少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA137,000・138,000を突破しました。ありがとうございます!
「服よし、財布よし、充電器よし、その他もろもろよし!」
時刻は午前6時、俺は自分の部屋で荷物を指差し確認をしていた。
今日からチーム・スピカは夏合宿を始める。だがそこでちょっとした問題が起きてしまった。
それは移動の時、先生の車だと助手席も含めて7人しか乗れないのだ。チーム・リギルやアスケラなど部員数の多いチームはある程度まとまってバスで移動できるのだが、その上限は8人(トレーナー・学生トレーナーを含めない)ということになっている。
だから俺だけ公共機関での移動ということになった。
まぁ公共機関での移動は慣れているし、初めて行く場所でも携帯があれば迷うことはないだろう。
「うし、全て入ってるな……んじゃ行くか」
俺は床に置いてたバッグを肩に掛けて、部屋を出て鍵をかける。しばらく使わないからだ。
階段を降りてラウンジに行くと未浪さんが受付の窓を開けていた。
「おお谷崎くん、今日は早いねぇ」
「おはようございます。今日からチームで合宿なんですけど、車に全員乗れないから俺だけ公共機関で移動することになったんですよ」
「ありゃりゃ、そりゃご苦労様だねぇ」
俺はポケットに入れていた部屋の鍵を未浪さんに見せるように受付の窓口のところに置く。
こうやって長期間部屋を空ける時は未浪さんに鍵を預けるのだ。
「合宿の後そのまま北海道に行くんで、10日間空けますね」
「はい分かりましたぁ、貴重品とかはちゃんと持って行ってるね?」
「もちろんです。それじゃ行ってきますね」
「はい、気をつけてね〜」
未浪さんに見送られながら俺は後生寮を後にした。
まだ朝とはいえ太陽は高々と大空に上がっており、それに応えるようにセミたちが何十匹で合唱を奏でている。
学園の最寄り駅まで歩くとすでに背中は汗で濡れていた。
それを電車のクーラーで冷やして乾かす。終着駅である新宿まで少し時間があるので、俺は少しだけ目を閉じた。
***
午前7時、私たちチーム・スピカのメンバーは校門のところでトレーナーさんを待っていました。
「私、合宿なんてしたことないんで楽しみです!!」
「ボクもボクも! 今から海に行くんだよね? だったら遠泳とかすごく楽しそう!!」
「アタシも初めてですね……でも海ってなると日焼けが……」
「なんだぁスカーレット、そんな小さいこと考えてんのかよ?」
「日焼けを甘く見ちゃいけないわよ!」
こうしてお話を聞いているとこのチームは合宿初心者が多いみたいです。私はリギルやその前に所属していたチームで合宿は経験したことありますが、かなり厳しいものです。
特に砂浜全力ダッシュとかはいま考えてもかなりキツいものでした。
「おめえら今から行くのは合宿だぞ? 遊びに行くんじゃねえ」
「そういう貴女が一番遊び行く格好をしていますわよね!?」
ゴールドシップさんの言うことは正しいとは思うけど、マックイーンが突っ込んだように今のゴールドシップさんはシュノーケルを装備して、肩には浮き輪が掛けられていたり、手には水鉄砲が持たれていたり……どこから突っ込めばいいのかしら。
「アタシは金槌だから泳げねえんだよ!!」
「それでも水鉄砲やシュノーケルはいりませんわ! それに浮き輪だって今やってはただ大きいだけの荷物ですわ!!」
マックイーンはそう言うとゴールドシップさんの無駄な物を取ろうとします。
あっ、水鉄砲を取り合ってたらマックイーンの指が滑ってトリガーを引いてしまいました。水鉄砲から発射された水はそのまま一直線にゴールドシップさんの目に……。
「ぎゃああああああ!?」
「あら……でもそんなに痛くは……何ですのこの赤っぽい水?」
そう言ってマックイーンは水を指に出して、ペロッとその水を舐めます。瞬間、耳と尻尾がこれでもかというくらい真っ直ぐ立ちました。
私も気になってその水の匂いを嗅いでみます。すると何やら酸っぱ辛そうな匂いが香りました。タバスコとか……でしょうか?
