少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音とスズカは地元に帰るために北海道へ訪れていた。

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二人の地元 / 未来へ進む

 新千歳空港の近くのホテルで一泊した次の日の朝6時、俺とスズカは快速電車に乗って移動を始めた。

 

 ここから約6時間は電車やバスに身体を揺らされる。

 

「スズちゃん、これ、酔い止め薬」

 

「あっ、ありがとう……久しぶりに地元に帰るから、もうどれだけ移動すればいいのか忘れちゃった」

 

「俺はほぼ毎年行っているから慣れているけど、まぁ結構キツイよ」

 

 ただでさえ電車で体力が削られるのに、そこからバスで移動。それも最初は山道なのでまぁ氏ねる。

 

 でもいつもと違うのは……隣にスズカがいる事。

 

 この隣には例年通りだったらおじさんかおばさんがいるか、空いている席に荷物を置いているかの二択だ。

 

「あれ、レオくんなにを聴いているの?」

 

「んっ? あぁ、これは俺が好きなバンドの曲で……」

 

 左耳に嵌めていたイヤモニを外して、スズカの左ウマ耳に嵌める。

 

 このバンドはツインギターだから、片方を外すとその魅力は半減してしまうけど……心のどこかでいつかはこうしたかったって思ってしまう。

 

「とても独特な旋律……でも、とても綺麗な曲。なんて曲なの?」

 

「えっと今のこれは……『形而上 流星』だね」

 

「歌詞も、歌声もとてもお洒落ね」

 

 こんないつもは聞くことだけしかできないこの時間も、スズカと一緒なら曲のことで話し合ったりできるからとても楽しい。

 

   ・ ・ ・

 

 新千歳から北海道の中央、札幌まで移動してそこから特急に乗り換えてまたここから2時間ずっと座りぱなっしである。

 

 車窓に映っている景色もビル街よりも住宅街の方が多くなってーー。

 

「あっ、レオくん。旭川って、確かこども園で行ったことあるよね」

 

「あぁ〜あったあった、確か動物園に行ったんだっけ」

 

「レオくん、そこのアザラシにモテてたよね」

 

「スズちゃんだってペンギンたちに好かれていたじゃないか」

 

 そう笑いながら言う。するとスズカも「そうね」と言いながら微笑んだ。

 

   ・ ・ ・

 

「う〜ん流石に電車での長距離は疲れるね……」

 

「まぁ中京とか京都、阪神に行く際に結構遠出したこともあるから、まだマシなんじゃないかな」

 

「それでもやっぱり二日連続の移動は結構体力を使うわ……」

 

 スズカはそう言いながらふわぁと可愛らしくあくびをする。

 

 確かにスズカのウマ耳や尻尾を見てみても、少し元気がなさそうに見える。

 

 この後はバスに乗るが……最初は山道を登る。今以上にさらに体力が削られるはず。

 

「あっ、そうだ。この辺り蕎麦が有名なんだ。腹ごしらえに食べないか?」

 

「そうだった……ここら辺って蕎麦が有名だったね」

 

「今から45分くらいは空きがあるから、そこの蕎麦屋で食べようか」

 

「えぇ」

 

   ・ ・ ・

 

 そうして腹ごしらえでここら辺のソウルフードになっている。蕎麦を食べた後、1時間に一本くらいしかないバスに乗る。

 

  ここから大体1時間走れば俺らの地元だ。

 

「あっ、ごめんレオくん……ちょっと仮眠取ってもいいかな?」

 

「あぁ別にいいよ、俺は起きているから安心して休んで」

 

「そうするわ……ふぅ〜……」

 

 スズカは深い溜息をつく。そして自分の頭を俺の肩に乗せてきた。

 

「ちょ、スズちゃん?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 いや寝るの早いな……結構疲れていたのかな。

 

 まぁ、このまま眠らせておいてあげよう。それにさっきまで元気がなさそうだったウマ耳が、今は横に倒れてリラックス状態になっている。

 

 つまりこのままの方がスズカにとってはいいのだろう。

 

 いや、違うか。俺自身がこの状況を変えたくないと思っているんだろうな。

 

 なんて考えているとバスは山道から平坦な道路を走るようになる。

 

 すると広がるのは……芝生の緑。建築物などはあまり見られない。ただただ青々と生えている芝生の緑色と空のコバルトブルーが広がるだけだ。

 

 普通ならただ何の変哲もなく面白くもない平原風景だが、東京はビル街や住宅街が多くここまでのどかな風景を見られるところはあまりない。

 

 だからこそこの前テイオーと遊びに行った時、かなり緑があって驚いたのだが……それでもやっぱりこっちの緑の方が、とても落ち着く。

 

 この風景を見るたびに……こっちに帰ってきたんだって自覚が持てる。

 

