「意外といけちゃうものね」
「そうですね」
エンシェントドラゴンたちの亡骸の前で、アイエフとコンパが呟く。
直後、亡骸は青いポリゴン状になって消滅した。
数時間前、危険種のエンシェントドラゴンの群れが前触れもなく出現し街の方へ向かっているという報告を受けたアイエフは、タイミングが悪く別件のモンスターに対応しているネプテューヌとネプギアが到着するまでの足止めとして、コンパを連れて現場に向かった。
足止めをしつつ住民の避難誘導をするつもりだったアイエフだが、ふと思った。
(今の私ならエンシェントドラゴンぐらいネプ子がいなくたって倒せるんじゃない?)
コンパも同じことを思っていたようで、二人して迫り来るエンシェントドラゴンの群れに突っ込んだわけだ。
そして、対象を殲滅し今に至る。
「とりあえず、街の人たちに駆除の報告したし、終わっちゃったけどネプ子が来ることになってるから待ってましょ」
「ねぷねぷに連絡するですか? 来なくても大丈夫って」
「飛んでると通話出ないのよネプ子。ネプギアとかノワール様は出てくれるのに」
現場から離れることができず、暇を持て余した二人は雑談に興じようとするが、こういう時に限って話題を思いつかない。
そんな時に便利なのが共通の親友ネプテューヌだ。彼女という存在は本人にも周りにも何かと話題に溢れているのだ。
(そういえば……)
ネプテューヌといえば、アイエフは数日前奇妙な夢を見た。ネプテューヌとコンパが関係している夢だ。
自分が見た夢の話題なんて話す方も聞く方も面白くもないものだが、結局他に話すことを思いつかなったのでアイエフは口を開く。
「あのさ」「あのですね」
言葉が重なった。
「あ……コンパから先喋っていいわよ」
「いえいえ、あいちゃんからでいいです」
「いや、ほんと大したことないから。この前見た変な夢の話だし」
「え……奇遇です。私もこの間の夢の話をしようと思ったです」
「コンパも……?」
前言撤回。アイエフはコンパに自分の夢を話したくなったし、コンパの夢の話が気になった。
コンパも同様だった。
なんとなく、同じ夢を見た気がしたからだ。
「その夢って、ねぷねぷも出ますか?」
「うん……出たわね。私とコンパと、ネプ子の三人。ネプギアは出てこなかったかも」
「やっぱり……」
「コンパも同じ……?」
「はい……」
二人が夢の内容を話していく。
夢の中のゲイムギョウ界は今のゲイムギョウ界と何か違う雰囲気だったこと。
ネプテューヌの性格も自分たちが知るものとは少し違い、正義感が強く責任感にも溢れていたこと。
そして、ネプテューヌがその正義感や責任感で何かを一人で背負い込み半ば暴走してしまい、自分たちで力尽くで止めたこと。
お互いに話す夢の内容は、何もかもが一致していた。
「戦ってたのよね、私たちとネプ子」
「そうですね。夢で戦ってました」
「私たちが勝って、ネプ子を連れ戻したってのも同じ?」
「はい……同じ、です」
「ねぇコンパ。私たちの知ってるネプ子はあんな感じだからないとは思うけど……もし、よ?」
自分たちの知るネプテューヌは、夢で見たネプテューヌとは違う。正義感はそれなりにあるが、責任感は最低限しかないように見え、一人で背負い込むことはせずに周りを頼る、そんな性格だ。
「もし……今の私たちの間でそんなことがあったら、私たちでネプ子を止められるかしら……?」
アイエフがそう呟いた時、上空に小さな影が見えた。
その影は段々大きさを増し、具体的な形を色が分かるほどになった。
紫の
「ねぇコンパ」
「なんです?」
「試してみたいと思わない?
