ネプ短編まとめ   作:烊々

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風が運んだ故由 ( アイエフ ブラン )

 

 

 

「えっと、待ち合わせ場所はここだったよね?」

 

 アイエフは、ある用事の為にルウィー南部の小さな町に訪れていた。

 仕事半分プライベート半分の用事でありながらもアイエフはそれをかなり楽しみにしていたようで、期待に満ちた表情である人物を待っていた。

 

「……お待たせ」

 

 その人物とは、ルウィーの守護女神ブランだった。

 アイエフとブランは、それなりに好感度は高いとはいえ親密な仲ではない。しかし、今回その二人は待ち合わせをし、共に出かける予定を作っていた。

 

「今来たところですよ」

「そう、ならよかった」

 

 今回二人が行くのは、ルウィーの国境付近で見つかったある『遺跡』だった。

 ルウィーはゲイムギョウ界で最も歴史のある国で、女神であるブランも知らない古代遺跡が多数存在する。その中で現存していそうな物を何個か絞り、実在するのかを確かめ、実在が確認され場所を特定できた一つに向かおうというのだ。

 そしてブランはなんとなくそういうのが好きそうだからとアイエフに声をかけてみたところ快諾され、二人での遺跡調査が決まったのだった。

 

「今日は誘ってくれてありがとうございます」

「いいえ、ロムとラムを連れてくるか悩んだんだけど、興味もないものに無理やり付き合わせるのも可哀想だし……むしろこんな雑務に付き合わせて申し訳ないわね」

「そんなことないです。ほんとに楽しみにしてたんですよ。プラネテューヌにはそういうの殆どありませんから……」

 

 革新の大地であるプラネテューヌは遺跡と呼ばれる物が殆ど存在しない。

 教祖イストワールが管理してる膨大なデータベースに歴史の全てが記されているため、物体として残しておく必要がないのだ。

 そもそもプラネテューヌはルウィーに比べて歴史が浅く、遺跡になるほど古い物がない。確認されている中で最古の建物のプラネテューヌ教会は、改修を繰り返し常に時代の最先端の技術が建造に用いられている。

 

「プラネテューヌで遺跡と呼べるものなんて『初代女神の聖域』ぐらいで……」

「あぁ、イストワールがオーバーヒートした時に修正パッチを拾いに行ったって場所?」

「そうです。あの時は大変でしたよ……」

 

 雑談しながら歩き始める二人。

 少し歩くと、アイエフはあることに気づく。国境付近の遺跡に行くはずなのに、ブランは町の中心に向かっているのだ。

 

「あの、私たち今どこに向かっているんですか?」

「駅」

 

 ブランの言葉に、アイエフは目を丸くする。

 なんとなく自分のイメージしていた遺跡調査とかなり異なっていたからだ。

 

「駅って……遺跡って電車で行くんですか?」

「ここら辺は電車なんて走ってないわ。全部汽車」

「そうじゃなくて……汽車で行ける場所にあるんですか古代遺跡?」

「ないわよ。でも、近くの町に行くことはできる。そこからは歩き……もしあれば馬車に乗るなんてのもいいわね。結局最後は歩きになるけど」

「……」

 

 アイエフのイメージする遺跡調査は、自分がよくやる仕事のダンジョンの調査のようなものだった。人の寄り付かぬ野山を越え、前人未到のダンジョンを目指す。言うならば『探検』のようなもの。

 しかし、ブランから聞いたのはまるで『観光』だったため、呆気に取られていた。

 

「その方が風情があるでしょう?」

「……それもそうですね」

 

 そんな観光旅行もたまには悪くない、とアイエフは納得し、ブランの横を歩く。

 しばらく歩くと、駅に到着した。

 アイエフが懐から交通費決済用のスマホを取り出そうとするが。

 

「ちなみにICカードなんて使えないわよ。もちろんスマホ決済も」

「えっ」

 

 横でその動作を見ていたブランから釘を刺された。

 電子化やキャッシュレスが進むプラネテューヌに染まっているアイエフにとって、切符を買うという行為は最後にしたのはいつか思い出せないほど昔のことだった。

 そもそもまだ目的地をブランから知らされていないため何処行きの何円分を切符を買えばいいかも分かるはずないのだが、アイエフはそんなことすら気づけずにいた。

 

「え〜と……う〜ん……」

 

(真面目だけど少し抜けている可愛いところもあるのねこの子。ネプテューヌが夢中になるわけだわ)

 

