かなりの独自解釈と少しの独自設定が入り、人を選ぶ内容となっています。
「ぎあっちと二人きりで遊ぶのも久しぶりだな」
「そうですね。うずめさん、超次元に戻ってきてから忙しそうだったから」
プラネテューヌの街中を練り歩く二人の女神、ネプギアと天王星うずめ。
「忙しいっつっても、ゲイムギョウ界中を大きいねぷっちと遊び歩いてただけだけどな。ぎあっちに誘われたらゲイムギョウ界の裏からでもすぐに飛んできたのに」
「流石にそんな無理は言いませんよ……」
冗談だとはわかっていても、本当に世界の裏側からでも駆けつけて来かねないうずめに対し、ネプギアは苦笑いしながら返す、
「さて、どこ行く? ぎあっちの行きたいとこ連れてってくれよ」
「行きたいところ……うーん、今日は特にないんですよね」
「ぎあっちの好きな機械系の店とかは?」
「先月は週八ぐらいのペースで通ってたんですけど、それから新パーツが入荷されてないから行ってももう見るものがないんですよね」
「……ん? あ、あぁ……うん、そっか」
ネプギアから発せされた週八という常軌を逸脱した単語に、一瞬言葉が詰まるうずめ。
「実は……」
何やら神妙な顔つきになったネプギアに対して、うずめは納得したような表情を見せる。
これから言われることが今日俺が誘われた理由なんだな、と。
「うずめさん……稽古をつけてくれませんか?」
「……俺? 別に良いけど……ねぷっちじゃなくていいのか?」
「お姉ちゃんやユニちゃんと戦うだけじゃなくて、色々な経験を積みたいんです。だから最近は、ベールさんに槍術を習ってみたり、色々できることを増やしてみてるんですよね。ユニちゃんには『器用貧乏が加速するわよ』て言われちゃいましたけど」
要領が良く何でも器用にこなせるタイプであるネプギアだが、それ故に器用貧乏となってしまい特出した個性がないと言われる悩みがある。
最近は自身の戦い方における特出した個性を見出すため、様々な試みを図ってはいるとのの、ユニの言うとおり、結局は器用貧乏が加速しているだけとなっていた。
「……いいじゃねえか、器用貧乏」
「え?」
しかし、うずめは器用貧乏という単語に好感を示していた。
「器用貧乏を極めてホンモノの器用にすりゃいいんだよ。ぎあっちならできるさ。そのためならいくらでも付き合ってやる」
時には短所扱いされることも、突き詰めれば強力な個性となる。
それに、たとえそれが器用貧乏と言われようが何でもできるぎあっちが好きだから、という照れ臭くて言葉にできなかった思いもあった。
「ありがとうございます!」
「じゃあ、一旦戻るか」
「はい!」
場所は変わり、プラネテューヌ地下の訓練場。
ジャージ姿に着替えたネプギアとうずめは、準備運動をしていた。
「うずめさんってシェアエネルギーの扱うのがすごく上手いですよね。コツみたいなのあるんですか?」
シェアエネルギーの操作。
武器の使い方やスキルの多彩さとは違った方面の技術。
天王星うずめという守護女神は、ゲイムギョウ界の歴史の中でも特異な立ち位置である。既にプラネテューヌの守護女神という立場はネプテューヌに移っており、プラネテューヌの国民からのシェアが向かう先はもちろんネプテューヌである。
現在うずめが得ているシェアは、うずめが女神だった時代を知っている極小数のプラネテューヌ国民と、海男や零次元から連れ帰ってきたモンスターぐらいしかいないため、うずめが持つシェアエネルギーの総量は、現役の守護女神であるネプテューヌたちと比べて大きく劣る。
しかし、女神が持つシェアエネルギーの総量が女神の戦闘力に直結するわけではない。
先述した武器の使い方、スキルの多彩さといった戦闘技術や、シェアエネルギーの出力、そして扱い方が、戦闘力における大きな要因となる。
ちなみに、正確に数値化などをして比較されているわけではないが、ゲイムギョウ界で最もシェアエネルギーの総量が多い守護女神はグリーンハート、出力が高いのはホワイトハートであると言われている。
