少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA6000・7000を突破しました。皆様、誠にありがとうございます。
・今回はちょっとだけ長めです。
ーーあの日、君とヤクソクを交わしたーー
「やだぁ……やだよぉ!!」
「スズちゃん……」
お別れの時、スズちゃんは自分から離れなかった。
一応、同じ北海道だから夏と冬は遊びに来ると言ってはいるけど、それでもこんな状態だ。
それに幼いとは言ってもウマ娘であるスズカの力は想像より強く、後ろでスズカのお母さんが離れさせようとしているが苦戦している。
こういう時……どうすればいいんだろう。
そう思っていると、一つ思いついた事があった。
「ねぇスズちゃん。ユビキリしよう?」
「ぐす……ユビキリ?」
「うん、ぼくはスズちゃんの近くにいる!」
「……ほんとう?」
「ほんとう! ヤクソクする!」
そうして小指をスズカちゃんの方に差し出す。
するとスズカもおずおずと小指を出してくれる。
俺はその指と自分の指を絡ませる。
「「ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん、ウ〜ソついた〜らハリセンボンの〜ます!」」
「「ゆびきった!」」
***
メジロマックイーンが去った後も、俺はマックイーンが言っていたことの意味を考えていた。
過去は忘れてしまえばいい……つまり嫌なことは忘れてしまえばいいってことか?
でもそんなことって許されるんだろうか……。
「……」
ダメだ……もしかすると風邪で頭が回らないのかもしれない。
ちょっとだけ寝よう……そして考えよう。マックイーンの言葉の意味を……俺がスズカにどう対応すればいいのか……。
そう思い、俺は布団に手をかけた……その時、コンコンと自分の部屋の扉がノックする音が部屋に響いた。
「はい……開いてますよ」
そう言うと少し間があってから、扉が開かれる。
その瞬間、理解した。
彼女が……スズカが来てしまったのだと……。
「す……スズちゃん……」
「こ、こんばんわレオくん……具合はどう?」
スズカは多分、俺のお見舞いに来てくれたのかな……そして手に持っている紙袋にはおそらく果物が入っているのだろう。
そしてスズカのウマ耳は少し伏せ気味になっている。
やっぱりスズカも……昨日の俺のことを考えているのか。
「明日には治っていると思うよ」
「そう……よかった」
そう言うスズカは安堵のため息をつく。
「あの……よかったら、リンゴの皮を剥くけど……」
「じゃあ、お願いしようかな」
「っ! うん!」
そう言ってスズカは紙袋からリンゴを一つとペティナイフを取り出し、そのナイフでリンゴの皮を剥き始める。
シャッシャッとリズミカルに軽快な音が部屋に響く。
昨日、俺はスズカを無意識的に拒絶してしまった。
それでも今この瞬間、スズカは俺に近づいてくれている。
ーーならさ谷崎玲音……お前にできることって、もう限られていると思わないか?ーー
「よし剥けた……! はいどうぞ」
そう言ってスズカは皮が剥かれて8等分くらいに分けられたリンゴをこっちに差し出してくる。
俺はそれを受け取って……食べる。
うん……シャキシャキしていて美味しい。
「ありがとう、スズちゃん」
「ううん、このくらい礼を言われるほどでもないよ……昔はこうしていたでしょ?」
「うん……そうだね」
あの出来事が尾を引いているなら……今からでも、少しだけでもスズカと仲良くする。
それが今の俺にできることだ。
・ ・ ・
その後、俺とスズカはお互いの事を話し合った。
そして聞いた感じ……スズカは以前よりも走る意欲が上がっている気がした。
そう言えば教則本のパラパラ読みで見た程度だけど、ウマ娘の走りたくなる欲求は思春期が主な時期で、さらに言えばトレセン学園に通っている期間、これはウマ娘にとって一番ポテンシャルが高い時期と言われている。
とは言っても、スズカは元々走るのが好きだったから、そんなのは関係なさそうだけど……。
「ねぇ……レオくん。一つ聞いてもいい……?」
「うん、何かな……」
「昨日のこと……なんだけど」
何かなとは言ったが、スズカが何を言うかはなんとなく分かっていた。
そりゃ気になるよな……なんで拒絶したのって。
「何に怯えてたの?」
「……えっ?」
怯え……てたのか? 記憶を遡ってみるけど、少し冷たく接してしまった以外なかったはずだ。
「もしかして、私に怯えていたの?」
「そんなことは! ……ない……はず」
スズカの言葉を俺は強く否定しようとしたが、語尾が弱くなってしまう。
本当に怯えてなかったかと言われると……あまりにも微妙だから。
目の前のスズカが、幼なじみのスズちゃんじゃないかもしれないと考えたのは、紛れもない事実だから……。
「聞かせて、レオくんが怯えている。その原因を……」
「……分かった」
・ ・ ・
俺はスズカに、マックイーンに説明したように小6の出来事を話した。
すると、スズカはその頃も話してくれた。
どうやらスズカは小学校6年生の春に北海道から離れていたらしい。
なるほど……道理で北海道を探しても見つからなかった訳だ。
そしてそれを聞いていたスズカは……ずっと俯いていた。
失望したか。そりゃそうだ、スズカの知らないところでこっちが勝手に傷つき、そしてこっちの勝手で拒絶したんだから……スズカにとっては理不尽の何物でもないだろう。
「ごめんなスズちゃん……もうこの話はーー」
やめようと言おうとした瞬間、スズカは僕を包み込むように優しく体を抱いた。
そして頰には涙が流れており……パジャマの左肩に生温い水が染み込む。
「スズ……ちゃん?」
「ーーってくれてた……!」
「えっ」
なんと呟いたか、少し聞き取れていなかったが……スズカのウマ耳は横を向いている。
なんで心が落ち着いているんだ?
