少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:最も幸運なウマ娘が勝つと言われる日本ダービー。スペの験担ぎとして四つ葉のクローバーをダスウオゴルテイレオ、そしてマックイーンで探し、見つけた。

・UA123,000・124,000を突破しました。ありがとうございます!

・ゼブラはロバ系統だから、ウマ娘の世界にもいるのでは?(ロバもウマ科だろ……)



それぞれが抱えるもの 〜 日本ダービー・前編 〜

 谷崎玲音の夢 8991 7060 whiteout

 

 不思議な感覚に体が包まれている。これは浮いているのかそれとも沈んで行っているのか。よく分からないが、心地いいということだけは分かる。

 

 そんな風に不思議な感覚に浸っていると……急に視界内が真っ白になる。

 

「……ここは」

 

 俺は確か前にもここに来たことがある。あれは……そうだ、皐月賞の時だ。確かあの時もこんな真っ白な空間に飛ばされていた。

 

 つまりこれは夢だと理解する。そして記憶が正しければーー。

 

「(ガコンッ!)

 

「(ワーー!!)」

 

 皐月賞の時のように周りからは多くの歓声が聞こえてくる。そして真っ正面を見てみるとそこにもあの夢と同じ謎の四足歩行生物がゲートから出て来た。

 

 ただこの前と違うのはゲートが観客席側になっており、日本ダービーと同じような位置関係になっている。

 

 さらにこの前は墨で描かれたようなフォルムだった謎の生物が今回は最初から水彩画で描かれたように色が付いており、それに伴って周りの人たちや風景も色が付いていた。

 

「いけースペシャルウィーク! 今日こそ1着を取ってくれー!!」

 

「皐月みたいな逃げ期待してるぞセイウンスカイ!!」

 

「おいおい……キング逃げてねえか?」

 

 そして観客の言葉を聞く限り、この前と主要メンバーは同じようだ。

 

 それにしてもこの夢は一体なんなのだろうか。皐月賞の時もこんな夢を見たが、その時の結果は現実の皐月賞とリンクし、そのレース展開も全く同じだった。

 

 ある意味これは予知夢というものなのだろうか。

 

「……あまり見たくないもんだな」

 

 ここでスペシャルウィークが負けた場合、それが現実世界のスペに影響する……まだ一回しか実証されていないけど、その一回がとても重たいことだったのだ。

 

 だから俺はこのレースは見たくなかった。だが、夢の覚め方なんて全然知らない。仮に調べていたとしても夢を見ている時の脳がそこまで鮮明に覚えれているのか……。

 

 とりあえず俺は周りの人たちの喧騒を静かに聞き流しながら目の前で走っている謎の生物のレースを見守る。

 

 先頭にいるのは緑のメンコを被っている……あれはキングヘイローだろうか。その後ろにセイウンスカイ……そしてかなり後ろにスペシャルウィークがいる。

 

 そういえば今気づいたけど、あの四足歩行の生物の背中に人みたいなものが跨っている。手には……綱みたいなもの握っており、片方の手に何やら棒状のものを持っていた。

 

 ウマ娘のレースとは違って、あの生物自信が自分たちで動くのではなく、あの跨っている人が生物をコントロールしているという感じだろう。

 

 あと謎の生物謎の生物って俺は言っているけど、あれだって生物なのだろうから名前はあるだろう。見た感じゼブラっぽいけど。

 

 俺は近くにいる人に聞いてみることにした……が、これはもともと俺が見ている夢なのだから自分が知らないものが夢の中で知れるわけないだろうと冷静に心の中で突っ込む。

 

「……っ? あれは、なんだ?」

 

 色鮮やかなこの世界に一つだけ、ポツンと歩いた部分だけが真っ白になっている。あそこは確か……現実の東京レース場だと大欅があるところだ。

 

 なんであそこだけ真っ白なのだろう。俺はその真っ白になっているところを注意深く凝視してみる。

 

 すると輪郭のようなものが見えた。その形は今まさにレースを行っている謎の生物たちと同じだった。

 

「(なんで他の奴は色がついているのにあれだけなんで?)」

 

