「──それで」
プラネテューヌ教会の執務室のソファーに、我が物顔で腰掛けるラステイションの守護女神ユニが言った。
「また性懲りも無く復活したわけ? 犯罪神サマは」
「それが、最近研究でわかってきたことらしいんだけど、犯罪神の顕現って、数百年おきに発生する災害のようなもので、現象に近いんだって」
「犯罪神マジェコンヌは、その現象を利用して生み出された邪神ってこと?」
「そうなるのかな」
執務室の女神の椅子に腰掛け、お仕事モード用の伊達眼鏡をかけているプラネテューヌの守護女神ネプギアが、仕事用のパソコンのモニターと睨めっこしながら言った。
「てことは、前のとは別個体なの? 魂がどうとか言ってたやつと」
「そうなるのかな。アレは強敵だったよね。マホちゃんが魂ごと攻撃できるエネルギー変換機を作ってくれたから最後は楽に倒せたけど」
数百年前はゲイムギョウ界の存続を揺るがすほどの脅威だった犯罪神も、時が進めば対策が進み、かつて候補生と呼ばれていた彼女たちが正式に守護女神の座を継承した現在では、出現しても昔ほど騒がなくなった。
「今回の出現場所はどこ?」
「いーすんさんが三日かけて割り出したデータによると……このポイントは……ルウィーかな」
「あー……ルウィーね」
ネプギアもユニも、拍子抜けしたように肩の力を抜いた。まるで、自分たちのやることがなくなったと言わんばかりに。
「じゃ、アタシはコーヒーでも淹れるわ」
「私はお菓子出すね」
「砂糖何個だっけ?」
「入れなくてもいいよ」
「本当に?」
「う……二個ぐらい入れてください。ミルクもたくさん」
「はいはい」
そして、何事もなかったかのように、二人きりの女子会を再開するのだった。
*
ルウィー北部の極寒の氷山にて。
顕現した犯罪神が、周囲のモンスターをその瘴気で汚染し配下にしながら、中心街に向かって南下していた。
「来たわね」
「来たね」
犯罪神を迎え討つべく、ルウィーの守護女神ロムとラムが、襲名した『ホワイトハート』に女神化し、ホワイトハートロムは神聖な輝きを放つ細長い杖を、ホワイトハートラムは荘厳な雰囲気を放つ巨大な斧のような杖を、それぞれ構える。
「久しぶりの二人での戦闘ね、ロムちゃん」
「いつもはどっちかがデスクワークで、もう片方がクエストだもんね」
姉のブランがその座を退き、守護女神の座を継承した二人は、候補生だった頃よりほんの少し外見が成長していた。
また、ロムは人見知りを克服し、堂々とした態度で話すようになった。ラムは相変わらずの天真爛漫さはあれど相当に落ち着き、女神らしい淑やかさを持つようになった。
「前線は私が切り開くわ。後はロムちゃんがお願いね」
「うん、わかった」
ラムがプロセッサユニットのウイングから、魔法で氷の翼を伸ばし、前線に飛翔する。
「『アブソリュート・ゼロ』」
そして、飛んだ軌道で魔法陣を描き、全方位に魔力を含んだ氷塊を放つ。
かつては必殺技であったアブソリュート・ゼロだが、今のラムはシェアエネルギーや魔力を貯めることなく即座に使用することができる。
「たぁっ!」
討ち漏らしたモンスターは、斧のような杖を振り回し、斬り砕いて破壊する。その姿は、ラムの姉である先代ホワイトハートを彷彿とさせる。
ラムの攻撃範囲の隙間から進軍してきたモンスターは、間髪入れずに放たれたロムの氷魔法によって全てが凍り、活動を停止する。
二人の守護女神は、言葉を交わすことなく、数回目を合わせるだけで互いの思考と行動を把握し、適切に連携を行う。
「さて……」
ルウィーの氷原を黒く染めるほどの数だった汚染モンスターたちは、瞬く間に殲滅された。
「後はあんただけよ、犯罪神」
ラムがアイスカリバーを生成し、犯罪神に向けて射出する。