「次は、鷹樽別双樹園前、鷹樽別双樹園前です」

 

「(……着いたか)」

 

 俺はバスに備え付けられている降車ボタンを押す。

 

 そして隣で寝息を立てているスズカの体を揺する。

 

「んっ、んんっ……」

 

「おはようスズちゃん」

 

「レオくん……もうすぐ着くの?」

 

「うん、もうちょっとで着くよ……眠気覚ましにハッカ飴いる?」

 

「えぇ……んっ、スースーしてて美味しい」

 

「俺も……くぅ〜やっぱ美味いや」

 

 二人でハッカ飴を舐めながら降りる準備をする。

 

 そして数分経った頃にバスは停留所に止まる。

 

「ご乗車ありがとうございましたー」

 

 荷物を持ってバスから降りる。

 

 その瞬間から空気が全然違うことに気付く。

 

 何だろう……吸ってとても心が満ちるような、そんな空気。

 

 故郷の空気と言うのだろうか。一年に一回しか来ないからとても新鮮なものだと毎回思う。

 

「ん〜! こっちに来たのもだいぶ久しぶりね……とても懐かしい」

 

 スズカはそう言いながら大きく伸びをする。それに釣られて俺も伸びをする。

 

 しばらくずっと座り続けて固くなっていた筋肉がほぐされる感覚がとても気持ちいい。

 

「さて、んじゃあ行こうか」

 

「ん? どこに行くの?」

 

「俺とお母さんが昔住んでいた家って今は別の人が住んでいるんだ。でもご好意で空いている部屋をまだ使わせてもらってるんだ」

 

「え、えぇ……それって無関係な私が泊まってもいいのかな?」

 

「大丈夫、昨日確認はとってあるし、空き部屋ならまだあるからね」

 

「そう? なら大丈夫かしら」

 

 そうして俺たちは荷物を持って移動を始める。

 

 ギーーという本州ではあまり聞かないエゾゼミたちの合唱を聴きながら、歩道を歩く。

 

 スズカは久しぶりの鷹樽別を懐かしく思っているのか、キョロキョロと見渡している。

 

「ここってこんな感じだったかしら?」

 

「まぁだいぶ変わってると思うよ、ケーキ屋さんが出来たりね」

 

「ケーキ屋さん? 私が居た時はそんなのなかったな……」

 

「最近本州とかから北海道のこういう田舎に引っ越してくる人とかが多くなってきてるからね。多分俺たちが幼かった時よりも栄えているんじゃないかな」

 

「へぇ……あっ、レオくん、この建物って!」

 

 そう言いながらスズカは目の前にある建物を指差す。

 

 その建物は子供たちを預ける保育園みたいなものだ。ただ今は夏休みというのもあって園児の姿は見えない。

 

「やっぱり子ども園! 懐かしいなぁ〜……でもなんか内装が違う?」

 

「あぁ、つい2年前に改修を行って少し綺麗になったんだ」

 

「そうなんだ……何年も居ないと、町ってすぐに変わってしまうのね」

 

「……そうだな」

 

   ・ ・ ・

 

 しばらく歩くと俺の元実家に辿り着く。

 

 今そこには長井川さん夫妻が住んでおり、歓迎してもらった。

 

 特に夫さんはトゥインクル・シリーズのファンでありスズカのことを知っていたらしい。さらに昔はここに住んでいたことも言うととても興奮していた。

 

 そして長井川宅で15時のティータイムを楽しんだ後、俺たちは荷物などを置いて、必要なものだけを持って再び出かける。

 

 近くにある山に入って山道を歩く。しばらく登っていると少しだけ開けたところに出る。そしてそこには小さなお寺。それを素通りしていってその隣にある墓地に入る。

 

 入り口にある桶と柄杓を取って、桶には水を入れる。

 

 慣れた足取りで墓地内を歩く、その後ろをスズカがついてくる。

 

 そしてあるお墓の前で俺は立ち止まり、90度右に体を向ける。

 

「レオくん、このお墓が?」

 

「うん……俺のお母さんのお墓だよ」

 

 そう言い、俺は墓の前で一礼をする。スズカも遅れて一礼をする。

 

 そして持ってきた荷物を一回その場に置いて、足元の掃除……草抜きなどをする。

 

 草抜きの後は持ってきたタオルで石塔を拭いて、汚れとか苔を拭き取る。そしてある程度拭き終わった後、柄杓を使って墓石にお水をかける。

 

 お花を立て、供物をお供えして、ロウソクに火を灯し、お線香を二本取り出し、俺とスズカはロウソクの火でお線香をつける。

 

 数珠を取り出して、合唱。

 

「(ただいま、お母さん)」

 

 こうやって合掌をしていると、周りのセミの鳴き声や風で揺れる草木の音が少しだけ遠くなるような感覚になる。

 

