人によっては解釈違いな内容のため、苦手な人は我慢して読んでください。
「あいちゃんって、今何歳なの?」
ある日、ネプテューヌが言った。
「あんまり歳とか言いたくないんだけど」
「いや、失礼な質問したとは思うけどさ、わたしは女神だから数十年数百年経っても見た目が変わらないんだけど……あいちゃんはそうじゃないじゃん? でもさ……」
アイエフとコンパとはネプテューヌと出会い、犯罪組織、タリの女神の件、猛争事変、その他諸々の事件を経て、もう数十年の付き合いとなる。
「わたしたち初めて会ってからもう五十年以上経ってるよね? あいちゃんもコンパも、ほんの少し顔つきが大人びたかなぁ……ぐらいで全然見た目変わらないんだけど」
アイエフもコンパも、キャラデザの微調整かってぐらいしか容姿が変わらず、年老いた様子が全くない。容姿だけでなく、身体能力が衰えているわけでもない。それどころか、長き時に渡り女神と共に最前線で戦い続けたことで、並の人間を寄せ付けない強さとなっている。
「大人しく老いぼれてろってこと?」
「そんな言い方はしてないよ〜!」
「けどまぁ不思議よね。わたしは両親なんていないからアレだけど、コンパはこの間両親亡くなったし。本人は老けてないのに」
「あいちゃんとコンパってもしかして女神……?」
「そんなはずないわよ。変身できないし、そもそも身体の構造が普通に人間だもの」
アイエフとコンパが人間であることは変えようのない事実である。傷がシェアによって治ることなく、シェアエネルギーを用いて戦うこともできない。紛れもなく人間なのだ。健康診断も毎年受けているため、医学的にも人間であることは証明されている。
「まぁわたしはいいんだけどさ。あいちゃんが寂しい思いしてないかな、って」
「私は別に。コンパは心配だけど。あんまり気にしたことなかったけど、言われてみれば気になってきたわね」
「いーすんに聞いてみれば? あいちゃんの身体がどうなってるのか」
「どっか悪いみたいでなんか嫌ねその言い方。まぁでも、聞きにいくのはアリね」
その後アイエフは、ゲイムギョウ界の步く辞典ことイストワールに話を聞くことにした。
「ふむ。ご自身でお気づきだと思っていましたが、せっかく聞きにきてくださったので、それにちなんだ大昔の話からしましょう」
イストワールの執務室……執務室とは呼ぶには幻想的なまるでプラネタリウムのような部屋に、アイエフを訪れていた。
「私が生まれるよりも遥かに昔、この世界がゲイムギョウ界と呼ばれる前の世界では、一般的に人間の平均寿命は七十から八十年ぐらいでした。今でも常人の平均寿命は同じですが、例外が生まれる大きな理由となったことがやはり……」
「守護女神の誕生、ですか?」
「はい。女神という存在がゲイムギョウ界に誕生し、信仰……シェアエネルギーという概念が生まれ、それに呼応されるようにそれまでの世界では迷信程度のものであった魔力が活性化し、世界の性質が大幅に変わったのです」
言いながらイストワールが指を鳴らすと、一瞬部屋の明かりが消え、部屋の壁一面に映像が流れ出す。
映し出されたものは、これまでイストワールが記録してきたゲイムギョウ界の歴史であった。
「信仰によるシェアエネルギーの循環、それは少なからず人体に影響を及ぼすものです。長き時の中で生物が外的要因により進化するように、女神やシェア、魔力に充てられた人間が変革することもあります」
「それが……私やコンパですか?」
「そうなりますね。他の要因もあるでしょうが」
「他の……?」
「あなたやコンパさんが、
二人が話す背景で流れる歴史の映像も終盤に差し掛かり、ここ数十年のものとなる。犯罪組織との戦い、タリの女神の件、猛争事変、イストワールが映像として記録していた中に、アイエフとコンパがネプテューヌたち守護女神と共に戦っている場面もあった。
「シェアエネルギーとは心から生まれるもの。人の心のエネルギーなのです。それは女神様だけでなく、人間にも作用します。あなたがネプテューヌさんの友人でい続けたいという思いが力となり、あなたの老いを否定しているのかもしれませんね」
「そんなことあるんですか……?」
「さぁ?」
イストワールは、彼女には珍しく肯定でも否定でもない曖昧な返事をした。
その時、ちょうど歴史の映像は終わり、部屋の壁面が元に戻る。
「ゲイムギョウ界の歴史は変革の歴史。世の理が一定だった時期の方が珍しいものです。女神様ほどではないにせよ長寿の人間が増えるか、それとも人類の異端として普遍化することなく歴史の中に消えていくか、それを知る者は今の世界にはいないでしょうね」
「わからない、というのを回りくどく言っているだけですよね?」
「ふふ」
誤魔化されたような気がするが、口の巧さでは敵うはずないイストワール相手に、アイエフは何も言い返すことはなかった。
「たまには長話に付き合って欲しかったのです。ネプテューヌさんはあまり付き合ってくれないので」
その後、イストワールと世間話を少しして、アイエフは部屋を後にした。
「心の持ちよう、か」
数日後アイエフは、コンパと休日が被ったので、ランチに誘うことにした。
アイエフはコンパに、常人より遥かに遅い老いについてどう考えているかを聞いてみたかったのだ。
「コンパはさ、何か思うことはある?」
「私自身はあまりないですね。けど、よく患者さんに聞かれますよ。若さの秘訣は? みたいなのは」
「なんて答えてるの?」
「友だちが偶然老けない子だったから自分も老けないように心掛けて生きてます、って」
「ぷっ……なによそれ」
あまりにも軽いコンパの言い様に、アイエフは失笑した。
「だって、ねぷねぷは女神だから歳をとらないじゃないですか。そして、あいちゃんも何故か歳をとらないときたら、私だけ歳はとりたくないって思うのも当たり前じゃないですか」
「いや、まぁそういうもんだけどさ」
「だけど?」
「その……私たちは女神という存在に適合した新人類なのかな、って」
「……ぶふっ」
今度は、アイエフの言葉に対してコンパが失笑する。
「なんですかその『新人類』って、ふふっ」
「だって! そう思うじゃん! ネプ子に影響を受けて長生きしてるし老けないから!」
「それで、どうせその『新人類』として自分はどう生きるべきか、みたいなのを悩んでたんですよねあいちゃんは」
「んぐっ」
アイエフはコンパに図星を突かれ、言葉が詰まる。
「真面目さんなのはいいことですけど、もっと気楽に生きてみてもいいと思いますよ。長生きなのも老けないのも自分の個性って程度に受け止めて、ですね」
「そっか……それでいいかもね」
もしかすると、イストワールの曖昧な言い方も、自分に気にしないように言っていたのかもしれない、とアイエフは考えたが、その答えを知ろうとするのは無粋だと自分に言い聞かせ、それ以上何も考えないことにした。
「それで、老けない理由ってなんか分かったのー? あいちゃーん?」
「私が冥界住人だからよ。冥界に住まう者は、この世の老いという理には囚われないの」
「あ、そういう感じでいくことにしたんだ」