崩壊したゲイムギョウ界。
無数の瓦礫と屍の転がるかつて大国があった場所にて向かい合う、邪悪なオーラを放つ二対の神。
「やぁ、久しぶりだね。驚いたよ」
「貴様は……」
一つは、復讐を完遂しゲイムギョウ界を滅ぼした女神『暗黒星くろめ』。
そしてもう一つは、かつて自分を討った女神へ復讐を誓い復活した邪神『犯罪神マジェコンヌ』。
その昔にぶつかり合い、当時は決着がつかなかった両者が、再び合間見えていた。
「天王星……だったか? 女神が代替わりしていたから、もう消えたものだと思っていたが……まさか生きていたとはな」
今のくろめは、かつての『天王星うずめ』の姿とは異なっていたが、犯罪神マジェコンヌは目の前の人物がうずめ(くろめ)であることをなんとなく理解していた。
「それはこっちの台詞だよ。ぎあっちにやられたんじゃなかったのかい、キミ?」
「私は蘇ったのだ。奴を……ネプギアを殺し、今度こそゲイムギョウ界を滅ぼすためにな」
「威勢が良いところすまないけど、ぎあっちはオレが闇に堕としたねぷっちが殺したし、ゲイムギョウ界はほとんどオレが滅ぼしたんだよね。ていうか、なんとなく残しておいたぴーしー大陸を、まさかキミに滅ぼされちゃうなんてね。人のデザートを横取りするなんて、酷いじゃないか」
ゲイムギョウ界四大国は、既に暗黒星くろめの手によって滅びている。
どの国も、かつての華やかな街並みの面影は一切なく、ただ茶色と灰色の廃墟が広がるだけとなっている。一部では空や大地も割れ『終末』という言葉を体現したかのような景色が広がっていた。
「……だからもうキミにやることなんて残ってないよ。大人しくギョウカイ墓場の跡地で二度寝でもしていれば良いんじゃないかな」
「いいや、残ってはいるだろう? ここに」
犯罪神マジェコンヌは不敵な笑みを浮かべながら、目の前のくろめを指差す。
犯罪神にとって、くろめを斃すことにはなんのメリットもない。むしろ、ゲイムギョウ界を滅ぼすという点では、両者の利害は一致している。
だが、それは理屈ではない。目の前に力を持った存在がいれば討ち滅ぼす。それが邪神としての矜持であった。
「ふっ……良いね。あまりにもあっさりと目的を完遂できたから、少し退屈だったんだ。相手してあげるよ」
くろめも笑いながら応える。
完全に身体を取り戻し、生命活動にシェアが必要なくなり、女神という存在を超えたであろう自分の力を試したくなったのだ。
「ゆくぞ」
「いつでもおいで」
言葉の後、刹那の静寂が訪れ、闇が横切り、轟音が響く。
「ちぃ……っ!」
マジェコンヌの攻撃を受け、瓦礫の山を貫きながら、吹っ飛んでいくくろめ。
「やるな」
くろめは追撃を加えようと迫りくるマジェコンヌに対し、メガホンを取り出し。
「うああああぁぁぁぁッ‼︎」
破壊音波で迎撃する。
「……ッ⁉︎」
「そらっ!」
音波のダメージでマジェコンヌの動きが一瞬止まると、くろめはその隙を突いて、マジェコンヌの羽根を掴み、思い切り廃ビル群に投げつける。
そして、吹き飛ばした先に向かい、再びメガホンを構えて破壊音波攻撃を仕掛けた。
「すぅぅ……ゔあああああーッ‼︎」
破壊音波の影響で、廃ビルは砕け散り崩れ落ちた。
すると、間髪入れずに瓦礫の中が光り、ビーム砲が飛んできた。
「……っ⁉︎」
くろめはギリギリで回避するも、ビームに触れた髪の毛の先端は消し飛ぶ。
そして、瓦礫の中からマジェコンヌが飛び出し、くろめの胸元へ槍を伸ばす。
「……っ」
くろめは槍の刃の側面に拳を叩き入れ、軌道を逸らす。
「……"効いてない"?」
くろめは、先程の音波攻撃が、初撃と比べてダメージの通りが悪いことに気づいた。