なんて思っていると、道路に止まる一台のミニバン。助手席側の窓が開き、そこから顔を出したのはトレーナーさんでした。
「待たせたなぁ……って、ゴルシどうしたんだ?」
「タチの悪いイタズラをしようとした罰です」
「またなんかやろうとしたのか……まぁいい、お前ら乗れ」
トレーナーさんに言われて私たちは車に乗り込みます。ちなみに荷物に関しては数日前にお世話になる宿に宅配で送っています。
リギルの時はバス移動で、かつ荷物は荷物置き場に置けたので宅配で送るのは初めてだったので、本当に宅配が送られているのかと少し心配になることはあります。
ちなみに席順としては一番後ろがテイオー・スカーレット・ウオッカ。真ん中がマックイーン・スペちゃん・私。助手席は最後まで悶えていたゴールドシップさんが消極的に座ることになりました。
「よーしお前ら、ちゃんとシートベルト装着したな?」
『はーい!』
「じゃあ合宿場に向かって出発だ!!」
そう言うとトレーナーさんはゆっくりとアクセルを踏んでミニバンを動かします。
ウマ娘は時速70キロくらいで走れるのでここら辺の法定速度だったら自分の足で走る方が早いです。
でも私は車での移動も結構好きなんです。いつもと違う心地良い揺れがあるというか、自動で景色が映り変わっていくこの光景は車でしか味わえません。自分の足で走っているとどうしても前の方に集中してしまいますからね。
「それにしても、玲音さんは大丈夫なんでしょうか」
「一人だけ公共機関でしたわよね……使いの者に迎えを出すって言ったのに断れてしまいましたわ」
「そこまで入り組んだところではないから、多分大丈夫じゃないかしら」
とは言うものの私も少し心配です。何せ少し前に迷子になったりもしていたんですから。
「一応連絡は来てるから大丈夫だとは思うぞ」
「そうなんですね、少し安心しました」
スペちゃんはそう言うと耳を少しだけ横に倒しました。それに釣られて私も少しだけ横に倒します。
でも予定だと公共機関の方が遅く着くらしいので、会えるのはまだ少し先です。
これから1週間はずっとレオくんと一緒なんだ。それも練習する時だけじゃなくて、朝から晩まで基本いつも一緒。そう考えると、少しだけ恥ずかしいようなでも嬉しいような……なんか不思議な感覚です。
「あの……スズカ先輩」
「んっ、どうしたのマックイーン?」
隣にいるマックイーンから声をかけられて、私は少し驚きながらも彼女の話を聞く姿勢を取ります。
そういえばあまりマックイーンとは話していません。
「一つ聞きたい事があるのですが……玲音さんのことを、どう思っていますか?」
「ん〜そうね……お兄さんみたいで家族みたいに大切な人、かしら」
「大切な人ってことは……好意はあるってことでしょうか」
「もちろんあるわ。そう言うってことはマックイーンはレオくんが好きなのかしら?」
「っ……! そ、そうですね……」
そう言うマックイーンの顔はとても赤くなっていて、明らかにレオくんに好意があることが分かります。
レオくん、会わない間に結構モテるようになったんですかね。他の人にレオくんがいい人っていう事が知られるのは、私にとってはいい事であり、同時に少しだけ寂しくなってしまう部分もあります。
「ちょっとマックイーン、今からテキサスポーカーするから一緒に混じってよ〜」
「ちょテイオー!? わたくしは今スズカ先輩と話しをーー」
「勝ったやつにはコンビニスイーツを奢るぜ!」
「スイーツですって!?」
「「マックイーンの目付きが変わった!?」」
そうしてマックイーンも後ろの遊びに加わりました。私は……少し眠くなって来たので、瞼をゆっくりと閉じました。
・ ・ ・
「間も無く終点、新宿です。お降りの際荷物をお忘れないようご注意ください」
終点のアナウンスと同時に俺は目を覚ます。
寝ていたとはいえ、やっぱり終点が目的地だと安心感があるな。これで終点が違ったら意地でも寝ないように我慢しないといけないが。
付けていたイヤホンを外して音楽プレイヤーを外してリュックの中へ。
「……んっ?」
ふと気になり俺は指を目に近づける。
するとそこには水の粒があった。それに気がつくと何やら頬がクーラーに当たるたび他の部位よりも涼しいことに気づく。
その指を今度は頰に当ててみる。
「えっ、涙?」
俺は涙を流していた。その事に俺は少し自分自身で困惑してしまう。
なんでこんな涙を流しているんだ……なんか怖い夢でも見たのか? いや、俺自身に夢を見たという感覚はないはず。
「でもなんなんだ……この胸のざわめきは」
少し右手で胸を押さえて、このざわめきを収めようとする。
……そういえば、かなり前に見た夢でこんな事を言われていた。
『どうやら貴方は貴方自身の無力さを痛感する時が来るでしょう』
あれってどういう意味なんだろう……近い将来って言っていたから、おそらくその無力さというのは今のこの状態。つまり自分が空っぽの状態のことを表しているんだろう。
いやでも……こうも言っていた。
『近い将来と言ってもそれは数ヶ月後かもしれぬ』
そうだサフィーちゃんは言っていた、数ヶ月後かもしれないと。
一応あの時から1ヶ月後は経ってから空っぽのことは気が付いた……だがその経った1ヶ月をわざわざ数ヶ月というのだろうか。
そうしてそれが当てはまった場合、俺にはまだ無力さを知る機会があるということで……。
「(って、こんなこと考えても仕方ないな)」
むしろこういうのは考えてしまうと逆に叶ってしまうんだ。
なにごともポジティブに……そう、スマイル! スマイル!! 今やっている円谷プロの作品の主人公だってそう言っているんだ!!
