ネプ短編まとめ   作:烊々

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夢の中の戦い ( 天王星うずめ )

「おやすみうずめ」

「あぁ、おやすみ海男」

 

 うずめは同居人……ではなく同居魚に、眠りにつく前の挨拶を済ませ、自室のベッドに寝転がる。

 

「さて……」

 

 そのまま彼女は眠りにつく。

 

 そして彼女の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 夢の世界。『天王星うずめ』の意識の奥深く。

 

「また来たのかい? 懲りないな、【俺】」

 

 そこはうずめの心の中でありながら、うずめの意識とは別の領域。荒んだ心をイメージしたかのような廃墟、その瓦礫の山の上に腰掛けながら、うずめを見下ろすのはもう1人の天王星うずめ。

 

 彼女の名は『暗黒星くろめ』。かつて猛争事変を引き起こし、ゲイムギョウ界を滅ぼさんとした天王星うずめのもう一つの人格。その猛争事変の最終決戦に彼女たちは自分の存在を懸けて戦い、その勝者たるうずめの人格の方が主人格となった。しかし、くろめという人格が消滅したわけではなく、うずめの意識の底で眠り続けていた。

 

 そして、それから数年経った今、意識の奥に眠っていたくろめが再び目覚めていた。だが、うずめが夢の中でくろめに会うのは、くろめを抑えるためではない。それをくろめ自身も分かっている。瓦礫の山をゆっくりと下りながら、くろめが言う。

 

「いい加減諦めろよ【俺】。オレの意思は変わらない」

「俺の諦めが悪いことは【オレ】が一番わかってんだろ?」

「くだらない。さっさとオレを消せばいいものを」

「嫌だ。【オレ】も一緒に帰ろう、俺たちのゲイムギョウ界に」

 

 その理由は、くろめを説得するためであった。先程のくろめが言ったように、夢の中でこうやって二人が話すのは今日が初めてではない。くろめが目覚めてからほぼ毎日うずめはこうして説得をしていた。

 

「そんなものは【俺】の自己満足だ。オレは救われる気なんてない。どうしてもオレを救いたいって言うなら、今すぐこの身体を明け渡してオレの復讐を再開させてくれよ」

 

 歩み寄ろうとするうずめを突き放すようにくろめがそう言い放つ。

 

「じゃあ、俺に勝ったらこの身体を貸してやる。その時に復讐でも何でもすりゃあいい」

「……何?」

 

 うずめが発した予想外の一言に驚くくろめ。しかし、その言葉の裏にある真意を推測し、釘を刺すように言う。

 

「……言っておくが、オレが負けても【俺】の言う条件を呑むつもりはないからな」

「今は……それでいいさ」

「じゃあ、ルールを確認しようか。と言っても単純なものだが。今から【俺】が目覚める時間まで殴り合って、オレが勝ったらオレがその身体を貰う。【俺】が勝ったら特に無し……で良いんだよな?」

「ああ、いいぜ……っ!」

 

 そう言った瞬間、くろめの拳が、今さっきまでうずめの顔面があった場所に突き出された。

 

「……っと、危ねえ! いきなりかよ」

「いいと言っただろう」

 

 初撃は回避されたものの、先手を取ったくろめの猛攻が緩むことはない、うずめに攻撃の暇を与えさせないように打撃と蹴りを畳みかける。

 

「…………ちっ!」

 

 うずめは一旦反撃を諦め回避に専念する。繰り返される攻撃は全てが同じ威力というわけではない。威力の高いものもあれば、低いものもある。

 

(……ここだ!)

