少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA143,000・144,000を突破しました。ありがとうございます!!
「よーし、今日の練習はこれで終わりだ」
『ありがとうございました!』
海が夕日に照らし出されて橙色に染まり始めた頃、チーム・スピカの練習は終わった。
ここに来てから数日、最初は海関係ない練習が多く行なっていたが、日を重ねる度に少しずつ遠泳や遊泳、砂浜でのダッシュなど階段形式で実施するようになっていった。
そんな合宿も残すところあと1日……いや、明日は午前中だけだから半日となった。
真夏の太陽に砂浜というダブルコンボは正直唸るくらい暑くてキツいものだったが、幸いにも熱中症になるということもなく、メンバーの誰一人も体調不良を訴えなかった。
さらに練習の合間にみんなで海で遊んだりして、とても充実ある数日間だったと思う。
さて、今日も帰って宿の大浴場で汗を洗い流しますか!
「あっ、玲音先輩。今夜近くで夏祭りがあってスピカ全員で行こうと思っているんですけど、玲音先輩もどうですか?」
「夏祭りかぁ」
俺の叔父さんの地元では夏祭りは何度かやっているが、自分はあんまり参加したことない。多摩川で花火大会がある時は花火目的で行くことはあるが。
でもまぁみんなが行くっていうことなら俺も一緒に行こうかな。一応お金は結構余分に持ってきているし。
「そういうことなら行こうかな」
「それじゃあ18時に玄関前で集合ですよ!」
・ ・ ・
18時になったので玄関前まで来た……だが居たのはトレーナーだけだった。
「あれ、先生も夏祭りに行くんですね?」
「そりゃな。スペとか隙を見せたらめっちゃ食いそうだし、こうして担当の性格や交友関係を知るいい機会だからな」
「なるほど……」
「でもあいつら、18時に集合だって言っていたのに誰一人も来ないとはどういうことだ?」
「まぁ、色々あるんでしょうよ。女の子ですし」
なんてお話をしながら数分……。
「おう! 待たせたな新人、トレーナー!!」
宿の方からゴルシの声が聞こえてきたので、ようやく来たかと携帯をポケットの中に入れて俺は声のした方に顔を上げる。
そして……絶句した。
それはなぜか……それは宿から出てきたのはスピカのみんなだったが、全員格好が浴衣姿だったからだ。
赤、緑、紫、水色、黄色……様々な浴衣の色が俺の視界に入ってくる。
「お前ら……その浴衣どうしたんだ?」
「ゴールドシップさんが全員分の浴衣を用意していたんです!」
「それも全員サイズがピッタリなんですよね……」
「そりゃ着替えの時によくスタイルを見てるからな、全員の数値はこの頭に入ってるぜ! ちなみにマックイーンはこの前より○キロ増えーー」
「そういうことは言わなくてもいいんです!!」
「ぎゃあああああ痛い痛い! アイアンクローはやめてくれぇ!!」
なんてさっきまでシーンとしていた空気が一気に賑やかになる。
いやぁそれにしてもみんなよく似合っているなぁ……スズカの浴衣姿を見るのもマックイーンの浴衣姿を見るのも、俺の記憶が正しければ初めてだな。
なんて思っているとスズカがこっちに近づいてくる。
スズカが来ているのは黄緑を基調として牡丹が描かれている。
「あの、レオくん……この浴衣、似合っているかな?」
「うん、とても似合っているよ」
そう言うとスズカは少しだけ恥ずかしそうに頬を赤くしながら、嬉しそうに尻尾をブンッと横に振った。
「よし、じゃあ全員着替えて来たってところだし、そろそろ会場にーー」
「何を勘違いしているんだ?」
「ひょ?」
「まだ新人の着替えが終了していないぜ!」
まーたゴルシが変なことを言い始めたよ……なんて思っていたが、ゴルシがどこからか甚兵衛を取り出す。
「えっ、ま、まさかその甚兵衛って……」
「おう、新人のためにサイズ調整しておいたんだぜ!」