比べて、うずめはシェアエネルギーの総量は低く、出力もそこそこといったところ、スキルも多彩ではあるが特出するほどではない。
しかし、うずめは現役の守護女神に負けず劣らずの戦闘力を持っている。それは何故か。うずめはゲイムギョウ界の女神の中で、シェアエネルギーの操作がダントツで得意だからだ。
「逆に、俺がねぷっちとかぎあっちみたいに剣持たない理由はそこなんだよな」
「そこ……って?」
「俺はシェアエネルギーの操作においては、手で直に触れる感覚を大事にしてるんだよ。武器持つとブレるっていうかさ」
また、うずめ唯一の武器と言えるメガホンの使用も、自分の声を媒介にシェアエネルギーを攻撃に変換しているため、手と同様に自身の感覚を大事にしている。
「私も素手で戦った方がいいんですかね?」
「いや、そこまでしなくていい。俺のスタイルがそれに合ってたってだけだし、素手じゃなきゃいけないわけじゃないさ」
「わかりました」
「じゃあまずは戦いにおけるシェアエネルギーの使い方の基本からだな。これはぎあっちにも知ってることが多くて退屈かもしれないけど」
「そんなことないですよ。お願いします!」
「おう! じゃあ、まずシェアエネルギーはな…………」
守護女神は戦闘時には高い身体能力をシェアエネルギーで更に強化している。加えて、攻撃を行うときに身体に力を入れる要領で、その箇所をシェアエネルギーで更に強化するのだ。
また、威力の底上げだけでなく、ネプテューヌの『32式エクスブレイド』、ベールの『シレットスピアー』のようなシェアエネルギーそのものを顕現させ攻撃する技や、ノワールの『トルネードソード』、ネプギアの『スラッシュウェーブ』などシェアエネルギーで武器の攻撃範囲そのものを大幅に延長させた技のように、応用を効かせれば戦い方を幾らでも増やすことができる。
そして、武器を持っている相手と素手で近接戦闘が行えるうずめのシェアエネルギー操作がどれだけ上質かはもう言うまでもないだろう。
「…………っつーわけだ。例えば、大振りの一撃はシェアエネルギーも乗せやすいから、威力もその分高くなる。敵に避けられやすくなる欠点があるけどな。ぎあっちのギアナックルもそんな感じの技だろ?」
「そうですね。あの、今それを聞いて思ったんですけど、うずめさんの『夢幻連撃』って連続パンチ全部にシェアエネルギーが込められてるんですよね……?」
「まぁな」
「すごい……」
技の一つにシェアエネルギーを込めること自体はさほど難しくはない。
しかし、咄嗟に出す技ですらない軽い攻撃全てにシェアエネルギーを込めることや、連続攻撃の全てに同じようにシェアエネルギーを込めることになると、その難易度は跳ね上がる。
「慣れてくりゃ、シェアエネルギーを使う時に使う分だけ出せるようになる。ねぷっちより使えるシェアエネルギーが少ない俺が同じように戦える理由がこれだ。ぎあっちもやれること増やしたいなら覚えておいて損はないぜ」
「……」
「……? どうしたぎあっち?」
「あ、いえ、なんでもないです」
ネプギアは、解説されたシェアエネルギーの扱い方を知らなかったわけではない。ある程度は知識として既に持っていたものではある。
しかし、うずめのシェアエネルギーへの理解度が自分のそれを遥かに超えていたことに感心し、言葉を失ったのだ。
「極め付けは……シェアリングフィールドだな。こればっかりは教えたらできるようなもんじゃないけど」
「……え? シェアリングフィールドって、うずめさんだけの技じゃないんですか?」
「ふふっ、実はそういうわけでもないんだぜ?」
シェアリングフィールドは精巧なシェアエネルギー操作によって行われる空間生成能力であり、シェアエネルギー操作と結界術を含んだスキルの最高難易度技である。
しかし、ある一定以上の実力を持つ守護女神にとっては実現不可能なほど難しい技ではない。
だが、現在のゲイムギョウ界において、天王星うずめ:オレンジハート以外の守護女神にはシェアリングフィールドが発動できない。
では現代の守護女神が一定以上の実力を持っていないのか。それは勿論違う。