「ねぷねぷを止められるか、ですか?」
「そうよ。今の私たちがネプ子にどれだけ通用するか、ね」
空から降りてくるパープルハートを見上げながら、本人に聞こえない声量で話す二人。
「二人ともー! 無事かしらー!」
着地したパープルハートが、心配そうに二人に駆け寄る。
「遅いわよネプ子」
「私とあいちゃんでやっつけたです」
「あら、モンスターの気配なんかしないと思ったら、そういうことだったのね……ていうか、二人だけで倒したの?」
「ええ」
「はい」
「そ、そう……大丈夫? ケガとかしてない?」
「「……」」
パープルハートが驚いた表情を見せたことに、アイエフとコンパは対抗心に火がついた。
当然パープルハート本人に悪気がないことは分かっている。心配してくれたことはありがたいし、大事に思われているのは嬉しい。
けれど、パープルハートの中の自分たちは、親友でありながらも庇護すべきか弱き存在だと思われている、そう感じてしまった。
だからこそ……
(あいちゃん。さっきの話……やるですよ)
(ええ、分かってるわ、コンパ)
二人はアイコンタクトでそんな意を交わし、決意を固めたのだった。
■
それはそうと、具体的な夢が一致するという不可解な現象の正体が気になったアイエフは、詳しそうな人物を訪ねることにした。
「同じ夢、ですか」
相手はプラネテューヌの叡智、イストワール。
ネプテューヌには口煩いことが多いが、アイエフにとっては知識に富んだ頼れる上司なのだ。
とはいえダメ元ではあった。心のどこかでは、そんな突拍子もないことに理由があるなんてアイエフ自身も思っていないからだ。
「関係しているかもしれない事柄はありますね」
「あるんですか⁉︎」
「はい。ありますよ」
イストワール曰く、ゲイムギョウ界に限らず、あらゆる次元には別の世界線、つまりパラレルワールドが多く存在することが最近の研究で分かったらしい。
そして、別の次元やパラレルワールドは相互に影響し合うことがあり、それにより別の次元かパラレルワールドのアイエフの記憶の欠片がこの次元のアイエフに入り込み夢として投影されたのではないか、というのがイストワールの推測だった。
「そんなこと、あり得るんですか?」
「あり得るもなにも、それと近い現象を利用しているのが私たちイストワールですよ。別次元間の私たちが交信を行ったり、両シェアを利用してゲートを開いたり、などですね」
「確かに……言われてみれば……」
「とはいえ、自然に影響を与え合うものだとしても、緊急時を除いて無闇に次元間の交信は行うべきではない、というのが私たちイストワールの取り決めでもありますけどね」
「理由はあるんですか?」
「そうですね……影響を与え合いすぎるのもお互いの次元にとって良くないというのもありますが、最も大きい要因をネプテューヌさんみたいに言うならば、大人の事情……とか、シナリオのご都合……とかですかね。なんでもアリになってしまうから、という」
「あー……」
アイエフはそれ以上は詮索しないことにした。
次元がどうとか、そんなものより大きな触れてはいけない何かに触れてしまいそうな気がしたからだ。ネプテューヌは気軽に触れようとするが。
「それはそうと、つまりは私たちが見た夢は別の次元かパラレルワールドで本当にあったことかもしれないんですよね?」
「そうなりますね。暴走したネプテューヌさんを止めた、という夢でしたよね?」
「はい。だから、この次元の私たちにも同じことができるかを試したいんです。この次元と夢で見た次元はゲイムギョウ界そのものが違うっぽいから、必要ないことだとは分かっているんですが……」
ここでイストワールはアイエフの意図を察する。
アイエフはイストワールに夢の話について聞きに来ただけではなく、守護女神ネプテューヌと本気で戦っていいか、そして守護女神ネプテューヌを本気で戦わせていいか、という許可を取りにきたのだ。
正直なところイストワールもわざわざ許可を取りに来なくても良いと思っていた。アイエフとコンパとネプテューヌは親友だし、親友同士の付き合いなら自由に行っても構わない。ネプテューヌが本気で戦ったせいで消費したシェアは後で本人に稼がせればいいのだ。
「成程。では、私の方でできる限りネプテューヌさんのスケジュールを調整しておきましょう。アイエフさんとコンパさんにも準備があると思うので、何日か開けておきましょうか」
だからこそ、こうやってちゃんと筋を通そうとする部下のアイエフを、上司であるイストワールは信頼すると同時に可愛く思っていて、色々と便宜を図ってあげたくなるわけだった。
「あ、ありがとうございます!」
こうして、ネプテューヌ本人の知らぬところで、親友二人による打倒ネプテューヌの計画が進められることとなった。
■
それから数日後。
「ネプテューヌさん、速達です」
