少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:宝塚記念の後、玲音はスズカに祝いの言葉を送り、ドーベルに感謝の言葉を述べた。

・UA133,000・134,000・135,000、10話のUAが10000突破していました! ありがとうございます!!



トレーナーを目指す同期たちの信念 / キャストは全員揃った

 宝塚記念が終わると期末試験があったが、それは特になんの問題もなく終わり。俺たちは夏休みを待つだけの存在になっていた。

 

 授業の時間も短くなり、いつもより20分くらい早い昼食を尊野と道と一緒に食堂で取っている。

 

 尊野は相変わらず超激辛担々麺を食べている……昔は痙攣したりキボウノハナを咲かせていたのに、今ではどこかの麻婆神父みたいに汗を流しながらもその辛さを味わうようにして食べている。

 

 ちなみに道はサバの味噌煮込み、自分はハヤシライスを食べている。

 

「「トレーナーを志している理由?」」

 

「そう、なんかないかな?」

 

 トレーナーを志す理由が自分には無いということが分かり、俺はしばらくの間苦しんでいた。

 

 だけどライスさんが教えてくれて、この悩みは誰にでもあるということが分かった。志す理由は今から考えればいい。

 

 とは思ったものの、いざ自分で考えてみると意外と思いつかない。スズカがくれた理由以外全然思いつかない。

 

 だから相談してみることにしてみた……仲のいい友人たちに。ライスさんの一件から誰かに相談するということは心がかなり軽くなることを知ったからだ。

 

「いきなり言われても……どう言えばいいかな〜」

 

「というかどうしたの谷崎くん、急にそんな質問するなんて?」

 

「あっいや……これにはマリアナ海溝くらい深〜い事情があるんですよはい」

 

 尊野と道は少し困ったような顔をしたが、すぐに真顔になってくれる。

 

「ワタシはトレーナーの名家である橘家の人間だからって言うのもあるけど……やっぱり理由としてはシンボリルドルフ様と東条さんに憧れたからなかな」

 

「そういえば道ってシンボリルドルフのことが好きーー」

 

「谷崎? シンボリルドルフ様を呼び捨てするのは……ねっ?」

 

「アッハイ」

 

「橘こっわ……」

 

 そう言いながら担々麺を啜る尊野。そっか、尊野はこの状態になっている道を見るのは初めてか。

 

「……でもね、ワタシにもちゃんとした理由がある」

 

「……その理由って?」

 

 道は持っていた箸を箸置きに置いて、姿勢を正しこっちを見る。

 

 その行動を見た俺もスプーンを置く。尊野はズズッと麺をひと啜りする。

 

「ワタシはね、海外で活躍できるウマ娘をここから輩出させたいの」

 

「海外って……香港とか?」

 

 でも香港で活躍したウマ娘もかなりいるはずだがーー。

 

「欧米諸国でだよ」

 

「……オーベイ?」

 

「この日本で7冠を達成したシンボリルドルフ様……でも、越えられなかったものがある。それがアメリカ遠征したサンルイレイステークス」

 

「サンルイレイステークス?」

 

 海外のレースについては知らなかったので、道が丁寧に教えてくれた。

 

 サンルイレイステークスとはアメリカで行われているGⅠレースのことであり、それにシンボリルドルフは出走した。

 

 だが結果は6着と惨敗……皇帝と言われた彼女からしたら味わったことの無い屈辱を受けたことだろう。

 

「確かにここにいるウマ娘はすごい、でもアメリカやフランスで競い合えたウマ娘は一人いたかいないか。だからワタシは変えてみせる……このトレセン学園で欧米でも競い合えるようなウマ娘を育て上げてみせる!」

 

 そう言う道の瞳には信念が宿っていおり、遠くの未来を見ているようだった。

 

 ……正直驚いた。いつもお淑やか(シンボリルドルフ絡みだと暴走するが)な道にそこまで大きな理由を持っていたことに。

 

 おそらくこの学園にいる学生トレーナーの誰よりも目標が高いんじゃないだろうか。

 

「道はすごい目標を立ててるんだな、関心関心」

 

「お褒めの言葉ありがとう尊野さん……でも話し聞きながら麺を啜るのは失礼じゃないかな!?」

 

「仕方ないだろ! 二人のとは違ってこっちは麺がスープを吸うんだよ!!」

 

 そう言い争いを始める二人を眺めながらハヤシライスを食べ始める。

 

 だが道の目標を聞いてみると自分がどれだけ甘かったのかを痛感したため、さっきよりもスプーンを進める速さは少し遅くなっていた。

 

「そう言う尊野くんにはトレーナーになろうとする理由はあるんですか?!」

 

