世界に至るまで   作:Haganed

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何があるでもなく

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園には多くのウマ娘が在籍し、最高の競走バとなる道を歩む原石が己の実力を鍛える日本で最高峰の研鑽所。ある者は三冠を目指し、ある者は天皇杯春秋連覇を目指し、ある者はURAシリーズの頂点に立つことを目指している。

 

 多くの実力あるウマ娘たちを輩出してきたトレセン学園には、それぞれの憧れを求めて入学する若者たちが多く集う。自らの理想のために、誰かの期待のために、憧れと共に並び立つために競い合う。それは彼女もまた例外ではなく、しかし目指した動機はほんの些細で大きな願いのために走り続けた。

 

 そうして彼女は世界を取った。

 ただ己と、己を信じた者たちの為に。

 

 

そのウマ娘の名を『ジャスタウェイ』と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

╴╴╴╴╴壱:何があるでもなく╴╴╴╴╴

 

 

 

 

 

 

 

 朝、雀の鳴き声が窓越しから聞こえてきたため眠気を伴いながら若干強制的に体を起こす。まだ僅かに光が入っただけで未だに暗いままの空、いつも通りのルーティーンを熟すために顔を洗って眠気を覚ます。死んだ魚のような目をした自分の無気力な顔を鏡を通じて見つめる。

 

 少し経って、溜め息を一つ。いい加減何の目的でやっているのか分からない事をする必要性の無さを感じながら、ジャージへと着替える。隣で爆睡状態の友を一瞥しアホらしさ全開の寝相と寝顔に呆れつつ、ほんの少し名残惜しむようにして外へと出ていく。

 

 暦では春だが、太陽がまだ現れてないので空気が冷たい。肉体の方が完全に目覚めるまでの30分、学園の外に出てまったりと景色を眺める。灯りの着いていない民家と電灯、シャッターの閉まった店に唯一営業しているコンビニ。変わり映えのない世界を通り、河川敷にさしかかると草木の匂いが鼻腔に入った。

 

 肉体の動きに支障がないことを確認するため軽くストレッチ、念入りに足首をほぐしたのち構える。瞼を閉じ、息を整え、頭の中で3カウントを取った。0になった瞬間で勢いよくスタート、目指すは並び立った木々が途絶える地点。

 

 スタートは問題なく寧ろ他の奴らと比べて上位に入るくらいには良い、それは確信した事実であることを自他ともに認めるほどの速度だった。しかし中間点を過ぎ去る前にわずかに掛かってしまったためペース配分が崩れたものの、何とか立て直して目標地点まで到達しきった。

 

 荒くなった呼吸を整えるため10分の休みを入れる。近場の自販機まで向かいウマ娘用に調整されたスポーツドリンクを、河川敷の斜面に座って飲む。徐々に太陽が見え始め、水滴が光を反射し輝きをもたらしていく様は感慨深いものがあった。

 

 そろそろ休憩も終わる頃に別の足音が耳に入った。自分と同じコースを走っているウマ娘の姿を見て、見知った顔だったため視線を川向こうの景色に移した。ピッチ並の脚さばきでまたたく間に到着し足音が消える。

 

 

「おはようございます、ジャスタウェイ」

 

「はよござい、ミホノブルボン」

 

 

 彼女の名はミホノブルボン。機械的な性格や言動、そしてスパルタな練習に対して苦言なく淡々と命令通りにこなすことからサイボーグなどの呼び名がある。近未来SFに出てきそうな勝負服が更に拍車をかけ、本当にサイボーグなのでは? と疑う声があったりも。

 

 

「いつも通り生気がない挨拶ですね」

 

「ほっとけそんなの。女帝の前でもこれだしな」

 

「円滑な関係を望むなら言葉遣いに気を付けた方が良いかと」

 

「川の流れに葉っぱが逆らえるか? それとおんなじ」

 

「…該当。無理、ということですか」

 

「そーゆーこった」

 

 

 たまたまブルボンとこの時間帯、この場所で会ってからというものお互いの競走練習として相手することになり、今では一緒に飯食ったりする仲になってる。オレとブルボンの実力は普通にブルボンが上、競走では毎度のこと4馬身以上の差をつけられてる。それでも一緒に続けてる理由はオレでも分からん。

 

 

「んじゃ、そろそろ行くわ」

 

「では並走しましょう」

 

「いや休まねぇのかよ」

 

「問題ありません。スタミナは十分温存しています」

 