うずめが使うシェアリングフィールドは、他の守護女神には到底真似できないほど出力が高く範囲が広い。
つまり、他の守護女神にとってうずめが使うシェアリングフィールドが基準となってしまい、その先入観が会得の妨げとなってしまっているのだ。
「じゃあ、私もうずめさんぐらいシェアエネルギーを操作するのが上手くなれば、フィールドを展開できるんですか?」
「あぁ、できる。できる……けど、もう一つ大事なことがある」
「大事なこと……?」
「"思い"と"イメージ"だ。自分の思いをシェアエネルギーを使って具現化するんだよ」
「う〜ん……聞けば聞くほどわからなくなっていくって言いますか……」
「シェアってのは"思い"だろ? 自分の思いや自分への信仰で形成するシェアリングフィールドは、言うならば"自分の世界"ってことだ」
「自分の……世界」
「ねぷっちとかのわっちみたいな、実際に国を治めてる女神の方が掴みやすい"イメージ"だな。託された思いからどういう国にしていくか、みたいな考えと似てるわけだ」
まだ女神候補生のネプギアにとって、そのイメージを具体的にするのが難しいからか、ネプギアは頭を抱えて考え込んでしまう。
「こんなもん一回できるようになっちまえば後はもう楽だし、シェアリングフィールドなんてシェアエネルギー操作の延長も延長だから、今は考えなくていいさ」
うずめはネプギアの頭にぽんと手を乗せ、わしゃわしゃと撫で回し、凝り固まったネプギアの思考をほぐす。
「うずめさん、くすぐったいですよ〜!」
「わりいわりい。さてと、これ以上は実戦で教えるしかないな。丁度いいから俺の修行にもちょっと付き合ってほしいんだけど」
「良いですよ。むしろお願いします」
会話で止まっていた準備運動を再び済ませ、距離を取って向かい合う二人。
ネプギアは訓練用のゴム剣を数回振り回してから構える。
うずめも訓練用の破壊音波がマイルドに調整されているメガホンを、少しだけ音声チェックをした後、一旦消滅させ、楽な姿勢で立つ。
「行きます」
「おう、来い」
先に動いたのはネプギア。
思い切り地面を蹴り、刀を振りかぶりうずめに突撃する。
しかし、うずめから教わったことを実践しようとするあまり、いつもより少しだけ動きが硬くなっていた。
「……ま、そうなるよな」
故に、ネプギアの動きはうずめに見切られ、刀は簡単に受け止められしまう。
「ぎあっち。今、腕に力とシェアエネルギー込めたろ?」
「え、あ、はい」
「そして、力はともかく、シェアエネルギーを込めることを意識しすぎて動きが硬くなった、ってところか」
「ぅ……」
ネプギアは自分のミスを完璧に言い当てられたからか、ばつの悪い表情で返事にならない声を漏らす。
「悪いことじゃねえって。言われたら意識すんのは当たり前だ」
むしろうずめは、ネプギアが自分に言われたことをすぐに実践しようとしたことを、誇らしげに笑っていた。
「けど、シェアエネルギーってのは身体と違う。身体に力を入れる要領でやると、ズレるんだ。何故かわかるか?」
「えっと…………あっ」
ネプギアは少し考えると、何かに気づいて声をあげた。
『例えば、大振りの一撃はシェアエネルギーも乗せやすいから、威力もその分高くなる』
模擬戦の前にうずめから教わったことを思い出し、それをヒントに回答を導き出す。
「シェアエネルギーを乗せられないから……ですか?」
「おっ! 大正解。流石ぎあっちだ」
「さっきのうずめさんの言葉を思い出したんです。大振りの攻撃にはシェアエネルギーは込めやすいけど、そうじゃない攻撃には込めにくいのかな、って」
「そう。つまり、俺たち女神の高い身体能力から繰り出される攻撃の速さに、自分のシェアエネルギー操作の意識がついてこれないんだよ」
「どうしたらできるようになるんですか?」
「身体の一定の場所に『シェアエネルギーを込める』っていう意識を変えるんだ。シェアエネルギーを常に身体の動きとリンクさせるんだよ。でも、これは感覚的な問題だからなぁ……具体的なやり方を俺からは教えられるかは……」