「あるに決まってるだろ! てかないとここにはいないだろ!!」

 

「ひでぶっ!!」

 

 尊野が言った言葉が俺の心の奥に突き刺さる。そうだよな、普通はあるものだよな、うん。

 

 と、というか尊野にもちゃんとした理由があるのか……。

 

 尊野はぽりぽりと後ろ髪を指で掻きながら、話し始める。

 

「俺は橘みたいにでっかいものじゃねえけど……埋もれてしまう才能を見つけたあげたいっていうのが理由かな」

 

「埋もれてしまう才能?」

 

「橘〜何も難しいことじゃないだろ〜? 谷崎は分かるよな、この前偵察してたんだから」

 

「……あぁ」

 

 それは恐らくダービー前の偵察の時一緒にいたキングヘイローのことを指しているんだろう。

 

 そういえばあの時の尊野はいつになく真剣だった。

 

「ウマ娘の中には家柄や血筋に囚われていたり、レースで成績を残せなくてそのまま自然消滅する娘はごまんと居る……俺はそんな娘を少しでも減らしたいって考えているんだ」

 

「……意外、結構考えていたんだね」

 

「まぁ、橘の理由ほど立派なものじゃねえけど……俺には俺の信念がある」

 

 同期、そして友達である学生トレーナーの尊野と道。二人にはそれぞれの信念があることが分かった。

 

 ……こんな空っぽな自分でも、理由や信念は見つかるのだろうか。

 

   ・ ・ ・

 

 お昼ご飯を食べ終えて、俺たちは教室に戻っていた。

 

 基本お昼を取った後は3人で世間話や雑談をするか、そのまま解散して読書か睡眠に勤しむが、今日は読書をすることにした。

 

 この前書店で「人生逆転最強メソッド」というものが売られていたのでそれを見ることにした。

 

 なんでもこれを読んで何かを書き込むと自分の目標が見えてくるのだという……しかも著者はかなり有名な弁護士らしい。

 

 今目標を持っていない自分からしたら、これほどタイムリーな本はないだろう。

 

 さて、どんなものかーー。

 

「おーい! 新人いるかー!!」

 

 バーン! と大きな音を立てながら扉を開けたウマ娘に教室にいた全員が視線を向ける。

 

 そこにいたのはゴルシだった。そして新人とか言っているからおそらく俺のことだろう。というかなんでゴルシは自分のことを新人って呼ぶんだ?

 

 なんて思っているとゴルシと目が合い、向こうがじりじりと近づいてくる。嫌な予感しかしない。

 

「そこにいるんだったらもっと早く反応しろよ、お前はナマケモノか?」

 

「……どうしたんだよゴルシ、用件がないならーー」

 

「マックイーンのことでちょっとな」

 

 そう言ってゴルしはポケットから何やら折り畳まれた紙を取り出し、それを机の上に広げる。

 

 その紙の上にはデカデカと入部届と書かれている。そしてそこには『目白魔苦院』と書かれている。

 

「めしろまくいん?」

 

 どこかの金爆の歌手だろうか。

 

「何言ってるんだ、メジロマックイーンって読めるだろ?」

 

「いやそうはならんやろ」

 

 当て字で苦しいとか使うって昔の暴走族総長か何かかな? というかこれ絶対ゴルシが書いただろ。

 

 でも書いている字はともかく、結構字が上手いな……なんか意外。

 

「んで、要件は?」

 

「それなんだけどよ、今日の放課後にマックイーンをここに待たせるから迎えに行って欲しいんだ」

 

 そう言ってゴルシは手書きの地図を出して「ここ」と言いながら指を差す。確かそこら辺は芝の広場だったはず……なんでこんなところに?

 

「てかなんで俺が行くんだよ、ゴルシが知っているんだからゴルシが行けば良いじゃないか」

 

「アタシはちょっと用があるから遅れるんだよ、それにお前が行ってやった方がアイツも喜ぶだろ? じゃあそう言うことでー!」

 

「あっ、おい!?」

 

 ゴルシは出していた紙を掴み上げるとそのまま教室を出て行った。

 

 そうしてその様子を見ていた尊野がこっちに近づいてくる。

 

「なぁ谷崎ってウマ娘の知り合い多いのか?」

 

「んっ、なして?」

 

「いや少し前にも別の子が入ってきただろ?」

 

「まぁチームに入っているし……別に普通じゃない?」

 

「あんまり他のウマ娘がこっちに来ることって珍しいけどな」

 

 ……言われてみれば他のクラスメートがここでウマ娘で喋っているところって見たことないような気がする。

 

