少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:日本ダービー、その結果はエルコンドルパサーとスペシャルウィークが同着という結果で幕は閉じた。


栄光の影に 〜日本ダービーを終えて〜

 頭が真っ白になった。

 

 呼吸する声がうるさい……ターフで走る音がうるさい。

 

 私は必死になって脚を動かす。しかし私の体は思考と行動が追いついていなかった。

 

 だけど第3コーナーを回って、私は1番手……このまま行けば私は1着を取れる!

 

 ……なんて、夢のまた夢だったのだ。

 

 第4コーナーに差し掛かった辺りでスカイさんが外から加速してきた。それを見た私はもっと脚を動かそうとするが、思考に追い付けてない体では本気のスカイさんに届くはずがなかった。

 

 そのままスカイさんとの距離が離れていく。でもそれだけならまだ大丈夫だ。日本ダービーで2着は十分な成績だ。

 

 そんな甘えが頭の中で無意識的に浮かんでしまう。その直後だったスペシャルウィークさんが私を交わしたのは……いや、彼女どころでは無い。エルコンドルパサーさんに中団で脚を溜めていた多くのウマ娘たちが外から私を交わす。

 

「(嘘だ……うそだうそだ嘘だっ!!)」

 

 私は無我夢中になって脚を動かそうとする。なのに私の脚は思考とは裏腹にどんどんスピードを落としている。

 

 第4コーナーを回り、私は横目で後ろを見てみる。すると後方で様子を見ていた娘たちが一気に追い上げているのが見えた。

 

 逃げたい……なのに脚は動かず、私は外側でウマ娘たちが抜いていくのを眺める事しか出来なかった。

 

 ふとあるウマ娘と目が合った。それは私と同じチームの娘だった。その娘の瞳はまるで信じられない物を見ているかのように私を見ていた。

 

「(あぁ……あぁ……!)」

 

 私は最後まで顔を上げて走り続けた。顔を下げてしまえばいよいよ負けを認めてしまうという事だからだ。

 

 そしてゴールまで残り100mの時、観客席から歓声が聞こえてきた。実況を聞いてみる考えるにスペシャルウィークさんとエルコンドルパサーさんが同じタイミングでゴールインしたのだろう。

 

 そんな他人の歓声を受けながら……私はゴール板を切った。

 

「(私は……何着だったの?)」

 

 もう何人に抜かれたのか覚えていない。後ろを見ても、他の娘たちもゴール板を駆け抜けており、自分が何着なのか分からない。

 

 いつもみたいに確定板を見上げる……だが確定板は5着までしか表示されないことをその時だけは忘れていた。

 

 そして私はその確定板に書かれている文字に驚きを隠せなかった。

 

「同……着?」

 

 それはつまりこのダービーを制したのは2人という事になる。

 

 ……スペシャルウィークさんとエルコンドルパサーさんが1着。スカイさんは4着。

 

 その事を事実として受け入れた私はきつく目を瞑り、天を仰いだ。

 

   ・ ・ ・

 

「いやーまさかあそこで抜けられるなんて思わなかったよ〜」

 

「はい! この日のためにしっかりと練習を重ねたんです!」

 

 エルコンドルパサーさんとスペシャルウィークさんの1着が決まった後、私はスカイさんと一緒にスペシャルウィークさんにお祝いの言葉を贈っている。

 

 確かにスペシャルウィークさんの迫力は皐月賞とは全く違うものがあった。それは抜かれた時に思った。

 

「トレセン学園に来てまだ数ヶ月で、ここまで走れるなんて……本当に尊敬するわ」

 

「キングヘイローさん……ありがとうございまーー」

 

「キングよ」

 

「えっ?」

 

「これからはキングでいいわ、スペシャルウィークさん」

 

「……分かったよ、キングちゃん!!」

 

「ちゃ、ちゃん!?」

 

 こうして勝者にお祝いの言葉を贈るのは一流のウマ娘にとっては当然な事だ。今までだってそうして来た。

 

 ……なのに、私の奥底にいる自分自身はこの場から離れたくて仕方なかった。

 

「あっ、スペシャルウィークさん! 週間トゥインクルの相木です! 今取材は良いでしょうか?」

 

