

 

「マックイーンを入れたい理由はただ一つ、それは運命だからだ!」

 

「う……運命?」

 

 自分はもうちょっとふざけた理由があるんだろうと思っていたが、意外とシンプルな理由だった。

 

 にしてもゴルシってそんな運命とか信じるんだな……それに走ってて分かりにくいが、尻尾もさっきよりぶんぶん振っているため本当のことのようだ。

 

 その後5分くらいで神社に着くが……流石に段差は揺れるに揺れる。お腹がごすごすと上下に揺らされて地味に痛い。

 

「くっ、聞け新人、不審者はマックちゃんの足が目的だ! そしてもう射程圏内に入ってる!」

 

「あ、脚!?」

 

 そんな高度な変態がこの世にいるのか……あれ、待てよ。その変態に覚えがあるような……。

 

「今からお前を投げる! だからなんとかしてそいつを吹っ飛ばせ!」

 

「ふ、吹っ飛ばすってどうやって!? てか投げるってなんだ!?」

 

「とにかくライジングインパクトでも火龍蹴撃破でもいいから止めてこい!」

 

「いやなんでそんなに仮面ライーー」

 

「うらああああぁぁ!!」

 

「だああああああああああぁぁ!?」

 

 その瞬間、何が起きた分からなかっった……だが俺は激しい向かい風と下に流れている神社の階段を見て自分が空を飛んでいる(と言うよりは斜め上に吹っ飛んでいる)ことを理解した。

 

 人一人投げ飛ばせるなんて……ウマ娘のパワーやべえな。

 

 なんて思っている間に俺の体は階段を登り切る……そして場面を一瞬で理解した。

 

 そこにいたのはテイオーとマックイーン……そして先生だった。

 

 しかし二人は立っているのに対して、先生は座っていた。さらに言ってしまえばマックイーンの真後ろで座っていて両手をマックイーンの脚の方へ伸ばしていた。

 

 そういえば思い出した……先生は脚フェチだった。かなり前にもスペの脚を触ろうとしていた。

 

「アンタって人はァ――!!」

 

 俺がそう大きな声を出すと3人とも俺の方に振り返った。

 

「「玲音(さん)!?」」

 

 マックイーンとテイオーは驚きの声を上げ、先生は呆気に取られるような表情をした。

 

 そりゃそうだ、人が空を吹っ飛んで入れば誰だって呆気に取られるだろう。

 

「って、うわっ!?」

 

 突然、俺の体は不安定になった。声を大きく上げたことによって体の軸がブレたからだろうか……なんとかバランスを取ろうと手足をバタバタと動かす。

 

 しかしそんなことをしている間にも俺の体は先生に近づき……俺が右手を突き出したタイミングで先生とぶつかる。

 

「どはぁ!?」

 

「ぐえっ!?」

 

 先生は自分のパンチもどきで吹っ飛び、自分は地面に腹から着地しその痛みに悶える。

 

 でもここが神社の整地された道でよかった……運が悪ければ角がある石の上に着地していた可能性もあった。

 

「れ、玲音さん……大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だ、問題ない」

 

「すごいね玲音! 今のどうやったの!?」

 

「ゴルシに頼めばできるぞ」

 

「あっ……や、やっぱり災難だったね」

 

 ゴルシ=災難とでもテイオーは思っているのだろうか……まぁ合っているけど。

 

 ただマックイーンがセクハラされる前に阻止できたんだから、そこはゴルシに感謝しよう。

 

「Yo buddy, You still alive?」

 

「誰が相棒だ……いてて」

 

 俺はお腹を押さえながら、立ち上がる。

 

 ちなみに先生はその後、マックイーンにセクハラをしようとした罰として、ゴルシから関節技を決められていた。

 

   ・ ・ ・

 

 そうしてそのまま練習が再開した。

 

 先生は最初こそは痛そうにしていたが、数分もすればケロリとしていた。

 

 先生曰く「こういうことは慣れている」とのことらしい。いや痛みに慣れているってどういうことだよ。

 

 でもウマ娘4人の本気のキックを食らっても数分後にはピンピンしているような人だから、常人よりも丈夫なんだろうな。

 

「ダービーを本気で制したいなら40秒は越えろ、スペ!」

 

「はい!!」

 

 そうしてスペは何度も階段ダッシュを行っている。だが回数が増す度に脚の動きが鈍くなっている。

 

 しかしスペは弱音を吐かずに走り続けている。

 

「今のは何秒だったんだ?」

 

「41秒9でした……なかなか越えれないですね」

 

 スペは自嘲するように笑ってそう言う。

 

 そしてその顔色には疲労というものが溜まっているのが見て取れた。

 

「……スペ、ちょっと休憩しようか。せんせー! スペをちょっと休ませてもいいですかー!」

 

「あー? わかったー! 5分休憩しろー!」

 

 上にいる先生に許可を取って、スペを休ませる事にする。

 

「どうしてですか、私まだまだやれます!」

 

「疲れっていうのは集中している時ほど気づかないものなんだよ……いいから休めって」

 

「……分かりました」

 

 スペは不機嫌そうな顔をしながら耳を後ろに倒して怒りを露わにしているが、自分が言った通りに休憩を取った。

 

 自分はスペにスポーツドリンクを渡し、スペの隣に座った。

 