 なんて思っている間にもレースをしている生物たちは大欅に差し掛かる。と、その時だった。真っ白な生物はそのレースの最後方に位置付けるとレースをしている生物のように走り出した。

 

 そして、この世界から色が奪われていく。真っ白な生物が走ったところはまるで消しゴムで消されたかのように真っ白になっていた。

 

『あーっと!? ここで見覚えのない競走馬が乱入してきたぞ!?」

 

 どうやらあの生物は『きょーそーば』というらしい。そしてここ東京レース場にいる観客たちはみな驚きを隠しきれていなかった。レース場全体がざわめきで包まれる。

 

 さらに遠くを見てみると、その真っ白なきょーそーばに追い付かれた他のきょーそーばは輪郭も分からないくらい真っ白になっている。

 

 しかし前とは違う展開に困惑しながらも、俺はその真っ白なきょーそーばの走る早さに目を奪われていた。

 

 さっきまで最後方だったのに、もう中団のポジションを取っている。そしてその先にいたのがスペシャルウィークと呼ばれているきょーそーばだ。皐月賞と同じ服なので多分同じ子だろう。

 

 つまり現在先頭に着けているのがキングヘイロー、その後ろがセイウンスカイだろう。

 

 そしてレースは終盤戦、第4コーナーを抜けて最後の直線になる……が、ここでキングヘイローは失速し、一気に順位を落としていく。

 

 セイウンスカイがそのまま先頭になる。しかし中団からスルリとバ群から抜け加速してくるスペシャルウィークがセイウンスカイを交わし、どんどん距離を離していく。

 

 残り200mでセーフティーリードができ、このままならスペシャルウィークが勝つだろう。

 

 しかし途中から乱入してきた真っ白なきょーそーばがスペシャルウィークに迫ってくる。後ろにはただただ真っ白な風景があるだけだった。

 

 そして左を見てみるとレース場の観客席も白に飲み込まれている。

 

 周りは白が迫って来ていることにパニックになっているが、どうせ夢だと分かっている俺はそのまま二頭のレースの結果を見守る。その差は半バ身……アタマ差……クビ差……どんどん迫り、二頭はーー。

 

 ドタンッ! と大きな音が俺の耳に入って来てそれと同時に背中に強烈な痛みが襲ってくる。

 

「あだっ!?」

 

 ヒリヒリと痛むところを右手で抑える。最悪な目覚めだった。

 

 その後3分くらい悶絶した後にゆっくりと身体を起こす。

 

「あーもう……朝から散々な目にあった……」

 

 今の時間を知るために俺は立ち上がり、枕元に置いている携帯のホームボタンを押して時間を見る。

 

 時刻はちょうど8時だった。これが京都や中山のレース場だったら遅刻案件だが、今日は東京レース場なので集合時間は遅めだ。

 

 それにしても……。

 

「あの夢は一体何だったんだ?」

 

   ***

 

 朝の5:30から10:00までやっている朝の番組『グッモーニンサンデー』。最初の5:30から1時間と7;00から1時間は真面目なニュースをやっているが、その後は流行の動画やトレンド、人気芸能人によるグルメ紹介や幅広いスポーツコーナーなど様々な要素を4時間半の間に詰めている。

 

 そしてその幅広いスポーツコーナーの間にはトゥインクル・シリーズ。そしてもう一つのリーグであるドリームトロフィーリーグに関するコーナーが設けられている。

 

「いや〜ここからですよ! ここから一気にぐーんと加速して他の娘たちを置き去りにしてますよ!!」

 

 1ヶ月前に行われたNHKマイルカップの映像を見ながら、一人の男性タレントが興奮している。

 

 他のアナウンサーやタレントの人たちはその映像を見ながら「お〜」と感嘆の声を漏らす。

 

「改めて見てみますと、やはりエルコンドルパサーは圧倒的な強さを持っているようですね」

 

「それにこの娘ってまだクラシック級なんですよね? そう考えるとシニアなど年上が多い中でここまで結果を残せるのはかなりすごいことですよね」

 

