少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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感謝祭当日、トレセン学園に通っている多くの生徒は午前7時と少し早い時間帯から学園にいた。
というのも当日になってからの準備というものもあるらしく周りを見渡せば、おそらく長期間作り上げたであろう大きなモザイクアートや、パネル展示などを和気藹々としながら、設置している。
そしてこっちはこっちで──。
「ガスコンロは準備できたか?」
「予備のガス缶、ここに置いときますねー!」
「や、やっぱこのステージ衣装フリルとか多くねぇか!?」
「あら、テイオーさんの勝負服姿かなり合ってますね」
「最後に着たのってだいぶ前だったんだけど、まだ着れてよかったよ〜。でもやっぱ本物の勝負服と比べるとかなりチープだね」
「そう…? テイオーの勝負服はとてもいいと思うわよ?」
「そうかな?」
「私はすごく好きですよテイオーさんの勝負服! まぁ、私はエレメンタリークラスのウマ娘さんは見たことないんですけどね……」
などと準備でバタバタしながらも、雑談を楽しんでいる。
去年もトレーナー学科の方でこんな風にぎゃーぎゃー言いながら準備していたから懐かしい気持ちになるが、同時にウマ娘の、それも仲のいい娘たちとこんな風に準備しているのは、なんか不思議な感覚だ。
「レオくん、どうしたの?」
「いやさ、なんか夢のようだなって……みんなと居れることも、自分の大好きなことをこうやって文化祭でできることもさ」
「……私も、半年前までは思ってもいなかった」
「頑張ろうか、スズちゃん」
「えぇ…」
そう言った瞬間、ピンポンパンポーンと教室に備え付けられているスピーカーからチャイムが鳴り響く。
しばらくするとザッという雑音の後に、ブレス音が聞こえ──。
『ただいまより、第○回。秋のトゥインクルシリーズ・大ファン感謝祭を、開催致します』
・ ・ ・
「イラッシャイマセー! お2人様でよろしいでしょうか?」
「ご注文、お伺いいたしますわ」
「レオくん、ブレンド二つ。ゴルシ先輩、ニンジンサンドとトマトサンドをお願いします」
「分かった!」
「おうよ!!」
感謝祭開催の宣言がされて数分後、早速勝負服喫茶・スピカには人が入ってきた。一人、二人、一人とまばらに人が入ってきて…その波は収まることがない。
気づけばスピカの前には、長蛇の列とまではいかないが、なかなか長い列ができていた。
俺はコーヒー豆を挽きながら、周りに目を向けてみる。
全員、洗練されたような動きだ。トレンチという食品を持っていく皿みたいなものがあるのだが、その持ち方もよく、こぼしたり、ひっくり返すことはない。
一応念のため練習しておいたが、意味はあったようだ。
「なぁなぁ、ここのカフェやばくね??」
「あぁ、勝負服のウマ娘なんて滅多に見られねえのに、ここではさらに近くで見られるからな!」
「そもそも俺らからしたら、現役ウマ娘がこんな近くにいるだけでも奇跡に近いからな」
「ったく……H(orse)D(aughter)は最高だぜ!」
など、結構称賛の声が多く聞こえてくる。
先生もそれを分かっているのか時々こくこくと首を縦に細かく振っている。
「はい、ブレンド二つ」
「こっちもできたぜ!」
トレンチにブレンドコーヒー二つとトマトサンドを置き左手で持ち上げ、空いた手でニンジンサンドを持っていくスズカ。その姿は、まさに喫茶店の店員といった感じだ。
背筋もピンッとしていて、とても綺麗だ。
「ありがとうございます。こちらニンジンサンドとトマトサンド。ブレンドコーヒーです」
そうして向こうに目を向けると、お客さんたちが「お~」と驚いていることに気づく。
なんでだろう? っていう疑問は……すぐに消えた。
「ありがとうございま~す、はちみつサンドとカフェオレで~す♪」
そう言いながらテイオーは食品を出しているが……出されたお客さんはぽかーんと口を開けていた。
そのはずだ。だってテイオーは軽快なステップを踏みながらお客さんの前まで行っていたからだ。
あのステップは……そうだ。いつぞやのカラオケ屋で見たテイオーステップってやつだろうか。
ドリンクがある状態でステップなんて普通ならありえないことだが、見た感じテイオーは一滴も零していない。それどころか波打つカフェオレをそのバランス感覚の良さで受け止めている。
見ていて、とてもかっこいいと思う。
「あ、あの玲音さん! だっちコーヒーお願いします!」
「りょーかい。あっ、それってガムシロップとミルクつけていい?」
「あっ……聞き忘れてましたぁ!!」
「落ち着いて、ゆっくり聞きに行って」
「は、はい……」
そう言うとスぺはお客さんのところに戻って、確認を取る。
そしてすぐに戻ってきたが……その表情は少し悲しそうで、かつウマ耳も力なく垂れている。
「…ガムシロップは入れてと、ミルクは要らないみたいです」
「分かった、ありがとねスぺ」
「うぅ…私、足引っ張ってばかりですね」
「いや、むしろスぺは頑張ってくれている方だよ。もっと自信持って?」
そう言いながら俺はスぺの頭にぽんっと手を置いて、少し前後に動かして頭をなでる。
心なしか、スぺも嬉しそうだ。尻尾もブン…ブンッと振る時に力がある。
「あっ、玲音先輩、ちょっといいですか?」
「んっ? どうしたウオッカ?」
「いや、なんかうちの生徒が玲音先輩の入れたコーヒーを飲んだ瞬間、『マスターを、呼んでくれませんか?』って言ってきて」
えっ、なにそれ。俺何かやらかした??
