少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音はライスとロールアイスを食べに行った。

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学校再開……ゔえ!?

 ーーピピピッ、ピピピッ。

 

「んっ……んんっ……」

 

 体を起こして、周囲を見る……まぁいつもの自分の部屋なんだけど。

 

 ベッドから降りて一回伸びをした後、俺は机の上に置いてあったドリップケトルを手に取って、水道まで行ってそのまま顔を洗ってケトルにも水を入れる。

 

 水を入れたケトルを電源プレートに挿して、温度を87度に設定する。

 

 よくコーヒーを入れる人がミスをする要因の一つとして、お湯の温度が高過ぎるというのがある。

 

 お湯が高過ぎると淹れている時に粉が暴れたり、高温過ぎるが故に苦味成分を多く出してしまうなど、とにかく沸騰したてのお湯でコーヒーを淹れるのは一番NGな行為だと思っている。

 

 この電気ドリップポットを買う前はコーヒーサーバーとドリップポットを交互に入れ替えたりして、上手く温度を調整したりしていたが、慣れていなかった時は手にこぼして火傷とかしたりもしたっけ……。

 

 でも電気ケトルは設定して淹ればその温度まで温め、かつ保温もしてくれるので有り難い。

 

 お湯を温めている間にコーヒー豆とそれを砕くためのコーヒーミル、あと豆の量を測るためのスケールを用意する。

 

「(20g豆を測ってっと……)」

 

 コーヒーミルの取っ手を持って、そのまま回して豆を砕く。

 

 ゴリゴリという豆を砕いている音と手のひらの感触、そして微かに香るコーヒー豆の心地いい匂いが鼻腔に届く。

 

 コーヒーを本格的にする場合、この工程が一番面倒くさいと思うかもしれないが、慣れればこの工程が一番楽しい。

 

 しばらくすると豆が全部挽けて、いい匂いが部屋に広がる。

 

 ミル部分を外してトントンと手のひらでコーヒー粉を均して、それを一度放置。

 

 少しすると「ピー」という機械音が鳴る。設定温度に達したのだ。

 

 ケトルの取っ手部分を握って、まずはドリッパーとサーバーを温める。こうしないと味がイマイチになってしまう。(もともとのサーバーやドリッパーの冷たさでコーヒーが冷めて味にムラができてしまう)

 

 温めたらドリッパーにコーヒーフィルター紙をセットして、そこに挽いた粉を落とす。

 

 少しドリッパーをトントンと叩いて均したら、いよいよコーヒーを淹れていく。

 

 まずは粉の中心にお湯を落とし、そこから徐々に円状に隅に広がっていくようにケトルを傾ける。この際使うお湯の量は大体60cc。

 

 ちなみにこれは蒸らしという工程で、コーヒーの粉に均等にお湯を行き渡らせて、コーヒーの味を引き出しやすくしているのだ。それを約40秒。

 

 蒸らしが終わった後、再び全体にお湯を落とす。そしてその時にドリッパーをそのまま揺らして紙に粉がつかないようにする。こうすることでコーヒーの味を細部まで逃さない。そしてこれも60cc。

 

 そして数十秒放置した後に180ccを一気に淹れて、このまま落ち切るまで放置する。

 

 こんな雑にやってて本当に上手くなるのか? と思う人もいるかもしれないが、昔とは違って今のコーヒー豆は結構品質がいい。だからこうして豆全体を均一に抽出できるこの方法が一番美味しく頂ける。

 

 ……って、世界のバリスタのチャンピオンが言っていた。

 

 なんて考えているうちにドリッパーに入っていたお湯が全て落ち切って、コーヒーの抽出が終わった。

 

 あらかじめ温めて置いたコーヒーカップーー中学の修学旅行で一目惚れして買った清水焼のコーヒーカップ&ソーサーを今も使っているーーにコーヒーを注ぐ。

 

 カップを鼻に近づけて淹れたてのコーヒーの匂いを嗅ぐ……うん、とても落ち着く匂いだ。

 

 ゆっくりとコーヒーカップの縁に口を当てて、コーヒーを一口。うん、やはり美味しい。

 

 ちなみに今回使ったコーヒー豆は、少し前に駅前で散策していたら見つけた、雰囲気が良さげな珈琲屋兼焙煎屋で買ったものだ。

 

 これが美味かった……。

 

「ふぅ……美味しかった」

 

 そう言葉を呟くが、サーバーにはまだ抽出したコーヒーが残っている。

 

 ここで俺は冷蔵庫から牛乳を取り出し、そのままサーバーにイン!