「(今日はスペシャルゲストがいるんだ。お母さんは覚えてるよね、スズちゃんのこと。そうなんだ、トレセン学園で再会できたんだよ)」

 

 毎年、こうして合掌しながらお母さんに会っていない間の事を報告するのが通例になっている。

 

 それでもいつもは「元気にやってるよ」とか「勉強がキツイんだよ……」など、あまり具体的な事は言えない事が多い。

 

 でも今年は……たくさんある。

 

「(トレセン学園でスピカってチームに入って、スズちゃんとも再会ができて、とても充実した学園生活を送れてるよ。特に今年転入したばかりのスペシャルウィークって子がいて、その子はダービーを制覇したんだ。そしてスズちゃんも……11バ身で勝利したり、ドリームレースである宝塚記念でも1着を取ったり……俺の幼なじみは、とてもすごい子になっていたよ)」

 

 そう考えると、スペもスズちゃんもすごい偉業を成し遂げているんだなぁと改めて痛感する。

 

 そしてまぁ俺自身は……というと……。

 

「(俺自身、スズちゃんに会えればなんでもいいと思っていた。でも違った。あそこには夢を追うものや明確な未来へ進んでいる人しかいなかった。スズカに会うことしか考えてなかった俺は、今は空っぽだ。一体何のためにあそこに残ればいいのか、どうすれば俺は未来へ進めるのか……分からないや。実は夏合宿があってさ、チームメイトの一人が花火大会を開いてくれたんだけどさ)」

 

 瞬間に思い出すのは、あの夜の砂浜。そして広がっていた……闇。

 

『ーーーー』

 

 普通なら見ていると恐怖すら湧いてきそうな闇、実際、見続けていると吸い込まれそうだと突拍子もない事を考えていた。

 

 そしてあの時の俺はそれを、吸い込まれる事を望んでしまった。

 

 あの闇は確かに恐怖もあったが……同時に、優しく静かに、闇は俺を誘っているようにも思えた。何もない、そして気にすることなんていらないあの闇に。

 

 正直、あそこでスズカが……誰かが声をかけてくれなければ、俺はーー。

 

「(まぁ俺にはそんな度胸はないと思うけど……でも、終えるのも嫌だ。新しい目標を見つけることもできない。これじゃあ生きてるのか死んでるのか分からないよね。まぁ、この一年……というか、半年でだいぶネガティブになったよ。チームにも迷惑かけてばっかだし……もう、いいかなってーー)」

 

『何がいいのかな?』

 

「……えっ?」

 

「レオくん?」

 

 今……確かに聞こえた。

 

 いや、そんなバカな……だって、お母さんはもういなくなってーー。

 

『お盆は亡くなった人の魂が現世に戻ってくる……だったら、私の声が聞こえてもおかしくない。もしくは、玲音くんの幻聴かもしれないし、本当は終わりを迎えたいと思っている玲音くんと今の私の生死の境界が縮まっているから、私の声が聞こえるのかもね』

 

「……」

 

『でも、そんなことになって欲しくはない。私の声が聞こえないようにすること、それが今の私の目的……ねぇ玲音くん、生と終わりで悩んでいるんだったら、生に振ってみればいいんじゃないかな』

 

「(生に……でも今の”俺”はーー)」

 

『生に振るというのは……何も自分自身に振らなくてもいいんだよ。ほら玲音くん、目を開けて右を見てごらん」

 

「……」

 

 お母さんの声に似たその声に従うように、俺は目を開けて右を見る。そこには当たり前だけど、スズカがいる。

 

「……どうしたの?」

 

『いい? あなたの周りには生きている子がいる。そしてその子たちには希望・奇跡・伝説……様々な可能性を、未来を持っている。でもね、それだけではない。絶望・挫折・最悪な未来を迎える可能性だってある』

 

「最悪な……未来」

 

『あなたは導き、見届ける。彼女らが未来へ進むその姿をね』

 

「未来へ進む……その姿……」

 

 生きる事は、自分だけのためだけだと思っていた。

 

 それは、人間の命……いや、自分の命は自分だけのものだからだ。

 

 でも俺は自分自身に生きる意味を持てない……なら逆に考えてもいいんだ。自分自身のためではなく、生きとし生けるもののために……彼女たちのためにこの命を使ってもいいんだ。

 

 そしてそのために、俺は生きる。そうなれば俺が生きる意味も生まれる。

 

『そう。だから、あなたは生き────』

 

 声は、聞こえなくなった。

 

 

 




・いや、第5章が神ストーリー過ぎた……自分の日曜日はいつになるのだろう。

・有馬はエフフォーリア! クロノジェネシスとディープポンドの凱旋門賞馬も素晴らしかった。

・次回はこのRの最終話……まぁ、そこまで長くするつもりはないです。
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