「プロセッサユニットの交換?」
ネプギアからの提案に、首を傾げるユニ。
「うん。お互いの武器と装備を交換してみたら新しい発見があるんじゃないか、って」
「なるほど。まぁ、普段の装備でやれることはやり尽くした感あるもんね、あたしたち。良いんじゃない?」
「やったぁ! 一回ユニちゃんの着てみたかったんだ」
と、軽いノリでプロセッサユニットとスーツの交換することが決まった。
*
『ユニちゃんのプロセッサ……胸が……きついよぉ……!』
『ネプギアのプロセッサ……色んなとこが無駄に大きいから、これじゃ隙間から色々見えちゃうじゃないの!』
……という展開には残念ながらならない。
プロセッサユニットは、装着する女神の体型体格に合わせて展開されるからだ。
「……お互い、似合ってないわね」
「あはは、そうかも」
プロセッサユニットもスーツも、装着する女神本人の容姿や体型とセットでデザインされている。そのため、元の装着者のイメージもあり、違和感はどうしても生まれ、似合わないという意見が出るのも仕方のないこと。
「スーツだけなら見た目以外に大きな違いはないね」
「じゃあ、次は武器か。まずあたしからね」
ユニは、プロセッサユニットにリンクされている武器、ユニの場合はライラックにリンクされているパープルシスターの『M.P.B.L』を出現させた。
「ふむふむ……」
「どう?」
そして、M.P.B.Lの性能を軽く見通すと、顔を歪ませた。
「うわなにこれ!」
「……え?」
予想外のユニの反応にたじろぐネプギア。まさかここまで悪反応だとは思わなかったようだ。
「照準の性能がカスなんだけど!」
「わ、私の愛用武器をカスとか言わないでよぉ!」
「射撃もビームしか撃てないじゃない。この際ビームソードをオミットして射撃方面に特化させなさいよ」
「私の武器の設計思想全否定しないで……ていうかそれやるとただのエクスマルチブラスターになるじゃん……」
ユニの批判に対し、不満げに口を尖らせるネプギア。
しかし、照準の性能が悪いという指摘を頭に入れており、早速プロセッサ交換の意味があったようだ。
「後は……ビームソードかぁ。重さがほぼないから実体剣より振り回しやすいのが利点よね?」
「うん、でもお姉ちゃんとかノワールさんは逆に武器にちゃんと重さがないと不自然で手元が狂うんだって。だから実体剣使ってるらしいよ」
「へぇ……そういう考え方もあるのね」
「うん。じゃあ、次は私の番だね」
一旦M.P.B.Lを消滅させ、今度はネプギアがブラックシスターの『エクスマルチブラスター』を出現させる。
「ユニちゃんのこれ大きいよね。振り回したら
強そうだ」
「もし鈍器にしたら絶交だからね」
「し、しないよ!」
「それよりもどう? あんたのとは性能が段違いでしょ?」
「そうだね、射撃は敵わないかな。でも、やっぱり剣は欲しいし、小回りも利かせたいしなぁ……」
「近接に寄られた時は自分の腕でカバーよ。そもそも寄らせないし。最悪寄られてもお姉ちゃん直伝の技があるからね」
ユニはガンナーであるが、近距離戦が一切できないわけではない。姉のノワールほどではないが、体術も日々鍛えていたりする。
「お互いの武器の確認は済ませたし、そろそろ試合しましょ」
「そうだね」
一通り装備の確認が終わった二人は、訓練場に向かうのだった。
*
訓練場の試合モードを起動し、二人は早速模擬戦を開始した。
いつもの通り、距離を取るユニと追いかけるネプギアの構図となる。
「あれ? そういえばなんであたし逃げてるんだろ?」
「……待って、私の武器がエクスマルチブラスターなら、追う必要……ある?」
ネプギアとユニの模擬戦は、普段だと接近するネプギアと距離を取るユニ、という流れになるため、側から見ると何故か近接が苦手ガンナーが遠距離が苦手なアタッカーを追う奇妙な展開になっていた。
「……」
「……」
それに気づいた二人の目が合い、気まずそうに苦笑い。
そして、ユニを追うために前傾姿勢だったネプギアは逃げ易いように少し身体を仰反らせ、ネプギアから逃げるために身体を仰け反らせていたユニは追い易いように前傾姿勢に変わる。
「待ちなさいネプギアー!」
「わー! 来ないでユニちゃーん!」
迫りくるユニに、エクスマルチブラスターから実弾とビームを交えながら迎撃するネプギア。
しかし、慣れない武器というのもあり、ネプギアの射撃がユニを捉えることはない。
「相変わらず……ヘッタクソな射撃ね」
ユニは少し強い言葉でネプギアを挑発しながら距離を詰めていく。
「はぁああ! 『トリコロール……」
そして、剣の攻撃範囲に入り、技を繰り出して攻撃する。
「……っ」
しかし、咄嗟に技を中止してその場を離れる。
そして、横から飛んできたビームが、先程までユニがいた場所を横切った。
「……成程、確かにそれはプロセッサに付随する武器じゃなかったわね」
攻撃の正体、ネプギアの周りをフヨフヨと浮き回る二機のビットを睨みつけながらユニが言う。
ネプギアの技や装備を知り尽くしているユニだからこそ、撃たれる前に気づくことができたのだろう。
「やっぱり、ユニちゃんにはもうこんな不意打ち通用しないか」
また、たとえネプギアの射撃精度が低くてもここまで簡単に自分が近寄れたことには何か裏があるのではないか、というユニの推理もあった。
「けど……!」
「……くっ」
