ネプ短編まとめ   作:烊々

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 キャラクターの死亡描写があるので嫌な人は我慢して読んでください。



最期の刻はあなたと ( ノワール ネプテューヌ )

 

 

 その日は少し肌寒く、天気も良いとは言い難った。

 ラステイション教会、女神の居住スペースにて、ラステイションの守護女神ユニと守護女神を引退した姉のノワールが、向かい合い食卓を共にしていた。珍しくその日の朝食はノワールが作ったものだった。

 

「やっぱり、食堂の人が作ったモーニングの方が美味しいわね」

「そんなことないわよ。お姉ちゃんの料理、アタシは好き」

「そりゃ、私とユニの口に合うように作ってるもの。特にあなたにね」

 

 ノワールに自分の好みを把握されていたこと、更にそれをノワールが当然のように口に出したことに対し、ユニは気恥ずかしさを覚える。

 お互い素直になれなかった女神の姉と候補生の妹だった時から、特にノワール側からの接し方は大きく変わった。守護女神の座を引退し、守護女神として、そして姉としての威厳という意識から解放されたノワールは、素直にユニへの愛情を口に出すようになった。

 

「ねぇユニ」

「なに?」

「今夜は、あなたのカレーが食べたいわ」

「カレー? 別に良いけど……」

「言ってなかったけど、私の一番好きな食べ物って、あなたの作ったカレーなの」

「最後に……食べたいほど?」

「最後に食べたいほど」

「そう……」

 

 ノワールの言葉を聞き、ユニの目から涙が溢れる。

 

「ちょ、ユニ! どうして泣くのよ!」

「だってぇ……お姉ちゃん……うぅ……」

 

 泣きだしたユニを抱きしめ、頭を撫でるノワール。

 

「お姉ちゃん……明日、行かないで」

 

 数分経ち、泣き止んだユニが言った。

 

「ネプギアだって、ネプテューヌさんに同じこと言ってるはずよ……」

「……言ってるでしょうね」

「そんなに大事なことなの?」

「私にとっては、命より大事なことよ」

 

 ユニは、ノワールに対して何も言えなかった。

 ノワールとユニは姉妹だが、初めから女神として生を受けたノワールと、候補生として生を受けたユニとでは、経験の違いから価値観も少し異なる。未熟さがあったとしても女神として敗北が許されなかったノワールと、未熟な候補生だからこそ敗北を重ねながらも強くなり守護女神の座を継いだユニとでは。

 そんなユニにとって、ノワールの"やりたいこと"は理解し難いものであったが、だからこそ、理解できないから否定するのではなく、やりたいようにさせてあげたいと思っていた。

 しかし、ノワールと言葉を交わせば交わすほど、その決意が揺らいでいく。

 

「私って、不器用な姉だったわ。本当に」

「ほんとにね」

「そこは否定するところじゃないの?」

「だって本当のことだもん。不器用過ぎよ。あの頃のアタシ本当に可哀想だったわ」

「う……ごめん」

 

 ノワールへの積年の不満をやんわりと解き放つユニ。

 その表情は、言葉の内容と裏腹に穏やかなものだった。

 

「私があなたを素直に褒めてあげられなかったのはね、恥ずかしかったっていうのもあるけど、私が褒めてあげたら、あなたは満足して成長が止まってしまうんじゃないかと思っていたのもあるのよ。バカみたいよね? あなたがそんな程度なわけないのに」

「ほんとにバカよ。今だってそう。アタシのカレーがそんなに好きならもっと前から言ってくれればいいじゃない。いくらでも作ってあげたわよ」

「それは……なんというか、私が妹をこき使って作らせたみたいで嫌だったのよ」

「今夜はこき使って作らせようとしてるのに?」

「それとこれは別」

「もっとこき使って欲しかった」

「その頃の私はプライドの塊だから無理ね」

「も〜開き直っちゃって……」

 

 お互いに何も遠慮することなく言い合う。その様子は、かつてのノワールもユニも夢見ていた姉妹の姿の一つだった。

 その何気ないやり取りの中、ユニは再び決意を固めていく。

 