「……いえ、大丈夫です。ありがとううずめさん。なんとなくわかりました」
ネプギアの目つきが変わる。
集中しつつ、身体の力を抜き、シェアエネルギーが全身に行き渡る感覚を掴もうとしていた。
「……それでいい」
うずめは、そんなネプギアを満足げに見つめながら、ネプギアに聞こえないぐらいの声量で呟く。
「うずめさん。もう一度いいですか?」
ネプギアは再び剣を構えた。
「あぁ、いいぜ」
返事とともに、今度はうずめも拳を構える。
少し前のネプギアの攻撃は受け止められる自信があったが、今のネプギアに対して同じことができる自信はなかった。
「行きます!」
ネプギアは思い切り地面を蹴り、刀を振りかぶりうずめに突撃する。
動き自体は先程と同じだったが、動き以外は何もかも違った。
身体の動きとシェアエネルギーの込められ方が噛み合い、先程とは比べ物にならない鋭い剣筋となっていた。
「……っと!」
咄嗟に回避したうずめの表情は半笑い。
ネプギアの成長速度を喜びながら、少し恐れもしていた。
たった少しだけ教えただけでここまで変わるのか、と。
「今度は、こっちから行くぜ!」
うずめが放つのは、鋭い右ストレート。
模擬戦相応に威力は抑えてあるが、それでも常人が放つものとは隔絶された威力の打撃がネプギアを襲う。
しかし、ネプギアは怯むことなく、空いている方の掌で、うずめの拳を受け止める。
「……ほんとにすげえよぎあっち。俺が教えたことを、攻撃だけじゃなくてもうガードにも使えてるなんてな」
「それでもかなり痛いですけどね……」
「えっ⁉︎ ごめん、大丈夫かぎあっち⁉︎」
「今は戦っているので、気にしなくても大丈夫です」
やりとりの途中、ネプギアは一旦剣を消滅させていた。
そして、うずめの腕を掴んで引っ張り、思い切り拳を突き出す。
「うおっ⁉︎」
「……『ギアナックル』ッ‼︎」
「……っ!」
うずめは、咄嗟の身体の動きで突き出された拳の角度をズラし、衝撃をある程度受け流すことでダメージを抑えた。
ネプギアは自分の技が大した威力にならなかったことを悟ると、うずめの手を離して即座に距離を取る。
今の攻防で、剣の間合いよりも更に近くなっていたため、その距離で戦うとなるとネプギア側が不利だからだ。
「くっそ〜。可愛い顔してえげつねえ手を使うじゃねえかぎあっち〜!」
「お姉ちゃんとかユニちゃんに度々攻撃が素直すぎるって言われて、私も色々考えてるんです」
「なるほどな」
言いながら、うずめはメガホンを取り出し、深呼吸する。
「すーっ……」
ネプギアは息を呑む。今までうずめの攻撃範囲は腕の届く距離でしかなかったが、今この瞬間からは。
『うぉああああああーーーーーーッ!』
ネプギアの攻撃範囲の更に奥から、メガホンを通り破壊音波となったうずめの声が、ネプギアに襲いかかる。
うずめのメガホンを用いた攻撃は、メガホンから音波にシェアエネルギーを乗せて攻撃しているので、ただの超音波攻撃とは少し異なる。
そして、シェアエネルギーの理解度を深めたネプギアは、そのことを理解していた。
「『スラッシュウェーブ』!」
ネプギアはスラッシュウェーブを攻撃ではなく、防壁のように貼り、音に乗せられたシェアエネルギーの衝撃波を遮断する。
そして、ネプギアに届くのは爆音だけとなり、ダメージはなくなる。
「やるな……だが!」
前方に飛び出してきたうずめが、既にネプギアの眼前に迫っていた。
うずめからしても、ネプギアに破壊音波を防がれることは想定内。だが、足を止めざるを得ない防御を強要してその隙に距離を詰める、これがうずめの真の狙いだった。
「今度は、割と本気で殴るからな!」
うずめはシェアエネルギーをドリル状に纏い『夢幻粉砕拳』を繰り出す。
「『パンツァー……」
ネプギアもうずめのメガホン攻撃が接近の布石であることはある程度読んでおり、既に技を出す準備ができていた。
「……ブレイド』‼︎」
突き出されたうずめの拳に対し、思い切り剣を振り下ろすネプギア。
