少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA163,000・164,000・165,000を突破しました。ありがとうございます!!
勝負服喫茶をやるということを決めた俺たちチーム・スピカは、出し物の準備を着々と進めていた。
今回の喫茶店の場合、コーヒーを淹れれるのは自分だけだと自分が過労死してしまうので、ゴルシ、あとかっこよさそうっていう理由で立候補してくれたウオッカに教えることになった。
「コーヒーで大切なのはドリップポットの温度。沸騰したてのお湯でドリップすると粉が暴れて抽出されにくくなるんだ」
「すげぇ、これが大人の淹れ方!」
「基本に従順なだけだよ」
「なぁなぁ、暴れるってどうなるんだ? 粉がいきなり語り出して急な反省会やコントを繰り広げたるするのか!!」
「そんなボー○ボみたいなはちゃめちゃ展開はねえよ」
とまぁ、なんか少しふざけながらになるが、二人にコーヒーの淹れ方をレクチャーしていく。
二人ともとても筋がよく……とくにゴルシに関しては、ガチで淹れていたんじゃないかと思うくらい立ち筋がよかった。
「なぁ、ゴルシ」
「っ? なんだ?」
「コーヒー淹れたことあるのか? やけにお湯の注湯が上手い気がするんだが……」
「……そうか? これくらいできるだろ?」
「いやいやゴルシ先輩、これ少し傾けただけでも調整が──ああ! ミスったぁ!!」
「ウオッカはもう少し脇をしめることを意識したほうがいいかも。腕だけの力ではなく、体全体を使ってポットを扱うんだ」
だけど、ゴルシの注ぎ方は……腕だけで扱う、初心者の次の段階の。
いや、考えすぎか。それにゴルシってすごい器用なやつだから、一回見ただけで真似できるって言われてもふしぎではないな。
「やっぱコーヒーって奥が深いですね、これでもっと格好つけられるぜ!!」
「格好つけれるかは分からないけど、まあこういう趣味は持っていて損はないと思うよ」
「そうっすね!!」
「コーヒーももちろんいいですが……紅茶もかなり乙なものですよ」
そう言いながら隣にいるマックイーンはティーポットに茶葉を入れて、お湯を注いでいる。
マックイーンはスイーツを食べるのも大好きだが、それと同時に紅茶を淹れることも嗜んでいる。
そのことを先生に伝えるとじゃあそれも使おうってことで、マックイーンも紅茶を淹れることになった。
「紅茶ってシンプルですけどかなり奥が深そうですよね」
「コーヒーみたいにお湯の温度までは管理しませんが、その代わりこの蒸らし時間と最後の仕上げの際の茶葉をおこす時に味が決まりますので、コーヒーと同じくらい繊細な作業が必要ですわ」
「確かに結構アタシのやつとマックイーンのやつって、かなり味が違うわね」
「それもトライアンドエラーですわ」
・ ・ ・
今日は喫茶スピカで出す軽食をある程度試作することになっている。
ので事前に借りた調理室でスカーレット、スぺ、そしてゴルシと先生もここに集まっている。
「簡単なサンドイッチくらいやパスタくらいなら、まぁ全員できるだろ」
「まぁ、俺も少しくらいなら料理はできますけど」
「私もおかあちゃんとよくやっていたので、一通りはできますよ!」
「アタシもできますね」
「おろ? ここって結構料理経験者は多いのか?」
「どうやらそうみたいだな……なら、ちょっとだけ凝ったものを作ってもいいか?」
「いやでもまぁみんなで作りますし、簡素な方がいいんじゃないですかね? というか先生って料理できるんですね?」
「んっ、なんだ意外か?」
「えぇ、結構」
先生は料理ができるというよりは、カップ麺を作って「これが料理だろ?」って自慢気に言う料理ダメダメ人間側だと思っていた。まぁ完全に偏見だが。
でもまぁ、最近の男性は料理もできた方がいいということなのだろうか。
そしてここにいるみんなは料理ができるんだな。
なら失敗とかはなさそう──。
「おぅし!! ならゴルシちゃん特製カラシ焼きそばを調理するぜぇ!!」
「「おいちょっと待て」」
ゴルシの発言に俺と先生はほぼタイミングで突っ込む。
そもそもコーヒーや紅茶を提供しようとしているお店に、焼きそばというのは合うのだろうか?
普通そこはパスタとか洋菓子とかスイーツとか……そういう喫茶店っぽいものの方がいいんじゃないだろうか。
「焼きそばにカラシって、絶対に合わないだろ……」
「おいおい、それは食ってから……決めてほしいぜ!!」
そう言いながらゴルシは前掛けをきつく縛ると、持ってきていた手提げ袋の中から豚肉、ニンジン、もやし、キャベツ、天かすなどの食材やソースや青のりなどの調味料を机の上に出して、そしてまな板・包丁を用意して──凄まじい速さで調理を始めた!
