4月。新たな新入生がこのトレセン学園にやって来る、いつの間にやらそんな時期になったようで。夢と希望と憧憬を純粋な目で見てる見てる。もうオレの目にはそんな綺麗すぎるあれこれは発せなくなったがね。ま、そんなことは良いさ。こっちの役目は自由と無法を履き違えてる輩の指導も兼ねてんだ、精々こんなオレを反面教師にしてけとでも言ってやりますかね。
「君だれ?」
「そっちこそ誰だよ」
何か生徒会室に新入生居るんだけど。何か会長とスッゲー仲良さげなんですけど。
「会長、このチビなんすか?」
「むっ、チビじゃないやい! 死んだ魚の目してる人に言われたかないやい!」
「関係ねぇ奴が関係ねぇ場所に居る時点であっちゃならんだろーが、どの立場で物言ってやがる。で、コイツなんなんすか会長」
「カイチョー、この人だれ!?」
「まぁ落ち着け2人とも」
見てる限りじゃあ少なくとも今知ったばかりの相手、って訳じゃなさそうか。以前どこかであった相手か? 会長意外に人の顔覚えるの得意だからなぁ。
「ジャスタウェイ、彼女はトウカイテイオー。以前記者会見の時に出会ってね。私と同じここに来たんだ」
「帝王たぁ、また随分と大層な名前だこって」
「トウカイテイオー、彼女はジャスタウェイ。生徒会で書記長をしている。態度はあれだが仕事の出来はかなりのものだ、それと君の上級生でもあるから礼儀はしっかりしないとな」
こりゃまた随分と入れ込んでるようで。
「えー。なんかヤダ」
「こら」
「奇遇だな。オレも礼儀のなってねぇチビに挨拶したかねぇっすよ会長」
「なんだとー!」
こっちに両腕振り回しながら迫ってくるトウカイテイオーの頭を片手で押さえつけ、成程帝王だなんて大層な名前を付ける訳だと1人勝手に納得した。
「ジャスタウェイ、流石に大人気ないぞ」
「そーだそーだ!」
「会長。分かってるんなら言いやしませんが、自由と無法を履き違えることだけはやらねぇで下さいよ。オレが言うのもあれだがメンツってのが成り立ちゃしねぇ」
「あぁ、分かってる。だが常に気を張り続けなくてはならないことなど無いだろう?」
「んなら、オレのは蛇足でしたね。失礼しやした」
「テイオー、そろそろ離れなさい」
「う……はーい」
やけに会長に対して素直だなコイツ。入れ込んでるのはお互い様ってか、まぁオレの面倒事が増えないだけマシか。
「それでジャスタウェイ、用事があってここに来たのでは?」
「そうっした。来月学園の取材をしてぇって取材陣から連絡来てましてね、オレの独断じゃ決めかねんのでその話を」
「取材内容と媒体は?」
「春の新入生特集って形で雑誌。予定じゃあここは5ページぶち込むと」
「え、ボク出るの!? しょうがないなぁ、キッチリ答えてしんぜよー!」
「うるせぇぞチビ、どんだけデカい声出してんだ発情期かコノヤロー」
「んなっ!?」
「で会長、受けますかい?」
「そうだな、了承しよう」
「んじゃ一報入れますんで、具体的な予定は後々」
部屋から出ていく最中に何やらギャーギャー喚くチビの声が聞こえているが、無視一辺倒でよろしい。さっさと仕事を終わらせる方が優先度高いし。
一先ず取材陣に了承の報せを伝えて、具体的な日時や取材内容はまた後日連絡するとして一旦話は終わった。この時期になると普段の倍以上の仕事量に増えるため必然的に練習は夜の時間帯で行うことが増えていく。ただ珍しく今日はキャップと練習しているのが唯一の違い。
オレのメニューに付き合わった礼として、練習終わりに腹の虫が鳴ったキャップに夜食を馳走することにした。ありきたりなナポリタンやらラザニアやら、まぁ作るにしても大飯食らいのキャップだと腹2分目ぐらいの量だな。あまり食わせる訳にもならんが食わせないと別のもんまで食いかねん勢いだったことあるし。前は枕を噛みまくって寝相で噛みちぎったことあったし。はてさてどうしたもんかね。
「トメさんおかわり」
「トメさんじゃねぇっての。次の6段ハンバーグで終わりだから我慢しなさい」
「そうか……」
目に見えて意気消沈してるキャップをよそに出来たての6段ハンバーグを出して完食して中身のない食器類を洗う。送ってもらった煮沸消毒済みの鉄瓶で茶葉の抽出が終わる頃合を見計らって2人分の湯のみに煎茶を注ぐ。またキャップの方を見るとキャップにしてはかなりゆっくりのペースで半分平らげている。そんな惜しむように食わんでも良いだろうに。
煎茶を容れた湯のみを持ってキャップに差し出し、向正面にオレも座る。いい食いっぷりなのは見てて飽きないがオレまで腹減りそうになってくるなこれ、誤魔化すように煎茶を啜り飲む。
「トメさん、脚は平気か」
「いきなり何さ」
せめて一声かけてくれ、心の準備がまだ済んでない。
「気になったから。今のトレーニングだと誰から見てもオーバーワーク気味みたいで」
「あぁ、んなことか。特に問題ねぇよ、レース前に折れさせるヘマなんぞ誰もしねぇよ」
「そうか──よしよししても良いか?」
「今の話でどこがどう繋がってそれになった?」
「よくスーパークリークが頑張っていた他の娘を撫でていた。励みになるかと思って」
「やらんで良いやらんで良い。DT卒業させて実力者にもさせたようなアイツの真似しなくてもいい」
「“でぃーてぃー”?」
「キャップは知らなくて良いっての」
気づけばもう半分は既に食べきっていた。空いた皿を片付けにまた寮の厨房で皿洗いに勤しむ。
「
「……今度は何」
「やっぱり怖さが上がってると思うんだ」
「またそれか。そんな形相した覚えはねぇんだがな」
「いや、うん」
キャップが言い淀む。そんなにオレの顔怖いか? 普通の死んだ魚みてぇな目だと思うんだがねぇ。
「──ご馳走様、トメさん」
「お粗末様。寝る前に歯ぁ磨けよ」
「うん。おやすみ」
「修羅?」
「ええ。俺は今のアイツをそう評価します」
夜間練習終わり、ジャスタウェイの担当トレーナーを生徒会室に呼び彼女に対しての率直な感想を聞いたが、まさか。
「どういった理由でなのか、聞かせてもらえますか」
「まぁ、長年見てきた分感じるものがあるのが正直なところですよ」
懐からココアシガレットを1本だけ取り出し、口にくわえたあと何かに思い耽るように目を閉じた。
「今までの調整でバ体も安定し、アイツが本来持ちえていた爆発力も出せている。だが併走してるアイツの目は、まるで捕食者のようにも見えた。他のウマ娘を喰い破らんとする執念にも似た何かを感じられただけ、それが何なのかはアイツにしか知りえないことでしょうがね」
捕食者……彼女が。
「もう夜遅いですし、俺はここで失礼します」
「ありがとうございます。貴重なお時間でした」
一礼して生徒会室から出ていったトレーナーを見送って、ふとあの時を思い出す。ジャスタウェイと初めて出会った時と、ジャスタウェイが初めて走る理由を語った時のことを。元々スルースキルの高い彼女が私に対して語ってくれた、走る理由。
『アイツに呪われたんすよ、オレぁ』
それと今の彼女に深く関わっているのだろう。時間が空き次第、今のジャスタウェイの様子も見ておきたいな。