ある日のラステイション教会で。
「う〜ん……」
プラネテューヌから届いたある一枚の書類を手に、頭を悩ませるノワール。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「珍しくネプテューヌから仕事関係の提案があったのよ、珍しく」
「それは珍しいわね」
「ほんと珍しいわ。明日のプラネテューヌの天気が心配ね」
ネプテューヌという女神への印象は、ラステイション姉妹の間で共通していた。
「それで、内容は?」
「しばらくお互いの妹を交換するのはどうか、って。交換留学みたいなものね。向こうからはネプギアが来てこっちからはユニが行くって感じの」
「アタシがプラネテューヌに……?」
「ネプテューヌ、自分のことは適当なくせに、ネプギアのことになると割と考えてるのよね。あの子頭が硬いところがあるから見聞を広げてほしい、って言ってたわ」
「なるほどねぇ……じゃあプラネテューヌ行ってくるわね」
────という軽いノリで、交換留学もとい研修が始まった。
それにあたって、ユニには心配ごとが一つあった。ネプテューヌという守護女神が仕事をしないことは周知の事実であり、他国の候補生の自分ですら知っている。
「ちょっと待ってくださいネプテューヌさん」
そんな状態でプラネテューヌに自分が出向いたらプラネテューヌの女神の仕事のほとんどを自分がやる羽目になるのでないか、と。
そして、それは心配ごとでありながら意気込みでもあった。ユニの書類仕事の処理速度は、滅多に褒めない姉ことノワールが素直に褒めるレベルであり、ユニ自身も自信を持っている。ユニは自分の実力がどれだけプラネテューヌで通用するか意気込んでいたのだ。
「ん、どうしたのー?」
「なんで普通に仕事してるんですか?」
研修初日、何事もなく机に座り仕事を始めたネプテューヌに対し、ユニが言った。
「……ねぷぅ⁉︎」
ネプテューヌはその衝撃の一言に、声を上げて驚愕した。
ユニにとっては、自分の意気込みが早速打ち砕かれたわけだが、ネプテューヌにそれを知る由があるはずもない。
「いつもネプテューヌさんってお仕事してないじゃないですか」
「う……いや……そ、そんなこと……ない……よ?」
「普通に仕事してたら『いつも通り』じゃないですよね? アタシはプラネテューヌを知るためにここに来てるんです。ネプテューヌさんがいつもと違ったら、それって研修にならないと思うんですよ」
「ねぷぅ……言い返したいけど言い返せない……」
ユニはスタスタと歩きながらネプテューヌの机の前に立ち、手を伸ばす。
「というわけで、そのお仕事はアタシがやります」
「いや、流石によその妹に仕事押し付けるのはなぁ……」
「じゃあネプギアにならいいんですか?」
「その言い方は卑怯だよぉ〜」
ネプテューヌは渋々とユニに書類を渡した。
その後ユニは、ネプテューヌにプラネテューヌでの仕様を聞きながら、書類を処理していく。
「う〜ん……」
「どうしたんですかネプテューヌさん? 変なものを食べてお腹を痛めたみたいな声を出して」
「ユニちゃんの中のわたしってそんなイメージなの? じゃなくて、色々と遅かったかなぁ、って」
「何がですか?」
「ネプギアもユニちゃんも、今更わたしとノワールから何か言うことあんまないんだよね。もうちょっと昔にこの企画やればよかったかなぁ」
ユニもネプギアも、従来の女神候補生に求められるレベルを大幅に超えている。実力も精神性も。
ネプテューヌは、妹のネプギアと後輩のユニに、今回の研修を通じて新しい気づきを得て欲しいと思っていたが、今更そんなものは必要でないと思えるぐらいに二人が成長していることがわかった。
「昔さ、わたしユニちゃんのこと危なっかしい子だと思ってたんだよね」
「アタシを?」
「狂犬だったじゃん」
「……否定はできないです、はい」
過去の自分に思うところがあるのか、ユニは気まずそうに頷く。
そのあどけないユニの反応に、ネプテューヌは微笑んだ。
「今回の件さ、ネプギアの為っていうのもあるけど、あの頃からユニちゃんがどんくらい変わったのかわたしが気になったからっていうのもあるんだ」
「アタシを……?」
「ユニちゃん。強くなったね」
ネプテューヌは、普段のおちゃらけた態度ではなく、パープルハートを彷彿とさせるような慈愛に満ちた表情で言った。
「ノワールのことだからどうせユニちゃんのことあんまり褒めてあげてないんだろうし、わたしがたくさん褒めてあげる」
ネプテューヌは、ニコニコ笑いながらユニの頭を撫でる。
いつものようなおふさげモードではないネプテューヌの優しさに触れ、ユニは照れてしまい顔を赤くしていく。
「ぇ……ぁ……ぅ……し、仕事中ですっ!」
「あはは、可愛いなぁ」
「からかわないでくださいっ!」
「ごめんごめん」
ネプギアとは違った可愛さを持つユニと接するのが楽しくなったネプテューヌは、時々ちょっかいをかけつつユニの仕事ぶりを見届けたのだった。
「うわ、ほんとに二段ベットなんですね」
その日の夜、ユニはプラネテューヌのいつも通りを実践する為、ネプテューヌと同じ部屋で寝ることにした。
「ユニちゃんはノワールと部屋分かれてるんだっけ?」
「そうですね。お姉ちゃんはアタシたちに隠し通せてると思ってる趣味がありますし、アタシも部屋中にパーツ広げて銃のメンテとかするんで、部屋分かれてる方が都合がいいんですよ」
「バレバレなんだから隠さなくていいのにね」
「いや、今の感じでいいんです。下手に刺激したら、アタシまで巻き込まれかねませんから」
「ノワールのことよくわかってんじゃん」
「そりゃわかりますよ。妹ですもん」
(そのくせノワールがユニちゃんに甘々でデレデレなのに気づいてないんだよねぇ……まぁこれはノワールにも原因があるからユニちゃんだけのせいじゃないんだけど)
「明日は何するんですか?」
「どうしよう? 仕事もユニちゃんがあらかた片付けちゃったし、ひたすらユニちゃんを可愛がろうかな」
「やめてくださいよ恥ずかしい」
「そういう反応が新鮮でいいんだよね」
「逆効果かぁ……」
ネプテューヌにとって、今回の企画は既に研修ではなくお泊まり会のようなものになっていた。このいじらしい後輩と、もっと親睦を深めたいと思っていた。
「あの……」
「どうしたのー?」
「二段ベッドなのにどうしてアタシの隣で寝るんですか?」
「んー?」
「んー、じゃないです」
「んー」
「ちょ、離してくださいよっ」
「すやぁ……」
「寝ないでくださいっ! もう……」
ユニは飽きれながらも、自分の隣で眠るネプテューヌに寄り添いながら眠りについた。たまにはこの自由奔放な先輩に振り回されるのも悪くないと思っていた。
また、その頃。
「ノワールさ〜ん」
「はいはい、もう寝るわよ」
「は〜い……あの、もっとそっちに行ってもいいですか?」
「……好きになさい」
「えへへ」
(くぅ……素直に甘えてくる妹も……良い……っ!)
妹のためのはずの企画だったが、結果として妹より姉の方が得をした期間なのだった。