しかし、アイスカリバーは犯罪神の身体を貫くも、ダメージを気にすることなく犯罪神が前進し、ラムに剣を振る。
「ラムちゃん!」
間髪入れずにロムがバリアをラムの前に展開することで、犯罪神の斬撃を防ぐ。
バリアは二撃目の斬撃で破壊されるが、その間にラムは離脱し、魔力を貯める。
「『スノーマン……」
ラムは巨大な雪だるまを創り、先程のアイスカリバーとは違い、質量で押しつぶすことを選択。
「『ノーザンクロス』!」
ラムの選択を予測したロムが、即座にま力の十字架で犯罪神を拘束する。
「『プレッシャー』ッ!」
そして、魔力を貯め終わったラムが、巨大な雪だるまを犯罪神の頭上から落とし。
「『サウザンクロス』!」
ロムがトドメと言わんばかりに、追撃の十字架で上から蓋をする。
「「それっ!」」
高威力の魔力とシェアエネルギーが炸裂し、大爆発を起こす。
「……」
手応えはあった。
しかし、ロムとラムは、転がる氷塊の中に生命反応を察知していた。
魔力が足りず仕留め損なったか、それとも犯罪神の防御力が想定以上だったか。
(いや……これは……)
その答えは、どちらでもない。
(再生能力!)
ラムは、自身最初に放ったアイスカリバーの効きが悪かった理由から、犯罪神の特性を推理した。
「肉体へのダメージは回復されちゃうってことだよね? だったら、魂への変換機をマホちゃんから借りて来ようか?」
「そんな時間がないのが問題よ。それに、アレはシェアエネルギーによる物理的なダメージを変換するものだから、私たちの魔法攻撃とは相性が悪いわ。変換できても威力が大幅に減衰するって言ってたもん」
「う〜ん……魔法が強いってのもメリットだけじゃないんだね……」
氷塊を薙ぎ払い、姿を現した犯罪神の攻撃を避けながら作戦会議をするロムとラム。
「昔、お姉ちゃんが言ってたわ……」
『再生能力持ちの敵? 簡単よ、一撃で倒せばいいのよ』
「……って」
「一撃……ラムちゃん、アレをやろっか」
言いながらロムが、シェアクリスタルを体外へ顕現させる。
「おっけー! 決めちゃうわよ!」
ラムも、応じるようにシェアクリスタルを顕現させた。
そして、二対のシェアクリスタルを一つにし、ロムとラムの身体が水色とピンクに光り輝く。
「「『シェアリング・フュージョン』!」」
その掛け声と共に、二つの光が溶け合い、一つになる。
一つになった光は、再び身体を形成し、そこに一人の守護女神が爆誕する。
「合体完了! 『ホワイトハート・エクステンション』!」
『ホワイトハート・エクステンション』。ルウィーの守護女神たる二人の守護女神が融合した姿。
かつて、二人の女神候補生が当時の女神であった姉を超えたことを、明らかにした形態でもある。
「さぁ、茶番は終わりよ犯罪神」
ゆっくりと前進するホワイトハート
しかし、その剣はホワイトハートEXに届くことはなく、直前で腕ごと凍りつき、その動きを止める。
物理攻撃は届かないと見た犯罪神は、魔法弾を撃ち出すが、その全てはホワイトハートEXに触れる直前で凍りつき、地面に落下する。
「これが私の『氷獄冷衣』……もう少し分かりやすいようにしてあげる」
ホワイトハートEXが言うと、透明な氷の着物が白く変色することで姿を表し、鎧のようにその身を守っている様子が見えた。
これが『氷獄冷衣』、ホワイトハートEXが身に纏う魔力氷の衣装。放たれる超越的な冷気は、あらゆる攻撃を触れる前に凍らせ、動きを奪う。
「さっさと終わらせるよ」
氷獄冷衣は、先端から少しずつ空気に溶けている。これは、制限時間を意味するものであり、全てが溶けると効果も消える。
ホワイトハートEXは、凍らせた犯罪神の右腕から、氷を侵食させていく。
