ネプテューヌVⅡバッドエンド後の話です。
全ての女神は倒され消滅し、社会と呼べるものは崩壊し、かつて街だった廃墟と瓦礫の広がる地では、死に絶えた人々の亡骸をモンスターたちが踏み潰しながら闊歩していた。
「どうだ?」
そんな滅亡したゲイムギョウ界の大地を、かつてプラネタワーと呼ばれた廃墟の上で見下ろす天王星うずめとかつてクロワールの二人。
「復讐を完遂した気分っていうのは?」
「何もないさ」
かつては世界を護るシステムだった彼女らの手によって、この世界は滅びたのだった。
「何も……ってよ、せっかく望みが叶ったんだ、もっと楽しそうにすればいいのに」
「マイナスがゼロになっただけだ。何も楽しくはない」
「自分を裏切った奴らを永遠に苦しめるとか言ってなかったか? あれどうしたんだよ?」
「飽きたよ。最初は面白かったんだけどね。何度か繰り返すと面倒さの方が勝るんだよ。何より煩いし」
逃げ惑う人々の悲鳴は、最初は聴き心地の良い音楽のようであった。しかしそれは『希望』というものがあったかららしい。人々に女神の死が知れ渡ると、その希望が失われ人々は絶望し、生き残るために足掻くことをやめ、聴き心地の良かった音楽は、聴くに耐えない雑音へと変わっていった、そんな気がした。
「だからまぁ……やりたいことを残しておいたわけだけど」
二人の後ろに、意識を失った大きい方のネプテューヌが転がっていた。身体の一部に怪我は残っているが、命に別状はない。
「そういや、今更ネプテューヌを生かしとく理由でもあるのかよ?」
「今更だからさ。例のノートに閉じ込められていた君は解放されたし、逃げることも戦うこともできなくなったただの人間な彼女に、もうオレたちを止める手段も力もない」
暗黒星くろめと呼ばれていた『天王星うずめ』は、ネプテューヌを抱き上げる。
「気にならないか? この女がこれからどう生きようとするのかを」
「ならねーな。生きていても死んでいてもどうでもいい」
「なら、生きていてもいいんだろう?」
「いや、やっぱ死んでた方がいい気がするな。身体を取り戻したことで、心を取り戻しつつあるお前が、ソイツに謎の執着を見せるようになってるとこを見ると」
クロワールは、うずめがネプテューヌに何かの感情を持っていること、うずめ自身も気づいていないそれを、見抜いていた。
「オレがまともじゃないと?」
「逆だよ。まともじゃないお前が、ソイツの影響でまともに戻られても困る」
「へぇ、意外と高く評価しているんだね、彼女を」
女神を全て殺し、その仲間たちをも全て殺したうずめが、ネプテューヌの命は奪わなかったその理由を、クロワールはなんとなく察していた。
「まぁ、君の察していることを当たっているよ。身体を取り戻し、負の感情以外の感情も持てるようになったオレは、意外にもこのネプテューヌのことを気に入っていたことを自覚してね」
「ほれみろ」
「けど、君の危惧してるようなことにはならないよ。オレはね、逆にこの女をオレたちと同じように染めてやりたいんだ」
腕の中で眠るネプテューヌの頭を優しく撫でながら、うずめは話を続ける。
「この女の善性を消し去り、オレたちと同じような悪意の塊に堕としてやりたいのさ」
「コイツを……? できるかよ」
「とっても難しいだろうね。けど、難易度は高い方が飽きなくて良いと思わないかい?」
「知らね。勝手にしろよ。殺しといた方が良かった、みたいなことにならなけりゃいいけどな」
クロワールは呆れたようなため息を吐きながら言った。ネプテューヌの心を闇に堕とす、おそらくうずめはそんなことをできるとは思っていない。むしろ、できないことだと分かっているからこそ、これからいつまでも続く余暇の余興のための目的にしたことを、クロワールには分かっていたからだ。
「さて、こんな次元にもう用はないし、次は君の望みを何回か叶えてあげようか」
「望みって?」
「君の力で渡った先の次元が、オレの手で滅びるところを見せてあげるよ。この身体の礼として、ね」
「ははっ、そりゃいいな」
「きっと目が覚めたら、ネプテューヌはオレたちを止めようとするだろう。だからオレは、そんなネプテューヌの頑張りを全部台無しにしてあげるんだ。彼女が善意で行ったこと全てをオレの悪意で踏み潰す。何度も何度も、ね」
うずめは、指先にありったけのエネルギーを込めた球体を作り出し、地面に放る。
しばらく地面を抉り掘り進んだエネルギー球は地中で弾け、次元そのものを崩壊させていく。
大地が破れ、空が裂け、曖昧になった次元の壁が砕け、その穴が世界そのものを吸い込んでいく。
「おぉ、派手な終わりようだな。こんな過激なのは久々に見たぜ」
「それは良かった。でも、そろそろ離脱しないとオレたちも巻き込まれるよ」
「わかってるって、じゃあ行こうぜ」
「あぁ、行こう」
うずめとクロワールが次元を去った少し後に、完全に超次元ゲイムギョウ界は崩壊し、残骸は次元の狭間に呑まれて消えた。
こうして、復讐を完遂した暗黒の女神と、世界の滅亡を見届けたかつて史書であった者の新たな旅が始まった。
「うずめうずめ! 次はあのムシを捕まえよう! ほらほらこっち!」
「わかった、わかったから手を引っ張るな……! くそっ、いつになったら折れるんだコイツ……」
「あーあ、うずめのやつすっかり牙を抜かれやがった。だから言ったのによ」
そして旅が続く中、うずめの新たな目標は、未だに全く達成の目処が立たないのであった。