 そもそもトレーナー学科の教室があるこの廊下を渡るウマ娘の数はそんなに多くない。

 

「谷崎って結構ウマ娘と近いよな」

 

「別に普通じゃないか? 一緒の学園に通っていて、チームメイトでもあるわけだし」

 

「そこがおかしいんだよ」

 

「へっ?」

 

「トレーナー学科の学生はチームやウマ娘たちと距離を取ることが多いんだよ」

 

「そんなこと……」

 

 ないだろと言おうとした時、俺はリギルを偵察していた時のことを思い出す。

 

 そういえばリギルを観察していた時、学生トレーナーもいたけど、基本練習に参加しているというよりは見学しているような感じだったな。

 

 自分は基本ウマ娘の練習の準備をしたり、時々一緒に混じっていたりしているから感覚が狂っているのかもしれないけど、もしかしてあの距離って普通のチームじゃありえないことなのか?

 

「まぁ谷崎が入ったスピカっていうチームは結構特殊そうだよな、ほんとどうやって入ったんだよ」

 

「……まぁ、色々とね」

 

 でもそうか……スピカのあの近さは普通の人からしたら普通じゃないのか。

 

 それに自分自身スズカという幼なじみ、マックイーンという妹に近い存在、そして記憶は薄いけどお姉さまだったライスお姉様と昔からウマ娘と関係のある日常を過ごしている。

 

 でもそれも普通の人からしたら普通のことではない……いや、メジロ家に関しては普通では絶対ありえないことだしな、うん。

 

「それにお前も幸せそうだな」

 

「えっ、なんでそう思うんだ?」

 

「だってウマ娘と話している時の谷崎って、すごく楽しそうだぜ?」

 

「そう、なんだ……そうなのか」

 

 尊野が言ったその言葉は……自分の心の隅っこに深々と刺さったような気がした。

 

   ・ ・ ・

 

 帰りのSHRが終わり、俺はゴルシが広げた地図に記されていたところに向かう。今回のSHRは少し先生の話が長かったので気持ち早めに歩く。

 

 するとそこには見知った薄紫髪のウマ娘が先に着いており、木の下に座りながら文庫本を呼んでいた。

 

 俺がゆっくり近づくとウマ耳がこっちに向く。人の存在に気づいたのか彼女は文庫本の文章を見ていた視線をこっちに向ける。

 

 そして目と目が合う。

 

「……玲音さん?!」

 

「やあマックイーン」

 

「どどど、どうして玲音さんが!? ゴールドシップさんが来るはずじゃ……」

 

「なんかゴルシは用があるらしいから代わりに行けって言われたんだ。マックイーン、スピカに入ってくれたんだね」

 

「……えぇ」

 

 俺はマックイーンの隣に座る。練習は今日は遅めにスタートするらしく、まだ時間はある。

 

 まぁ特にレースに出る予定はないというのもあるだろうし、ウマ娘というのは暑さに弱い子が多い。だから少し太陽が沈み始めてからということもあるんだろう。

 

「あの、玲音さん。一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「んっ、何かな?」

 

「玲音さんはなんでチーム・スピカに入ったんですか?」

 

「あ〜それね、ちょっと特殊だけどーー」

 

 そうして俺はスピカに入った理由……というより先生に拾われた経緯を説明した。

 

 そういえば何だかんだ誰かに自分がスピカに入った理由を他人に話すのって初めてだな。いや、マックイーンは妹みたいなものだから、知人と言ったほうがいいか。

 

「そんな事情があったんですね……」

 

「そう、だから面接官が先生じゃなかったらここに入れなかったし、スピカに入ったからスズカと再会できて……チームのみんなとも会えたんだ」

 

「何にやら……運命的なものを感じますね」

 

「確かに確率としては本当に運命的だよなぁ」

 

 そう考えると人生というものはなんとも数奇なものだと考えてしまう。

 

 この学園に来てからほとんどいい事しか起こっていない。今はちょっと沈んでいるけど、でもそれはほんの一部だけ。

 

 俺は拉致られてスピカに入ったけど、今の俺なら「あいつらに捕まっとけ」って逃走を邪魔させるだろうな。

 

「スカーレット、ウオッカ! やっておしまいなさーい!!」

 

 そうそうこんな感じに……えっ?

 

「えっ、きゃあ!?」

「ゔぇ、うぎゃあ!?」

 

 次の瞬間、俺とマックイーンは何かに包まれる。というかこの匂いなんか懐かしいような。

 

 てかえっ、スカーレット? ウオッカ? それにさっきの声って……なんて考えていると俺たちは二人同時に担がられる。

 

 これってやっぱり、あの拉致だよな?