いやいや待て待て、俺ってゴルシにサイズ教えていたっけ? いやまぁ男性のサイズってS・M・Lといったように、女性のサイズよりも結構簡素にできているからある程度の身長が分かればそれでいいんだろうけど……大分前にゴルシが俺の水着を用意してくれた時、サイズがぴったりだったこともあったし、これを偶然で片づけていいのだろうか。
……なんて深く考えても仕方ないか。ゴルシから甚兵衛を受け取り一度自室に戻ってぱっぱと着替えて再びみんなのもとへ。
そして用意された甚兵衛のサイズは大きすぎることもなく小さすぎることもない。まさにジャストフィットと言えるサイズだった。ついでに用意された草履のサイズもだ。
・ ・ ・
全員でしばらく歩いていると祭り囃子と人の楽しそうな声が聞こえてきた。
匂いを嗅いでみるとソースや醤油などの香ばしい匂いもしてきた。
「祭りっていうのは、この入る前の空気感が堪らないなぁ」
「よく分かってんじゃねえかトレーナー! 学園祭とかも準備する段階の方が楽しいっていうしな!!」
「あ〜、なんとなくそれは分かるかも」
まだ夏祭りに加わっていないのに、先生とゴルシはとっても盛り上がっている。他のみんなも、そして俺もその楽しそうな空気に当てられている。
夏祭り自体も行くのも久しぶりだから、自然と心が踊っているのかもしれない。
さらに少し歩くと屋台などが道の両端を埋めるようになっている。
夜道から屋台独特の温かみを帯びた煌びやかな明かり。それはまるで日常が非日常に、現実世界から別の世界にきたような不思議な感覚。
子どもの頃、まだ背が全然小さかった時、この明かりはとても大きく、そして綺麗に連なっているものだった。
まるで光で出来た道やトンネルを歩いているみたいだと……思ったことがある。そしてその前にはーー。
俺は顔を上げる。
「にんじんベビーカステラ……50個ください!!」
「す、スペちゃん? それはかなり多い気が……」
「大丈夫です! 皆さんで一緒に食べましょ!!」
大量のベビーカステラを買っているスペに付き合っているスズカ。
「アンタ、型抜きなんて器用なことできるのかしら?」
「スカーレットこそ、手がプルプルに震えてるぜ?」
パキッと音が立ち、二人の型抜きが砕ける。
「「あっ」」
「「……」」
「「おっちゃんもう一個!!」」
常日頃からライバルとして競い合っているウオッカとスカーレットは型抜きで勝負している。
「わたくしにスイーツ関連で早食いを挑むなんて、あなたも肝が座ってますわね」
「ボクも結構自信あるよ? マックイーンとゴルシには負けないよ〜!」
「うっし、じゃあ行くぜ。レディー……ゴー!!」
ゴルシがそう言った瞬間、テイオーとマックイーンは綿菓子に齧り付く。
自分から見ても結構速い……だが、ゴルシはそれを上回った。ゴルシは棒に包まっていた綿菓子を手で引き抜くとそのまま両手で潰して一口サイズにして、それを口に含んだ。その間、わずか3秒のことだった。
そしてそれを見たテイオーとマックイーンは目を見開いて口をポカーンと開けている。
「ふっ、3秒5ってところか。このゴルシ様も随分と腕が落ちてしまったな」
「いや十分過ぎるよ!?」
「いや十分すぎですわ!?」
綿菓子の早食い競争を繰り広げて……いや結構虐殺されていたテイオーとマックイーン。そしてゴルシ。
……俺もあの時と比べて背が高くなった。同じ光なのに、今ではただの照明としか思えない。
そして見える景色が全然違う……いつもは背中を見ているだけだったけど、今の俺はこうして辺りを見渡せる。そしてその周りには小さい幸せな時間がいくつもある。
「どうだ、お前もなんか食わねえか? 特別に奢ってやるぞ?」
「……そうですか。じゃあ焼きとうもろこしでも奢ってもらいますかね」
「おっ、定番だな」
そして俺は先生にたこ焼きを買ってもらった。
さて、夏祭りを楽しみますか!!
