新作記念
久々に会った盟友たちは、少しだけ大人びて見えた。
女神は加齢によって容姿が変わることはないとはいえ、纏っている雰囲気というものが違った。
「こうして四人で集まるのなんて、何年ぶりかしら?」
カフェの四人掛けのテラス席に座ってから暫くして、ノワールが言った。
ブランとベールが少し考え込む。
わたしは考えることなく思い出せるほど明瞭に覚えている。
最後に集まったのは、一年と半年ぐらい前、ラステイションで予報外れのにわか雨が降って、びしょ濡れになりながらやって来たノワールをみんなで大笑いした。
その前は三年前の秋ぐらいだった。ブランの小説が賞を取ったから、みんなでささやかなお祝いをした。
その前も、その前の前も、わたしは覚えている。昨日のことのように。
「昔は……よく集まっていたわね」
「今思えば集まり過ぎでしたわね、ふふ」
でも、どうやらみんなにとっては、そんな思い出は遥か昔のことのようだった。
「そういえばこの間、こんなことがありまして────」
ティーカップを置いたベールが話し始める。
ベールがわたしたちに話すことなんてゲームのこととか、推しCPがどうとか、稀に女神の仕事について相談してきたりとか、そんなことばかりだった。
でも、最近はもう違う。
「事業を拡大すべきか考えてまして────」
「新しい社内システムを導入するにあたって────」
「○○社と××社の株価が────」
ベールはもうリーンボックスの守護女神じゃなくて会社経営者だからか、ビジネスの話ばかりするようになった。
守護女神として世間の流れはある適度把握しておかないといけないから、なんとなく内容は理解できる。
話している内容からして、会社経営自体は上手くいっているようだ。
それは嬉しいことだけど、少し寂しくもあった。
「ブランももう売れっ子作家ですものね。昔だったら考えられませんわ」
「私はずっと売れっ子作家になるつもりで書いていたけれど?」
「あら、ごめんあそばせ」
「でも……最近はメディアミックスの為の監修が忙しくて、仕事の執筆はしてるけど……趣味の方はできてないのよね。ノワールは最近どう?」
「私は二人みたいに派手なことはしてないけど……時間だけはあるから色んなことしてるわね。ケイのビジネス手伝ったりとか。あ、そういえばこの前タイミーってやつやってみたのよ。女神が来るとは思ってなかったのか、お店の人びっくりしちゃって……ふふっ」
三人の話を、わたしは聞いているだけ。
わたしと三人に大きな隙間が、住む世界が変わったような、そんな感覚。
どっちが良くて、どっちが悪いとかじゃないけれど。
「あのさっ」
その隙間を埋めようと、なんとか話題を切り出す。
「わたし、やりたいことがあって……」
みんな、ちゃんとわたしの言葉に耳を傾けてくれる。
その様子だけは昔と一切変わらない。わたしの大好きなみんな。
「昔さ、転換期を乗り越えようってお祭り開いたじゃん? でも結局あの後猛争事変で曖昧に終わっちゃったからさ。ああいうの、もう一回みんなでやりたいな……って」
三人は目を見合わせて、少し苦笑いする。
「あー……その、ごめん。もう私たち……それを決められる立場じゃないから」
けれど、突きつけられたのは当然であり残酷な現実。
「そっか。そういえば……そうだったね」
そうだ。
みんなはもう"守護女神"じゃないんだった。
分かってた筈なのに。
「みんなが変わらなすぎて間違えちゃったよ。あははっ」
冗談みたいな言い方で本音を隠す。
「もう、しっかりしなさいよね。あなたはまだ守護女神なんだから」
「ネプギアとイストワールの苦労が見て取れるわ」
「まぁ、それでこそネプテューヌですわね」
間違えちゃったのは本当。
でも、みんなが変わらないっていうのは嘘。
変わらないで欲しい、っていうわたしの願望だ。
本当は、みんなに言いたい。
どうして守護女神をやめちゃったの、って。
もっとみんなと同じ時間を過ごしたかったよ。
わたしを置いて行かないで。
寂しいよ。
でもそんな本音は、口に出すのは勿論、表情にも出しちゃいけないんだ。
「そうそう。それでこそわたし、ネプテューヌだよっ!」
どうしようもない現実は、どんな強敵よりも強くて、恐ろしいことが、今になって分かった。
その後は、何事もなくたわいもない会話を交わして、いい時間になったので解散になった。
こういう時昔は割り勘だったけど、守護女神はポケットマネーが案外少ないからと、みんながわたしの分まで出してくれた。ノワールはともかく、ブランとベールは稼いでいるから、って。
遠慮しようと思ったけど、ここで変に遠慮でもしたら、わたしの本音が見透かされそうで、おちゃらけた態度で奢ってもらった。奢ってくれるならもっとプリンを食べればよかった、なんて思ってもないことを言ったりして。
でも本当は、昔みたいに誰が一円多く出すか程度のことをやいのやいの言い合いたかったんだ。
「今日は久しぶりにみんなに会えて楽しかったよ! じゃ、さよならっ!」
わたしはその日、みんなと別れる時に初めて「またね」が言えなかった。
新作がこんな感じだったら悲しくて泣きます