イストワールがそう言ってネプテューヌに手紙を渡し、それ以上何も言わずに部屋を去る。
「速達? 今どき手紙なんて珍しいね」
差出人は不明。
白紙の表面を裏返すと、大きな文字が書かれていた。
「果し状……?」
何かの悪戯かと思いつつも、封を切り中の手紙を取り出す。
「どれどれ……『女神ネプテューヌへ。汝に終焉の時来たり。紫電の温床の核たる場に決戦の地在り。我ら其処にて汝を待つ。風の使徒、光の使徒より』」
ネプテューヌは一見意味不明に見える文章の内容を数秒間考え、ある結論に達した。
「これは…………あいちゃんだね!」
親友アイエフが書いた文だと理解したのだ。
「つまりは、プラネテューヌの中心部のスタジアムに行けばいいんだね。おっけーおっけー」
意味不明な文章が親友のものと分かれば、ネプテューヌにとって内容を理解するのは容易だった。
ネプテューヌは軽快な足取りでプラネタワーからスタジアムへと向かう。
場所は変わってスタジアム。バトルフィールドのど真中で、アイエフとコンパはネプテューヌを待っていた。
「ねぷねぷ、あの手紙でここまで来れるですかね?」
「来れるに決まってるでしょ。完璧な果し状だったからね」
「う〜ん……」
自信満々のアイエフと少し不安そうなコンパ。
「たのもー!」
すると、ネプテューヌが選手入場口からバトルフィールドに意気揚々と姿を表す。
「やっぱりあいちゃんとこんぱだね!」
「ねぷねぷ、よくアレでここに来れたですね」
「"アレ"……?」
「あんなの書くのなんてわたしの知り合いだとあいちゃんぐらいしかいないし」
「"あんなの"……?」
「それもそうですね」
「ちょっと二人とも! 私の書いた完璧な果し状に不満があるわけ?」
「何もないよ? あいちゃんらしくていいな、って」
「そうですそうです」
「なんか馬鹿にされてるみたい…………じゃなくて! 私たちはあんたとお喋りする為に呼び出したわけじゃないわ!」
三人揃うと楽しくなってついつい話し込んでしまうところを、アイエフが切り上げて本題に入る。
「果し状の通り、私たちはネプ子……あんたに勝負を挑むわ!」
「挑むです!」
アイエフとコンパは同じ角度同じポーズでネプテューヌに向けて指をビシッと差す。
「別に良い……けど、その前に理由みたいなの教えてもらってもいい?」
「大した理由じゃないわ。私もコンパも強くなったのよ。あんたが思ってる以上にね」
「だから、ねぷねぷにどれだけ通用するか試したいんです」
「えー、わたしは試し斬り用の敵って感じー? わたしわるいめがみじゃないよぅ〜……なんてね!」
ネプテューヌは少しふざけた後、模擬戦用の刀を現出させ、構える。
ネプテューヌは人の感情の機微に敏感である。アイエフとコンパが自分に挑んできた別の理由があることをなんとなく察している。しかし、それを問い詰めることはしない。
その答えは、きっとこの戦いで見つけられると思っているからだ。
「そうこなくっちゃ」
アイエフは双剣を携え、コンパは巨大注射器を抱え持つ。
すると、スタジアムの電光掲示板が起動しカウントが開始される。
そしてカウントが0になり、試合開始だ。
「いっくよー!」
ネプテューヌが動く。
────よりも疾く、地面を蹴り出して前進したアイエフが、その刃をネプテューヌに振りかぶる。
「『天魔流星斬』!」
双剣による連撃を繰り出し、ネプテューヌの初動を潰す。
膂力ではネプテューヌに大きく劣るアイエフだが、持ち前の速さと双剣による手数の多さで、ネプテューヌの攻撃の予備動作を妨害し続け、反撃を許さない。
「……」
しかし、ネプテューヌは百戦錬磨の守護女神。
アイエフの連撃をなんとなく分析し、威力にムラがあることを悟る。
(……ここ!)
連撃全てを防御していたらキリがないので、弱めの攻撃に対して防御を捨て、強引に反撃を繰り出す。
「『ねぷスラッシュ』!」
「く……っ」
咄嗟に片方の短剣で受けるアイエフだが、衝撃が腕に伝わり怯む。
その隙をネプテューヌが見逃す筈はなく、即座に追撃を仕掛けてくる。
「コンパ!」
「はい、ですぅ!」
しかし、コンパが繰り出した魔法の光弾がネプテューヌを襲い、追撃の隙を無くす。
「わ……っ」
そうなれば再びアイエフの攻めの番。
ネプテューヌの反撃に対する迎撃をコンパに任せ、先程よりも大胆な大振りの攻撃を仕掛ける。
「『烈火死霊斬』!」
対して大技で迎撃したいネプテューヌだが、コンパの魔法弾の妨害が入り、技に必要な動きを作れない。
簡単な動きで剣を振り抜いてアイエフの双剣に応じるも、威力を殺しきれずダメージが入る。
「いってて……」
アイエフとコンパの連携に防戦一方なネプテューヌ。
戦いの初めには存在した連撃の威力のムラによる隙は、調子を上げてきたのか今では無くなっている。
(あれ……?)
