少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA148,000・149,000を突破しました。ありがとうございます!
次の日、合宿の最終日。チーム・スピカは最後の仕上げを行なっていた。
「おいスペ、ペース落ちてるぞ!! こんなんで京都の3000で戦えると思っているのか!!」
「す、すみません!!」
「今度は絶対決めたタイムで通過しろ! 分かったな!!」
「はい!!」
現在スペが行っているのはトレーナーがタイムを設定し、その時間内に間に合うようにダッシュ。これを何十も上行い、後半のバテてきたところで10本以上そのタイムを切ることができれば終了というものだ。
菊花賞は3000mと今まで走った中で1番長いであろう日本ダービーよりも600mも長い距離になる。だからこそ走り切るための体力が必要不可欠なのだ。
しかしなかなか上手くいかず、これでもう10本目くらいだ。
「スペ先輩すごいわね……」
「もうあれで何回目なんだろう……トレーナーもトレーナーで結構スパルタだよねー」
「確かにあんなトレーナー、オレは初めて見たかもしれねぇ」
「でも……あちらもかなり凄いですわよ」
そう言いながらマックイーンはある方向を見る。3人もその視線移動に釣られてその方向に向く。
そこにいるのは玲音とスズカだった。
「いいよスズ、またタイムが縮んでいる!!」
「ほんと? まだまだ行けそうね」
次のレースは毎日王冠に決定しているスズカはスペみたいに持久力ではなく、トップスピードを上げるような練習を実践している。
その方法は至極単純、走ってタイムを出し、次走る時はそのタイムを更新する様に走るというものだ。
そしてスズカはもう何回も走っているが……三回に一回のペースでタイムを更新しているのだ。もともと早いのにコンマ数秒、着実にタイムを狭めている。
それもかなり走っているのにだ……そう考えてみるとどれだけ異常なことをスズカが行なっているのかが分かるだろう。
「やっぱりすごいねスズカは……ボクも負けていられないや!」
「わたくしも2月のデビューに向けて頑張りますわ!」
***
「あっ、スズ。ちょっと試したいことがあるんだけどいいかな?」
「……ねぇ、レオくん。ちょっといいかな?」
「んっ、どうした?」
「レオくんってみんなの前だと私のことスズって言うけど、それって私が後輩の前でちょっと……って言ったのが理由だよね?」
今からもう5ヶ月くらい前のことになるだろうか。スズカと再会してから間もない時に後生寮の屋上で話し合った時に決めたスズカの呼び方。二人だけの時はスズちゃん、みんなの前ではスズと言うことを決めた……まぁそれはスズカ本人の前では言っていないけど。
「そうだけど」
「あの、よければだけど……みんなの前でも『スズちゃん』って呼んでくれないかな?」
そう言うスズカはどこか不安げで……とても純粋な目をしていた。
一瞬それが可愛いと思ってしまったが、すぐに理性で思考を戻して、俺はその理由を聞くことにする?
「別にいいけど……みんなの前でちゃん呼びはスズちゃんが恥ずかしくならない?」
「確かに私の周りにはちゃん呼びをしてくれる人がいないから少し恥ずかしい……でもね、やっぱり『スズ』呼びだとなんかどこか距離を置かれているんじゃないかって不安になるの」
「……そんな風に聞こえてたんだ」
「だから、スズちゃんで固定して欲しいなって……ダメ、かな?」
「ダメなわけない。スズちゃんがそうして欲しいって言うなら、俺はスズちゃんの意見を尊重するよ!」
「うん……ありがとう。それでレオくん、試したいことって何?」
「あぁそうだった……」
俺はスズカに練習の提案を行う。
その名も……パントキックショットガンキャッチ!
かなり前にスピカのみんなの前でカミングしているが、俺は卓球以外にもサッカーもやっていた。
そのポジションは定まっていなかったが、多くやっていたのはフォワードと言うポジションと……ゴールキーパーだった。
ゴールキーパーは手でボールを持てるため、そのまま落として落下エネルギーを使ってそのままボールを蹴り上げることが出来る。これをパントキックと呼ぶ。
パントキックは人によって様々だが、一般的なキックよりは飛距離が出る。
ショットガンキャッチというのは投げたボールに走って追い付き、それをキャッチするというもの。元々は昔行われていた筋肉番付系番組で行われていた競技の一つらしい。
「つまりレオくんがパントキックしたボールを私が全力でダッシュして取ればいいのね」
「あぁ、じゃあ行くよ!」
「えぇ……!」
・ ・ ・
ピーッ!!