「お姉ちゃん」

「ん、なぁに?」

「どうせやるんならさ、思いっきりやりなさいよ。それこそ、何もかも残らないぐらい思いっきり」

「言われなくてもそのつもりよ。だって……」

 

 ノワールは言葉の最中、お姉ちゃんとしての柔らかい笑顔から、女神としてのキリッとした表情に変わる。

 

「ネプテューヌとの決着は、私の悲願でもあるから」

 

 ノワールの"やりたいこと"とは、ネプテューヌと戦うことだった。そして、その日は翌日に控えていた。

 試合のような形式的なものではなく、お互いの全力……すらも通り越し、死力を尽くした戦い。守護女神の座を退いた今のノワールとネプテューヌが本気で戦えばそうならざるを得ないのだ。

 

「悲願……」

「今だから素直に言えるけど、私たち仲良かったじゃない? ネプテューヌのことも、ブランのことも、ベールのことも大好きだった。国同士も仲が良くなって、本気で戦って優劣をつける必要なんてなくなった。でも、そんな平和な日々を過ごしながらも、心の奥底にあった同格の相手と本気で戦いたいっていう欲求はいつまでも消えなかったわ」

「そう……なんだ」

「そういう気持ちがほとんどないあなたたちのことを否定するつもりなんてもちろんないけどね」

「今思えば……お姉ちゃんたちが守護女神をやってくれていたから、候補生だったアタシたちは何度も本気でぶつかり合えてたのよね。その戦いに国を背負う必要なんてなかったから」

「そうなのかしらね。だから、何も背負わなくなった今、まだ私もネプテューヌも女神化できる間に本気で戦いたいのよ。いつできなくなるかもわからないし」

 

 守護女神の座を退き、次第に供給されるシェアも減ってきたノワールとネプテューヌは、当然現役時代ほどの戦闘力はない。そして、現役を退いた女神は、時が経つにつれてシェアを生命に変える機能が劣化していく。もちろん戦闘力も下がり、女神の象徴であった女神化もできなくなる。更に時が経てば、人間が老いて寿命を迎えるように、ノワールとネプテューヌにも終わりの刻が来るだろう。

 また、シェアを生命に変える機能が劣化しているということは、女神の治癒力やそもそもの身体の強度も低下し、現役の女神なら命に支障はない傷でも死に至ることがある。つまり、今のノワールとネプテューヌが本気で戦えば、敗北した方がそのまま絶命する可能性が非常に高いのだ。それこそが、ユニがノワールの"やりたいこと"をさせたくない理由であった。

 

「まぁでも、まだ絶対死ぬと決まったわけじゃないし。勝って何食わぬ顔で帰ってくるかも」

「それはそれでネプギアが可哀想」

「ネプテューヌは可哀想じゃないのね……」

「お姉ちゃんもネプテューヌさんも、お互いに負けて死んじゃうなら悔いはないんでしょ? だったら。可哀想なんて思ったら失礼じゃない」

「それもそうね」

 

 おそらくは、プラネテューヌ教会の方でも、死を覚悟した戦いに挑もうとするネプテューヌをネプギアが引き止めたのだろう。そして同じように、最終的にネプテューヌの望みを受け入れたネプギアが覚悟を決め、ネプテューヌを送り出す決意をした、と思われる。

 

「ネプテューヌだけじゃなくて、ブランやベールとも決着を付けたかったんだけどね」

 

 その日は特別なことはなかった。共に過ごすのが最後になるかもしれない日だからこそ、ノワールとユニは普段と変わりなく過ごした。そして夕食はノワールの待望だったユニのカレーを食べたのだった。

 

「さて」

 

 翌朝、ユニは、決戦の場へ向かう準備をするノワールと最後になるかもしれない時間を過ごす。

 ユニはノワールに何を言えばいいかわからず、何気ない会話しかしていなかった。

 

「ユニ」

 

 そんな時、ノワールがユニの目をじっと見つめて言う。

 

