少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA129,000を突破、第9話のUAが10,000を突破しました! 本当にありがとうございます!!
「メジロ家主催のパーティー?」
『はい、今週の日曜日に行われるんです』
俺は自室のベッドでゴロゴロとしていたが、マックイーンから電話があった。ただ耳に当てるのが面倒臭かったのでスピーカーをオンにしている。
要件としてはメジロ家が主催するパーティーが今週の日曜日に行われるという。
メジロ家ではGⅠレースに出走するメジロ家のウマ娘がいる時、激励会と称してメジロ家の中でパーティーを行う。そのパーティーにはトレセン学園のトップ……いや、トレセン学園を支援しているURAの幹部レベルの人や他の有力な家柄の人たちが参加する。
そんなパーティーに一生徒である自分が参加するなんて普通ならあり得ないことなのだが、マックイーンと関係を持っているので誘われる事があるのだ。
ただまぁ、今回は見送るとしよう。理由? 疲れる。
いやもっとちゃんとした理由を言うなら……あのパーティーに行くとマジで胃がキリキリするのだ。あれは中学校の合唱祭よりも緊張する。
ということで断りを入れる。
『えっ? 今回のパーティー、玲音さんは強制参加ですわよ?』
「……ゔぇ? なんで??」
『今回の主役が玲音さんを絶対に呼ぶって言っていたんです』
俺を絶対に呼ぶ? 一体誰が……それに今回の主役って誰だ?
なんて思っているとコンコンコンと、寮室の扉がノックされる音が部屋に響いた。
俺は少し困惑しながらも扉の前まで歩み寄り、ゆっくりと扉を開けてみる。
そこにいたのは……左のウマ耳にターコイズグリーンのリボンを付けている茶髪のウマ娘がいた。そして俺はそのウマ娘の名前を知っている。
「ど、ドーベル……?」
「こんばんわ、玲音」
メジロドーベル……俺と同い年のメジロ家のウマ娘。彼女とはマックイーンと同じくらいの期間関わりを持っている。
だが……俺は現在ドーベルに嫌われている。
その理由は単純、去年のオークスで彼女の招待を断りレースを観戦しなかったからだ。
それだけで? って思ってしまうところももちろんある。だがその事が彼女を傷つけた事には変わらない。
秋華賞は絶対に観に行くと言ったが、それは彼女自身に止められた。
あの時の怒り顔は……忘れたくても忘れられない。
だからこそ、ドーベルがこうして俺の部屋の前に現れた事に困惑を隠し切れなかった。
「部屋、入ってもいいかしら」
「えっ、あっ、あぁ……」
困惑して思考が上手く出来ないまま、俺はドーベルを部屋に入れた。
ドーベルの尻尾は歩いているのにも関わらず一切揺れることはなかった。普通に歩けばちょっとは動くはずだが……もしかして緊張している?
確か彼女は男性が怖い……いわゆる男性恐怖症だ。自分はまだ関わりを持っている分、心を許してくれているところがある。だがそれでも男と2人で同じ部屋にいるということは彼女にとっては怖いことなんだろう。
だけどなおさら、なんでドーベルは俺の部屋に?
……分からない。ドーベルが考えていることが全然分からない。
「……アタシ、アンタの部屋初めて入ったわ」
「そう、だな。むしろ意外だよ、ドーベルが男性の部屋に入るなんて……」
「……そうね、お爺様以外の男性の部屋に入ったのはアンタが初めてね」
「それは光栄なことだな」
「……まぁ、それは別に関係ないこと。本題はこっち」
そう言うとドーベルはスカートのポケットから、何やら紙みたいな物を取り出す。
そして……ドーベルは俺に近付くと”手渡し”でその紙を俺に差し出した。
「(ドーベルが……手渡し!?)」
ドーベルは男性恐怖症……俺もそれは含まれている。
だからいつも物を渡す時は使用人を通してか、どうしても使用人がいない時は組み立て式のマジックアームを使って渡していたのに。
そのドーベルが手渡しでこの紙を渡している事に、俺は大いに困惑する。
けど俺の脳は思ったよりも冷静だった。
手紙を渡す手が……震えている。
それは力強く挟んでいるというよりも、今にも離れてしまいそうな指を微弱な力で挟んでいるという感じだった。
つまり、やっぱりドーベルは怖いのだ。男性が、自分が。
それを感じ取った俺は彼女の手に自分の指が触れないよう慎重に紙を受け取る。
その紙は白紙だった。しかし裏返してみるとそこには『メジロドーベル 宝塚記念出走激励パーティー 本人招待状』という文字が書かれていた。