ネプテューヌとアイエフが一対一で戦えば、勝つのはネプテューヌだ。コンパ相手なら尚更だろう。
しかし、その二人の連携を前に、ネプテューヌは手も足も出ていなかった。
(あいちゃんとこんぱ……思ってたよりだいぶ強い?)
ネプテューヌは地面を蹴り、後方に跳ぶ。
一度距離を取り、仕切り直す為だ、
しかしそれは、女神が人間に対して逃げの一手を取ったということ。本来ならありえないことである。
(そっかぁ……二人ともこんなに強くなってたんだぁ……)
ネプテューヌがふと思った。そういえば、最後に肩を並べて戦ったのはいつだっただろうか。
いつも隣にはネプギアがいて。ノワールが、ブランやベールがいて。
世界の危機に立ち向かう時は、隣にいるのは同じ女神だった。
(親友なのに、いつも一緒にいたはずなのに、全然気づかなかったなぁ……)
もしかすると、無意識に線引きをしていたのかもしれない。
親友だけど、二人は人間で、自分は女神。護る者たちであって、共に戦う者たちではない、と。
「ごめんね二人ともー!」
ネプテューヌは剣を下げ、大声でアイエフとコンパに謝った。
「何がよ?」「何がです?」
次はどんな攻撃を仕掛けてくるのかと思えば、いきなり大声で謝罪を口にしたネプテューヌに、アイエフとコンパは首を傾げた。
「わたしね! あいちゃんとこんぱがこんなに強いなんて思ってなかったんだ! 二人のことみくびってた! 二人が強くなったことにも気づけてなかった! ごめん!」
ネプテューヌからの真っ直ぐな言葉に、アイエフは照れ臭いからか複雑な表情を浮かべ、コンパは素直に喜んでニコニコ笑う。
「……別に、分かればいいのよ分かれば」
「ふふ、よかったですね、あいちゃん」
そして、アイエフとコンパの一つ目の目的は達成した。
それは、自分たちの強さをネプテューヌに思い知らせること。
だが、二人にはもう一つ目的がある。
「だから! 本気で行くからね! わたしの全力! 受け止めてね!」
そう言ってネプテューヌは、掌の上にシェアクリスタルを顕現させる。
(来るわね……!)
(ねぷねぷの本気……!)
そして、シェアクリスタルの力を解き放ち、全身が光に包まれ、女神としての力を行使する為の肉体へと変化する。
「変身完了よ」
ネプテューヌの本気、守護女神パープルハートが光臨した。
「……!」
アイエフもコンパも、その圧倒的な存在感に全身がヒリつくような感覚を得る。
もう一つの目的、女神パープルハートを止められるかどうか。その答えが、今から分かる。
(そういえば初めてよね……女神化したネプ子が敵として目の前に立ってるのって。猛争事変の時は私たちじゃなくてネプギアたちが戦ってたようなもんだし……)
パープルハートが腕を前に伸ばすと、彼女の象徴であり武器である剣が出現する。模擬戦用の殺傷力が失われている物だが、女神化前に握っていた武器とは隔絶された性能を持つ。
「ここからは本気で行くわよ。さて、風の使徒さんと光の使徒さんは、私にどんな終焉を齎してくれるのかしら?」
剣を構え、プロセッサユニットのウイングを展開し、パープルハートはアイエフとコンパに前進する。
「ひぇぇっ! ねぷねぷが来るですぅ!」
「怯えないの! こんな時の為の極意があるでしょ!」
「あ、そうだったです」
「見てなさいネプ子……! 私たちが対女神用に編み出した切り札を!」
アイエフがキレのある動作で掌印を構え、魔法発動の準備を済ませる。ちなみにアイエフがカッコつけているだけで魔法の発動に特に掌印は必要ない。
「『魔界粧・黒霊陣』!」
そして、詠唱した魔法名と共に、アイエフとコンパを中心に魔法陣が展開される。
アイエフとコンパの魔力を混ぜて創られた結界『魔界粧・黒霊陣』。
前衛で近接戦闘するアイエフと、後衛で結界の維持とアイエフのサポートをするコンパの布陣だ。
「……『クロスコンビネーション』!」
一瞬魔法陣に気を取られるも、前身の勢いを保ったままパープルハートが
「『スペクトラルエッジ』!」
アイエフが双剣で迎撃し、クロスコンビネーションの一回目の斬撃で止める。
(重……った!