「彼女の走りを見てファンや雑誌では『ターフを舞う怪鳥』と呼ばれていますからねぇ! その走りは”走る”というよりも”飛んでいる”と表現しても過言ではないですよ!!」

 

「確かに彼女の走りは今年のクラシック級の娘たちの中でも目を見張るものがありますねー」

 

 今日はダービーの日である。今日のこのコーナーはダービーに出走するウマ娘特集になっている。

 

 1番人気であるエルコンドルパサー、3番人気であるセイウンスカイ、そして3番人気であるスペシャルウィークの過去のレースを見て、各々がコメントを出す。

 

 エルコンドルパサーが終わると進行役がセイウンスカイが勝ったレース……皐月賞の時の映像が流れている。

 

「この娘はですねぇ、ちょっと特殊なタイプの娘なんですよね」

 

「と言いますと?」

 

「待ってください……ここですここ。セイウンスカイがここからこっちに移動して来ましたよね? これって後ろにいる娘からかなり体力を削られてしまうんですよ」

 

「えっ、そんなに削れるんですか?」

 

「ウマ娘のレースというのは空気抵抗が少し変わっただけでもスピードが出ている分、変化が大きくなるんですよ。そしてセイウンスカイはそれを最大限に利用して勝つという策士な娘なんですよ」

 

「ファンからはトリックスターと言われているそうですよ」

 

「トリックスター! なんかすごくかっこいい響きだ!!」

 

 今日のゲストである売れっ子ウマ娘俳優が目を輝かせている。それに合わせて周りのタレントやアナウンサーはわははと大きな声で笑う。どうやらカメラには写っていないがディレクターやカメラマンの笑い声もマイクに拾われている。

 

 ある程度軽いお話をすると、次はスペシャルウィークに注目される。テレビで映し出されたのはさっきの皐月賞の映像とその前のレースである弥生賞の映像が上下分割で出されていた。

 

「スペシャルウィークは今年編入したばかりでそのままトゥインクル・シリーズに参戦したそうです」

 

「へ〜あんなに速いのにまだ半月も走ってないの? すごいね〜……」

 

「スペシャルウィークははっきり言って経験不足ですねぇ。エルコンドルパサーやセイウンスカイは去年から走っていますから、そこの経験の差が大きいでしょう。実際彼女の追い込みはかなり素晴らしい。それが顕著に現れたのが弥生賞の結果でしょう」

 

「つまり……ポテンシャルはあるということですかね?」

 

「そうですねぇ」

 

「あとスペシャルウィークといえばこの前の記者会見! あれはネットで話題となりましたよね〜」

 

 男性タレントがそう発言すると場面が切り替わり、数日前に行われたダービーの記者会見の映像は流れる。そこはスペシャルウィークが日本一になると宣言し、ダービーに勝つと決意を表明したシーンだった。

 

「そうそうこれこれ、お母さんの約束を守ろうとする……泣けるお話ですよね」

 

「この記者会見によって、スペシャルウィークを応援したいと思った人は少なくないはずですよ」

 

「ファンに応援してくれるっていうのは想像以上の力をもらえるので、スペシャルウィークさんはいつも以上に力を出せるんじゃないかな」

 

 そうして、このコーナーは終わりが見えて来た。

 

「では最後に……細江さん。今日の注目ウマ娘は誰でしょうか?」

 

 進行役のアナウンサーが向かい側にいる青い服を着た女性に対して問いを投げる。

 

 その問いを答えるのは解説者である細江という人だ。

 

 スタジオにいる全員の視線が細江解説者の方に集まる。

 

「私が注目しているのは……この娘です」

 

 そう言いながら細江解説者はあるウマ娘の写真が貼られたポップを足元から取り出し、机の上に立てる。

 

 そこに写っていたのは……緑色のウマ耳カバーと緑を基調としたドレス型の勝負服を着たキングヘイローだった。

 

「おぉ、キングヘイローかぁ……細江さんは何か期待しとんのか?」

 

「セイウンスカイやエルコンドルパサー、そしてスペシャルウィークがいることで存在が薄いですが……彼女の脚、特に末脚は眼を張るものがあります。いつもと同じく冷静に、自分自身の走りを貫けば結果は分からないと思いますよ?」