「えっ、あ、あの今はみんなとーー」

 

「いいわよ、勝者は素直にインタビューを受けておくものよ。じゃあまた明日、教室で会いましょう」

 

 そう言いながら私は堂々とその場を去る。スペシャルウィークさんとスカイさんが私に何かを言っていたような気がするが、それは気のせいだと思いそのまま地下バ道まで歩く。

 

 あの週刊誌の記者さんが間に入って来てくれたお陰であの場を去るちゃんとした理由ができた。勝者であるスペシャルウィークさんとエルコンドルパサーさんはもちろん、皐月では1着だったが4着だったセイウンスカイのインタビューをあの記者の方は取りたいだろう。

 

 逆に言えば10着にも入っていない私をインタビューする価値などない。

 

 ……今の私は価値のないウマ娘だからだ。

 

「自分自身で改めて考えると……結構心にくるモノがあるわね」

 

 自分自身の控え室まで戻り中に入ってゆっくりと扉を閉めた後、私は部屋の隅に移動して壁にもたれかかりながらそのまま座り込む。

 

 あぁ、ようやく1人になれた。

 

「うっ……ぐすっ……あぁ……!」

 

 私の瞳から大きな温かい水の雫が溢れてくる。その雫はいま着ている勝負服のスカートを濡らす。

 

 私は一体、何をしているんだろう。

 

「(今日は生涯に一度しか出られないダービーだったのよ……なのになんなのよ! この体たらくは!!)」

 

 ダービーに勝つため? これが最善の一手?? あの時会った谷崎さんにはそんな大それたことを言った。

 

 だけど私は怖れていただけなのだ。自分は一流なんかではなく、平凡なウマ娘……それを認めるのがイヤだっただけなのだ。

 

 作戦を逃げにしたのだって、結局は自分の本当の走りというものから逃げた結果なのだ。

 

 でも、いよいよ認めないといけないのかもしれない。いや、認めてしまった方がこの先の人生が楽になる。

 

「(私は……一流なんかじゃーー)」

 

「キング?」

 

 自分自身の愚かさを認めようとしたその瞬間、前から声を掛けられた。

 

 私は顔を上げてその声の主……尊野一真の見上げる。彼には今回のダービーに向けて色々とお世話になった。

 

 いつもだったらこんなはしたない姿を見られるなんて死んでもイヤなことだが……今は何のリアクションも起こせない。

 

「部屋のノックくらいしなさいよ」

 

「したよ。だけど何も返事がなくて……泣いているのか?」

 

「……えぇ、悪い?」

 

 私の口は今や考える前に言葉が漏れてしまっている。だからこそ私が言っていることに私自身が情けないと思ってしまう。

 

 一流なら、もっと考えて発言しなさいよ。

 

 なんて思っていると控え室内に携帯の着信音が鳴り響く。

 

 私はゆっくりと立ち上がってバッグの中から携帯を取り出す。

 

 そこに表示されていたのは……『お母さま』の文字。

 

「(慰め……いえ、きっと逆ね)」

 

 そうは分かっていても私は通話ボタンを押した。

 

『……もしもし?』

 

「……ごきげんよう、お母さま」

 

 そう言うと尊野さんは驚いたような顔をしている。

 

『ダービー見ていたわ……まさか2人も制するなんて誰が想像したんでしょうね』

 

「……そうね」

 

『スペシャルウィークさん、そしてエルコンドルパサーさん。同期にあそこまでずば抜けた存在がいるとはね』

 

「……えぇ」

 

『ーーでも今日の走りはどういうことかしら?』

 

 それを聞かれるのは当たり前のことだろう。

 

「……分からないわ」

 

『分からない? 自分自身の走りが分からない者にターフで駆ける権利なんてあるかしら?』

 

「……ないわね」

 

『なら、その身に染みたんじゃないの。『もう諦めるべきだ』って』

 

「……」

 

 入学当初からそうだった。お母さまは私をレースで走る事を忌み嫌っている。初めて重賞レースを走った時もこうして電話をし辞めるように言ってきた。皐月賞の時も「もういいでしょ?」的な物言いもされた。

 

 だけど私はそんなお母さまを認めさせたくて必死になっていた。

 

