少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・(短くするとか言っときながら3500超えてるし……)
お墓参りが終わり、俺たちは帰る支度をしていた。
そんな時、俺はさっきまで陥っていた謎の感覚を、お母さんの声が聞こえた事を思い返す。
あれは一体何だったんだろうか。
窮地に陥っている俺自身が見せた幻聴か、それとも本当にお母さんが霊として俺に話しかけてきたのか。
いや……ここはポジティブに物事を考えたほうがいい。お母さんは、俺のことを見守っていてくれたんだ。
そして俺に……生きる意味を、その方法を教えてくれた。
まぁ、それは冷静に考えると、スズカを目的としていたのを、スズカも含めたみんなに割り振るっていう事だから、肝心な自分の問題点は全然解決できていないんだけど……それも生きてさえいれば、みんなといれば、いつかは見つかるかもしれない。
先生だって言っていたじゃないか。『たくさんのウマ娘と触れ合って、そして知るんだ! ウマ娘との成長というのはとても尊いものであるということを!』って。
尊いものかどうかは今の俺にはまだ分からない。でもスペが成長している姿を見るのは……とても楽しく、嬉しくもなった。
だからこそスペのダービー制覇の時、まるで自分自身のことのように喜べた。
今は……難しいことを考えずに、スペやスズカ……スピカのみんなと切磋琢磨しながら、勝利を共に分かち合う。それでいいんだ。
「よし、帰る支度も終わったし、帰ろうか」
「うん……また来ますね、琥珀さん」
「じゃあねお母さん」
そうして俺たちは墓地を後にする。
だいぶ長い時間滞留していたので、空の色は茜色と紫色が混ぜたかのような色になっていた。
さらに良く見ると一等星辺りの星はもう見えるようになっている。
これは早く帰らないとだいぶ遅くなってしまうな。
そう思い、少しだけ早歩きで下山をする……だが、あるところでスズカは急に立ち止まった。
「どうしたのスズちゃん?」
「……」
俺たちが立ち止まったのは別れ道。左に進めばそのまま山を下山し、町の方へと戻れる。
そして右の方は……。
「ねぇレオくん。展望台で流星群を見ない?」
「……流星群?」
「うん、長井川の奥さんが言っていたの。『今日は流星群のピーク……今年はあまり月明かりもないらしいから、星たちが綺麗に見れるわよ』って」
「スズちゃんは流星群見たいの?」
「う、うん……」
そう言いながら少し頬を赤くするスズカ。
まぁスズカが望んでいるんだったら、俺の答えは一つだ。
「よし、じゃあ行こうか」
そうして俺たちは右に進み、再び山を登り歩く。
さっきのお寺や墓地に通ずる道よりも少し険しく、結構体力を使う。
だが幼い頃この山を遊び場にしていたこともあるので、少し懐かしい気持ちになりながら登ったので思った以上にキツくはなかった。
「ふぅ……着いた」
「あぁ〜疲れた〜……やっぱ運動してた頃と比べるとだいぶ体力落ちたなぁ……」
「レオくんもランニングとかやってみたら?」
「ただただ走るのはちょっとな……球技とかだったら蹴るとか打つの動作があるから単純じゃなくて面白んだけど……」
「……私が併走したとしてもダメかな?」
「ははっ、確かにスズちゃんと一緒だったら楽しめるかもね」
まぁそれ以前に全然ついて行けなくて、公園で倒れ伏して迷惑をかける俺が見えたけどな。
なんて考えている間にも太陽は沈んで行き、辺りはさらに暗くなっていく。隣にいるスズカの姿や表情もなかなか見えなくなってきた。
今俺に分かるのはスズカの影だ。
「レオくん! 上!」
「えっ……あっーー」
スズカに上を見るように言われ、言われた通りに上を見上げた瞬間……俺は感嘆の息を漏らした。
俺の視界に映ったのは……満天の星々が力強く光り輝いている夜空だった。
その光景は、府中で見るような少し乏しく寂しい夜空とは全く違う。
星々があちこちにあり、どこが星座の線なのか分からない。それほどの数多の星々が夜空を埋めていたのだ。
「……」
「綺麗……」
しばらくの間、俺たちは言葉を交わすことなく星空を眺めていた。
やがて立っているのも億劫になり、俺は地面に仰向けに寝転がる。するとスズカも続くように隣で寝そべった。
聞こえるのは互いの呼吸音と風で擦り合っている草木の音だけ。
そこまで無音で、じーっと星空を見ていると、心が少し落ち着いてくる。
そんな時、俺の目の前に一筋の光が通り過ぎた。
「「あっ、流れ星」」
同じものを見ていたのか、はたまた別のやつを見ていたのかは分からないが、俺とスズカは同じ言葉をほとんど同じタイミングで呟いた。
俺とスズカは一度顔だけ向かい合って……笑った。
そして再び、星空の方に顔を向ける。
さっきまで気づかなかったが、流れ星というのはどうやら一つだけではないらしい。
ぼんやりと広い視野で星空を見ていると、あちこちで光の筋が通過しているのが分かる。
そういえば流れ星に願いを三度唱えると願うが叶う。なんていうルーツがあったよな。
確か「金金金」と言えばそれだけで一番短く、かつ願いが叶うぞと浪漫のカケラがないことを叔父さんは教えてくれたっけ。
「レオくんが、平穏に暮らせますように」
「どうしたのスズちゃん? 願い事漏れてるよ」
「えっ!? あっ、つい……」
「俺のことじゃなくて、自分自身のことを祈って欲しいかな。叔父さんが言っていたんだけど、金かーー」
「ねぇレオくん。お墓の前から去る時に、琥珀さんの声が聞こえたって言ったら……おかしいと思う?」
「……えっ?」
今スズカはなんて言った?