シェアエネルギー同士がぶつかり合い、両者ともに弾き飛ばされる。
「きゃっ……!」
「うわっ……!」
軽い模擬戦のつもりだった。
しかし、戦いの中で両者ともに気分は高揚し、更なる刺激を求める。
「うずめさん……!」
声と共に一瞬、ネプギアの虹彩が光を放ち、不完全な電源マークが瞳孔に刻まれる。
「……あぁ!」
うずめも応じるように、一瞬目が発光し、完全な電源マークが瞳を走る。
「刮目してください!」
「変身ッ!」
力強い掛け声を皮切りに、両者とも光に包まれ『女神化』を果たす。
「プロセッサユニット、装着。変身完了です!」
「変身かんりょー!」
キリッとした表情でM.P.B.Lを握りしめるパープルシスターと、ほにゃっとした柔らかい表情でメガホンを持つオレンジハート。
「ここから本気で行くよ、ぎあっち!」
そう言ってうずめが再び深呼吸し、メガホンに声を入れようとしたその瞬間、ビーム砲が飛んでくる。
「……わわっ!」
「同じようには行きませんよ!」
今のネプギアは、武器が変身してM.P.B.Lに変化したことにより、うずめ以上の攻撃範囲を持ち、隙の大きい攻撃はロングレンジからの射撃によって一方的に潰される。
「……むぅ」
隙の小さい音波攻撃ならネプギアに邪魔されずに放つことはできるが、有効打にすらならない攻撃にシェアエネルギーを使うのは勿体無い。
うずめは一旦メガホンを消滅させ、拳を握る。
「こっちでいこっかな」
うずめの背部ウイングから放たれる光は勢いを増し、ネプギアに向かって高速で旋回しながら接近する。
「はぁっ!」
ネプギアはビーム弾を連射し、うずめの接近を妨げようとするも、高速で飛び回るうずめに弾を当てることができない。
「なら……受けて立ちます!」
うずめに弾を当てるのを諦めたネプギアは、M.P.B.Lをビームソードモードに換装し、ビームソードの出力を上げる。
「とぉりゃああああっ!」
「はぁああああああっ!」
ぶつかり合う剣と拳。
「ほ……にゃあああああっ!」
「……嘘っ⁉︎」
最初だけは互角に見えたが、うずめがネプギアを押し始める。
実際に力だけなら互角だった。差を生んだのは、シェアエネルギー操作の精度。ネプギアもコツを掴みかけてはいるものの、まだうずめには大きく劣る。
「く……ぅ……! 受けて立つって言ったけど……ごめんなさい! 行って、ビット!」
正々堂々の押し合いでは勝てないことを悟ったネプギアは、申し訳なさそうに自身の周りにビットを展開し、ビットからビーム砲をけしかける。
「よっ、と」
うずめは咄嗟にM.P.B.Lを蹴り出して、離脱し、ビーム砲を回避した。
「……困ったなぁ」
中遠距離では、メガホンを使う隙がない。
近距離では、ネプギア本体とビットによる連携で不利な戦いを強いられる。
うずめにとっては、かなり手詰まりな状況。
「う〜ん、よし、やっちゃお!」
しかし、うずめには、この状況を覆す秘策がある。
「『シェアリングフィールド』てんかーい!」
「……っ⁉︎」
瞬間、うずめの左腕の装置が光を放ち、シェアエネルギーがドームのように展開され、ネプギアとうずめを包み込んだ。
シェアリングフィールドは、本来はダークメガミなど巨大な相手に対して有利に戦うためのものだが、その効力はうずめの匙加減で応用を効かせることができる。
このシェアリングフィールドにおいては、うずめは自身のシェアエネルギーを、自身の攻撃の威力の底上げとネプギアのシェアエネルギーの流れを阻害するように効果を調整していた。つまり、うずめにバフがかかりネプギアにデバフがかかっているということ。
「これが、シェアリングフィールドを相手にした時なんだ……」
ネプギアは自身の身体を重く感じ、少しの息苦しさを覚えていた。
しかし、女神との一対一で使用するシェアリングフィールドは、ダークメガミ対味方多数で使用するものほどの優位性はない。
確かに、今この状況ではうずめが有利ではある。しかし、シェアリングフィールドはシェアエネルギーの消耗が早く、時間が過ぎれば過ぎるほどうずめは不利になっていく。もしネプギアに防御に徹され、耐え切られれば、敗北するのはうずめ自身。