必死の形相でパープルハートの剣の勢いを殺すアイエフだが、パープルハートは余裕の表情を崩すことはない。
「流石ね。でもこれは防げる? 『クリティカル……」
パープルハートが畳み掛けようと二つ目の技を使おうとした瞬間、パープルハートの足元の魔法陣を媒介にコンパの光魔法が発動し、衝撃と光でパープルハートの体勢を崩す。
「っ……エッジ』!」
しかし崩された体勢からでもパープルハートは強引に剣を振り技を出す。
「きゃ……っ!」
強引に技を繰り出したことが逆にアイエフの不意となり、威力は削られたもののパープルハートの剣がアイエフの脇腹に直撃する。
(入ったわね……可哀想だけどこれも勝負よ、あいちゃん。後でコンパに治してもらってね)
「ぐ……ぅううっ! 『ガイツ・シュトローム』‼︎」
「……ッ⁉︎」
痛みを堪えたアイエフが、脇を引いてパープルハートの剣を抑え、もう片方の腕を振り回して短剣を穿つ。
不意を突かれたパープルハートは、アイエフの技が直撃しダメージを負う。
「『ソウルズ・コンビネーション』!」
パープルハートがよろけた追撃に、更に技を用いて仕掛けるアイエフ。
『クリティカルエッジ』の初段のダメージが残っている筈だが、それをものともしないような疾い動きに、パープルハートは疑問を持つ。
(さっきの当たってたわよね? 痛がってもいたし……あいちゃんがブランぐらい硬いことなんてありえないし……)
傷や痛みがあれば常人なら多少なりともパフォーマンスが落ちるはずだが、アイエフにその様子はない。
(となると、この結界が原因ね)
不審に思ったパープルハートは防御に専念し、結界の効果を探る。
(なるほど、なんとなくわかったわ)
パープルハートの魔力やシェアエネルギーに対する感知能力は然程高くないが、戦闘経験から来る知識量と、親友アイエフとコンパへの理解度から、即座にその原因を特定した。
(結界内には、あいちゃんの回復魔法『グリーンノア』とコンパの回復魔法が漂っていて、私が与えたダメージがすぐに回復されてしまう)
パープルハートが先程剣が直撃したアイエフの脇腹を見やると、敗れた服の隙間から見える素肌の傷と痣が既に治っていた。
(そして極め付けは、回復魔法に混ざるあいちゃんの闇魔法……デバフっていうのかしら? それが、私の力を削いでいるのね。だから、女神化した私との戦闘が成立するわけか)
パープルハートは結界を分析すると、後退し結界外へ脱出する。
「なら、こういうのはどうかしら? 『32式エクスブレイド』!」
そして、シェアエネルギーで生成された大剣を射出する。
人間に向けて放つ技ではないが、パープルハートはアイエフとコンパをただの人間だと思っていない。自らが全力で叩き潰すに相応しい強敵として、容赦ない攻撃を仕掛ける。
「予測済みよ! 合わせて、コンパ!」
「任せてください! 『アルカンシェル』ですぅ!」
「『魔界粧・轟炎』!」
コンパの光魔法がエクスブレイドの勢いを殺し、アイエフの炎魔法がエクスブレイドのエネルギーを燃やして分解する。
「どうよネプ子!」
「あいちゃん、油断しないですぅ!」
得意げに笑うアイエフをコンパが嗜める。
パープルハートは大量のエクスブレイドを周囲に展開し、アイエフとコンパに向けていたのだ。
「ちょっとネプ子! あんた加減ってものはないわけ⁉︎」
「ごめん、今はないわ。頑張ってね二人とも」
「ねぷねぷの鬼〜!」
パープルハートが腕を振り下ろすと、大量のエクスブレイドがアイエフとコンパに雨のように降り注ぐ。
「あいちゃん! どうするです⁉︎」
「決まってるでしょ!」
「作戦があるですか⁉︎」
「気合いと根性‼︎」
「うわ〜ん! ないってことです〜!」
「数を増やした分一発一発の質は落ちてる筈よ!」
降り注ぐエクスブレイドに対し、アイエフは両手に携えた短剣を振り回しながら撃ち落とす。アイエフの読み通り、一発の威力は落とされており、アイエフの膂力でも迎撃することができた。
コンパは魔法でアイエフの疲労回復をしつつ、撃ち漏らしたエクスブレイドを注射器を野球のバッドのように振り抜いて弾く。