 

 俺はコーヒーはブラックでも行けるが、それはあくまで新鮮な豆で挽いた場合だ。普段飲む時から新鮮なものばかり飲むなんてできるわけない。そんな毎日飲むものでもないしね。(時間も余裕がないと作れないし)

 

 だから多くの場合は豆が新鮮じゃないことが多い。そんな豆で抽出したコーヒーは他の人が考えているような苦〜い味になってしまうのだ。

 

 でも新鮮じゃないからって消費せずに捨ててまた新しいにを……っていうわけには行かないし、そもそもそんなことをしているコーヒー飲みなんて誰もいないだろう。

 

 だからこうして牛乳を入れてミルクコーヒーにすることによって、その苦味を抑えるという効果もある。まぁ、今回の場合はブラックで飲んでもミルク入れて飲んでも美味しい豆を使っているので、味変みたいなものだ。

 

「は〜……やっぱ休みの朝はいい。さて、今日のニュースは……」

 

 そう言いながら、俺は机の置いてある携帯を手にとーーーーー。

 

「……んっ?」

 

 目が疲れているのだろうか……俺は一度パジャマの袖で、目を擦って再び携帯の画面をよく見る。

 

 そこには……9月1日と書かれている。

 

 そして俺の脳内がフル回転し、9月1日に何があったかを瞬時に思い出した。

 

 しかし思考がその結論に至った瞬間、俺の体はそのままフリーズした。

 

 永遠とも思えるかもしれない時間、それはたったの十秒間くらいの出来事だった。

 

「今日始業式じゃねえかああああぁぁ!!!!」

 

 そう叫びながら俺は残ったコーヒーたちを一気飲みする。これがいつもみたいに牛乳を温めていたら、火傷待ったなしだった。

 

 というかちょっと待て? なんで俺は完全に始業式の日にちを勘違いしていた? 

 

 いやもうそれを考えている時間なんてねぇ!

 

 壁に掛けていた制服を大雑把に着て、そのまま部屋を飛び出た。

 

   ・ ・ ・

 

「やばいやばい! あと何分だ!?」

 

 俺は走りながら携帯のホームボタンを押して、時計を表示させる。

 

 今が8時14分。そして始業時間は25分。

 

 学生寮から学園まではまぁまぁ距離はあるが、車に引っかかることなく、かつ全力疾走をやめなければギリギリ間に合う……はずだ。

 

 いや流石にここまでド派手に遅刻をしたことはトレセン学園で、ましてや小中学校でもしたことはなかったので、今まさに脳内がパニック状態なんだが。

 

 とりあえず今日は午前中だけなはずだから、朝ご飯は食べなくても大丈夫だろう。

 

 いやでも、いきなり朝からダッシュってすごくキツい。体の節々が強制的に動かされて軋んでいるような……とにかく体が痛い。

 

「……んっ?」

 

 息を整えるために少しだけ歩いていた時、俺の前に誰かがいるのが見えた。

 

 あの水色の髪に尻尾は……確か、セイウンスカイ?

 

 そう思ったのと同時に、前にいたウマ娘はこっちの方に体を向けた。そしてそのウマ娘……いや、セイウンスカイは何やらにやぁ…と悪戯顔を浮かべた。

 

「おやおや~? 随分と珍しい人がいますねぇ~?」

 

「……おはよう、セイウンスカイ」

 

 俺とセイウンスカイは一応顔見知りである。

 

 そのきっかけは皐月賞。先生の指示で彼女の偵察に行っていたのだが……まぁ彼女は俺の前では本気で走ることはなく、基本サボっていたのだ。

 

 だから俺は走る気がさらさらないんだと思ってしまったが……それは彼女なりの作戦で、まんまと騙された。

 

 まぁ、ここで話し合っていても遅れるだけだからな。そう思いながら俺はセイウンスカイの横を通り過ぎようとした。

 

「うぎゃ!?」

 

 次の瞬間、何かに手を掴まれて俺の右腕はピンッと伸びきって、痛みが腕全体を襲う。

 

 そして俺の手を掴んだのは……この場には一人しかいない。

 

「ちょっとちょっと、何そんなに急いでるんですか?」

 

「いや、早くしないと遅刻するー-」

 

「今からじゃウマ娘の脚力があっても絶対間に合いませんよぉ?」

 

 えっ、そうなの?