「今回の主役って……ドーベルなのか?」
「えぇ、そうよ。アタシは次の宝塚記念に出るわ」
「……本人招待状って、俺のこと招待するのか?」
「当たり前でしょ、そのための招待状なんだから」
「……」
「もしそれに出てくれるなら……オークスのこと、許すから」
「えっ?」
ドーベルが言った言葉を脳は理解する……しかし俺が聞き返す前にドーベルは部屋から出て行った。
混乱している俺はしばらく部屋のど真ん中でぼーっと突っ立っていた。
『どうやら、今渡されたそうですね』
ベッドの方からマックイーンの声が聞こえて、俺は意識をハッと覚醒させる。
そっか……マックイーンと電話している時にドーベルが来て、そのまま電話を切らずに放置したからマックイーンも今の話を聞いていた事になるのか。
「あぁ……今度の日曜日に予定を作らなかった過去の俺を褒めてやりたいところだ」
『なんですかそれ……もちろん参加しますよね?』
「そりゃもちろん……オークスのこと結構心の奥でずっとモヤモヤしていたからな、出て許されるなら喜んで参加するよ」
『それは……ドーベルに失礼じゃありませんか? オークスの事を許すって言わなかったら参加しなかったんですか?』
「そんな訳ないだろ」
俺はいつもより語彙を鋭くして言うが、マックイーンからしたら結構下衆な事を言っていると思う。
だけど仮にオークスのことを言われなくても、俺は今回のパーティーには参加していた。
男性恐怖症であるドーベルが勇気を出してこの招待状を渡してくれた。それにドーベルには勝って欲しいと思っている。
ただ、そうなると俺はある問題を抱えないといけない。
『……そうですね、玲音さんはそんな下衆な事を考える人ではないということは、わたくしが一番知っていますわ』
「信頼してくれてありがとう」
『では、こちらでドレスコードを用意してーー』
「いや、いいよ学園の制服で」
『ちょ、ちょっと待ってください!? メジロ家のパーティーに制服で来るんですか!? それに玲音さんに来て欲しいタキシードがたくさんーー!!』
ポチッと通話終了ボタンを押す。あのまま興奮したマックイーンのお話を聞いていると彼女の熱情で断ることができなくなりそうだからだ。
まぁでもあのパーティーに制服で行くっていうのは自分自身で言ってて非常識だとは思う。
でもあそこでドレスコードを選ぶことはある意味の死を意味するのだ。
マックイーンはまだいい、ちゃんとかっこいいタキシードとか用意してくれるから。問題はあるメジロ家のウマ娘……自分よりも歳上で俺はその人には逆らえない。
やばい……思い出しただけでも悪寒が……。
「とりあえず、明日に向けて寝るか」
……自分がこのパーティーに参加する資格はあるのだろうか。
・ ・ ・
次の日の夕方、俺はマックイーンの爺やさんが運転する黒塗りの高級車に乗ってメジロ家の豪邸へと向かっている。
自転車で行くことももちろん考えたが……流石にあそこを自転車で行くというのはなんか、言葉にはできない恥ずかしさがある。
電車に乗って最寄駅から歩こうにもそもそもどこが最寄駅なのかも分からないし……なんて思っていたらチャットでマックイーンが爺やさんに送迎をお願いしたと送ってくれてたので、言葉に甘えてこうして爺やさんの運転する車に乗っているといことだ。
「谷崎様はその格好で参加するのですか?」
「えぇ……自分はマックイーンやドーベルたちと関係があるだけで、メジロ家の人って訳ではありませんから」
「マックイーンお嬢様、そして”アルダンお嬢様”はとても楽しみにされておられましたが?」
「……男とかそんなの無視されて着せ替え人形にされる気持ちが分かりますか?」
「心中お察し致します」
なんて話し合っていると車はメジロ家の豪邸前の門で停車する。爺やさんが車から一度出て行くと門の近くに行き何かを動かす。するとマンガやアニメの世界で見ないような大きな門は、金属同士が軋む音を立てながらゆっくりと開いた。
「では行きましょう」
爺やさんが再び車に乗ってそう言うと車は4気筒エンジン特有のパワフルな音を立てて敷地内に入る。
そうしてまたしばらく走る。というかここ入ってから出るまでの距離長すぎだろ……豪邸とはいえ日常では絶対こんなに長い道必要ないだろ。
「谷崎様、到着しましたよ」
「ありがとうございます爺やさん」
「いえいえ、ではまた後で会いましょう」