「あなたは、私の生涯の誇りよ。今までも、そしてこれかもずっと」

「お姉……ちゃん……」

「大好きよ、ユニ。ワガママなお姉ちゃんを許して」

「謝んなくていいわよ。そんな後ろ向きな気持ちじゃネプテューヌさんに負けるわよ?」

「言うじゃない」

 

 ノワールの言葉を聞き、ついさっきまで何を言えばいいかわからなかったユニだったが、伝えたい言葉が次々と頭に浮かんできていた。

 

「アタシね、どんなお姉ちゃんも好きだけど、やっぱり一番好きなお姉ちゃんは、カッコいいお姉ちゃんよ。お姉ちゃんが女神辞めて、お互い意地張るのやめて、素直に言い合えるようになったのは嬉しかったし毎日楽しかったけど、お互いに意地張り合ってた昔もそれはそれで嫌いじゃなかったわ。その頃のお姉ちゃんが一番強くてカッコよかったから。そう思ったら、これ以上弱くなる前にネプテューヌさんと決着付けたいお姉ちゃんの気持ちが少し分かった気がしてさ」

 

 ユニはようやく、理解し難かったノワールたちの思いを、なんとなく分かってきた。そして分かってしまえば、自然と悲しさも減っていた。

 最愛の姉を失うのはもちろん悲しいが、最愛の姉が悔いを残しながら衰えていき最後に死ぬのは、自分にとっても心残りとなってしまうだろう、と。

 

「さて、そろそろ約束の時間ね。じゃあ……」

「いってらっしゃい、お姉ちゃん」

「うん、行ってくるわね、ユニ」

 

 ノワールとユニは、熱い抱擁を交わし、その後ユニがノワールの背中を思い切りひっ叩いて送り出した。

 透き通るような青空の下を、ノワールは堂々と歩きながら決戦の地に赴くのだった。

 

 

 

 

 

「まさかあなたの方が先に来るとは思わなかったわ」

 

 決戦の地、プラネテューヌとラステイションの境にある峡谷で待っていたネプテューヌに対し、後からやってきたノワールが言う。

 

「待ちきれなかったからね。本当に楽しみだったんだよ今日は」

「死ぬかもしれないってのに?」

「だからこそだよ」

 

 ネプテューヌは、自分の女神生に悔いはないと思っていたが、満足し切ったわけでもなかった。そんなネプテューヌにとってノワールとの死闘は、女神生を締めくくるに相応しい最高のデザートのようなものだった。

 

「それよりも、あなたよくあの妹を説得できたわね。ある意味私より大変だったと思うけど」

「大変だと思ったからさ、わたしが引退した時からずっと言ってたんだよね。わたしの最期はこうなると思うからその時はよろしく、って。それでも説得するのに十年ぐらいかかったけど」

「十年ね……私たちにとっては長いようで一瞬よね」

「そうだね。じゃあ……やろっか」

 

 語り合いが終わり、両者ともに剣を構える。

 ネプテューヌは軽快なステップでノワールまで距離を詰めていく。そして、数回のステップの直後急激に加速した。

 

「……!」

 

 ネプテューヌは定石や王道と呼ばれている剣裁きから逸脱しためちゃくちゃな動きで戦うが、体重移動や脱力と漲溢の緩急の付け方が非常に上手い。

 しかしノワールはネプテューヌにペースを乱されることなく、ネプテューヌが加速した勢いで繰り出した斬撃を剣で受け止める。

 

「やるね、ノワール」

「あなたこそ」

 

 ノワールは足払いするも、ネプテューヌに跳んで避けられる。

 ネプテューヌの着地の隙を狙ってノワールが前進するも、ネプテューヌが光魔法の小剣(エクスラッシュブレイド)を足元を守るように撃ち出し、それを阻む。

 

「『フォールスラッシュ』!」

 

 しかしノワールは、それを小賢しい守りと言わんばかりに斬撃を飛ばし、光魔法の小剣(エクスラッシュブレイド)ごとネプテューヌを吹き飛ばした。

 

「ねぷっ! とぉっ!」

 

 ネプテューヌはあえて大袈裟に吹っ飛ぶことで距離を稼ぐ。

 

(今のわたしじゃ飛び道具系の技の威力は出せない……)

 

 自分で武器を扱って出す技ならともかく、今のネプテューヌもノワールもシェアエネルギーの塊のみで攻撃する技は、衰えたことにより現役時と比べると大幅に威力が落ちている。

 だから、ノワールは距離を取られても急いで詰めてくることはしなかった。

 

(ノワールはきっとそう考えてる!)