・ ・ ・
その後、俺たちは夏祭りを楽しんだ。
露店で様々な物を買ってそれで夕飯を済ませたり、時には対決もしたりした。結果、俺たちは両手一杯に色んな袋を下げて持っている。
ちなみに想像以上の出費だったのか、先生は財布を見て顔を青くしていた。
なので途中から自費出費になった。俺は自分のお金で買ったたこ焼きを頬張っている。
隣にはスズカがいて、こちらも自分で出費したりんご飴を可愛らしく小口でちびちびと食べている。
「りんご飴って結構小さいんだけど、一個食べるにはちょっと甘過ぎるんだよなぁ」
「それはちょっと分かるかも……じゃあ交換しない? レオくんのたこ焼きと私のりんご飴。今ちょうどりんご飴半分くらいだから」
「そうだな、じゃあはい」
俺は持っていたたこ焼きの容器をスズカに渡し、スズカはりんご飴をこっちに差し出してきたのでそれを受け取る。
カプッとかぶり付くとりんごの酸味とシャクシャクとした食感。そして周りにコーティングされている飴の甘さがちょうどいい感じだ。
やっぱりんご飴も夏祭りの定番だな。
まぁこれ一個を丸ごと食べるのはちょっとキツいけど。
「あっ、このタコ結構大きい……」
「だよね、普通のコンビニで売っているたこ焼きのタコとは比べ物にならないよね」
「これくらい大きい方が満足感は強いかも……はっふ」
そう言いながらたこ焼きをもう一つ頬張るスズカ。
時間は経っているとはいえまだそんなに冷めたわけではないので、口に入れた瞬間少しだけハフハフと口を忙しく動かしてたこ焼きを冷やそうとしている。ちょっとその動きが可愛く思える。
「玲音さん、にんじんベビーカステラもどうですか?」
「んっ、にんじんカステラ? なんだそれ」
「さっきそこの露店で買ったんです。人参が散りばめられてて甘くて美味しいですよ」
「そっか……どれどれ?」
俺はスペが持っていた袋に手を突っ込んでカステラを一つ摘む。そしてそれをそのまま口に放り込む。
うん、ベビーカステラの本来の甘さににんじんの風味と甘味が効いていて結構美味しい。
というかウマ娘の多くってにんじんが大好物だけど、なんでにんじんが好きなんだろう?
まぁ、俺が食っても美味しいからいいけど……流石に生で食べるのはキツいんじゃないだろうか。
「っ? あの後ろ姿……グラスちゃん! エルちゃん!!」
スペが声を掛けた先を見てみるとそこには私服姿のエルとグラスがいた。
「スペちゃん! それに玲音先輩もブエナス ノーチェス!」
「こんばんはスペちゃん、玲音さん。あら、お二人とも浴衣と甚兵衛を着てるんですね」
「チームメイトの一人が何故だか持って来ていたからな……二人もあると知ってこっちに?」
「はい。日本の夏祭りはいつ来ても楽しいものですから」
「見てくださいスペちゃん、玲音先輩! こんなに金魚取れたんデスよ! 部屋で飼うデース!!」
「エール? 私たちの部屋にはマンボくんもいるんですよ? それにペットは寮では原則禁止ですよ?」
「……マンボくん?」
「ぐ、グラス! その話は~……」
「スペちゃんと玲音さんなら大丈夫でしょう」
そうしてグラスは話してくれた。
マンボというのはエルが飼い慣らしているタカのことを言うらしい。
結構自由奔放でエルもかなり困っているらしいが、外に遊びに行ってもしっかりと戻って来たり、寮長にはバレていないところから結構頭がいい子みたいだ。
まぁ、能ある鷹は爪を隠すってことわざがあるくらいタカっていうのは頭のいい鳥だしな。
「そうデス! スペちゃんも玲音先輩もまた今度マンボに会いませんか?」
「えっ、でも寮ってトレーナーは出入り禁止なはずじゃ……」
「マンボはとても賢いデス。近くの公園に呼ぶこともできマス!」
「なるほどね……」
その後、少し話してエルとグラスと別れた。
・ ・ ・
「「「あー! 楽しかったー!!」」」
「本当、楽しかったですわ」
「楽しかったですねスズカさん!」
「えぇ。レオくんも楽しかった?」
「もちろんだよ」
数時間後、俺たちは射的や輪投げ、多くの食品露店をたっぷり楽しんで宿への帰路に着いている。
いや、本当に楽しかった……この事は北海道の地元に帰ったらお母さんに報告しないとなぁ。
「……あの、レオくん」
「んっ、なにスズちゃん?」
「あのね、レオくんに……おねがーー」
「おいおい! お前ら何満足そうな顔をしてるんだよ!!」
『えっ?』
ゴルシが突然声をあげて言った言葉に全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
いや、これで終わりだろ? もう帰って大浴場でひと風呂浴びて寝るだけじゃ……。
「夏祭りと来たら……これは欠かせないだろ!!」
ゴルシはどこから出したか分からないが、たくさんのソレが入った袋を取り出した。
そしてそれを見た俺たちは……海岸に移動するのだった。
・マイルCSのグランアレグリアすごかった……そして池添騎手に撫でられている時がとても可愛かった。
・推薦入試終わった。にんじん食して天命を待つ……です!
・次回はゴルシが提案したことをする玲音たちのお話の”予定”です。