俺は爺やさんにお礼を言いながら車のドアを開けて外に出る。ドアを閉めると車は駐車場の方へと去っていった。
そしてエントランスホールまで歩くと受付の使用人さんがいたので招待状をポケットから取り出し、使用人に見せる。
すると許可されたので案内係の使用人について行く……どんだけ使用人いるんだろう。
なんて考えている間に案内役の使用人が「この部屋です」と言いながら扉を開ける。
すると目の前に広がったのは天井にはシャンデリア、床はレッドカーペットが引かれており、辺りには白のテーブルクロスが引かれた大きめの丸テーブルが並べられている。
「ほんと……いつ見ても夢の中にいるみたいだ」
自分は一呼吸して、その会場に入る。
入った瞬間張り詰めた空気が俺を襲う。見た目はとても華やかで楽しそうなパーティーだが、なんでもない一般人の俺からするとここは世界が違う。
少し遠くを見てみれば、トレセン学園の運営を行っているURAのトップとその奥さん。
その隣を見ればメジロ家に並ぶ名家の家主とそのウマ娘。
少し手前を見てみればトレーナーを目指す人なら知らない人はいないトレーナーの名家の御曹司とその親。
「(うん、もう帰りたい!)」
マジで胃がキリキリと痛む……なんでこんなにも有名な人しかいないところに一般人の自分がいるんだろう。
いやまぁ叔父さんは一応そこそこ有名なマンガ家だから普通の人とは少し違うと思うが……次元が違いすぎる!!
こんなところで粗相なんて起こしてしまえば様々なところに敵を作ってもおかしくない。
だから俺はいつも以上に警戒心を高めていた。
いつもより広く視野をーーなんて思っていたせいか、1番近くの人を見落としてしまった。
「うわっ!?」
「おーっとと」
終わった……俺はトレーナーにはなれなかった。
しかし夢が破れたわけでは無い。
彼女たちが走り続ける限り、1ファンとして背中を推し続けようと誓うーー。
「あれ、君は……谷崎くんかい?」
「えっ……あっ」
自分は人生を終えてしまったと思ってしまったが、まだ終わらないようだ。何せぶつかってしまったのは一応知人とも呼べる人だったから。
「郷巳さん……お久しぶりです」
「谷崎くんも久しぶり……前々回前のパーティが最後だったから、大体2年前ぶりかな?」
目の前にいるのは郷巳さん。メジロ家と同じくアスリートウマ娘を育てることを重んずる新家・サトノ家の家主だ。
郷巳さんは元々は資産家だったがウマ娘の走りに魅入られ大金を叩いてウマ娘の育成に力を注いでいる人だ。
主な成績としてニュージランドカップや中日新聞杯など、新家の中ではかなりいい成績だ。
「谷崎くんは無事にトレーナー学科に入れたんだね。チームはどこに所属してるの?」
「スピカです」
「スピカって確か、この前ダービーを制した娘が所属しているチームじゃないか! 凄いところに入ったね!!」
「あぁいや……むしろ拾われたって言った方が正しいかもです」
「それでもノリに乗っているチームトレーナーの近くで学べるなんて滅多にないことだ。しっかり技術を盗むんだよ?」
「もちろんです!」
あぁ、やっぱり郷巳さんと話すとここが実家のような安心感を覚える。
マックイーンとかメジロ家のウマ娘が話してくれる時もあるけど、それだと周りからはメジロ家の関係者として見られるからなぁ。
「あぁそうだ……これ見てみてよ」
そう言うと郷巳さんは携帯を取り出して、何かを操作した後その携帯をこっちに差し出してくる。
するとそこに写っていたのは郷巳さんと、幼い亜麻色の髪の毛のウマ娘。その横には「入学式」の文字が書かれた立看板があった。
「最近小学生になった私の娘、サトノダイヤモンドだ。どうだ? 可愛いだろ??」
「……えぇ、確かに可愛いですね」
それは別にお世辞などではなかった。実際に可愛いとは思うし……というかこういう小学生は男女問わずみんな可愛いような気がする。穢れがないというか、純真というか。俺には持ってないものをこの年代の子たちは持っているからな。
「最近、メジロマックイーンの走りを見せてね。そうしたらこの子「マックイーンさんみたいになりたい!」ってはしゃいでいたよ」
マックイーンは別にレースに勝っている訳でも、ましてやメイクデビューをしている訳でもない。
だが、彼女は小学生の頃から天皇賞に向けてトレーニングしている。その結果、同年代のウマ娘の中ではマックイーンは頭一つ抜けている存在だ。
それにマックイーンの走りはとても綺麗だ。それこそ女優と言われてもおかしくないくらい。