「えっ、なにあの包丁さばき?! 並大抵の動きじゃないわ!?」
「わぁ、すごい! ボウルに切られた野菜がどんどん重なっていきます!!」
「ゴルシ……お前伊達じゃないな……」
「包丁が二つに見える……やべぇ」
俺らがそうやってゴルシの包丁さばきに対して感動している間にも、ゴルシは食材を切りきって今度は大き目なフライパンを取り出し、そのままコンロに火をつけて熱する。
ある程度熱するとサラダ油を入れ、そのまま豚肉・野菜の順番に炒めてそれを一度皿に移して、その後中華麺を取り出して少々の水を加えて麺をほぐす。
そしてさっき移した野菜炒めたちをフライパンに入れて中濃ソースを加えてから、また火にかける。
「おう新人! 今練習トラックにいる二人も連れて来いよ」
「えっ? あぁ、うん?」
「急げよ! 焼きそばは出来立てが上手いんだからな!!」
「お、おう!?」
ゴルシに急かされて俺は調理室を飛び出して、なるべく全力ゼンカイの速さで普段通り練習しているスズカとマックイーンの元に駆け寄る。
「れ、レオくん? どうしたのそんなに慌てて?」
「まさか、ゴールドシップさんがまた何かやらかしたんですか!?」
俺が着くや否や、スズカちゃんは心配。マックイーンは俺がゴルシのことで助力を求めていると思っているらしい。
いや、俺が来た=ゴルシが何かをしたって決めるのって……ゴルシのこと信用しなさすぎじゃないか?
……でもまぁ、仕方ないのか? がっしゅくでもタバスコ入り水鉄砲とか持ってきていたし。
「いや、別にやらかしてないけどさ。ゴルシが二人のことも呼んで来いって……」
「ゴールドシップ先輩が??」
「ゴールドシップさんが??」
二人とも疑問なりながらも、練習を切り上げて調理室まで着いてきてくれる。
そして調理室の扉を開ける。その瞬間鼻腔に入ってくるソースの香り。
さっきまで調理室にいたから鼻が慣れてしまっていたからそこまで感じられなかったが、一度離れた後だとソースの香りがとても鼻につく。
「なにかすごくいい匂いがするわね」
「確かにそうですね。ソース、でしょうか?」
「おっスズカにマックイーン来たな!」
声がした方へ振り返ってみると両手、さらに手首のところに器用にもう一個乗せているゴルシがそこにいた。
そしてその奥では焼きそばらしきものを頬張っている先生たちの姿が見える。
「さっさと座れ、冷めないうちに食っちまえ」
そう言うとゴルシは目線を近くの机に向けて座ることを催促する。
俺たちは困惑しながらもテーブル近くに設置されている丸椅子に座る。
「へい、お待ちどう!!」
コトッと置かれたのは真っ白なお皿。その上には色鮮やかな焼きそばが乗っている……のだが、何やら変なものがかけられているように見えた。
それはマヨネーズ……そして、黄色いナニカ。
「……なぁゴルシ、この黄色いものはなんだ?」
「カラシ」
「お前莫迦か!?」
焼きそばにカラシってどういうことだ!? ていうかそんなのあるのか!?
普通そこは紅生姜とかだろ!! なんで付け合わせがKA・RA・SHIなんだよ!!!!
というかだいぶ前に食った時もシークレットでカラシ食っていたよな? どんだけカラシが好きなんだよ!?!?
「おいおいバカは言い過ぎだろ?」
「そもそも焼きそばはソースだけだろ!?」
「何を言っているんだこの世の中には何にでもマヨネーズもかけるやつもいれば、トマトケチャップもかけるやつもいるんだ。カラシくらいいいだろ」
「……これ、カラシ取れない?」
「無理」
「俺めっちゃ苦手なんだけど……」
「まぁまぁ、何事もチャレンジだぜ!」
「……はぁ」
俺は深くため息をついて手元にある箸を取って、焼きそばをつかむ。
はぁ……さて、今回も『オ゛オ゛エエエ゛ア゛ア゛ア゛!!』って叫ぶか。
そうしてつかんだ焼きそばをそのまま口に運ぼうとした……その瞬間、手首をガッとゴルシに掴まれる。
「待て待て、これはな……こうするんだよ!!」
そう大きな声を上げながら、菜箸を使って綺麗に盛られていた焼きそばのおかずたちをごちゃ混ぜにしてしまう。
「なっ!? 何をやっているんだよゴルシ!?」
「これでいいんだよ」
「これでいいって──んっ?」
俺は無意識に匂いを嗅いでいた。だからこそ気づいたのだ、カラシの匂いがいつもとは違う……なんか、辛そうじゃない?