「せいっ!」
なんとか弾幕を処理したアイエフとコンパだが、その弾幕に身を隠しパープルハートが強襲する。
「く……っ」
魔界粧・黒霊陣の範囲に入ったことで、再びパープルハートをデバフが襲う。
「忘れたの? 結界の中じゃ、あんたは思うように戦えないわ!」
「それは、二人が万全だった場合の話でしょう? あいちゃんもこんぱも相当疲れてるようだけど、今度はちゃんと捌けるかしら?」
「上等よ……!」
回復魔法は傷や状態異常を癒すことができても、疲労そのものを無かったことにはできない。
いくら結界の効果があれど、パープルハートと渡り合えば疲労はどんどん蓄積していく。
そして動きは悪くなり、結界内では拮抗していた斬り合いも、次第にパープルハートの方が優勢に傾いていく。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ふぅ……」
アイエフは勿論、コンパの息も上がっている。
「ここまでね」
ダメージは負いつつも特に疲弊していないパープルハートは勝利を悟り、勝負を決めにいく。
「二人がこんなに強いなんて思わなかったわ。正直感動しちゃった」
斬り合う中で溜まっていった感情のエネルギーを解き放ち、
「でも、勝つのは私よ」
はっきりと、冷酷に言い放った。
国を、ゲイムギョウ界を守護する女神としての矜持を示したのだ。
しかしそれは、自分は女神で親友二人は人間であると突き放しているかのように聞こえた。
「「……!」」
その言葉は、敗北を悟った二人の心に火をつける。
アイエフとコンパは残った力を振り絞り、パープルハートの腕を掴む。
「あいちゃん……? コンパ……?」
「何勝った気になってんのよ」
「まだ負けてない、です……!」
「もう終わりよ。こんなことしても、あなたたちの勝ちにはならないわ」
「そうね、私たちが勝つのはもう無理ね。あんた本当に強過ぎよ」
「だから、引き分けにするでーす」
アイエフとコンパはパープルハートの腕を掴んだまま、己の魔力を限界以上に高めていく。
「ちょっと! 二人とも何する気⁉︎」
「『魔界粧・黒霊陣』には私たちの回復、あんたへのデバフ、この二つに加えて最後の効果があるのよ」
「私たちの魔力を暴走させて結界を自爆させることです!」
結界の地面に描かれた魔法陣から、危ない音を出して光が漏れ始める。
「自爆……って、そんなのやめなさい!」
「大丈夫大丈夫、試合なんだし死ぬわけじゃないから」
「だから一緒にぼかーん、ってなるですよ、ねぷねぷ」
「なんでそんなに覚悟が決まってるのよ二人とも! あ────」
直後、スタジアムの中心部で爆発が起きた。
■
「あのねぇ二人とも。いくら試合だからって言ってもさ、限度ってものがあると思うんだよね」
壮絶な戦いから数時間後、仁王立ちするネプテューヌに、アイエフとコンパは詰められていた。
三人とも衣服や髪先の一部が焦げ、顔は煤で汚れている。
「で、二人とも気は済んだの?」
「え?」
「わたしと本気で戦いたかった理由があったんでしょ? 理由は後で全部聞かせてもらうけど、とりあえず満足できたの?」
「あー……」
「そうですねぇ……」
アイエフとコンパは、スタジアムの電光掲示板を見る。
そこには『ネプテューヌVSアイエフ、コンパ』と表示されており、試合結果の欄にはDRAWと映し出されていた。
引き分け。勝つことはできなかったが、本気のネプテューヌを止められた、ということにはなるだろう。
「満足した
煤だらけの顔で、ニッコリと笑う二人。
その笑顔を見て、思うところはあれど同じく煤だらけの顔でニコッと笑うネプテューヌ。
「じゃ、帰ろっか」
ネプテューヌが二人の手を取り、ぎゅっと握る。
コンパは嬉しそうに微笑み、アイエフは照れ臭そうに目を背ける。しかし、その手は強く握られていた。
自分たちは親友なのだ。どこか遠くの知らない次元の自分たちと同じように。この握り合う手の暖かさは、その想いの証明のようだった。
「あ、二人がそんなに強いんだったらさ、今度からモンスター討伐のお仕事代わりにやってよ」
「だめです」
「それは自分でやりなさい」