「こういう子が未来のスターウマ娘になるんですかね」
「そうなったら、担当は君になるのかな?」
「そんなまさか……」
「ありえない事ではないと思うよ? 今ダイヤは小学生だから中学に上がる時、君はチームを作っているだろう?」
「……どうなんですかね」
正直自分の数年後なんて全然考えていない。今が必死というのもあるけど……やっぱり俺は数年後にはトレーナー資格を取って、先生みたいなチームを作っているのかな。
昔スペには一人前のトレーナーになるって言ったけど、どこまでが一人前なんだろうな。
「なんだい、作るつもりないのかい?」
「いえ……ただ、数年後の自分なんて今の俺には分かりませんよ」
「トレーナーはそんな甘い考えじゃやっていけない」
「えっ?」
俺は顔を上げ、郷巳さんの顔を見る。その顔はとても険しいものだった。
「あの学園には全てを掛けている人間だっている。そんなところに中途半端に首を突っ込むなら、今すぐ退学しなさい」
「っ……」
郷巳さんの言っていることはご最もだ。あの学園には自分よりも素晴らしい目標を持っている学生が大勢いる。
本当だったら自分は学園に入っていない人間、それがたまたま面接官が先生だったから拾ってくれたもの。
でも俺は必死になって、スズカの隣に立っても恥ずかしくない人間に……!
「(……あれ、ちょっと待てよ?)」
もし仮に……ここにスズカのことを入れないとしたら、俺には何が残る?
分からない。スズカのことを除いたら俺には何が残るんだ??
探せ……探せ……! 何か一つはあるはずだ。
そう思いながら必死に思考する。だけど、そんなものない。
ないのだ……自分がトレーナーを志す理由が……。
「あっ、あぁ……」
その事をひどく痛感し、俺の足は力が抜けた。
膝からレッドーカーペットに崩れ落ち、右手に持っていたガラス製のグラスはスルリと滑り落ち、コトンッと鈍い音を立てて落ちた。中に入っていた水が自分のズボンの膝下を濡らす。
「た、谷崎くん?! 大丈夫かい?!」
まさかこんな事になるとは思ってもいなかったのだろう。郷巳さんは持っていたグラスをテーブルに置いて、膝を曲げて俺の方に触れようとする。
だがその瞬間、会場の照明が次第に落とされていった。しばらくするとある会場の中央にスポットライトが当たる。
「皆様、本日はお忙しい中、メジロ家主催の激励パーティーにお越しいただきまして誠にありがとうございます。ただいまより、宝塚記念に出走されますメジロドーベル様が皆様へ感謝の気持ち、そして今回のレースの意気込みを述べます」
そう言うと進行役は去り、しばらくするとドレスを着たメジロドーベルが姿を現わす。
その姿は昨日とは全然違う……とても凛々しいものだった。
「皆様、本日は私のためにこの会を開いていただき、そして集まってくださり誠にありがとうございます」
「宝塚記念は私がずっと出たいと思っていたレースです。メジロ家として……ということもありますが、宝塚記念はファン投票によって選ばれます。ここで走るということは全国のトゥインクルシリーズの多くのファンに求められているということであり、ここで勝つことは私に入れてくれたファンの人たちに恩返しする事にも繋がります」
「さらに今回、私がお世話になったエアグルーヴ先輩もこのレース参加します。ここで勝つということは私自身が強くなったという恩返しをエアグルーヴ先輩にあげることができる絶好の機会です」
「だから私は宝塚記念で必ず……1着を取ってみせます」
そう言い、ドーベルは深々とお辞儀をする。そして次の瞬間、会場は拍手で包まれた。
……ウマ娘とかトレーナーとか関係ない。
あそこに通っている人たちは全員何かしら持っている。それは夢だったり、使命だったり、憧れだったり、約束だったり……形は様々だ。
でも俺はどうなんだ? ただ再会したかったがためにこの学園に入った。いるかも分からなかったのに……でも会えた。
だがそれだけだ。
その先は? 俺は会って終わりだと思っている。でも実際はそうじゃない。そこで終えてはいけない。新しい目標を立てないといけない。
だからスズカに並べるようなトレーナーにって思っていた……でもそれは目標でも何でもない。ただ縋り付いているだけだ。
俺は無意識にスズカを中心に考えている。そんな俺にスズカを除けば、残るものは何もない。
「(郷巳さんが言っている事は……至極当然だ)」
そう思った俺は会場の出入り口まで進み、静かに扉を開け足早に会場を出た。