 

 なに? スピカに入る時の定番になってるのこのキッドナップ。

 

 まさかスペもやられてたいのかな……なんて冷静に考えてしまっている辺り、俺は結構このチームに浸透しているのかもしれない。

 

「な、何事ですの?!」

 

 俺の腹の上でパニックになっているマックイーン、まぁこれが普通の反応だよな。なんて思いながら俺は温かい目で見守る。

 

 しばらくすると部室の扉が開かれる音が聞こえ、俺とマックイーンは床に降ろされる。そしてバサッと勢いよくズタ袋を上に引っ張って部室の蛍光灯の明るさが俺の目を襲う。その明るさに少し目を細める。

 

 横目でマックイーンを見てみると腕を組みながらウマ耳を後ろに倒して明らかに不機嫌になっている。

 

「さっ、みんな挨拶だ」

 

『ようこそ、チーム・スピカへ!!』

 

 よく見てみると先生の隣にいるスペが「なんか見たことある……」みたいな顔をしている。

 

 先生はゆっくりとマックイーンに近づいていく。

 

「よろしくな!」

 

「……はぁ」

 

 先生が差し出した手をため息をつきながらも取ろうとするマックイーン。

 

 だが「んなぁ!?」と悲鳴を上げて、すぐに後ろを向く。するとそこにはマックイーンの尻尾にピンク色のリボンを付けているゴールドシップが、キュッとリボン結びをし、マックイーンにバレたことに気付いたゴルシは逃走を謀る。

 

 しかしマックイーンはガッチリとゴルシの尻尾を掴み、ゴルシが逃げないように強く引っ張る。

 

 ゴルシは「やめろー! 抜けるー!!」っと痛がっている。ウマ娘の尻尾というのはウマ娘の中でもとても敏感な部位であり、乱雑に扱うことはできない。でもまぁ、これはゴルシの自業自得だから助けるつもりはないが。

 

「また問題児が入っちゃったわね」

 

「あー! ちょっとまたってどーゆーこと!?」

 

「スカーレットそれお前が言うわけ〜?」

 

「はぁ!? あんただけには言われたくないわよ!?」

 

「なにおー!? オレだってお前にだけは言われたくねえよ!!」

 

 俺の後ろではスカーレットとウオッカとテイオーが何かを言い合っている。

 

 いうてみんな問題児ではない気が……ここで問題児ってゴルシと俺くらいなんじゃないかな。

 

 なんて思っているとスペが異様にニコニコしていたので、俺はスペに近付く。

 

「どうしたんだスペ、そんなに笑顔で」

 

「なんかあの二人、なんかとても仲良さそうでウマが合うな〜って」

 

「確かに二人とも仲良いよなぁ……いや、ゴルシが一方的に接しているだけか?」

 

「私、あの二人には運命的なものを感じます!」

 

 運命的かぁ……スペが言ったことを心の中で反芻させながら、マックイーンとゴルシを見る。

 

 確かにこうやって離れたところで見てみると、二人って結構似ているような……血縁関係者だって言われても全然違和感が無い。

 

 でも姉妹かって言われると……なんかそれも違うような気がする。

 

「……とまぁ、これがうちのチームだ。色々大変だと思うが、よろしくな」

 

「不安しかありませんわ……でも、わたくしはメジロ家のウマ娘。悲願達成の為にも……今後ともよろしくお願い致します」

 

 そう言いながらマックイーンは先生の手を取り、握手を交わした。その様子をチーム・スピカの全員で見守る。

 

「いてて……マジで取れるかと思った……」

 

「自業自得だろ、保健室行くか?」

 

「それほどじゃねえよ……(これで全員揃ったな)」

 

「んっ、なんか言ったか?」

 

「これから面白くなりそうだなって言っただけだ……よーし! なら早速着替えに行こうぜ!! 行くぜマックちゃーん!!」

 

「なっ、ちょっ!? そんなカバンみたいに持ち運ばないでください!!」

 

 ゴルシはマックイーンを脇に抱えて部室を出て行く。それに続くようにチームのみんなも出て行った。

 

「さて、俺たちも練習の準備をするか!」

 

「はい!」

 

   ・ ・ ・

 

「というかなんで俺はまた攫われたんだ??」

 

「はっ? んなもんノリに決まってんだろ??」

 




・ウオッカのところ本当は「言われたくなーい!」ですけど、アプリ版のウオッカを考えるとこっちの方がいいかなと思いました。

・ハロウィーンのライスブルボン尊い……アッ(尊死)

・次回は夏休みに入ってある娘と虫取り、そしてそこで運命の出会いが……。(予定)
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