少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA175,000・176,000を突破しました!
・この回の前半パートはhideさんの『PSYENCE』のPSYENCE(SE)を聞きながらお読みください。
・グラスの玲音の呼び方間違えてた~!!(訂正しました)
『──その日、学び舎の部屋は一つの魔法にかかる』
次の瞬間、その教室が開く。そして光が収まっていくと、そこにあったのは赤と黒と淡い照明で彩られた空間だった。
辺りからはムーディーなジャズが流れており、ダイスが振られる音、ルーレットが回る音、カードがシャッフルされる音などが聞こえ、ところどころから談笑が上がっている。
場面は切り替わり、ディーラーがカードをシャッフルしているシーンが映し出され、そしてカード配られる。そこには4人のプレイヤーがいる。それぞれはカードとにらっめこしながら、手元にあるコインをかけている。
そうしてゲームは進んでいく──ブラックジャック。
視点は隣にあるルーレット、ダーツ、大富豪など多くのゲームへと向かっていく。
そして支配人みたいな人間がお客に対して、お辞儀をしてお客さんは退席する。
「楽しかったね~」とお客たちは会話をしている。
その中の一人がもう一回行かないかと提案する。すると全員は賛成し踵を返してその教室へ戻る。
しかし扉を開けてもそれは普段の教室だった。
『本日限りのオープン…ぜひお越しください』
という字幕と共に暗転し、そしてうっすらと少しずつ文字が浮かび上がる。
2〇HR─Casino・Futuro.
・ ・ ・
感謝祭二日目、今日はクラス展示の方を行っている。
とは言っても俺の仕事時間は最初の三時間くらいだから、昨日よりも忙しいという訳でもない。
そう考えながら、俺は適当にカードをシャッフルしながら、イスに座って客を待つ。
今回俺の役目はブラックジャックのディーラーだ。
とは言ってもそんな本格的なルールを覚えているわけじゃない。とりあえず慣れないディーラー服を着て突っ立っているだけだ。
なんでもこの制服、実家が服屋さんを営んでいる生徒が借りて来たらしいけど…なぜここまでサイズにフィットしているのか…という疑問しか湧いてこなかった。
そして今現在、客は入っているが、ほとんどの人間はルーレットやダーツなどの方に流れていく。そりゃブラックジャックなんて結構地味な部類になるからなぁ。
「谷崎~そっちに三人入るからな~!」
「あ~い」
暇をしていると入口で受付をしている尊野が声を上げた。自分は少しネクタイを直して、背筋を真っ直ぐにする。
「ようこそ、カジノ・フトゥールです。ここは────」
「おおおおおおお!! すっごい! 本ものだぁ!!」
定型文を唱えている途中に大きな声でかき消される。そしてその大声にここにいる全員は気になったのか、視線がこっちに集まる。
「こらきみ、もう少し声をおさえろ…」
「だってだってこんなに本ものみたいなんてカンドーするでしょおおおお!!」
「…いいから、すわるよ」
「……」
俺の目の前に現れたのは四人のウマ娘…それもかなり小さい。小学生、だろうか?
なぜこんな子ども向けじゃないところに……っと思ったが、思い出した。
今回の感謝祭は土曜日と日曜日に開催していて、一日目よりも来る人は多いと考えられる。だからこそ、二日目は保護者向けの説明会も行われるのだ。時間としては9時半、まず一回目の説明会が行われている時間だ。
おそらくこの子たちは暇な時間を適当な時間で潰しに来たのだろう。
そしてここはポイントによってお菓子の掴み取りができる。それに釣られて来たというのが妥当だろう。
なら、接し方も少しは変えないといけない。
「こんにちは、4人はお友だちかな?」
「いいや? わたしたちはたまたま親がとなりドウシだっただけだ」
「…うん」
そう言ったのは銀髪のとってももっこもこなウマ娘。その隣にはちょこん…っと長髪の黒髪のウマ娘が服の袖を掴んでいる。見た感じ、姉妹だろうか…?