もしかして髪の毛が入っていたとか? いやそれだったら飲まないだろう。
じゃあなんだ、ドリップをミスってえぐいコーヒーを提供しちゃったとか?
俺はこんな風にコーヒードリップはできるが、そんなクレーム対応なんてできる訳がないてかやったことすらない。
少し憂鬱になりながらも、俺はウオッカに着いていく。
その席に座っていたのは、トレセン学園の制服を着た黒髪のウマ娘だった。
「あなたが…この二つのコーヒーを淹れたんですか?」
そのお客さんの元にはカップとグラスが一つずつ。さらにグラスの方には空になったはちみつの容器があったので、このお客さんはブレンドとアイスはちみつコーヒーを頼んだってことだろう。
「は、はい……あの、どこか悪いところが?」
「この豆のブレンドはとても駅前の焙煎屋に似ています。ですがこっちのはちみつコーヒー、これは飲んだことのない素晴らしい味です……どういう比率なんですか?」
「……はい! こちらはグジG1と──」
そうして俺はそのウマ娘にはちみつコーヒーで使っているブレンドの豆の比率を説明する。
……こういう共通の趣味を語り合え子は同じ年代ではなかなか探すのが難しいから、ちょっと長めに語ってしまった。
「…では、そろそろお暇しますね」
「はい、ありがとうございました!」
「いつかまた、飲んでみたいです…」
自分は深々と頭を下げて、黒髪のウマ娘を見送る。
その後も勝負服喫茶・スピカはなかなかの盛況だった。
・ ・ ・
「よぅし玲音、スペ、スズカ、そろそろ感謝祭楽しんでこい」
『はーい!』
先生の指示を聞いて、俺は着ていたエプロンを脱いで制服を着る。
スマホの方には『一階の昇降口付近の階段集合』と送られていたので、俺はそこに行って二人を待つ。
「……」
それにしても、こうやって見ると様々な人たちが自分たちの学び舎にいるっていうのは、いつまで経っても慣れない感覚だ。
まぁ一般人以外にもちゃんとうちの生徒もいるんだけど。みんな楽しそうに談笑として──あれ、意外とウマ娘接しているトレーナー学科の生徒って、少ないんだな……。
「レオくん、お待たせ」
「遅くなってすみません~!」
「いや、俺も今来たところだから。じゃ、行こうか」
「うん」
「はい!」
・ ・ ・
数十分、俺とスズカ、そしてスぺは秋のトゥインクルシリーズファン大感謝祭を大いに楽しんでいる。
トレセン学園のそれぞれの出し物はとてもクオリティが高く、本当にこれが学祭なんだろうか? と少しだけ疑問に思ってしまう。
それほど出店一つ一つのアイデアとクオリティがとてもいい。
「そらっ!!」
そして現に、自分も子どもに戻ったように輪投げなどを楽しんでいる。
俺が投げた投げ輪は見事狙い通りのところに弧線を描いて、その棒に通った。
「おめでとうございます!! 獲得ポイントは100点ですのでこの中から好きなのどうぞ!!」
そこには10点、20点、30点、50点と書かれた箱にお菓子が入っている。どうやら獲得したポイントの中なら好きな組み合わせで選べるタイプらしい。
俺は50点のチップスターズと30点のきのたけの山里、そして10点のうんまい棒を二つ袋の中に詰める。
「わぁ、レオさんすごいですね!」
「あはは、たまたまだよ。たまたま」
「それでもすごいと思うよ、私はそこまでだったしね…」
「私も、参加賞の飴ちゃんだけでした……」
「ならさ、これシェアしない?」
「いいんですか?」
「こういうのは共有するのが醍醐味なんだよ」
「そうね、学祭はみんなで楽しんでこそ」
「っ! はい!!」
そうしてきのたけの山里の袋を開けて共有し食べ歩きながら、適当に散策する。
横目で見てみると、スぺの表情はとても楽しそうで陽気そうに尻尾をぶんっぶんっとリズミカルに大きく振っている。
隣にいるスズカも優しい笑みを浮かべていて、そのウマ耳は横に向いていてどうやら心穏やかなようだ。