琥珀さんの声が聞こえたと言った。確かにそう言った。
つまりさっきまでのあのお母さんの声は……幻聴ではなかった?
「レオくんを見守って欲しい……そう最後に言ってた」
「そう、なんだ……」
「だから、星に願っていたの。レオくんが平穏に暮らせるようにって」
「ありがとう、スズちゃん」
そっか……スズカも聞こえていたんだ。
そうなればほぼ確定だ。あれはお母さんだったんだ。
お母さんは言っていた。『私の声が聞こえないようにすること、それが今の私の目的』だと。
そして俺はお母さんに励まされ、声は途中からぷつりと聞こえなくなっていた。
それはつまり、俺自身が生きることを決めたから……生と死、お母さんとの距離が離れたから。
「……スズちゃん、ちょっといいかな」
「うん、なに?」
「宝塚記念の時に、先生と俺は言ったでしょ? おれにはスズちゃんっと会うという目的しかなかった。だから俺は空っぽなんだって」
「うん……」
「俺、ここしばらくずっと考えていたんだ。俺がトレセン学園でしたいことは何だろうって……でもーー」
「見つからなかった?」
コクリと頷き、肯定を表す。
「だからさ、俺合宿場で砂浜で1人になった時考えたんだ。俺がここにいる理由なんて、もうないんじゃないかって……みんなと距離を離して1人のファンとして応援した方が幸せなんじゃないかって」
その距離を離すというのは単純な距離ではなく、あの世と現世という意味なのだが、そこはもちろん伏せておく。言う必要も全然ないしな。
「でも今日お墓参りしてた時に、お母さんの声が聞こえたんだ」
「レオくんも……なんだ……」
「うん。そしてお母さんは教えてくれたんだ。自分自身のためではなく、他人……つまりスズちゃんやスペ、チームのみんなのために動いたらどうって……俺はその教えに従ってみようかと思う」
「……いいと思う。無理に今決める必要はない……私も最初と今の目標は全然違うし、最初から目標や夢を持っているのは、ほんの一握り。今から模索してもいいよ」
「うん……でもね、一つだけ変わらないことはある」
「……なに?」
そう言うスズカの表情は真っ暗闇だったので見えにくかったが、とても優しい笑みを浮かべていた。
何が変わっていないのかはスズカも分かっているんだろう。俺は一度、深呼吸をしてスズカの瞳を真っ直ぐに見つめて……言葉を発する。
「今は空っぽだし、夢もないから不安定な俺だけど。俺は、君に……”スズカ”に追いついてみせる……絶対に!」
「うん、何度でもそう言って……そして私はいつまでも”玲音”を待っている。どんなに長い時間がかかろうと、絶対に」
そうして俺たちは互いの手をしっかり握って……そのまま星空を眺めた。
・ ・ ・
「よぅしお前ら久しぶりだなぁ! 今日からまた練習が始まる、気を引き締めていくぞぉ!!」
『はい!!』
数日間、地元で過ごして府中に帰ってきた次の日には練習が再開された。
久しぶりに会うみんなの姿を見ると、気が引き締まる。
スピカのみんなは準備体操を行い、ウォームアップのランニングを開始した。
その間に俺は練習で使用する道具を用意する。
「どうした玲音、前よりもなんか顔つきが変わったじゃねぇか。北海道に戻って何かいいことでもあったか?」
「いいことはありましたよ。でも顔が変わったのはきっと……物事を難しく考えることをやめたからです」
「……そっか、お前がそれでいいと思うなら、それでいいだろう」
「はい……先生!」
「んっ、なんだ?」
「これからもよろしくお願いします」
そう言いながら俺は先生の方に体を向けて、自分の手を差し出す。
先生は一瞬戸惑ったが、すぐにキリッとした表情と笑みを浮かべると……俺の手を強く握った。
「あぁ、お前を立派なトレーナーにしてやるからな……覚悟しとけよ!」
「はい!!」
こうして、俺の学生トレーナー二学期が幕を開けるのだった。
・東京や父親の実家にいます。ネコが二匹いて幸せです。(Twitterとpixivのアイコン)
・これで2021の書き納めとさせていただきます。2022年も『少年とウマ娘たち -ススメミライへ- 』をよろしくお願いします!
・次回第6R「蕾なり、花は咲く」(仮題)、ライス回の予定です。