「でもでもここにいるってことは、ここをめざしているんだよね!!」
そう言うのはとてもスポーティーな格好をした短髪黒髪のウマ娘…とても声が大きいから印象に残りやすいな、これ。
「……まだ分かんないけどね」
その隣にいた茶髪のウマ娘、よく見ると片耳にイヤフォンを挿している。
「改めてようこそ、ここはブラックジャックってゲームができるところだよ」
「ブラックジャックってなに!!!!」
「それを今からあたしたちに教えるんでしょこのおにーさんは…」
「え~っと、簡単にいえば数が21になるようにするんだ。越しちゃダメ、でも自分に負けないようになるべく高くしないといけない」
「ふむ、つまりカードばんのチキンレースだな」
「まぁそうだね」
俺はシャッフルをして、三人(長髪の黒髪の子は、銀髪のもっこもこの子の近くにいる)に配る。
「これで数がいいならスタンド、一枚欲しい時はヒットと宣言して」
「ならヒットだね!!」
「おい、もう少し考えた方が…」
「ヒット!!」
俺は短髪の子にカードを配る。
「おおぉ~!? 24でオーバーしたぁ!!」
「……言わんこっちゃない…あたしはスタンド…」
茶髪の子はそのまま。手札を見ると19、まぁ妥当だ。
「さて、わたしはどうするか…16…」
「一応目安としては18より上か下かで変わるね。あとディーラーがバースト(21を超えること)する可能性もあるから、あえて少ない数で切り上げるのも一つの手だよ」
「むっ、そうか……14だからヒットだ」
自分はカードを引いて、それをもこもこウマ娘の方に滑らせる。地味に練習したディーラー風の渡し方だ。
これ教室の机だとめっちゃ滑るから、上手~く手加減をしないとカードが床に落ちてしまう。
「ふむっ、19か…」
「一応ヒットは何回でもできるよ」
「ならスタンドだ」
「OK, Open the Game.」
俺は山札からカードを引いて、それを見せる……23、バーストだ。
「はい、2人の勝ち」
そう言って、俺は賭けていた数の分と同じコイン数を2人に渡す。
このカジノではゲームで獲得した時運ぬ「
「おぉ~!! 二人ともすごい!!」
「…おねーちゃん、わたしもやりたい…」
「んっ、ブライアンもやるか?」
「うん…さんすーはわかるから…」
「んじゃ、君も入ろう」
「……うん!」
・ ・ ・
あの子たちとゲームを楽しんで、お菓子をわいわい選ぶ仲睦まじい光景を眺めて一時間後くらい。
俺はあの後も何人ものプレイヤーたちとゲームを楽しんだ。シンプルなゲーム内容だけど、その分カードによって命運が決まるから、増やすか増やさないかを悩むプレイヤーを見るのはちょっと面白かった。
「玲音、そろそろ上がりだぜ」
「尊野…あぁ、もうそんな時間か」
「楽しかったか?」
「まぁね、なかなかできない貴重な経験だったし」
「よし、じゃあ次のや────」
次の瞬間、扉がバーン!と開けられて、何事かとそっちに視線が集まる。それは俺も尊野も例外ではなかった。
そしてその音の方に向いてみると、視界の中に捉えたのはゆらゆらと揺れる尻尾と、茶髪のポニーテール。
あれは…。
「れ―――――おん!!」
「うわっと!?」
その娘がトウカイテイオーだと分かった瞬間、テイオーが驚異的な跳躍でこっちまで飛んできた。
あまりにいきなりなことだったから少し焦ったけど、俺は上手くテイオーを抱き留めながら、その衝撃が直接来ないように少しだけ自分も後ろに飛んで力を分散させる…背中から地面に落ちるけど。
「ぐぇ…」
「お~、玲音似合ってるね~♪」
「あ、あはは、ありがとうテイオー…ちょっと、身体起こしていい?」
「あ、ごめんごめん、はい…」
そう言いながらテイオーはひょいっと体を起こして、自分の方へ手を差し出す。
俺はその手を握って身体を起こして────。
「じゃあしゅっぱーつ!!」
「いやどこ──にぃいいいいい!?!?」
そうして俺はそのまま手を引っ張られて教室を出る…というか普通の人もいるんだから走っちゃダメだろテイオー! っと叫びたかったけど、テイオーの速度についていくのに必死なのでそんな余裕はなかった。
そのまま走り続けて40秒くらいでようやく止まってくれる…もちろんそんな短時間でもウマ娘のジョギングレベルで走られた自分は虫の息なんだけど。
「ぜぇ…ぜぇ…な、なんなのさ、急に…」
「えっへへ~、ここ玲音に紹介したかったんだ~」
テイオーが指を指す。
そこに書かれていたのは『執事喫茶・リギル』。
「……執事、喫茶?」
「そうそう! さぁ行くよ~!」
「いや、まだ息がっ…」
「む~、しょうがないな~。じゃあ落ち着くまで待ってるよ」
自分は少しずつ息を整えていく。隣ではテイオーが俺の背中をさすってくれる。
そしてその教室の扉を開く────。
『きゃあああああああああああ!!!!』
開けた瞬間、人の声が空気と共に乗ってきて俺を殴った。ついでに耳が割れそうだった。
な、なんだこれ…ファンコンサート??