まぁ多分、俺もウマ娘みたいにウマ耳や尻尾が同じようになっていると思う。
「……っ?」
「スぺ? どうしたんだ、急に立ち止まって耳をピーンッとさせて」
「今、大食いってキーワードが聞こえて」
「えっ? ……」
俺も耳を澄ませてみるが、そもそも周りの喧騒や鉄板で物が焼かれる音などの雑音がごっちゃごちゃになっていて、そんな一つ一つの声など聞き分けることなどできる訳がない。
ウマ娘の聴力はほんと、とても優秀ということか。
「っ、やっぱり聞こえます! あっちです!」
そう言うや否や、スぺは俺とスズカの手を掴んでそのまま走り始める。
「「わわっ! スぺ(ちゃん)!?」」
突然のことで少し驚きながらも、俺はなんとかスぺに手を引かれながら走る。
多分ヒトである自分がいるからめっちゃ手加減してくれているんだろうけど、それでもかなり速い……全力疾走で着いていかないといけない。
『大食いグランプリはトレセン学園秋のトゥインクルシリーズファン大感謝祭の目玉の一つ!! その歴史は古く──』
スぺに手を引かれ全力疾走して息をぜえはぁぜえはぁ整えていると、備え付けられているスピーカーからそう聞こえてくる。
顔を上げてみるとそこは特設会場みたいなところであり、看板には『○○○○大食い対決』と書かれている。
『さぁて! 今回実況を務めるのはトレセン学園の江戸っ子! イナリワンでいっ!!』
『わー-!!」
ステージ前に集まった観客たちのボルテージはかなり上がっているらしく、とても盛り上がっている。
大食い競争って、こんなに熱くなるものだっけ。
『さぁ今回のチャレンジャーたちの──登場でいっ!!』
実況のイナリワンがそう言った瞬間、ステージ上に垂れ下がっていた幕がばさっと落ちる。
そしてその先には三人のウマ娘が立っていた。
『地方から中央へ現れた葦毛の怪物は大食いでも怪物と化すのか!! オグリィィィィキャップ!!』
「待ち遠しいな…今回は全力で楽しもう」
『難波のど根性、その電光石火の末脚は大食いでも炸裂するのか!! タマモォォォォクロス!!』
「っし! いっちょやってみようか!!」
『落ち着いた瞳に秘められているスタミナは大食いで通用するか!! スーパーァァァクリーク!!』
「うふふっ、頑張ります♪」
『そして今回、この三名を待ち構えるのが──こいつでいっ!!』
ぶんっとぶん回されたイナリワンの腕の先にあったのは、なにやら背丈よりもでかいナニか。それが三人のウマ娘に前にも置かれる。
そして一気にばさっと掛けられていた布みたいなものが取り外させる。次の瞬間、目の前に現れたドーナツの山を見て、ギャラリーたちは感嘆と驚愕が入り混じったような反応が返ってくる。
「美味そうだ……!」
「ちょ、ちょちょい! 明らかに大きさというか高さおかしいやろ?!」
「これは……一筋縄では行かなそうですね」
『チャレンジャーたちの反応も上々! これは熱い戦いが期待できるっ!!』
その後、少しスピーチ(ドーナツ提供店の宣伝や各ウマ娘の説明など)をしたり観客の応援を受ける時間などがあり、そしていよいよ3人のウマ娘が挑戦席に座る。
するとファンファーレが聞こえてくる。それはまるでトゥインクルシリーズのレース前のように。観客の一人が手拍子を始め、それが少しずつ広がっていく。そしてファンファーレが終われば、ステージ前は歓声に包まれる。
『第33回! 大食いグランプリ!! れでぃ~!!』
そして次の瞬間、戦いのゴングが鳴った。
・みなさま! 大変! 大変お久しぶりです! ヒビル未来派No.24です! 1ヶ月以上空いてしまい申し訳ございません。理由として、4月から大学の新生活。通学の2時間の電車移動の疲れ。trpgをやり始めて楽しすぎたなど。仕方ない理由としょうがない理由が入り混じってます()またゆっくりとですが、ちゃんと更新していきますので、よろしくお願いします!!
・次回は大食いグランプリとその後のお話の予定です。