だからこそ、うずめはフィールド展開後、即行動を開始する。
「……っ!」
そして、ネプギアもフィールドの効果をなんとなく理解し、攻撃に回すシェアエネルギーも全て防御に回し、完全に防御に徹する。
すると、うずめは防御に徹したネプギアを無視し、ネプギアの周囲に飛んでいるビットを掴み、思い切り握りつぶした。
「……えっ?」
「狙いはこっちなんだよね!」
直後、フィールドが解除される。
うずめは展開の時間を最小限に抑えることで、シェアエネルギーの消耗も抑えたのだ。
しかし、消耗を抑えることはできても、消耗そのものをなくすことはできない。
消耗したシェアエネルギーが再び戦闘に使えるほど回復するまでのクールタイムは約十秒ほど。
だが、女神同士の戦いにおいて、十秒という時間はあまりにも長く、その隙をネプギアが見逃す筈もない。
「たぁああっ! 『ミラージュダンス』‼︎」
迫り来るネプギアのM.P.B.Lを前に、うずめは何かを決心したような表情を見せる。
加えて、この状況に追い込まれることを想定していたかのような表情でもあった。
「よし、やったるぞ!」
うずめは、ドス黒いオーラを手に纏い、ネプギアのミラージュダンスを受け止めた。
「えっ、これって……」
ネプギアはそのオーラに見覚えがあった。
忘れる筈もない。かつて、自分たちの脅威だったその力の正体を。
「ネガティブエネルギー……?」
「うん、そう……だよ……っ!」
応じるうずめの表情は、少し苦しそうに見えた。
無理もない話である。ネガティブエネルギーはシェアエネルギーと相反するエネルギー。女神にとっては毒となりうる。
強力なものであるが、使うことにおいては大きなリスクが付き纏う。
「どうして、そんな危険な力を使うんですか⁉︎」
だからこそ、ネプギアは声を荒げてうずめに問いかけた。
「分かってるよ。これは危険な力だって。でも、【くろめ】もうずめだから」
「くろめ……さん……?」
くろめ、暗黒星くろめ。
かつてゲイムギョウ界の滅亡を齎そうとした、憎しみに染まったもう一人のうずめ。
「あの時、うずめはくろめに勝って、くろめを受け入れた。そして分かったんだ。くろめも大事なもう一人のうずめだって。だから、ネガティブエネルギーごとくろめのことを受け入れてあげたいんだ」
胸に手を当て、穏やかな笑みを浮かべるうずめ。
「力ってのは使いようでしょ? 力自体に善悪は無くて、使う人の気持ちで変われる。ネガティブエネルギーだってそのはずだって、うずめは信じたい」
「うずめさん……わかりました。それがうずめさんの決めたことなら」
ネプギアはうずめの思いを汲み、ネガティブエネルギーを使うことに関してはうずめの意志に任せることにした。
「それに、ネガティブエネルギーも使えるようになっておけば、何かあった時も安心だし」
今さっきシェアリングフィールドで消耗して使えなくなったシェアエネルギーの代わりにネガティブエネルギーを用いたように、シェアエネルギーとネガティブエネルギーを使い分ければ戦い方の幅も広がり、エネルギー効率も更に良くなる。
まるでガソリンと電気を使い分けて走ることで、ガソリン車よりも大幅に燃費が良いハイブリッド車のようなものだ。
「……うずめさんが付き合ってほしい修行って、これのことだったんですね」
「うん。ごめんね、ギリギリまで黙ってて」
「気にしないでください。いくらでも付き合いますから」
「ありがとね、ぎあっち」
会話を終わらせ、戦いに戻る二人。
互いに限界が近い。
ダメージは蓄積され、ビットやシェアリングフィールドといった奥の手も出し合っている。
シェアエネルギーとネガティブエネルギーの同時使用は、相反するエネルギーという性質上、今のうずめには不可能。
そもそも、今のうずめに使いこなせるネガティブエネルギーは少量であるため、使われることさえわかっていればネプギアにとってそこまで脅威ではない。