ビットからの射撃を回避することは、ネプギアに距離を取る時間を与えるということでもある。
「……うん、わかってきた。でも、これを使いこなすなんてユニちゃんやっぱりすごいなぁ」
そして、ネプギアは段々とエクスマルチブラスターの扱いに慣れつつあった。
弾の切り替えがスムーズになり、射撃の精度も上がっていく。
「くぅっ……」
ネプギアの弾幕が、少しずつユニの耐久値を削っていた。
「……厄介ね」
エクスマルチブラスターから繰り出される高火力の射撃で相手を削り、無理に距離を詰めようとした相手からはビットで自衛することで時間を稼ぎ更に距離を取る。小回りが利きづらいエクスマルチブラスターの弱点を上手くカバーした戦術をネプギアは見出していた。
「でも、あんたのこれにも射撃はあるわ!」
ユニはM.P.B.Lをソードモードからランチャーモードに換装し、ネプギアに狙いを付ける。
「あたしのエクスマルチブラスターより精度が劣るなら……あたしが合わせてやればいいのよ!」
そして、M.P.B.Lからビーム砲を撃ち出した。
「うわっ!」
ユニの射撃の腕は超一流。慣れない武器でありながら、ネプギアの弾幕の隙間から、ビーム砲をネプギアの装甲に直撃させる。まるで動き回る針の穴に糸を通すかのような神業だが、ユニにとっては大したことではない。
「流石だねユニちゃん……こっちの方が射撃性能は上なのに、撃ち合いを互角にされちゃった……」
「さ、反撃開始よ!」
ユニもまた、M.P.B.Lの有効的な使い方を見出しつつあった。
取り回しが良いため、ライラックの高い機動力を活かしながら射撃戦が行える。自分のエクスマルチブラスターには無い利点だ。
「う〜ん……」
高速で飛び回りながら精度の高い射撃を通してくるユニの戦法に悩まされるネプギア。
「なら……動きを止める!」
ネプギアは自衛用のビットをユニに向けて飛ばし、ユニを囲うように浮遊させる。
「ほんと便利よねそれ」
ビットを扱うのは、通常の射撃武器とはまた違ったセンスが要る。ネプギアにあるがユニには乏しいため、自身の技に導入できずにいる。
「けど、撃ち落としてくれって言ってるようなものよ」
ユニは、逆にビットの射出を好機と捉えた。
ネプギアの周りを飛び回るより、こちらに飛んできた方がビットを処理しやすいのだ。
「そこ!」
ビットの軌道を読み、正確に射撃を撃ち出して一機目を破壊、そして背後から来たもう一機のビットは魔法弾で迎撃して破壊する。
「これであんたはもう丸裸ね」
ビットを破壊したため、ネプギアは自衛の要を失うことになった。
この好機を逃さぬよう、ユニはネプギアに一気に距離を詰める。
「それっ」
ネプギアがユニに実弾を放つも、ユニはビームで迎撃する。
すると、破裂した実弾から黒い煙が撒き散らされた。
「煙幕弾? そんなもの入れてたつもり無いけど……この短期間で仕込んだのね……!」
ユニの視界が封じられるが、それはネプギアも同じ。
おそらくは近距離戦を拒否し仕切り直すための時間稼ぎのつもりだろう、とユニは思っていたため視界が晴れるまで迂闊に攻撃を仕掛けたりはしなかった。
「また距離を取……え?」
煙幕が晴れた瞬間、ユニは戦慄した。
エクスマルチブラスターの射程を活かすため距離を取る筈だと思っていたネプギアが眼前に迫ってきていたからだ。
「正気⁉︎」
驚きながらも、M.P.B.Lを構えようとするユニ。
しかし、予想外の一手だったため、まだ体勢を整えられていなかった。
また、ユニは射撃戦から格闘戦への意識の切り替えの速さがネプギアに劣るのだ。
「……『スラッシュウェーブ』!」
ネプギアは、手刀から『スラッシュウェーブ』を繰り出した。
剣から放つものより威力は大きく下がるが、ユニの晒した隙を上手く突き、直撃させる。
「きゃあっ! ……やったわね!」
ネプギアは追撃と言わんばかりに、手刀での連撃を繰り返す。
しかし、数度目の追撃にて、ユニに腕を掴まれた。
「威力が低いことが分かってれば……我慢できる程度のダメージね……そして捕まえたわ!」
ユニは左手でネプギアの腕をしっかりと掴み、右腕でビームソードを振りかぶる。
「それは……こっちもだよ」
しかし、ネプギアもエクスマルチブラスターの銃口をユニに向けていた。
「ゼロ距離射撃か……っ! でも、その出力でやったらあんたも……!」
「我慢比べだね、ユニちゃん」
ゼロ距離ならばユニの一撃もネプギアの一撃も直撃するだろう。
そうなれば、相手の攻撃をまともに受けて立っていた方に勝敗が傾くことになる。
「……」
「……」
しかし、目を合わせ一呼吸置いて、ネプギアもユニも武器を下ろした。
あくまでこれはお互いの武器とプロセッサユニットを交換した試験的な模擬戦、勝敗を付けるためにボロボロになるまで戦う必要はない、と二人は判断したのだ。
「うん、悪くなかったわ。良い経験になったわね」
「こっちこそ、ありがとうユニちゃん」
「でも、やっぱ剣を振るのは性に合わないわねぇ」
「う〜ん、私も射撃オンリーはちょっと物足りないかな」
「ま、そうなるわよね。じゃ、早速模擬戦のフィードバックでもしようじゃない? 色々アイデアも思いついたし」
「いいね! あ、プロセッサユニット返そうか?」
「え? ここで脱ぐ気?」
「ち、違うよぉ!」
そのまま二人は、訓練場を後にした。
今日も今日とて、仲の良い二人なのだった。