 でも、ここで折れれば……楽に終わる。

 

「そうね……」

 

『……その物言い、諦めるってことね』

 

「そうよ」

 

 今まで言いたくなかった……でも今なら素直に言えそうな気がする。

 

 重たかった枷が外れたように思える。

 

「私は、一流なんかじゃーー」

 

「違うッ!!」

 

 尊野さんが……そう叫んだ。

 

「キングは一流だ! その素質だって才能だって、努力できる力もある!!」

 

『……そこに誰かいるの?』

 

 ウマ娘はヒト耳はあるが退化していてあんまり使いものにならない。聴覚を担っているのはウマ耳の方だ。

 

 しかしヒト耳とは違ってウマ耳は頭より上にある。だから普通の人みたいに携帯のスピーカーを耳に当てるのは肩を痛める。なので電話は基本スピーカー通話にするのだ。

 

 つまり今のお話を尊野さんは全部聞いているし、お母さまも尊野さんの声を聞いている。

 

「俺は尊野一真! 彼女が所属しているアスケラの学生トレーナーです!!」

 

『学生トレーナー? 担当が付いていない分際で何をほざいているのかしら?』

 

「確かに俺はまだ学生トレーナーです。だけど彼女の才能を貶すことは親であるあんたでも許さない!!」

 

『じゃあ今日の走りをどう説明するのかしら? 14着で才能を持っているというのかしら?』

 

「今のキングは自分を見失っているだけだ! それを見つけてあげるのが、俺たちトレーナーの仕事だ!!」

 

 彼はそう言いながら私に近づき、私が手に持っていた携帯を奪い取る。

 

「キングはこれからも走らせますよ。あんたが止めようと関係ない」

 

 そう言うと彼は通話終了ボタンを押した。

 

 その後、この控え室に静寂が訪れる。

 

 私は何かを言おうとしたが、上手く口が動かない。

 

 自分の体が思ったように動かないことに悶々としていると、彼は私の目を真っ直ぐと見つめた。

 

「キング、正直言って今日は……君の走りは見えなかった」

 

「っ……分かっ……てるわ」

 

 それは私自身が痛いほど自覚している……だからもうーー。

 

「だから、また見つけよう……1からもう一回」

 

「……1、から?」

 

「そうだ。それは途方も無い時間を費やすことになると思う……だけど、約束させてくれ」

 

 彼は大きく深呼吸をして、強い眼差しで私の瞳の奥を見て言った。

 

「俺は絶対、キングの近くにいる……だから走ってくれ、これからも」

 

「……」

 

 ーーその言葉で何が変わるというの?

 

 いえ、何も変わらない。だけど変わらないのはこの今だけよ。

 

 ーーその言葉は価値ある言葉かしら?

 

 そんなの分かるわけないわ。少なくともこうしてうだうだしている今はね。

 

 ーー一流じゃない男の言葉に耳を傾けるのかしら?

 

 いえ逆よ……私は一流じゃない。彼も一流じゃない。ならなればいい、2人で一緒にね。

 

 ーーその先は茨の道が待っているわよ、楽にならなくていいの?

 

 それもいいかもしれないわね……でも、一流になろうとするウマ娘は道を選ばないわ。

 

 それに……この人と抗ってみるのも、案外面白いかもしれないわね。

 

「……分かったわ」

 

「っ! 本当か! よかーー」

 

「ただし!!」

 

 すぐに喜ぼうとする尊野さんを制止させて、私はある要求を提案……いえ命令する。

 

「あなたもキングと一緒に一流になりなさい! そして一緒に高みを目指す権利をあげるわ!! おーっほっほっほ!!」

 

 いつもしているような高飛車な笑い声を上げる……なんか久しぶりにした気がした。

 

「ははっ、やっといつものキングになった……分かった、俺も一流になるよ!」

 

 私の名前はキングヘイロー……一流になるウマ娘よ!!

 

 さぁ始めましょう……また1から、一流を目指す旅をッーー!!

 

 

 

 

 




・デジちゃん可愛い……出てくれてありがとう。

・ヨウツベ怪文書が400くらいハートつけられた……わお。

・次回から第5.5R、スズカを中心としたお話の予定です。
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