 

   ***

 

 みなさん、ご機嫌よう。私の名前はキングヘイローよ。

 

 私は今日の午後から、日本ダービーという生涯で一回しか走れない大切なレースに出走するわ。日本ダービーで勝てばダービーウマ娘の称号を手に入れられる。そうすれば私が目指している一流のウマ娘に一歩近付く。

 

 そして走ることに反対ばかりを押し付けるお母さまに認めさせるの……『あなたはそこで走りなさい』『流石私の娘だわ』ってとにかく褒める言葉を口から出してもらうんだから。

 

「……おかあちゃんとの約束、ね」

 

 私はこの前のスペシャルウィークさんの記者会見でのインタビューを思い出していた。

 

 私とスペシャルウィークさんでは……共通点があっても走る理由は全く真逆だ。

 

 あっちは母親の約束を叶えるために走る。こっちは母親に認めさせるために走る。

 

 ……こう言葉にして考えてみると、私の走る理由がとんでもなく幼稚だと思ってしまう。

 

 世間からしたらこんな私より、立派な理由を持っているスペシャルウィークさんが勝った方が喜ぶのではないだろうか。

 

「(だめ、こんなことを考えちゃ……レースに影響してしまうわ)」

 

 私はぶんぶんと頭を横に振ってネガティブな思考を振り払い、ベッドの枠組みのところに置いている時計を見て時刻を確認する。

 

 時間は6:20を表示していた。暦が6月になり、前と比べると寮の部屋に入ってくる朝日の光彩は多くなっていた。

 

「(……ちょうどいいわ。このまま気持ちを悶々としても仕方がない)」

 

 そう考えながら、私はゆっくりとベッドから離れて立ち上がる。フローリングの床が冷えていて、足裏が一気に冷たくなるがそれを無視してクローゼットの前まで歩み寄る。

 

 そしてクローゼットからジャージを取り出し、それに着替える。

 

「えっへへ〜……ひとがいっっっぱいだああぁぁ〜……Zzz」

 

 ルームメイトであるハルウララさんを起こさないように静かに着替えて、寮室から出る時もなるべく音を立てずに出ることを意識する。

 

 誰もいない廊下を渡り階段を降りて、靴箱で運動靴を履く。つま先をタイルにトントンと軽快に突っつくとその音がエントランス中に響き渡る。

 

 外に出るとさっきまでの暗い気持ちが嘘のように思えるくらい清々しい空気が私の体全体を包んだ。

 

 もう暗いものは私の中にはない……大丈夫。

 

 私はいつも走っているランニングコースを回ろうとウォーミングアップした後、走り出しーー。

 

「こんな時間に何やってんだ?」

 

 後ろから声を掛けられて私の尻尾は一瞬驚きでピンッと立ってしまう。

 

 しかし脳内でその声の主を認識した後、私はゆっくりと振り返る。

 

 そこにいたのはアスケラの学生トレーナーである尊野さんだった。彼にはここ数日お世話になっている。

 

「あら尊野さん、おはようございます」

 

「おはよう、んでキングはこれからランニングか?」

 

「えぇそうよ。この時間に走るのが私の日課なの」

 

「そうか」

 

「そうよ……じゃあそろそろーー」

 

「だけど今日走らせる訳にはいかない」

 

 尊野さんはそう言うとこっちに近づいてきて、私の二の腕をがっちりと掴んできた。

 

「……どういうこと?」

 

「今日は日本ダービーなんだから、体力は温存しておけ」

 

「これは私のルーティンなのよ? やらない方がパフォーマンスを低下させーー」

 

「俺はキングに最高の状態で、自分自身が納得する走りをしてほしいんだよ!!」

 

「っ……」

 

 彼の声音はとても力強いものだった。

 

 いつもの私だったらこう言ってもいつものように「このキングの邪魔をするの!?」とか反論していただろう……だけど、今の私は大人しく彼の言葉に従うのだった。

 

 

 




・40分授業楽や〜^

・福引券……ネイチャのように三等しか出ねえw

・次回、日本ダービー 後編 出走
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