 

 うずめは直感で威力の低いものを見極め、それを敢えてくらうことにより、強引に隙を作り出す。所謂『カウンター』。

 

「くっ!」

 

 カウンターの打撃が炸裂し、その衝撃で後退るくろめ。しかし、その眼孔は怯むことなくうずめを捉えたままである。

 

(オレたちのメガホンによる超音波攻撃は、音に音をぶつければ互いの攻撃を容易く打ち消せるからオレたち同士の戦いだとやってもあまり意味がない。ならば……)

 

「出ろ」

 

 くろめがそう言って適当に腕を振るうと、その後ろにダークメガミが出現する。

 

「マジかよ……っ⁉︎」

「ここはオレたちの夢の中、なんでもアリだ」

「なるほどな……! なら!」

 

 うずめは一瞬驚いたものの、臆することなく思い切り腕を振りかぶる。

 

「おらぁっ!」

 

 そして、気合の掛け声共に突き出された拳によりダークメガミは一撃で粉砕される。

 

「なんでもアリはお互い様だ!」

 

 自身のイメージによってダークメガミを顕現したくろめに対しうずめはそれを一撃で打ち砕くイメージをした、ということだろう。

 

(……一撃か。こんな人形じゃ相手にもならないな。ダークオレンジになるプランも考えていたが、この戦いにおいてはそれをする意味はないだろうな)

 

 ここは夢の中、故に体力が減ることはない。勝敗を分けるのは精神力の差。そして、くろめの力の源は負の感情。

 

(そうだ……思い出せ!)

 

 くろめは力を貯めるために己の記憶から憎悪を引き出そうとする。

 

(オレの憎しみ……オレの……っ!)

 

 しかし、そんなくろめに心に溢れ出すものは…………

 

『この前……その……だ、ださいとか言ってごめんな! そのゲーム機、買うよ!』

『女神様ー! 一緒に遊ぼー!』

『お、女神様! 今日も頑張ってるね!』

『女神様!』 『女神様ー!』

 

 …………怨みではなく、自分を信じ、愛してくれていた者たちの記憶であった。

 

(何だこれは……っ⁉︎ オレは一体……? ……いや、違う! 違う……っ!)

 

 猛争事変の時の彼女がこんな記憶を思い出すことはなく、もしあったとしてもそれに対して何も思うことはなかった。それは彼女が憎しみだけのエネルギー体で、悪意しか感じ取ることができなかったからである。

 

 しかし、今の彼女はうずめと一つ。それにより以前はできなかった善意を感じ取ることができる。できてしまう。

 

 長い間悪意しか感じ取れなかったくろめの心に急激に流れ込んできた善意は、彼女を狼狽えさせた。

 

「違う、違う違う違う‼︎ こんな感情オレには存在しない! こんなもの、【俺】がオレに見せているまやかしだ‼︎」

「何が見えたかは知らないが、俺がそんなまどろっこしいことすると思うか?」

「なら、【俺】の感情がオレに流れ込んできているだけだ!」

「それはあり得るかもな。けど、結局お前が憎しみより先に思い出したのはそれなんだろ? お前はもう自分で言うほど世界を恨んじゃいないってことじゃねーのか?」

「黙れっ!」

 

 くろめは声を荒げ、再びうずめに殴りかかる。

 

 感情は時に大きな力を生む。『信仰』という感情から生まれるシェアエネルギーを力の源にする女神なら尚更。

 

(何故だっ!)

 

 しかし、感情が大きな力を生むことと、感情に身を任せることは別であり、感情に身を任せた攻撃は動きが単調になる。

 

(何故当たらない……!)

 

 今のくろめは後者。その単調な動き故にうずめには簡単に攻撃が捌かれてしまう。

 

「俺はな」

 

 攻撃を捌きながらうずめが語り出す。

 

「最初は【オレ】のことをなんでこんな奴が俺なんだ、消えちまえって思ってた。でも、お前がそうやってゲイムギョウ界を憎み続けてたから、その過程でお前が捨てた良心から俺が生まれたんだ。だからーー」

 

 うずめの言葉を聞いてもくろめが手を止めることはない。それでもうずめは話し続ける。

 

「ーー俺が今こうしてここにいるのは、お前のおかげなんだよ。俺がお前の歪な思いから生まれた副産物だったとしても、それは変わらないんだ」

 

 遂にうずめはくろめの攻撃を捌くことをやめた。

 

「やめろ! そんな目でオレを見るな!」

 