 

 その考えを逆手に取ったネプテューヌは、右腕を天に掲げた。

 

「【普賢の羽】【紫獄の塔】……」

 

 そして、ぶつぶつと何かの言葉を綴る。

 

「何……?」

 

 その発言の意味をノワールが気付くのに、数秒の時を有した。

 

「【輻輳】【相剋】【堕罪の剣】……」

 

 ネプテューヌが今行っているのは、スキルの完全詠唱。魔術に限らず、女神が使う攻撃用のスキルの一部には詠唱が存在し、完全な詠唱を経て繰り出されたスキルはその威力が底上げされる。

 

(いや……これは詠唱⁉︎)

 

「『32式エクスブレイド』!」

 

 スキルの完全詠唱により、衰えた身ながらも全盛期と遜色ない威力で放たれる『32式エクスブレイド』が、峡谷の崖を抉りながらノワールに迫る。

 

「『トルネードソード』ッ!」

 

 ノワールは咄嗟に『トルネードソード』を繰り出すが、『32式エクスブレイド』を弾き飛ばす威力には至らない。

 シェアエネルギーの塊の大剣が炸裂し、大爆発を起こす。

 

「ノワール……」

 

 ネプテューヌが物憂げにノワールの名を呟いた直後、大地が膨れ上がり、割れた地面から爆炎が噴き出す。

 

「ねぷっ⁉︎」

 

 そして、炎を剣に纏わせながら、ノワールから女神化したブラックハートが地面から飛び出した。

 ブラックハートはトルネードソードで地面を抉り掘り、32式エクスブレイドを躱していたのだ。

 飛んだブラックハートは、ネプテューヌ目掛けて落下と同時に攻撃を放つ。

 

「『ヴォルケーノダイブ』ッ!」

 

 ネプテューヌもパープルハートに女神化し、手に握る剣に炎を纏わせ、ブラックハートの攻撃に応戦する。

 

「『ブレイズブレイク』!」

 

 二人の炎を纏った斬撃同士がぶつかり合い、互いの炎が相手のものをかき消していく。

 全盛期と比べれば発するシェアエネルギーの総量や出力も減少し、膂力も機動力も落ちた。しかし、戦いに向ける気迫は、全盛期よりも研ぎ澄まされていた。

 

「行くわよ! 殺してあげるネプテューヌ!」

 

 迸る戦意をあえて乱暴な言葉にして解き放つブラックハート。

 ブラックハートの言葉は然程間違ってはいない。この戦いに決着が付けば、おそらく片方、場合によっては両者とも命を落とすだろう。

 そんな結末を両者ともに望んでいた。女神の身ゆえに見た目が老いることはなくとも、時が経ち衰えて朽ちていくのならば、その前に華々しく戦って散りたいと。

 

「『クロスコンビネーション』!」

「『レイシーズダンス』!」

 

 パープルハートもブラックハートも、互いの最も得意とする剣技を同時に繰り出す。

 互いに迫り来る敵の刃を自身の刃で防いではいるが、防ぎ漏らした攻撃が身体に届き、傷を作る。

 

「ぐ……っ」

 

 ブラックハートの剣がパープルハートの肩口を掠め、パープルハートの剣がブラックハートの脇腹を掠める。

 全盛期の身ならばこの程度のダメージなど気に留めることなどなく、身体に傷が付くこともなかった。

 肉体強度の劣化もあるが、女神が戦闘の際に身を守るために身体の表面に展開している薄皮なようなシェアエネルギーのバリア、これの精度が落ちていることも原因である。

 

「はぁっ!」

 

 斬り合いの中、ブラックハートの繰り出した膝蹴りがパープルハートの脇腹に突き刺さる。

 

「剣に意識が行き過……」

 