「あの、玲音さん。一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「んっ、なんだ?」

 

「玲音さんは……限界を超える方法って知っていますか?」

 

「……限界、かあ」

 

 スペのその問いに俺はどう返答するか悩んでいた。

 

 確かスペに貸した本には「自分の限界を超えろ」みたいなメンタル面な本も入っていたはずだ。

 

 だが……自分に発言する権利なんてほぼない。

 

「目の前にニンジンでも置いてみたら?」

 

「えー!? 玲音さんも同じことを言うんですか!?」

 

「玲音さんもって、他の人にも言われたの?」

 

「はい、昨日スズカさんにも同じことを言われました……」

 

 スズちゃんも同じこと言ったのか……やっぱ幼なじみだから思考が似ているのかな(暴論)

 

「うぅ、玲音さんもスズカさんも私のことどう思っているんですか……私は真剣なのに」

 

「ごめん、ごめん。だけどねスペ……俺にはそれを教える義務はないんだ」

 

「どういうことですか?」

 

「俺は……どうしても限界を超える前に休んでしまう人間だからさ」

 

 サッカーをやっていた時も卓球をやっていた時もそうだった。

 

 自分が限界を超えたことがあるかと言えば、答えとしてはNoになる。もちろん、本気を出して限界を超えたいと考えたことはある。

 

 だが限界を迎える前に足が重くなり、動きが鈍くなってしまう。

 

「こんな俺が言うのもあれだけど、限界を超えるっていうのは誰でもできることではないと思うんだ」

 

「誰でも……できない?」

 

「それこそ才能によるもの……この世で限界を超えられる人なんてほんの一部なんだ。自分たちが限界だと言って区切っているそれは限界なんかじゃない。それは上限ってやつなんだ」

 

「……」

 

「だけど、スペは限界を超えることができる娘だよ」

 

「えっ?」

 

 この前のマルゼンスキーとの模擬レースで……彼女はゾーン状態に達している。

 

 ゾーン状態はある意味、限界を超えた人が発症するものだ。

 

 だから、ここであえてスペに助言を言うなら……。

 

「スペ、この前のマルゼンスキーとの模擬レースは楽しかったか?」

 

「えっ? は、はい?」

 

「だったら俺から言うのは一つだけ……楽しめ、そうすれば自ずと限界は超えられるよ」

 

 そう言いながら俺は立ち上がり、階段の上を見上げて肺に息を入れる。

 

「スズーー!!」

 

 大きな声でスズカを呼ぶと、スズカがひょいと姿を現わす。

 

「ちょっとスペと併走してもらいたいんだけど、いいかなーー?」

 

「分かったわーー!」

 

 そう言いながらこっちへ降りてくるスズカ。そして隣で座っていたスペは慌てて立ち上がって自分の腕を引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと玲音さん! 何をやっているんですか?!」

 

「レースは競い合うもの、別におかしくないだろ?」

 

「そうですけどー!」

 

 なんて言い合っているとスズカがこっちに降りてきた。

 

 そして腕をグッグッと伸ばして、走る準備を整えている。

 

「よろしくね、スペちゃん」

 

「は、はい! よろしくお願いします!!」

 

「スペ」

 

 憧れの存在を前に緊張しているスペに俺は声を掛ける。

 

「スズは憧れの存在なんだろ? だったらいつかはその背中を追い越さなければいけない!」

 

「背中を……追い越す……」

 

「必死に食らいつけ! 背中を追いかけろ! そして楽しめ、この勝負を!!」

 

「玲音さん……はい!」

 

 スペはそう笑顔で返事をする。

 

 そうしてスペとスズカは横一列に並ぶ。上を見ると先生がストップウォッチを持ってこっちを見ていた。

 

「じゃあ、始めるよ」

 

「はい!」

 

「えぇ!」

 

「位置について、よーいドン!!」

 

 俺は大きく声を出しながら、持っている旗を上から下に勢いよく振り下ろす。

 

 次の瞬間、二つの風が俺の髪を揺らす。

 

 上を見てみると、そこには先行しているスズカと少し後方に位置つけているスペが見えた。

 

 確かにスズカの方が早いが……特別早いって訳でもない。むしろその差はごく僅かだ。

 

「だあああぁぁああああ!!」

 

 残り半分を超えた時、スペは大きく声を上げた……それは必死に食らいついて行こうという声ではない。

 

 絶対に負けたくないという闘争心から来る……本気の表れだ。

 

 そしてそれに否定してか、スズカとスペの差が縮まってくる。

 

 残り4分の3バ身……半バ身……4分の1……クビ差……!

 

 あともう少しというところで二人は階段を登り切った。直後、俺は左手に持っていたストップウォッチを止める。

 

「……ほら、やっぱり楽しんだ方がいい」

 

 俺が止めたストップウォッチには……38.40と表示されていた。

 

 自分が楽しめって言った直後にここまでタイムが良くなる。言動とか行動、周りに影響されやすい娘なのかもなスペシャルウィークというウマ娘は。

 

 でも、それもまた彼女の才能の一つなのかもしれない。

 

 

 




・YouTubeがだんだんウマ娘の怪文書を書くところみたいになってる。(自分も書いてるけど)

・アオハル杯のコツ掴んだ。そしてAランクが行くようになった!

・次回はこのお話の数分後からのお話の予定です。
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