「全部私が出すわ。半分仕事だから経費で落ちるし。そもそも私が連れ出しといて交通費を負担させるわけないでしょう」

「え、あ、ありがとう……ございます」

 

 二人は汽車に乗り、ブランは本を読みながらたまにアイエフに話しかける。アイエフは外の景色を眺めながら、たまに話しかけてるブランの相手をする。

 汽車に乗って約二時間。目的の駅に着いた二人は、丁度駅の近くにあった馬車に乗る。

 しばらく馬車に揺られながら、辺境の村で降り、そこからは歩きになった。

 村の外に出ると、ブランがハンマーを出現させ、背負う。

 

「ここからは人が住んでいないから、私の加護はない。つまりモンスターが出るかもしれないわ。いつでも戦えるようにしといて」

「はいっ!」

 

 ブランとアイエフがたまに出現するモンスターを軽く蹴散らしながらルウィー国境沿いの荒野を歩いていると、件の古代遺跡の周辺に到着した。

 

「これは……城ですか?」

 

 外壁や屋根は崩落して原型を留めていないため、城と断言できないほどシルエットは歪になっていたが、それだけこの建物が古いことを表しているようにも見えた。

 

「古城らしいわ。最近までは守護女神戦争時の防衛拠点の城壁の残骸だと思われていたんだけど、実際はもっと古いものじゃないかって話が出てきて」

 

 この古城の学説が覆ったのはここ最近のことだったが、モンスターの生息地域のため調査が進められずにいた。

 そこで、女神ブランが自ら調査へと赴くことになったのである。

 

「入りますか?」

「ええ、入りましょう。危ないから気をつけて。天井が崩落したり、床が抜けるかもしれないから」

 

 古城に入った二人は、建物の内装を傷つけないようゆっくりと歩を進める。

 その最中、ブランが壁や床に掌をかざし、魔力で何かを解析する。

 

「数千年前の建物ね。下手すればそれ以上……!」

 

 ブランはどこか楽しそうだった。自らの仮説の答え合わせが進み、それが段々と真実に近づいてる実感がたまらなかった。

 アイエフもブランの言葉を聞き、本当に遺跡の中に自分はいるのだ、と心を躍らせていた。

 

「そんなに古いものが人の手を加えられずにここまで形として残ってるなんてあり得るんですか?」

「あり得ないわ、ただの建築物ならね。でも、加護とか呪いとか、そういう強い想いの力が付与されている物は、通常の物体よりも長い寿命になる。この城もそれが理由で老朽化がだいぶ食い止められていたようね。流石に数千年も経てばこのザマだけど」

 

 そんなことを話しながら二人が更に奥に進むと、地下へ繋がる階段があった。

 

「私が照らします」

「助かるわ」

 

 アイエフの光魔法を灯り代わりにし、階段を下っていく二人。

 城の地下は何個か部屋があったが、その殆どは崩れて埋まってしまっており、何かを調べられる様子ではなかった。

 しかし、最奥の部屋だけは埋まっていなかった。

 

「地下室にしては少し広いですね……なら」

 

 アイエフが光魔法の出力を切り替えて部屋全体を照らす。

 部屋を覆う暗闇が晴れると、そこには祭壇のような空間が広がっていた。

 

「祭壇……? 何が祀られてるのかしら……?」

「あれ、見てください。何かあります」

 

 アイエフが指を刺した方向、祭壇の中心に、朽ち果てた棒が刺さっていた。

 

「これは……」

「武器……のようですけど、こんなにボロボロに劣化してしまっては、何の武器だか分かりませんね……」

「……あら?」

 

 ブランが棒をじっと見つめてあると、その後ろの石碑とそこに刻まれた記号のようなものが目に入った。

 

「何か……書いてあるわね。でも、何が書いてあるのかさっぱり……」

「これは古代文字ですね」

「わかるの?」

「昔、少しだけ齧ったことがあるので」

 

 アイエフが古代文字を齧った理由は、設定ノートにカッコ良さそうな単語をメモし、技名に使おうとしていたからだが、そんな理由を正直に話せるわけもない。

 とはいえ、ブランもその理由をなんとなく察していた。古代文字みたいなマイナー言語は、創作の造語によく使えるから、アイエフの気持ちが多少分かるのだ。それを口に出して聞くような無粋な真似はしないが。

 

「えっと……」

 

 アイエフはそっと顔を近づけ、棒の下に刻まれた古代文字を解読していく。

 