って、さっきまで隣にいたテイオーがいなくなってるんですけど?!
どこだどこだと周りを見渡してみると。
「きゃー! カイチョー!! ねぇねぇカイチョーすごいよねぇ!!」
と、お客さんたちに混じってシンボリルドルフさんが尊い~!的なことを、とても大きな声で叫んでいた。
というか、リギルすごいな。ほとんど女子やんけ…それに普通に中学生とか高校生も見えるし、ファンの層が厚いんだなぁ。
なんて思っていると横から視線を感じてそっちの方向を向く。
するとそこにはグラスの姿が。
「こんにちは、玲音さん」
「グラス、こんにちは。とても盛況みたいだね」
「あぁ~…それが…」
「っ?」
グラスは少し苦笑しながら、自分の流星を少し撫でている。
「実は、あぁやって外から見ている人が多いので、売り上げとかは普通なんですよ…盛況はいいんですけどね」
「あ~、なるほどね。ようするにCDは買わないけど、無料のアイドルのイベントを見ている的な?」
「そんな感じですね。まぁ、相手が相手なので会うのも一苦労なんでしょうね…」
「ん~…じゃあ今は空いてる?」
「はい、一つ席が空いていますね」
「じゃあ自分も飲もうかな、あっ、2人で。あの娘の分もね」
「ではカップケーキはいります?」
「ん~、じゃあもらおうかな」
「お会計が800円ですね」
「お~、なかなかの値段…」
「なかなかにいい茶葉と国産に拘りぬいたカップケーキですから、あっ、ちなみに作ったのは私なんですよ?」
「へぇ、それは楽しみ。はい、800円」
「ではご案内しますね、二名様入ります」
グラスについていく…と思ったけど、テイオーはまだシンボリルドルフに夢中だ。
なので、俺は首元を優しく摘まみ、そのまま持っていく。あれだ、いわゆる猫持ちだ。
「ぴぇ?! な、なにすんのさ玲音!!」
「はいはい、さっさと行くぞ」
「え、ドコに?」
「そりゃ、テーブルにでしょ…」
そう言うとテイオーはぽか~んっと口を開けてフリーズ。
そのままフリーズしたまま持ち運んで、席に座らせる。
「え、あれぇ??」
「へぇ~机とかイスもかなりいいな…」
「ちょ、玲音!? なんでボクたちここにいるの?!」
「いや、喫茶店なんだから普通でしょ…」
「でも、でもぉ!!」
なぜだかいやいやと駄々をこねるテイオーを無視して、俺はグラスが用意してくれたお冷を飲む。
……地味にディーラーやっていた時は全然水分補給していなかったから、自分の喉がどれだけ乾いていたかが分かった瞬間だった。
「え、えぇ…いいのかなぁ」
「いやここ喫茶店だから、お茶を飲むところだからね?」
「そうだけどさぁ!」
わーきゃー! 言っているテイオーを眺めながら、自分は紅茶とカップケーキが届くのを待つ。
…っと、しばらくするとポケットに入れていた携帯が震える。
取り出して見ると、そこにはライスさんからのLANE…と同時に、マックイーンからも連絡が。
『玲音くん…この後暇? だったらライスのクラスの展示、見に来てくれないかな?』
『あの玲音さん、もしお暇でしたらご一緒に回りませんか?』
とそこには時間が書かれている。
読んだ感じ、2人とも会えそうだな。
とりあえず時間をずらして二人に送信、すると程無くして返答が返ってくる。どうやら二人とも大丈夫そうだ。
「執事がいるのによそ見するとは、いけないご主人様だね」
「…フジキセキさん?」
自分の横に立っていたのはフジキセキさんだった。
その手にはトレンチとその上には紅茶カップとカップケーキが。
「ロイヤルアールグレイティーと、バナナのカップケーキです」
「うわぁ、美味しそう…ありがとうございま──」
「す」と言おうとした瞬間、俺は手を引かれる。
「え??」
「そんなご主人様には、少し罰を与えないとね」
「え、え?!」
そうして俺はそのままフジキセキさんに手を引っ張られて、喫茶店の裏側へと誘われる。
そこにはカップケーキをトレンチに乗せたシンボリルドルフさんが…。
「おや、君も運びたくなったのか?」
「いや別にそういう訳では……フジキセキさん、なんでこっちに?」
「君にも執事になってもらおうと思ってね、ちょうどそれらしい服も着ているらしいし」
「エッ??」
「うむ、確かによく似合っていそうだ」
「え、え??」
え、ちょっと待って理解が追い付かない。
一体何をさせられようとしているんだ、俺?