その後も時間は流れて行き、太陽は高々と南の方に昇っており燦々と日差しが照らしつけている。
そんな頃に砂浜でホイッスルの音が鳴り響いた。
それが集合の合図だと感じ取って俺とスズカ、そして少し離れたところで練習してたテイオー・ウオッカ・スカーレット・マックイーン・ゴルシもトレーナーのもとに集まる。
「よーし! それじゃあ夏合宿の練習はここまでだ!!」
『ありがとうございましたー!!』
こうして数日間行われたチーム・スピカの夏合宿は終わりを告げた。
みんな大きなパラソルの下に作られた日陰の下でストレッチを行っている。
「なんかあっという間でしたねー合宿」
「そうだよなー……オレはもうちょこっと走りたかったぜ!」
「あら、なら帰った後付き合ってあげるわよ」
「おっ、マジか! サンキュースカーレット!」
「わたくしはこの後はメジロ家に帰らないといけませんわ……近況報告もありますし」
「へぇ、名家ってそう言うことやるんだねー。ボクは今日ばかりは休養日かなー」
「私もですかねぇ……お母ちゃんに手紙を書かないと」
「おいおい練習するのはいいが俺が見ないからってオーバーワークするなよ」
「大丈夫ですよ、そこに関してはちゃんと注意していますから」
みんなは学園に帰った後にやることを話し合っている。
そんな中、俺とスズカは互いの目を見つめ合い、そして北の方を向いた。
ある程度のストレッチが終わった後、俺たちはお世話になった宿に戻ってそこでお昼ご飯を食べる。
メニューとしては地元の海の幸や野菜を使った天ぷらや刺身だ。
俺はお昼ご飯を頬張りながら、時々時計を確認する。これで一本でも電車に乗り遅れてしまったら、予約していた便に遅れてしまうからだ。
ご飯が食べ終わり、全員で合掌。ご馳走さまの挨拶を済ませて各自の部屋へ。
俺は一応昨日の夜から荷造りをしていたから、もう後は部屋全体を見て最終チェック。つまり何か落し物とかないか部屋を歩き回る。
「うん、大丈夫そうだな」
そう言ったのと同時に部屋のドアがノックされる。
「玲音、準備できたか?」
「はい先生」
荷物を持って、出る前に一度頭を下げてから部屋から出る。
そのまま階段で1階に降りてロビーから外に出る。するとすでにそこにはチーム・スピカのみんなが並んでいた。
そして今だからこそ気付く……スズカはキャリーケースを持って来ていた。つまり最初から俺と一緒に北海道に行く気だったんだろう。
俺が断るとか考えーーいや、俺がスズカの願いを断るわけないか。自分で言うのもなんだけど。
「玲音、喜べ! 実はおハナさんに話を通してな、空いている席にお前を乗せてもらえることになったんだ」
「エッ……」
「あと行きのバス代や電車代は帰ってから出してやーー」
「あ、あの〜大変言いにくいんですが……俺、このまま実家の帰るのでバスに乗らないと……」
「……なんだってー!?」
先生の叫び声が響く。そりゃそうだよね、善意でやってくれた事をズバッと斬り捨てるような結果になっちゃったんだから。
いや、これは本当に申し訳ないな……。
「ま、まぁいいか……って事は登戸の方に帰るのか?」
「いや、北海道の方です」
「おぉ……結構遠いな。そのまま行くのか?」
「えぇ」
「そうか、道中気をつけろよ」
そう言いながら先生は俺の頭にポンッと頭を置いた。
「よーしじゃあ気を取り直して、みんなで学園に帰ーー」
「あ、あのすみませんトレーナーさん。私もレオくんと一緒に北海道に行くので、ここでお別れです」
「……えぇ!?」
再びトレーナーの叫び声が響いたのだった。
・ ・ ・
あの後、俺とスズカはバス停まで歩き電車に乗って乗り継ぎを何回もして東京国際空港。羽田空港に到着する。
そして色んな手続きをした後、飛行機に搭乗し約一時間半のフライトを得て、北海道の空港。新千歳空港まで辿り着く。
「それじゃ、今日はここでチェックインしようか」
「そうね……ここからだとまだ遠いものね」
俺とスズカが住んでいたところは新千歳空港から考えると約6時間も移動しないといけない。そして今の時刻は18時なので今日中に地元に戻る事は不可能だ。
だから今日はここで一泊する。そして明日の長時間移動に備える。
「一応ホテルに問い合わせたら二人部屋が空いてたからそっちにしたよ」
「本当にありがとうね」
「いや、本当だったらスズカの分の部屋も取れればよかったんだけどね……流石にそんなに部屋は空いていないってさ」
「……私は、レオくんと一緒でも大丈夫だよ」
「そう言ってくれると助かる」
空港近くのホテルでチェックインを済ませて、俺とスズカは近くの札幌ラーメン屋で夕飯を取る。うん、やっぱラーメンは味噌が一番だな。
そうして腹ごしらえをして、ホテルの地下にある温泉をお互い満喫して部屋に戻り消灯する。
「おやすみー」
「おやすみさない」
そうして俺は目を閉じる……すると視覚が機能しなくなった代わりに聴覚が敏感になる。
するとどうだろうか。スズカの吐息や尻尾で布団をさする音などが結構鮮明に聞こえてくる。
「(おかしいな……昔だったら、こんなに意識しなかったのに)」
何だかんだ。俺も男という事なんだろう。
というかここまで自然と接して来たけど年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりするのっていいのか? 普通にアウトなやつじゃないか?
まぁそんな事を考えても仕方ないが……なんて思っていると、スズカの吐息の音がピタリと止んだ。そして何やら布団がめくれる音がして、俺のベッドが少し揺れ、ボスッという音を発した。
俺はまさかと思って寝返りを打つ。するとそこには……スズカが寝転がっていた。
「す、スズちゃん? 何をしているの?」
「何って……昔みたいに一緒に寝るだけだよ?」
「いや待ってくれ、俺とスズカ、年頃の男女、OK?」
「……」
スズカはうんともすんとも言わずにただ頰を膨らませる。そして絶対に出てやるもんかというかのように俺との距離をさらに縮める。
さっき温泉で使ったであろうシャンプーの匂いが俺の鼻腔を擽る。揺れ動く尻尾が俺の脚をさわさわと擽る。
「……分かったよ、おやすみ」
「……うん」
そうして俺はスズカが寝るまで彼女の頭を撫で続けた。そうしてスズカの呼吸音が寝息に変わったのと同時に、俺もゆっくりと瞼を閉じた。
・球技大会疲れた……全身筋肉痛3日間襲われた。
・第5章はスズカだと!? ほ あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!(歓喜の発狂)
・次回は玲音とスズカの地元帰りの予定です。