「貴様の音はもう我には効かん」
「……っ!」
一度通用した技であっても、二度は通用しない。あらゆる攻撃に即座に適応し、耐性をつけていく。
これが、復活した犯罪神マジェコンヌの力であった。
「長引けば……不利なのはオレか」
だからこそ、くろめは短期決戦に舵を切る。
「なら、すぐに終わらせようか」
くろめは自身のエネルギーを解き放つと、ドス黒い瘴気のようなオーラを纏い始めた。
そして──
「シェアリングフィールド、展開」
──まるでペンキで塗りつぶしたかのように、黒いエネルギーが撒き散らさせ、渦を巻き空間が形成されていく。
『シェアリングフィールド』、肉体を取り戻し、自らが捨てた善意から生まれた絞りカスが使用していた技であり、かつて自らを食い止めるために立ち塞がったうずめを叩き潰して再吸収した際に手に入れた技である。
「堕ちろ……!」
うずめが用いていたフィールドも強力な効果を有していたが、くろめがカスタムしたフィールドはそれすらも生易しく思えるほど。
くろめが合図をすると、フィールド内を舞う黒いエネルギーの塊が形容できない禍々しきモノへと変貌し、フィールド内の敵を斬り刻み、砕き、潰し、引き千切る。
妹たちを手にかけた後に正気に戻った守護女神たちはくろめに戦いを挑むも、この暗黒領域に呑まれ呆気なく鏖殺されてしまった。
「ぐ……ぉおおおおっ!」
容赦ないフィールドの猛攻を、マジェコンヌは弾き飛ばし薙ぎ払う。
徐々にフィールドに適応し始め、次第に黒いエネルギーでは大したダメージを得られなくなっていく。
「……流石は犯罪神だ。一筋縄ではいかないか」
くろめにとっては、このシェアリングフィールドは布石に過ぎなかった。
「だが……!」
負のエネルギーへの耐性と正のエネルギーへの耐性は反比例する。
片方を得れば得るほど、もう片方への耐性が下がっていくのだ。
「……『夢幻連撃』」
今のくろめは、エネルギー体だった頃は毒であったシェアエネルギーも、完全に使いこなすことができる。
「『夢幻粉砕拳』‼︎」
シェアエネルギーが込められたくろめの攻撃の拳は、マジェコンヌの肉体を貫いた。
「ぐ……ぁあああああッ!」
「終わり……だ‼︎」
そして、くろめが貫いた拳からマジェコンヌの体内にシェアエネルギーを注ぎ込み、拡散させ、爆破すると、マジェコンヌは弾け飛んだ。
戦闘が終わると、シェアリングフィールドがひび割れて崩れて消えていった。
「ふーっ……」
渦巻き型のゲームハードに封印されていた自身の肉体を取り戻したことにより、それまでのエネルギー体に比べて絶大な力を手に入れた暗黒星くろめの前では、犯罪神マジェコンヌであってももう敵ではなかった。
「こんなもの……か」
しかし、失ったものもある。ゲイムギョウ界のほぼ全ての人間が死に絶えたことにより、世界中のネガディブ感情を取り込むことが実質不可能となったのだ。
無限ともいえたエネルギーは有限となり、ちょっとやそっとのことでは尽きることはないが、もちろん消耗はする。
例えば、シェアリングフィールドを解除した直後に過剰に使用したエネルギーが焼き切れ少しだけ力が抜けること、など。
「……疲労、か。懐かしい感覚だ」
勝利というほんの少しの達成感を味わいながら、くろめは次に何をするか考えていた。
「次は……数少ない生き残りを始末するとしようか。例えるなら……モグラ叩きかな」
シェアリングフィールドの影響で抉り取られた地面から、くろめが立ち去ろうとしたその時。
「……ん?」
いつの間にか巻かれていた粘液に足を取られ、動きを止められていた。
「何……?」
そして、ドスり、と鈍い音が鳴る。