 ブラックハートのが言い終わる前に、パープルハートが肘でブラックハートを殴り飛ばす。

 

「意識が……なんですって?」

「この……っ」

 

 ブラックハートの高速の突きがパープルハートの頬を掠める。

 反撃を考慮し、突きの勢いを止めずにそのまま一旦パープルハートから距離を置き、呼吸を整えるブラックハート。

 

「ふー……」

 

 疲弊。厳しい戦いの末に息が上がることはあったが、本来なら意識せずとも回復する小さいダメージが今の身体には蓄積されていた。

 対するパープルハートを見ても、呼吸が乱れている。頬についた赤い線のような切傷からは少量の血が垂れていた。

 

「お互い……本当に衰えてしまったものね」

 

 パープルハートは口惜しそうながらも、穏やかな口調で言う。

 かつて、親愛なる人間の友を看取った。友は、自らの生き様に誇りを持って逝った。その意思を、当時はまだ現役の守護女神だった自分は全てを理解することはできなかった。老いることも死ぬことも受け入れがたいものだったからだ。

 しかし、パープルハートはそれを今になってようやく理解した。

 

(限界は……思っているより早いってことね)

 

 おそらく、この疲弊がこれ以上積もれば、女神化を維持できなくなるだろう。

 全力の勝負をいつまでも続けていたかったが、それを続けられるほどの強さはもう自分たちにはない。

 

「はぁぁあああ……!」

 

 パープルハートは、今の自身が行える最高の一撃を放つ為、自らのシェアエネルギーを限界まで高める。

 当然、ブラックハートはパープルハートのシェアエネルギーの高まりを察知し、この意図を理解する。

 

「受けて立とうじゃない!」

 

 そして、ブラックハートもまた自身のシェアエネルギーを限界まで高める。

 二人の女神の全力に、周囲の空気が震え、大地が揺れる。

 

「『ネプテューン……」

「『インフィニット……」

「……ブレイク』!」

 

 技名と共に、パープルハートは力強い足踏みで地面を蹴り出し、敵に向かって飛びかかる。

 

「……スラッシュ』ッ!」

 

 対するブラックハートは、急速旋回してパープルハートの初撃を避け、側面から斬りつける。

 パープルハートは峡谷の崖面を蹴って切り返し、迫り来るブラックハートの剣に自身の剣を振り抜いて迎撃する。

 剣がぶつかり合う衝撃で互いの剣を逸れると、加速しながら距離を離し、パープルハートは縦横無尽に峡谷の崖面を足場代わりに蹴り付けて飛び回りながら剣を振り、ブラックハートは敵を中心とした八の字の軌道で飛び回りながら剣を振る。

 

「あははははっ!」

 

 剣を交える中で傷が増えながらも、ブラックハートは言いようのない高揚感に包まれ、笑い声をあげる。

 

「ふふっ……!」

 

 パープルハートは声をあげて笑うことはないが、その表情は歓喜に包まれていた。

 斬り合う中で、どちらの必殺技も最後の一撃に差し掛かる。

 

「これでっ!」

「食らいなさい!」

 

 最後の一撃にふんだんに込めたシェアエネルギーが互い同士に誘爆し合い、大爆発を起こした。

 

「くぅうう……っ!」

「きゃああっ!」

 

 パープルハートもブラックハートもその衝撃で吹き飛ばされ、峡谷の崖面に激突し、地面に転がり落ちて変身が解除された。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 頭から地面に落ちて意識を失ったネプテューヌに対し、背中から地面に落ちたので辛うじて意識を保っていたノワールは、剣を引きずりながらよろよろと歩いてネプテューヌの元に近づいていく。

 

「これで……私の勝ちよ……!」

 

 そして、ネプテューヌ目掛けて剣を振り下ろす。

 

「ねぷっ!」

 

 その直前、意識を取り戻したネプテューヌが身体を捻って横にゴロゴロと転がり、ノワールの剣を回避した。

 身体へのダメージの影響で振り下ろした勢いを支えられず体勢を崩したノワールに対し、ネプテューヌは立ち上がって剣を振ろうとするも、握る力が弱まっていたせいで剣は手からすっぽ抜け、ノワール目掛けて飛んでいく。