「……あ、そう」

 

 

 オレ、コイツとは違うスタミナお化け知ってる。ゴールドシップって言うんだが。

 並走は普段通り差をつけられて負けた。

 

 

 

 

 

 

30分後

 

 

 

 

 

 学園寮に戻り制服に着替えたあと校舎を歩く。面倒なことほどオレに回すような空気に流されるままこの仕事に着いたが、意外と天職だったらしく慣れるまで時間はかからなかった。人生……否ウマ娘生、何が起きるか分からないものだと耽つつ仕事場の扉をノックして入る。

 

 

『どうぞ』

 

 

 声が凛々しい、毎回そう思いながら部屋に入って目の前にシンボリルドルフ会長が仕事している姿を見る。声が凛々しければその容姿もまたと云わんばかりの雄々しさのシンボリルドルフ会長、唯一七冠のG1制覇者たるその実力から皇帝と呼ばれている。

 

 

「おはよう、ジャスタウェイ」

 

「はよございます会長、今日もまぁ仕事熱心なもので」

 

「それはどうも。確認してほしい書類は纏めて君のデスクに」

 

「りょーかい」

 

 

 会長とは別の射殺さんばかりの視線には気に止めず、自分の作業デスクにある紙束に目を通していく。確認とは言うが俺の仕事は誤字脱字が無いか、不適切な表現をしているものが無いか、生徒の無茶苦茶な要求への対応だったり。ここまでだと会長や女帝だけで済む仕事かもしれないが、最後の対応に関しては一部の癖強ウマ娘たちのアレコレを御せるためにこの仕事を任されている。

 

 まぁ無茶苦茶な要請を解決することに関しては変に実績もあるせいでよく頼られ、何だかんだで生徒会に重宝されてたりする。同居してるゴルシのこともあって。

 

 それから20分以上が経過し、一先ずの仕事を終えてまた寮へと戻る。自室へと向かい、未だ夢の中で宇宙遊泳しながらキノコとなめ茸を月に向かって投げ追いかけているであろうゴールドシップの布団を剥いで揺さぶり起こす。

 

 

「うぇぇ〜……なんだよぅ、まだ朝じゃんか〜」

 

「朝だから起こしてんだよゴルシ。朝飯20時に食べてきた、つって翌日の授業中腹の虫鳴らしてたバカをやらかさねぇようにな。ほらさっさと起きろ」

 

「あと3時間だけ……」

 

「1限目始まってるだろうがさっさと来い!」

 

「あふん」

 

 

 毎度の如くコイツには苦労させられる。寝不足気味にならないようにスピカのトレーナーから頼まれたんで朝の体調管理してたっつーのに、いつの間にか世話役って。

 

 

「ほらパジャマ着替える、顔洗う、朝飯昨日のドリアで良いな? 返事ははいしか受け付けねぇからな」

 

「ジャス、母ちゃんみたい」

 

「誰がオメーの母ちゃんだ、乳すら出てねぇのに」

 

「うん、下と自虐の合わせネタはどうかと思うぞ」

 

「いーからさっさとやる。あと胸は成長期なんだよ」

 

「ルブアルハリみたいなのに」

 

「誰の胸が抉れるってぇ!?」

 

「そこまで言ってない」

 

 

 まだ胸は成長期段階ですぅ! あと2~3年したらエベレストかチョモランマみたいになるんですぅ! そこまで行かずともイエローストーンまで成長するんですぅ! つーかルブアルハリ砂漠のネタ俺しか突っ込めねぇよ!

 

 

「くそっ、乳モゲやがれコンチクショー! オレに移植しやがれ!」

 

「重いだけだぞこんなの」

 

「お前に持たざる者の気持ちが分かるのか!」

 

「全然」

 

「IGAAAAAAAAA!」

 

 

 その後、騒がしいと報告を受けた女帝に2人してこっぴどく叱られたことを記す。胸囲の格差社会だけは絶対に許さんモゲてしまえ。




『ジャスタウェイ』
・高等部所属 栗東寮
・168cm/不明 3月8日生
・ゴールドシップの同居人
・普段は優等生、ゴールドシップと絡むとツッコミ役
・たまにボケ役に回る
・胸囲ネタは地雷
・チーム【サジッタ】のまとめ役兼ツッコミ役その1
・ゴールドシップとは何やかんやで仲良し

一言
「胸囲の格差社会だけは絶対に許さん」

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