くろめは、その音が自分の身体から出たものだと気づき、自分の身体に目をやると、紫色の剣先が腹部を貫いていた。
「か……は……っ……⁉︎」
自らの状態に気づくと、意識が痛みに追いついた。
「この時を待っていたわ……! ずっと……ずっと‼︎」
憎悪が漏れたような鈍い声で、剣を更に押し込むその少女の名は『アイエフ』。
くろめの足を取った粘液の罠を仕掛け、アイエフの攻撃の布石を作った少女の名は『コンパ』。
「ネプ子の……」
「ぎあちゃんの……」
「「みんなの仇……ッ‼︎」」
アイエフとコンパは、親友を闇に堕とされ、闇に堕とされた親友の手によって国が滅ぼされ、大切な人たちを殺された。
しかし、それでも生き抜いていた。滅び行く世界の中でも、生きて生きて生き抜いて、親友の仇を討つために、耐え忍んでいた。
かつての悪敵であった犯罪組織の残党とまで手を組んで、犯罪神を復活させ、暗黒星くろめにぶつけ、疲弊するであろうくろめを執念のもとに見つけ出した魔剣『ゲハバーン』で殺害する。それが、アイエフとコンパの策だった。
『ゲハバーン』とは、刺した女神の命を力に換え、女神の命を吸えば吸うほど力を増す禁断の魔剣。
逆を言えば、ゲハバーンに刺された女神は例外なく死に至る。
暗黒星くろめは、生命活動にシェアを必要とはしていないが、生物としてはまだ女神の範疇を出ていなく、ゲハバーンを強化するための命としてカウントされる。
「……なるほど、これがキミたちの策か」
刺された痛みだけでなく、命が吸われていくことを感じ、死を悟るくろめ。
しかしその表情は、痛みで少し歪みながらも、まるで清々しさを感じさせるものだった。
「……それで? オレを殺したところで、ねぷっちたちが生き返るわけじゃないし、滅んだ世界が蘇るわけじゃない。滅んだこの世界はすぐに崩壊し、キミたちも死ぬ。キミたちの復讐なんて無意味で無価値さ」
自分の復讐を完遂したくろめにとって、既に自分の命など興味はなかった。
この次元最後の催しだと思っていた犯罪神マジェコンヌとの戦いが今さっき終わり、死ぬには丁度いいタイミングとすら思っていた。
だからこそ、くろめはアイエフとコンパを嘲笑う。キミたちがしたことはオレの手伝いに過ぎない、という意味も込めて。
「そうね。その通りよ。けど、悔しい気持ちで死ぬこと、無意味な復讐でもやり遂げて死ぬこと、私たちは後者を選んだ、それだけよ」
「意味のない復讐をやり遂げて、無価値に死ぬ……ははっ、オレと同じだね」
「……かもね」
「最期に褒めてあげるよ。よく頑張ったね、おめでとう」
「要らないわよそんな言葉」
言い放ったくろめは目を閉じると、光となってゲハバーンに吸収されていった。
アイエフは、もう役割のないゲハバーンを放り投げる。
「……終わったわね」
「はい。全部終わったです、ね」
アイエフとコンパは、自分たち以外に誰もいなくなった荒野に腰掛ける。
もしかすると、多少の生き残りはいたかもしれないが、たとえいたところでこの世界の滅ぶ運命に変わりはない。
「後は暗黒星くろめの言う通り、この次元が崩壊して終わり、かぁ。コンパ、最期に何かしたいことある?」
「そうですねぇ……なら、あいちゃんとドライブがしたいです。今の今まで、隠れるために外を歩くことすらできませんでしたから」
「良いわね。多分まだバイクは動くと思うし、一緒にこの次元中を走り回りましょ」
「はい」
程なくして、超次元ゲイムギョウ界と呼ばれたその次元は崩壊し、消滅した。
アイエフとコンパは、最後の最後までこの次元中を走り回り、寄り添い合いながら、次元の崩壊に呑まれていった。
死への恐怖もなく、ただただ終わりを受け入れて。