むしろなんか……とても良い匂いが皿の上で広がっている気がする。
そのことを認識すると「ぐ〜……」っと俺の腹の虫が小さくなる。
「さぁさぁ遠慮はすんな!」
ゴルシから割り箸を受け取って、それを縦に真っ二つにする。
そして箸で麺を持ち上げ……そして啜ってみる。
「──ッ!! これは!! 美味い!?」
口に入れた瞬間香る辛子の匂い。しかし前回のカラシと違うのは、その味。
……辛くないのだ。匂いや香り(いや同じ意味だな)は完全にカラシなはずなのに、あの独特のツーんっとした味がない。
いや、これは。
「マヨネーズの油分か?」
「おっ、舌が鋭いじゃねえか。油分っていうのは辛味成分を抑える作用っぽいものがあってだな。上手い比率で調合することによって、風味だけしか残らないようにしたんだ! これなら前回の辛いだけのカラシ焼きそばよりは売れるだろ?」
「……確かに、これは結構美味いな」
「カラシってこんなに美味しかったんだね、ボク知らなかったよ……あのたい焼きのイメージしかないから」
「料理は科学って……こういうことだったのね」
他にゴルシ特製カラシ焼きそばを食べたみんなは各々の美味しいという感想を漏らしている。
ウオッカとかはそのままガツガツ食べて二杯目を希望している。
「……まぁ、確かにこれなら喫茶の軽食にはなりそうだな」
「なぁいいだろトレーナー? これを生み出すためにゴルシちゃんは努力と試行をし続けたんだよ!!」
「……分かった」
「いよっしゃああああぁぁ!!!!」
「でも軽食の1メニューだからな、その他の軽食もちゃんと作れよ?」
「あったりめぇよ!!!!」
・ ・ ・
ある日、俺と先生。そしてスズカとスペは練習終わりのトラック場に来ていた。
先生は近くの柵に身体を預け、俺は手持ちのスマホスタンドにスマホを挟んで、それを二人の方に向けている。
そして画面に映っている二人は、勝負服を着ている。
「なんかレース以外で着ると……ちょっと違和感があるね」
「分かります。でもやっぱりこれを着ると、少しだけ気が引き締まりますね!!」
そういえばウマ娘の勝負服には向こうの世界線のパートナーの魂の残滓が宿っていると、皐月賞辺りで知った。
今日はレースではなくても、やっぱりその影響は受けるものなのかもしれない。
「それで玲音、どんな風に撮っていくんだ?」
「えっと……二人とも、これを見て」
そう言いながら俺は二人に一枚の紙を渡す。
そこには下手くそながら絵が描かれており、左上には番号が振られている。さらに下にはスズカ・スペと書いてあり、そこに一言「走り抜ける」や「後ろ姿のアップ」など色々書かれている。
「ほぉ、絵コンテを持ってくるなんて、結構本格的じゃないか」
「二人にはこの紙に従ってもらうような形で今日は動いてもらうよ。まぁ、そこまで難しく考えなくてもいいよ」
「わぁ…これ全部玲音さんが? すごいです! すごいです!!」
「うん、すごく分かりやすい」
「二人ともありがとう。じゃあ、ちょっと時間が押しているから早めに行くよ!!」
「はい!!」
「えぇ!!」
・ ・ ・
「やっぱりまずは走る姿を撮ろう!!」
「えっと、『二人で併走してカメラ横を通り過ぎる』ですか!」
「普通に走ればいいんだよね?」
「うん、二人はあそこから走ってきてそれをこのカメラで捉えるから」
そう伝えると、二人とも向こう側に行ってくれる。俺はしっかりとカメラを持ってその場に留まる。
先生が「よーい、ドン!!」と言うとドドドドと地響きが地面越しに足へ、そして耳にその音が入ってくる。
横目で二人を確認しながら、少しだけカメラの高さを調整する。
そして次の瞬間、一つ…そしてまた一つ風が駆け抜ける。
俺は動画を止めて一度確認し……二人にOKサインを出した。
・ ・ ・
「えっとじゃあ次は…尻尾から腰辺りのアップで」
「分かったわ、普通に立っていればいい?」
「うん、よろしく」
「「……」」
「うん、ありがとう」
「これくらい平気よ」
「じゃあ次は……スペ、真正面の足から脚までのアングルよろしく」
「は、はい!」
「……」
「……///」
「あれ、どうしたの?」
「い、いや…改めて思うと……これって結構恥ずかしいことしてるんじゃ……///」
「そうかな? ただ脚や服を撮っているだけだけど?」
「そうですけど……うぅ〜///」
「「(何をそんなに恥ずかしがっているんだろう?)」」
「(こいつら、自覚ないのか……)」
・ ・ ・