 

「あっ……」

 

 ノワールは屈んで避けようとしたが、身体の動きが間に合わず、ネプテューヌの剣が自身の剣に直撃し、その衝撃で剣が手から離れて落ちた。

 

「この……!」

「たぁっ!」

 

 ノワールが剣を拾おうとネプテューヌから目を離した瞬間、ネプテューヌはノワールに飛びかかり、馬乗りになる。

 

「の……わぁあるぅううっ!」

 

 そして、ノワールの顔面目掛けて拳を叩き込んだ。

 

「ぎゃぅっ!」

「あああっ!」

 

 ノワールは上に乗るネプテューヌを押し退ける力は残っていない。

 しかし、数回の打撃を受けながらも、なんとか手を動かし、地面の砂を手に掴み、ネプテューヌの目に向かって投げつける。

 

「ふぎゃっ……」

 

 ノワールは、ネプテューヌが怯んで手が止まった隙に、ネプテューヌの顔面に頭突く。

 

「うぐっ!」

 

 そして尻餅を付いて倒れたネプテューヌの腹部に飛び蹴りを踏み込んだ。

 

「んぐぇ……っ」

 

 ネプテューヌは血を吐きながらも、マウントポジションを取らせないようにノワールの足を掴んで引っ張り、体勢を崩す。

 異様な光景だった。女神がするとは思えない醜い暴力のぶつけ合い。おそらくこの場に観客がいれば、全員が言葉を失い目を背けるだろう。

 ネプテューヌもノワールも、戦闘に使えるシェアエネルギーが残っていない。だからこその先程の暴力の応酬だった。

 疲労とダメージで朦朧とする意識の中で、相手を倒すという意志だけが二人を動かしていた。試合終了の合図など存在しない。そうなれば、どちらかが動かなくなるまで戦い続けるしかないのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 戦闘に使えるシェアエネルギーが残っていない、しかしノワールはネプテューヌに悟られぬよう掌にシェアエネルギーではなく魔力を溜めていく。

 普段ならばそのような小細工に即気づくことができたネプテューヌだったが、今の消耗し切った身体と意識ではノワールの策を見抜くことができなかった。

 

「『ドルチェ・ヴィータ』」

 

 そして、技名と共に指先から撃ち出された魔法弾が、ネプテューヌの腹部を貫き風穴を空けた。ノワールは、妹のユニが得意としている技を、ユニほど威力は出せないにせよちゃっかり習得していた。

 

「かは……っ」

 

 体力の限界に加え腹部を貫かれたダメージで崩れていくネプテューヌを見て、ノワールは勝利を確信した。

 

「私の勝ちよ……ネプテュ」

 

 言葉の途中で、ネプテューヌから放たれたシェアエネルギーの斬撃により、ノワール身体が上半身と下半身に両断された。

 

「え……?」

 

 どさり、とネプテューヌとノワールの身体が地面に倒れる。

 

「ね……ぷ……ぅ……」

 

 ネプテューヌは右腕が無くなっていた。戦闘用のシェアエネルギーが尽きたネプテューヌは、自身の肉体というシェアエネルギーの塊を力として武器に換えることで、右腕を媒体に斬撃を繰り出したのだ。

 

「……」

「……」

 

 既にネプテューヌもノワールも絶命していた。

 互いに亡骸は凄惨なものだが、悲壮感は無かった。

 それが、一時代を築いた二人の女神の生き様だった。

 

 

 

 

「つまり、ノワールの方が先に死んだからわたしの勝ちだよね?」

「え? 先に死んだのはあなたでしょ? だから私の勝ちよ」

「そうかなぁ? だって先に目を閉じてたのノワールじゃん」

「目を閉じてても意識はあったの。だから先に死んだのはあなたよ」

「い〜や、絶対わたしの勝ちだも〜ん!」

「勝ったのは私よ!」

「…………ぷっ」

「あははっ」

「楽しかったね」

「そうね。楽しかったわ。この戦いも、私たちの生涯も」

 

 

 

 

 

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