「……う〜ん、経年劣化で所々文字が消えていて解読は不可能ですね。何かを祀った物なのは分かるんですけど、その何かが解読できません。『花』と……『カード』……いえ『札』ですかね? その文字だけは分かったんですが……」

「『花』と……『札』……まさか……」

 

 アイエフは殆ど文字を読み取れず、当然意味を理解することはできなかったが、数少ない解読できた単語は、幸運にもブランにとっては心当たりのあるものだった。

 

「……なるほど。これが……そうなのね。現存してたんだ」

「何か思い当たることがあるんですか?」

 

 するとブランは帽子を取り、その棒に向かって跪いて頭を下げた。

 

「え、ブラン様……⁉︎」

 

 突然のブランの行動にアイエフは理解が追いつかずあたふたしていると、十数秒後にプランが立ち上がる。

 

「内容は後で話すわ。少し待っていて」

 

 そして女神化し、祭壇の棒を手に取った。

 その瞬間、棒とホワイトハートが光り出し、ホワイトハートが手のひらから棒にシェアエネルギーを注いでいく。

 

「……これで、良し」

 

 一定の量を注ぎ終わったのか、ホワイトハートは女神化を解き、脱力して深呼吸する。

 

「ごめんなさいね、何も言わなくて。ちょっと集中したくて」

「いえいえ、ただならぬ事情っぽいのは察しましたけど……差し支えなければ内容を教えてもらっていいですか?」

「この城は、ルウィーという国の前身ともいえる古代国家の拠点だったみたい。今で言う教会のようなものね。当時は女神なんて概念なかったと思うから厳密には違うけど」

「へぇ……そうなんですね」

「そしてあの棒は、言うならば女神の加護に近いもので、今でも微弱な力を放ちながらこの城を守り続けていた聖遺物よ。だから、私はあの棒とそれを残した先人に敬意を表して頭を下げたの。大先輩のようなものだからね」

 

 その棒は、古代国家をあらゆる災厄から守った英雄の武器が、長い時を経て聖遺物となり、経年劣化でボロボロになったものだったのだ。

 そしてブランにとってその名も知らぬ英雄は、国の守護者としての偉大なる先人だったわけだ。

 

「そして今、私の加護を注いで、この城の劣化を止めるだけじゃなく、ここ周辺にモンスターも寄り付かないようにしたのよ。この城は、無くしちゃいけないものだってわかったから」

 

 軽い気持ちで訪れた遺跡だったが、とんでもなく歴史的価値のある建物だと判明し、それに気づくことができてよかった、とブランは心から安堵していた。

 

「それが分かったのはあなたのおかげよ、アイエフ。本当にありがとう」

 

 そして、その要因となったアイエフに心から感謝し、頭を下げた。

 

「いえいえ! 私は何もしてないですよ! ただ着いて来ただけですし……!」

「あなたがついて来てくれて、あの文字を解読してくれたから、この城が大事なものだって分かったのよ」

「そうですけど……ほら、ブラン様は女神なんですから、一教会員の私に頭なんて下げないでください」

「……変に真面目なんだから、ふふっ」

 

 今日だけで、ブランはすっかりアイエフという人間を気に入ったようだった。

 

「ねぇアイエフ」

「はい?」

「ネプテューヌに愛想を尽かしたら、いつでもルウィーに来るといいわ。それ相応の待遇とポストを用意してあげるから」

「そ、それはちょっと……」

「冗談よ」

 

 口では冗談と言ったが、アイエフさえその気になってくれればいつでも手元に置きたいと思うぐらいに、気に入っていた。

 

「それはそうと、また誘っていいかしら? 今度は仕事とかじゃなくて、普通に遊びとかに」

 

 ブランは、穏やかな笑顔をアイエフに向けながら言う。

 

「えぇ、勿論」

 

 アイエフもまた、穏やかな笑顔でそう返した。

 この日を境に、それまであまり接点のなかったブランもアイエフは、友情と呼べるほど親密なものでないが、また二人で会って色々と話したいと思うぐらいには心を許し合う仲になったのだった。

 

 

 

 

「あいちゃんあいちゃん! 今度の休み釣りに行こうよー!」

「ごめん、その日はブラン様と映画行くわ」

「えー! じゃあその次の休みは?」

「ごめん、その日はブラン様と古書店巡り」

「その次は……?」

「ブラン様と日帰り温泉旅行」

「ねぷぅー! あいちゃんがブランに取られたぁっ! ブランの泥棒猫ー! ちょっとルウィーに直談判しに行ってくるー!」

「そんなんいいから仕事しなさい」

 

 

 

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