なんて思っていると電車は終点の駅に着いた。立っていた多くの乗客が流れるように乗降口から出ていく。そんな光景を少し見た後、俺は席から立ち上がって電車から出る。
「……暑っ」
駅内とはいえ、ムワッとした独特の暖かい湿気が俺を襲ったのだった。
***
「ーーさーん、スズカさーん!」
耳元で誰かに叫ばれているので私の意識は現実に戻されます。
どうやら私は車の中で眠っていたそうです。目を開けて声のした方を見てみるとスペちゃんがいました。
でもスペちゃんの表情はどこか浮かないというか……心配そうな瞳で私を見ていました。
「スペちゃん? どうしたの?」
「あの、スズカさん……どこか悪いんですか?! もしかして車酔いしましたか!?」
「ちょ、ちょっとスペちゃん? 急に詰め寄られても全然状況が把握出来ないんだけど……」
「だってスズカさん、泣いているじゃないですか!!」
「えっ?」
スペちゃんにそう指摘されて、私は自分の指を目に近づけて少しだけ擦ってみる。
すると私の指には何やら液体みたいなものが付いていた。
それを認識してから頰に指を当てると……水の滴が垂れてきた。これは涙?
私、なんで泣いているんだろう……特に心当たりがないからこそ、私は自分自身に起きている事に困惑してしまいます。
そこにトレーナーさんもやってきます。
「ちょっと前からずっと泣いていたんだぞ? それに「ごめんなさい」ってちょくちょく謝ってるし……どんな夢見てたんだ?」
「えっと……すみません、身に覚えがないんです」
「まぁ涙を出すほどだからあまり思い出したくない夢だったんだろう……チェックインするぞ」
そう言われたので私は手荷物を持って車から出ます。スペちゃんにまだ心配されているけど、涙はもう止まっていました。
それにしても、なんで私はさっきまで泣いていたのでしょうか。
必死に夢を思い出そうとしますが……そもそも見ていたのかも分からないくらい身に覚えがありませんでした。
「おっ、あいつから連絡来た……今バスに乗ったそうだ。後40分くらいで着くらしいぞ」
トレーナーさんがレオくんの今の状況を教えてくれました。
その時……私の無意識下ではありましたが、私はレオくんに早く会いたいなと思いました。
「スズカさん! 私たちが泊まる部屋見てみましょうよ!」
「す、スペちゃん、そんなに手引っ張らなくても……!?」
そうして私はスペちゃんに手を引かれて自分が泊まる部屋を見に行きました。
するとそこには私が宅配しておいた……大きめのキャリーケースが部屋の隅に置かれていました。
「スズカさんって結構大きめのキャリーケースなんですね……もしかして私って荷物少なすぎなんですかね?」
そういうスペちゃんは少し大きめのバッグを持っていました。おそらくですが、合宿がある数日間なら余裕で足りる量でしょう。
「そんな事ないわ。私は少しだけ余分に持って来ているから」
「余分に? なんでですか?」
「……まだ了承してくれたわけじゃないんだけど」
私はスペちゃんに荷物が大きい理由を話しました。
・中間オワタ\(^o^)/
・急に寒くなりすぎやろ……体調崩しかけたわ。
・次回はスピカの夏合宿練習編!(の予定)