 最早くろめの攻撃に乗った感情は怒りや憎悪ではなく、自分を赦し共に生きるために歩み寄ろうとしてくるうずめに対する怯えだった。そして、夢の世界ではそんな感情から繰り出される攻撃はダメージにならない。

 

(なんなんだお前は……⁉︎)

 

 その瞬間、くろめにあるイメージが溢れ出す。まるで双子の姉妹のように過ごすうずめとくろめ、そんなうずめの妄想から生まれたイメージが。

 

(これは……⁉︎)

 

『なら、【俺】の感情がオレに流れ込んできているだけだ!』

 

 くろめは先程うずめに吐き捨てたその言葉を思い出す。

 

(【俺】の……感情……)

 

 うずめのくろめへの想いが夢の世界に溢れ出す。『一緒にゲイムギョウ界に帰る』。先程くろめはそれをうずめの自己満足だと吐き捨てた。そう、自己満足である。うずめの想いとは、くろめと対話するのは世界のためや平和のためではなく、かけがえのないもう一人の自分としてそばにいて欲しい、ただそれだけのことだった。

 

(【俺】はそこまでオレのことを……)

 

 だが、自己満足だからこそ、ただひたすら自分を肯定し、自分の存在を求めているからこそ、それがくろめの心を打った。そして、くろめは遂に攻撃の手を止めた。

 

「…………」

 

 うずめは腕を上げる。それを見たくろめは目を瞑り腕を構え防御の姿勢を取る。しかし、うずめがやったのは『攻撃』ではなく、くろめを抱きしめることだった。

 

「【オレ】の感じた憎しみを俺はもう否定しない。だからくろめも、ゲイムギョウ界を愛していたことを否定しないでよ….…」

 

 溢れ出す想いから素の喋り方に戻っていくうずめ。

 

「一緒に帰ろう……うずめたちのゲイムギョウ界に……!」

 

 くろめにはもう戦う意思はなかった。かつての憎悪ももうなかった。腕の力を抜き、うずめに体重をかけ、弱々しく呟く。

 

「【俺】が良くても、みんなが赦してくれるものか」

「赦してくれるよ、きっと、いや絶対に」

 

 夢の世界に段々と光が差していく。そろそろ目覚める時間だーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月後。珍しくうずめはクエストに出かけていた。

 

「とりゃあ!」

 

 クエストの討伐対象である鋼スライヌを追込み、拳を叩きつけるうずめであったが、鋼スライヌは耐久値が低い代わりに防御力と素早さが非常に高いモンスターであり、その素早さからうずめの攻撃をヒラリと躱しそのまま逃げていく。

 

「くっそぉ……! すばしっこいな……っ!」

 

 その時、うずめの脳内に声が響く。

 

(何やってるんだ、少し変われ『相棒』)

 

 うずめは小さく笑い、それに応える。

 

「……! あぁ、頼んだぜ『相棒』!」

 

 その言葉の直後、一瞬だけうずめの身体が脱力し、主人格の『うずめ』から副人格の『くろめ』へと意識が切り替わる。

 

「さて、さっきまでの【俺】とは思わないことだ」

 

 敵意や恐怖、そういった負の感情を読み取ることに長けているくろめは、鋼スライヌの回避先を予測し……

 

「ここか……っ!」

 

 ……数発フェイントを入れ、予測した場所に逃げた鋼スライヌを一撃で倒し、消滅させる。

 

「これで、クエスト完了だな。帰ろうか【俺】」

 

(さんきゅー! こういうちまちました感じの相手は好きじゃないんだよな)

 

「オレは好きだよ? 動きが読みやすくて楽だし」

 

(…………)

 

「どうした? いきなり黙り込んで」

 

(いや、【オレ】とこうやって仲良く過ごせるようになれて嬉しいなって)

 

「やめろよ照れ臭い」

 

(けど、結局俺のもう一つ願いはまだ叶ってないんだよなぁ……)

 

「もう一つの願い……?」

 

(お前と二人で、一緒にこの世界を歩くことだよ)

 

「……いつか……叶うといいな」

 

(絶対に、叶えてみせる)

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

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