「……」
・ ・ ・
「ははっ……何やってんだろ、俺」
会場を出た後、俺はそのまま中庭に出て芝生の上に寝転がり夜空を見ていた。会場辺りは明るいがこの中庭の部分は夜電気を付けないことを知っていた。
だから3等星くらいの明るさだったら普通に見られる。
せめてドーベルに励みの言葉を言ってから去れば、まだここまで心がモヤモヤする事はなかったのだろうか。
いや、今の自分にはドーベルを応援する資格なんてないな。
空っぽだということもあるし、それにもう一つ。
俺はスピカ……いや、俺個人的な願いとして、スズカに勝って欲しいと思っている。
それは裏を返せばドーベルには負けて欲しいと思っているということでーー。
いや、違う。そんな事を本気で考えている訳ではない。だがレースというのは勝者は一人だけだ。この前のダービーは偶然にも同着で二人制した事になったが……そんなの滅多な事がない限りあり得ない。
この疑問自体は昨日から考えていた事だ。だけど考えた上で俺はこのパーティーに参加した。
でも郷巳さんに真実を言われて……俺はますます分からなくなってしまった。
「……爺やさんに電話して、車を出してもらうか」
そう考えた俺は体を起こし、ズボンのポケットに入れていた経緯たいを取り出してメッセージアプリを起動し、爺やさんのトークルームを開いた。
それと同時に、芝生を踏む音が自分の耳に入ってくる。
俺はその音がした方向に顔を向ける。そこにいたのは今日のパーティーの主役。
「こんなところで何してんの」
「……さぁ? 自分でも分かんないや」
「せめて主役には一声くらい掛けなさいよ」
「そうだね、そこは非常識だと思っている」
何でドーベルがわざわざこんなところに……なんて考える力は今の俺にはない。
でもちょうどいいや、ここで一言言って、帰る事を告げよう。
「次の宝塚、アンタの幼なじみも出るってマックイーンから聞いたわ」
「……そっか」
「大方、どっちを応援すればいいか分からない……だから居た堪れなくなってここに来た。違う?」
「……その通りだよ」
俺とドーベルはマックイーンと同じくらい長い付き合い……俺の性格をよくご理解している。
でもまさかその本人に面と向かって言われるとは思わなかった。ドーベルの言葉の一つ一つが俺の心に食い込む。
「応援しなくていいわ」
「……えっ?」
「アンタはその幼なじみの応援をしていればいい……アンタの応援が無くても私は勝てる。それに……その方が私の走りを脳裏に焼き付ける事ができるでしょう?」
「っ……!」
そう言うとドーベルはその場を立ち去った。
俺はしばらくの間、中庭で立ち尽くすことしかできなかった。
***
「少し棘がありすぎではありませんか?」
「マックイーン……いたんだ」
「玲音さんが会場を出て、続くようにドーベルも出ていったので何事かと思って後をつけたんです……それで、なぜあんな言い様を?」
「マックイーンから話を聞いてて思ったけど、今のアイツにはトレーナーを目指す理由がない」
「……どういう事ですか?」
「アイツは幼なじみを除いてしまうと何も残らないのよ、その事を教えるために仲の良い郷巳さんに協力してもらった」
「あぁ、だから郷巳さんは玲音さんといたんですね。それにしても玲音さんの事よく見てるんですね」
「当たり前よ、好きなんだから」
「えっ!? す、すっ!?」
「言っとくけどマックイーンみたいな好きじゃなくて、家族愛や兄妹愛の方だからね」
「そ、そうなんですね……少し取り乱しました。でも理由がないっていうのは至極普通のことではありませんの? むしろわたくし達みたいに使命を持っていたり、最初から夢を持っている人の方が少ないと思いますが……」
「マックイーンの言う通りだと思う。でもアイツは目標が無いとダメになる。今のままだとマックイーンがクラシックに出る前に終わるかそれくらいだと思う」
「そんなに……ですか?」
「……正直、私が勝って解決するような問題じゃ無いのは自分自身で分かってる。でも、少しでも可能性があるなら……私はサイレンススズカさんにも、エアグルーヴ先輩にも負けない」
「(ドーベル、そんなに玲音さんの事を……わたくしに今できる事は、何があるんでしょうか……)」
・また少し主人公が暗くなりマース。
・YouTubeで書いた怪文書……pixivかハーメルンに出そうか検討中。
・次回は宝塚記念、そこで会う意外なウマ娘とのお話の予定。