撮影が続いていき、日がどんどん傾き、空が夕焼け色から青紫色に染まり始めた頃、ラストシーン一個前の撮影を始める。
「じゃあ、もう一回走ってもらうよ。でも今度は……俺の横を通過していって」
「通過? それって大丈夫かしら、もし万が一転んだりしたらレオくんが──」
「大丈夫、スズちゃんとスペならそんなことは起きない」
「……ありがとうございます。スズカさん、やりましょう!」
「……えぇ」
そうしてスズカとスペは少し離れた(大体100m)くらい離れたところにスタンバイし、そしてスタートする。
……こうして見ると、ウマ娘の走りというものはとても力強いものだ。いくら当たらないとはいえ、その迫力とスピードには少しビビってしまう。
でもなんとか震えを我慢して、二人が通り過ぎる瞬間を撮る。
「よし、じゃあ次は俺が後ろ向いてるから二人はその横を駆けてくれ」
「っ! なるほど、そう来たか」
先生には自分が何をしたいのかが伝わったらしく、先生はニヤニヤしている。
二人はそのまま俺の言う通り、ある程度距離を取ったところから走ってくれる。
後ろから聞こえる走行音……見えないというのがどれほど恐ろしいものなのかが、今身を以て体験している。
だけど俺は両手でしっかりと手持ちスマホスタンドを持って、その場に構える……のではなく、その場にうつ伏せになって、少しカメラが上を向くように設定している。
そしてビュンッと風切り音がした瞬間、二人のウマ娘が夕陽に向かって駆けているように見えた。
実はこの前のゴルシ焼きそばの時、この時間帯のこのトラックなら夕陽がいい感じに映り出すことに気づいたのだ。
録画を止めて、一度再生してみると……俺が理想としていたアングルになった。
よし、ちょっとジャージが汚れたけどこれくらいなら──。
「──うえっぷ!? 口の中ガァ!?」
そりゃそっか……一回一回かなり地面が抉れているんだもの。土や芝が飛んで来てもおかしくないよね。
「だ、大丈夫レオくん!?」
「けへっ! かはっ!! ……あ、あぁ土食っただけだから大丈夫」
「それって大丈夫じゃないですよ!?」
「……玲音、これで最後か?」
「いや、あと一つだけどうしてもやりたいアングルがあるんですけど、まだ時間がかかりますね。あと、流石にその時間帯はトラックは使えないので……二人とも、寮の屋上って取れるかな?」
「多分、フジキセキ先輩の了承があればいいと思うけど」
「交渉お願いできるかな? 俺も入りたいって……」
「……分かったわ」
・ ・ ・
そのまま解散して数時間後、スズカの方からメッセージが来ていて、「大丈夫」との一言が書かれており、その後に「21:00」とも書かれていた。
俺はそのメッセージ通り、21時に栗東寮の方に行くとスズカとスペ、そして寮長のフジキセキがいた。
「やぁ坊やくん、今夜はポニーちゃんたちに何をするのかな?」
「フジキセキさん。実はこの星空をバックに二人を撮りたいんですよ。スピカやリギルはじめ、多くのチームは星がモチーフになっていますからね」
「なるほど、そんなロマンチックなことをしたいなら、私は大歓迎だよ」
「ありがとうございます!!」
そうして俺は、栗東寮に入り階段で屋上へ目指す。
普段トレーナーや学生が入れないようなところに入るっていうのは、ちゃんと許可を取っていても少し罪悪感というか後ろめたい気持ちが心の中にもやもやと募る。
そして屋上へ着くと夜の湿った生温い風が肌を撫でる。それと同時に上空には疎らに輝いている星々が見える。
「それで玲音さん! 今からどんな方法で撮影するんですか?」
「星ってことは、上を向けて撮るんだよね?」
「うん……じゃあ二人とも背中合わせになって」
「「……背中合わせ?」」
二人は何のことかは分からないが、とりあえず俺の言う通りに動いてくれる。
「んで、こうスズちゃんの左手とスペの右手を繋いで……目を閉じて、そしてターフを誰よりも早く駆けた瞬間を思い出して」
「目を閉じて……」
「誰よりも、早く……」
そう言うと二人とも目を閉じて各々の思い描いている景色を見て、二人とも真剣で……でも笑みを自然と浮かべる。
その二人を際立たせてくれるのは……上空の星空。
「……うん、最高のアングルだ」
さて最高の素材は用意できた。
あとは……これを仕上げるだけだ!!
そうして俺は今夜、と休日を使って『勝負服喫茶・スピカ チーム展CM』を仕上げたのだった。
・あかん……めっちゃ期間開いた()
・選択チケットはライスにしました♪
・次回は秋の感謝祭1日目。勝負服喫茶・スピカのお話の予定です。