「ほら、私がやるようにやってみるといい」
そう言いながらシンボリルドルフさんはホール(仮)の方へと出ていく。自分は覗き込むように見てみる。
するとそこにはめちゃくちゃ興奮しているテイオー…わぉ、あんなにも尻尾をブンブン振っている。千切れるんじゃないかと思うくらいだ。
そして何より周りのギャラリーたちの反応がやばすぎる。あっ、誰か倒れた。
「シンボリルドルフさん、すごく人気がありますね」
「そりゃこの学園の顔でもあり、元々あるカリスマ性も高いからね」
「……あの~、この後に出るんですか??」
「うん、幸運を」
「えぇ…」
俺は少し肩をガクッと落とす。いやだってあの人の後に行くとかなんの冗談かな??
というか殺されない俺? ギャラリーにめっちゃ私怨を送られてきそうなんだが…。
まぁ、入る前に見たけどここは執事服のレンタルも行っているらしいし、まぁいいのかもしれないけど。
なんて思っているとシンボリルドルフさんが帰ってくる。
「どうだ、大体分かったか?」
「いや、むしろ元々ない自信がさらにサーッと無くなりましたよ…」
「……ふむ」
そうシンボリルドルフさんは口元に指を当てて、少しだけ考えたようにすると──真っ直ぐとした目でこっちを見る。
「谷崎くん、君は自然に接していればいい。もっと肩の力を抜くんだ」
そう言いながら、ポンッと両手を俺の両肩に置く。その手のひらはなんかとても温かいように感じた。
「…トレーナーになると、あぁいった人前に出ることは多くなる。こういった経験は、生徒の内はそんなにできない。いい経験だと思ってやってみるといい…それに」
「それに?」
「テイオーは、きっと君の執事姿に喜ぶぞ」
「……執事服ではなく、ディーラー服ですけどね」
というか、自分で喜んでくれるものなのかな。
シンボリルドルフさんがやった方が圧倒的に喜ぶ気もするけど。
「冗談が言えるくらいには心に余裕があるみたいだな」
そう言いながら、シンボリルドルフさんは俺の後ろに回り、トンッと
優しく背中を押す。「行ってこい…」と呟いていた気がした。
その押しに身体を委ねると、俺はホールに出ていた。横を見てみるとぽかーんとしているギャラリー、そしてテイオーも目を点にしていた。
そりゃそうだ、さっきまで目の前に座っていた男が何故だかウェイターをしているんだから。
「えっと、玲音?」
「(あーもうこうなったらヤケだ…)」
俺は少し背筋を伸ばして、テイオーを真っ直ぐ見る。手元にあるのは紅茶だけど基本腕を固定していればそこまで揺れることはない。
テイオーに聞こえない程度に咳払いして……いや、ウマ娘の聴力だったら聞こえるか。
少し深めに息を吐いて、右手でソーサーを摘まむ。
「お待たせいたしましたお嬢様、レディグレイです」
「えっ…あっ…」
目の前に紅茶カップが置かれて、そしてそれを凝視し、そして今度はこっちを見上げる。
どことなく、頬が紅潮しているように見えた。っと思っているとテイオーが吹いて笑った。
「玲音、顔真っ赤だよ~?」
「うっ、仕方ないだろ…」
「勝負服喫茶の時は普通だったのに~?」
「地味にコンセプト違うから…」
なんて話しているとカシャッと音が聞こえた。ねぇ誰今撮ったの??
と思っていると後ろからシンボリルドルフさんが現れる。
「今みたいにここでは一般人による執事体験も行っている。もしよければやってみてほしい。私たちが直々に教えよう」
次の瞬間、ギャラリーたちが動き出す。
私が、いや私が! とわいわい我先にとアピールしている。
「なんか、すごいことになったね」
「……そうだな」
そう言いながら俺はテイオーの向かいに座る。
まさかこんな恥ずかしい思いをするとは…。
「……食べよっか」
「…そうだね」
そうして、俺とテイオーは紅茶とカップケーキを楽しんだのだった。
・そろそろ100話かぁ…長いような短いような。(いや期間開けてただろおめぇ)
・98話も投稿してから、初めてネタバレ注意喚起入れました(遅すぎ~!!)
・最近、hideさんにどハマりです。Everythin’POSE!(4歳時代の再来とも呼ぶ)
・次回は感謝祭2日目後編の予定です。