しかしネプギアは、うずめがどれほどのネガティブエネルギーを使えるかは知らない。先程見せたのはほんの一端で、本気を出せばまだ出力をあげられるかもしれない、と悪い方向で想定していた。
「……あ〜、さっき使えた分が今のうずめ限界だよ?」
「え?」
「ネガティブエネルギー。そんなに警戒しなくてもいいからね」
「あ、そうなんですか」
ネガティブエネルギーを警戒するあまり攻め方が消極的になっていたネプギアに対し、うずめは正直に手の内をバラす。
うずめがしたいのは、勝利のための戦闘ではなくあくまでも修行だからだ。ネプギアの戦い方に雑念を混ぜたくはなかったのである。
「行くよぎあっち! ひっさーつ!」
うずめは掛け声と共に、自身のシェアエネルギーを解き放ち、
「……私も、行きます」
牽制の射撃を放つ、ひたすら距離を取り回避に徹する、勝利だけを目指すのならこの二つが安定の行動となる。
しかし、ネプギアも自身のシェアエネルギーを最大まで高め、M.P.B.Lのリミッターを外し、
「ほにゃああああーーーーーーッ!」
「てやぁああああーーーーーーッ!」
紫と橙の閃光がぶつかり合い、互いのシェアエネルギーが炸裂し、周囲の物体を薙ぎ払って行く。
光と煙が晴れ、焦土と化した訓練場に立っていたのは…………
「……参った。俺の負けだ。流石だな、ぎあっち」
ネプギアだった。
変身が解け、仰向けになりながら勝者(ネプギア)を讃えるうずめ。
ネプギアも変身が解除され、肩で息をしながらもどうにか立っている様子だった。
「勝ちじゃないです。終始私が動きやすいように戦ってくれてたじゃないですか」
うずめは手を抜いていたわけではないが、自分が教えたことをネプギアが実際にできているか、というテストのような戦い方をしていた。
本気でうずめがネプギアを倒しにきていたのなら、違った結果になっていたかもしれない。
「そ、ソンナコトナイゼ……?」
「ふふ、ならそういうことにしておきます」
どう考えてもバレバレな嘘なのだが、うずめなりの気遣いを無下にするのは野暮だと思い、ネプギアはそれ以上追求はしなかった。
ネプギアはうずめに手を差し伸べ、うずめはその手を取って立ち上がる。
「今日は本当にありがとうございました。うずめさんから教わったこと、大事にします」
「あぁ、そうしてくれ。ぎあっちが修行を積んだらまたやろうぜ。俺ももっと腕を磨いて、ネガティブエネルギーを使いこなせるようになっとくからさ」
「はい!」
肩を貸し合いながら、訓練場を後にする二人。
ボロボロな状態で部屋に戻ると、ネプテューヌに「だ、誰にやられたの⁉︎」と心配そうに詰め寄られ、笑いながらお互いを指さすネプギアとうずめだった。
*
数日後。
「ぬゔぉあーーーーーーッ!」
「ご、ごめんユニちゃん! 大丈夫⁉︎ 今女神が出しちゃいけないような悲鳴をあげてたけど……」
ネプギアはいつものようにユニと二人で戦闘訓練をしていたのだが、うずめとの稽古の成果がありすぎたのか、ユニを圧倒してしまったのだ。
うずめの影響を受け徒手空拳スタイルを真似したら、良い一撃がユニの鳩尾に直撃してしまったのだ。
「ぐぇぇ……っ、ネプギア、あんたどうしたのよ! 何をしたの⁉︎ こんな短期間でそんなに強くなるなんて!」
「えっと……」
ネプギアに詰め寄るユニ。
「うずめさんに稽古してもらったんだ。ユニちゃんも教えてもらうといいよ」
「わかったわ! 教えてもらう! 早くうずめのとこ行くわよ!」
「ええっ⁉︎ 今から⁉︎」
「今から!」
ネプギアとユニは、どうせなら、とロムとラムを誘い、候補生全員でうずめの元へ押しかけた。
うずめは少しだけ困ったような苦笑いをしながらも、快く受け入れ、候補生たちの猛特訓が始まるのだった。
そして、急速なスキルアップを果たした候補生たちに、守護女神たちがマジで焦る事態になるのだが、それはまた別のお話。
シェアエネルギーという概念について色々意見交換したい。
我こそはシェアエネルギー博士っていうやつ、至急連絡くれや。