 

 普段歩いている時はそこまで意識していなかったけど、意外と遠いのか?

 

 目の前には一応トレセン学園の門があるが、セイウンスカイにそう言われた瞬間、その門がとっても遠くにあるように思えた。

 

 いや、実際に遠い。ここから走っても、多分半分くらいの距離で予鈴が鳴るだろう。

 

「それにここら辺は乗用車も普通に通りますし、急いで交通事故にでも遭ったら元も子もないじゃないですか」

 

「……たしかに」

 

「そうやって急いでる時ほど、注意力は散漫して思いがけないハプニングに出くわすかもしれませんよ~?」

 

 セイウンスカイが言っていることも一理ある。

 

 少ないとはいえ、ここも車は通るもんな。

 

 それに門までは間に合ったとしてもその後にも、かなり長いアプローチがあるから……うん、無理ゲー。

 

「こうやってセイちゃんとゆっくり歩いて、仲良く遅刻しましょー♪」

 

「言い方は嫌だが……間に合わないのは確定だしな」

 

「ではでは~ゆっくりとゆるりと学園に向かいましょー♪」

 

 そう言いながら、セイウンスカイは握っていた手を放して、スキップするかのように前に躍り出た。

 

 俺も少し遅れて、後に続いた。

 

 ……それにしても、こうして遅刻しているのに全然焦っていないっていうのは、なんか不思議な感覚だ。

 

 遠くで予鈴が鳴っているはずなのに、なんかすごく鮮明に聞こえて。足音一つ一つ、風で揺れる草木の音なども聞こえてくる。

 

 サボるって……こんな前向きというか、後ろめたい気持ちにならないでできるものなのか。

 

「そういえばさ、菊花賞に向けて調子はどうなんだ?」

 

「……」

 

 俺は少し軽い世間話をしようと思い、声をかけたが……セイウンスカイはその場に立ち止まってしまった。

 

 彼女の表情は……どこか拍子抜けていた。でも、すぐにいつもの悪戯顔になる。

 

「それはもちろん順調に決まってますよぉ?」

 

「やっぱそうか」

 

「えぇ~そりゃもちろん! 今回はいつも以上に大きなものを得ることができましたよ~」

 

「へぇ、どんなのなんだ?」

 

「そりゃもうこー-----んくらいでかいものですよ!」

 

 そう言いながら、セイウンスカイは手を大きく広げて、その得たもののでかさを表現……んっ? ちょっと待てよ、わざわざ大きさで表すものか? それって……。

 

「……なぁ、セイウンスカイ。それってまさか、釣果じゃないよな?」

 

「えっ? 最初から釣果の話では??」

 

「んがっ!」

 

 俺はその場でずっこけそうになる。

 

 おいおい、菊花賞に向けたお話じゃないんかい。というかなんでそんな大物釣っているんだよ。

 

「いや~あそこはすごかったですね~。良質なスポットにいい潮の流れ……合宿は最高ですね」

 

「お前は合宿場を水族館プロジェクトの舞台とでも思ってるの?」

 

「まぁ、基本”釣り”しかしていませんし」

 

 まぁ、別に驚くこともない。

 

 皐月賞の時だってそんな風にやられたのだ。また同じ手段を使ってきたか。

 

 流石に二回も引っかかるほど、俺は莫迦じゃない……と思いたい。

 

「まぁ、その釣りが菊花賞にどれだけ影響があるか分からないが……油断していると、スぺに差されるからな」

 

「…………そーですかー」

 

 変に間があったような気がしたが、そう言いながらセイウンスカイは両手を後頭部に当てて、口笛を吹きながら前を歩くのだった。

 

 

 




・18日現在で18歳になりました! これからも執筆頑張ります!!

・次回は登校した後のお話の予定です。

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