犯罪神はその前に右腕を切り落とし、即座に再生させて事なきを得る。そして、斬撃に炎魔法を纏わせ、凍結の突破を試みる。
「氷には炎、か。悪くない作戦だね」
しかし、相性の良い炎であっても、ホワイトハートEXの操る氷を溶かしきることはできず、逆に炎が消え、犯罪神の剣が凍り、砕ける。
「……」
犯罪神の炎斬撃は、ホワイトハートEXに攻撃を通すことはできないが、ホワイトハートEXの攻撃から身を守ることはできており、逆にホワイトハートEX側からも有効打を与えられずにいた。
また、攻撃が通ったとしても、武器を壊そうが身体を凍らせようが、破損した箇所から再生され、即座に攻撃の意味が消える。
その間、氷獄冷衣は段々と空気に溶けていき、展開時間の限界が迫る。
「むぅ……」
そして、決着が付かぬまま時が過ぎていき、展開時間が遂に切れた。
「時間切れかぁ……」
氷獄冷衣が全て溶け、その効果が終了する。
すると、ホワイトハートEXは白い冷気に包まれた。
「そう、時間切れ」
その様子を見て、犯罪神は勝利を確信し、ホワイトハートEXに向けて前進した。
「でも、タイムリミットはあなたの方だよ、犯罪神」
氷獄冷衣は、装甲でありながら、一番の効果は『繭』である。幼虫が蝶へと変化する過程。
つまり、繭が消えたということは、蛹が蝶へと完成するように、ホワイトハートEXも新たな姿と力を手にするということ。
「シェアリング・フュージョンには、デメリットが二つある。一つは、融合した直後には、氷獄冷衣の解除のための時間経過を待たないと本気を出せないこと」
白い冷気が晴れると、そこには一切の幼さが消えた、美麗なる長身の守護女神が立っていた。
「もう一つは、本気を出すに相応しい肉体年齢に強制的に成長させられること。
シェアリング・フュージョンによって得た莫大なシェアエネルギーと魔力の出力は、変身直後の肉体では耐えることができず、変身後に更なる変身を必要とする。
それを経た姿が、先代ホワイトハートの最強形態『ネクストホワイト』をも超えたホワイトハートEXの最終形態。
「この姿になったからには、あなたを倒すのに一の歩みも必要ない」
ホワイトハートEXは、小声で詠唱を開始し、手で印を紡ぐ。
詠唱と印により、底上げされた魔力とシェアエネルギーを混ぜ、空間を形成していく。
「『シェアリング・フィールド:アブソリュート・コキュートス』」
かつてある先輩女神が見せた技『シェアリング・フィールド』、それをシェアエネルギーの操作のみで行う技量はホワイトハートEXにすらない為、魔術によってシェアエネルギーを操作し、フィールドを展開する。
「この絶対零度の氷獄に足を踏み入れた者は、一秒で身体が凍り、二秒目で能力が凍り、三秒目で思考が凍り……四秒目で全てが凍る」
全ての物体が凍結し、ホワイトハートEXのみが行動できるフィールドの中、犯罪神は抵抗することもできずその活動を停止した。
「もう聞こえてもないし、そもそも意識という概念すらないと思うけど」
そして、ホワイトハートEXは、ありったけの魔力をゆっくりと時間をかけて貯め、掌から解き放ち、一撃で犯罪神を消し去った。
「ふーっ……」
戦闘が終わり、ホワイトハートEXは二人のホワイトハートへと分離する。
「終わったね、ラムちゃん」
「私たちが本気を出せばこんなものよ」
結局、犯罪神はルウィーの防衛ラインに入ることなく、撃破された。
強敵を難なく討ち倒した二人の後ろ姿は、かつての姉に守られていた未熟な候補生だった頃の面影はなく、国を世界を護る守護女神の格が感じられるものだった。
「ラムちゃん。ラムちゃんと融合したから分かったんだけど、この前わたしのクッキー全部食べたのラムちゃんだったんだね」
「ぎくぅ⁉︎」
いや、少し面影があるのかもしれない。