プラネテューヌ教会。
体力を使い果たし倒れ込むアイエフとコンパ。
ショート寸前のイストワール。
最後の力を振り絞り、よろけながらも立ち上がったネプテューヌ。
「これで……最後だね、ネプギア」
ネプテューヌが仲間たちと死力を尽くして創り上げた"それ"が、ネプギアに託された。
「……やっと終わるんだね、お姉ちゃん」
寂しさと安堵を混ぜた表情で、ネプギアは受け取った"それ"を両手で大事に持ちながら駆ける。
「『プラネテューヌ教会特製恵方巻き』、おまたせしましたーーッ‼︎」
予約注文の最後の一つが届けられ、遂に地獄の恵方巻き作りに幕が降りるのだった。
「やっと…………終わった…………」
ネプギアの声を聞いた厨房のネプテューヌは、その場にがくりと倒れ込むのだった。
なぜこのようなことに至ったか、それは数週間前に遡る。
*
「正月からバレンタインの間、少し暇じゃない?」
イストワールを始めとする教会員に捕獲され、渋々書類仕事に取り込むネプテューヌが、ふと呟いた。
「暇、と言いますと?」
また変なことを言い始めるのか、と呆れた様子のイストワールだが、とりあえずネプテューヌの言葉に耳を傾ける。
「こーんな地味な仕事じゃなくて、イベントっぽいことをすれば効率的にシェアを稼げると思うんだよね。そこで、何もないこの期間にプチイベントを作ろうと思うんだよ」
「はぁ……では、イベントとは?」
「いーすんは、恵方巻きって知ってる?」
「恵方巻き……?」
この次元のゲイムギョウ界には存在しない文化である『恵方巻き』をイストワールは知るわけもなく、首を傾げる。
「わたしも詳しくは知らないんだけど、大きいわたしがどこかの次元で食べたものらしいんだ」
「食べ物なんですね」
「そうそう。なんか二月の初めぐらいに大きな巻き寿司にかぶりつくんだって。後は鬼がどうとか豆がどうとか方角がどうとか聞いたけど細かいことは忘れちゃった」
「……ふむ。話を聞く限りだと意味がわかりませんが、その次元なりの縁起というものがあるんでしょうね」
そして、イストワールは既にネプテューヌが次に言うであろう言葉を予測していた。
「というわけで、わたしは『プラネテューヌ教会特製恵方巻き』を作って、恵方巻きの文化をプラネテューヌに広げて、ついでにシェアを稼ごうと思うんだ」
「そう言うと思いましたよ。やってみればいいんじゃないですか?」
「……あれ? いーすん意外と乗り気? 反対されると思ってたけど」
「しませんよ。ネプテューヌさんなりにシェアを稼ごうと考えたことじゃないですか」
「えへへ。いーすんってば話しがわかるね〜!」
「その代わり!」
イストワールはビシッと指を立てながら言う。
「食べ物を作るだけではなく人に売るということは思っている以上に大変なことですからね。やるならしっかりとやってください。それに、食材を無駄にしないこと。わかりましたか?」
「はーい!」
イストワールの尤もな忠告に、元気一杯に返事するネプテューヌ。
「まぁ、食材を無駄にしないように完全受注販売にするし、それにわたしたちが女神だっていっても食べ物に関しては素人なわけだし、そんな素人が作ったものを食べたがるもの好きなんてそうはいないから大丈夫だよ。最低限働いて最低限のシェアを稼げればいいってね」
「やっぱり楽することを考えてるんじゃないですか……」
「でも、新しいイベントを作ってみんなで楽しみたいって気持ちもあるよ」
「わかっています」
ネプテューヌは軽い気持ちでイストワールと共に受注用ホームページを作成。大々的に宣伝するのではなく、こういうことをやってみるのでよかったら〜、程度の規模で告知を開始した。
ネプテューヌやイストワール的には、『二月初頭に恵方巻きを食べる』というイベントをたった一回で定着させるつもりはなく、数年かけて少しずつ定着させるつもりだった…………
「……うそ。予約が殺到してる」
…………はずだった。
数日後、告知サイトを開いたネプテューヌは戦慄していた。想定の数百倍の注文が届いていたのだ。
「上限を設けるべきだったのかな……今から抽選制にして……でも、今更変えたら問題になりそうだし……」
信じられない予約数に圧倒されながら、ぶつぶつと策を練るネプテューヌ。
『食べ物を作るだけではなく人に売るということは思っている以上に大変なことですからね。やるならしっかりとやってください』
ふと、イストワールの言葉が脳裏に浮かんだ。
予定していた予約数を上回ったため材料が足りないとか、そういうありそうな言い訳をすれば、この事態を収束させることができるだろう。
しかし、それは妥協したということになる。
また、この予約数は言い方を変えれば国民からの期待でもあった。
「……作るしかないか」
守護女神が国民の期待に応えなくていいはずがない。
ネプテューヌは覚悟を決めたのであった。
*
時は戻り、二月三日の夜。数百にわたる地獄の恵方巻き作成と後片付けを終えたネプテューヌたち。
「みんな、今日は手伝ってくれて本当にありがとう」
ネプテューヌは親友たちに、地獄に付き合わせたお詫びとして、しっかりと頭を下げて感謝する。
「ほんとよ。調理がしんどくて死ぬかと思ったのなんて初めてよ」
「一生分お料理した気分です……」
「でも、やり遂げられて良かったわね」
「それに、一番頑張ったのはねぷねぷですから」
「うぅ……ショート寸前まで働いたのは、猛争事変でネプテューヌさんを零次元から帰還させた時以来です……」
「ありがとういーすん。お疲れ様」
「ネプテューヌさんもお疲れ様でした。シェアの上昇が確認されますし、イベントとしては成功といっていいでしょう」
「良かったぁ……でも、来年もこれやりたくないなぁ……しんどいし」
「……でしょうね」
「ネプギアもお疲れ様。渡し作業ありがとね」
「どういたしまして。お姉ちゃんもお疲れ様」
「当分お米は見たくないし……三食パンにしよう。うん」
「そうだね……」
国民たちは楽しんだイベントであったが、始めた当事者であるネプテューヌたちが地獄を見たことにより、結局プラネテューヌでは恵方巻きが定着することはなかったとか。
もしかしたら公式でネプテューヌとかが豆とか撒いてる絵があったかもしれませんけど、この作品の次元には節分という文化がないということにしておいてください。