かなり短いです。
「あらいらっしゃい」
「ん」
妹であって妹ではないその子は、言葉ですらない最低限の返事をして、私の仕事部屋のソファーに腰掛ける。
私の方を見ることもせず、ムスーっとした無愛想な表情(それでも可愛いけど)、たまに溜息。
この子がこんな感じで私のところに来るのは、決まって"お姉ちゃん"と喧嘩した時。
この子にとって私のところは『お姉ちゃんと一緒にいたくないけどお姉ちゃんのそばにいたい』そんな矛盾した感情を発散できるうってつけの場所なのだ。
「何か飲む?」
書類仕事の終わる目処がつき、少し休憩しようと思ったから、ついでに声をかけてみる。
「……コーヒー。あまくして」
「わかったわ」
私と名前も顔も存在も同じな"お姉ちゃん"には素直に甘えられないくせに、私には普通に甘えてくる。
初めて会った時の態度はもっと硬かったのに、今ではすっかり柔らかくなった。
なんだか、友達と妹が同時にできた気分。悪い気はしない。
「また喧嘩?」
「そんなんじゃない」
「そう」
これは、この子と向こうの私の『いつものこと』というやつ。向こうの私が言葉足らずでこの子を不安にさせて、この子もこの子で言葉足らずで向こうの私を困らせて、お互い落とし所がわからなくなって……って感じ。
全く、姉妹なんだから仲良くしなさいよね。
「……ならいっそ、私の妹になっちゃう?」
魔が刺して、つい出てしまったその言葉。
あわよくばという気持ちはなくはない。こんなに可愛い妹があっちの私にしかいないのは不公平だと思っているぐらい。よくブランも嘆いているし。
「それは……やめとく」
まぁ、断られることも分かっているけど。
「……こっちのお姉ちゃんも勿論好きよ。でも、あたしのお姉ちゃんはあっちお姉ちゃんで、あたしが超えたいお姉ちゃんもあっちのお姉ちゃんだから」
『好き』か。
この子は天邪鬼。言い換えれば、私の好きな言葉じゃないけど『ツンデレ』ってやつ。
本当に好きな人に対しては、態度がトゲトゲしてしまうもの。
つまり、私には素直でハッキリ『好き』って言ってくるってことは、たとえ好かれてはいても向こうの私ほどは愛されていない。
「いいのよ。わかってるから。意地悪なこと言ってごめんなさいね。はい、コーヒーよ。あなたのご所望通り、甘いやつ」
「ありがと」
それでも、この子が気軽に訪ねてきて、気軽に甘えてくるこの立ち位置は悪くはない。
厳しく育てるのは"お姉ちゃん"である向こうの私に任せて、ただ可愛がれるというもの。
でも今は────
「それ飲んだら帰りなさい。時間が空きすぎるともっと気まずくなるわよ」
────ここに長居させるべきじゃない。
ネプテューヌほどじゃないけど、私はお節介だから。
「……うん。そうする。ありがとう。ごめんね。すぐ来ておいてすぐ帰るなんて」
「別にいいのよ。またいつでもいらっしゃい」
「今度は……お姉ちゃんと一緒に来るね!」
「いや、それは……うーん……ま、まぁ待ってるわ、うん」
「……?」
私はブランやベールと違って自分同士で意気投合できる自信がないから、会うのは割と避けているけど、この子に『連れてこないで』なんて言えないものね……
「またね、ユニ」
「うん! じゃあね、"お姉ちゃん"!」
そうして、私は妹であって妹ではないその子に手を振りながら別れを告げた。