「レオくん……あの時の約束、覚えてる?」
「覚えてるに……決まってる」
それは俺があの町から……スズカから離れる時に交わした約束。
近くにいる……約束。
「小4の時から……急に来なくなって、私のこと嫌いになったのかなと思っていた。でもレオくんは守ろうとしてくれてた……約束を……」
「……」
俺は……約束を守っていたのだろうか。
静かに啜り泣くスズカの声が俺の耳に入ってくる。
スズカのその言葉は……俺からしたら、許しに近いものだ。
……でもやっぱり、俺の心の奥にいるナニかが、あの時のことを忘れるなと囁いている気がする。
「だから、今度は私が約束を守る番……そうすれば、レオくんは救われるから」
「……」
その時、なぜその言葉を思い出したかのは分からない。でも俺は、マックイーンが言っていた言葉を今ここで思い出した。
『そんなに過去のことが気になるなら、忘れてしまえばいいんですわ』
それはその出来事そのものを忘れてしまえばいいと言っているんだと思っていた。
だけど……それは違う。
今俺が考えついた"忘れる"が、本当にマックイーンが言っていた"忘れる"なのかは分からない。
でも、その忘れられない過去というのが俺……そしてスズカにもあり、それがお互いの仲に溝を作っている。
つまり、俺だけが忘れるだけじゃダメなんだ。
スズカも忘れないと……真に俺たちは前に進めない。
お互いが縛り合っているものを……忘れない限り。
俺はスズカの近くにいられなかった。
そしてスズカは約束を破られたと勘違いしてしまった。
正直、そんなお話はこんな風に打ち明けないと分からなかった。
だから分かった……俺がどう言えばいいのか。
だって俺は今の俺だから……。
そしてスズカも今のスズカだから……忘れなければいけない。
そして俺はスズカの肩に優しく手を置いて、体を俺の正面に持ってくる。
でも、それは昨日の拒絶した時の行動ではない。
これは……スズカに俺の覚悟を見てもらうための行動だ。
「レオ……くん?」
スズカは怯えているような顔になっている。
きっと昨日のことを思い出し、今から何を言われるのか分からないからだろう。
「ごめんスズちゃん……いや、スズカ。その約束は守らなくていい」
「っ! どうして……そんなことを……」
「俺は守れなかった……一度でも大きく離れてしまえば、それは約束を守れなかったのも同然なんだ。だから、もうその約束は守らなくてもいい」
「そんな……私はーー」
「だから!! 俺はレオくんとしてじゃない……谷崎玲音として俺は! もう一度、君と約束を交わす!!」
「……えっ?」
あの時の約束が俺たちの中に残っている限り、俺とスズカは前に進めない。
なら、上書きをすればいい。
あれははっきり言ってしまえば、子供と子供がその時に交わした約束だ。
でも、俺たちは成長している。世間からしたらまだ俺たちは子供だが……それでもあの頃の俺たちではない。
だったら、俺とスズカ……谷崎玲音とサイレンススズカとして約束を交わせばいい。
それが俺の考えた……過去を忘れるということ。
「君が例えどこへ行っても、どこか遠くに走って行ってしまったとしても! 俺は君に追いついて、君の近くにいる!! もう黙って君を置いて行ったりもしない!!」
俺のこの宣言がスズカにどう響くかは分からない。
でも次の瞬間にはスズカも声をあげていた。
「っ……私も約束する! もうレオくん……ううん、玲音を信じる! もう迷わない……私は玲音の近くにいる!!」
俺たちは約束を交わしあった。
ならその約束を確かなものにするために、最後にするべきこと……それは……今でも昔でも変わらない……ずっと前から行われてきたこと。
「スズカ……指切りをしよう」
「うん……うんっ!」
そして俺とスズカはお互いの小指を絡めて、しっかりと掴む。
「指切り拳万」
「嘘ついたら」
「「針千本飲ます……指切った!!」」
この先、この約束がどれほどの効力を持つかは……今の俺たちには分からない。
どこかでまた、あの過去の約束を思い出してしまうかもしれない。
それでも俺は……なんとなく分かった気がした。
この瞬間から俺の心は確かにーー未来へと進み出したのだとーー。
***
「どうやら……杞憂だったみたいですね」
わたくしはあの後気になって、玲音さんの部屋の扉で聞き耳を立てましたが、どうやらあの人はちゃんと理解なさったらしいですわね。
まぁ、その結果ライバルが一人増えましたけど、玲音さんが苦しみから解放されるならそれで構いませんし、それに……わたくしはメジロ家の人間、どんな人が相手でもわたくしは必ず、あの人の隣に居座るつもりですわ。
「今からが楽しみですわ」
そう一言呟き、わたくしはトレーナー寮から出て行った。
・もうこれただの告白だよなぁ(KONAMI感、本人たちはそう思ってない様子)
・指切りはぱかライブTVのイベント先行CGでキタちゃんとサトちゃんがやっていましたね。
・実質、次がこの作品のプロローグ的なやつの最終話だと思ってます。