ロムは珍しく一人でクエストに来ていた。
受注したクエストは『大量発生したスライヌの討伐』程度のもの。今のロムの実力ならば軽くこなせるだろう。なぜロムが一人でクエストに来ているのかというと、ある悩みを解消するためであった。
その悩みとは、最近ラムと過ごす時間が少し減っていること。しかし、ラムの方はそれを気にする様子を見せないどころか、一人の時間を楽しむ様子すら見せているため、ロムはその悩みを言い出すことができずにいた。
そこでロムは、自分も一人で色々なことをやるようになればその悩みが解消されるのではないかと思い、とりあえず一人でクエストに行くことから始めてみたわけである。
「……あと二匹……うん、クリアできそう……」
変身していることもあってサクサクとスライヌ討伐は進んでいき、クエストももう終わりが見えてきていた。
「やあっ……! よし、これであと一匹……」
流れるような動きでスライヌを倒し、最後のターゲットに狙いを定めたその瞬間……
\ グォオオオオッ!/
……突如物陰から出現した巨大な影が、最後のスライヌを踏み潰した。
「えっ……なに……?」
(あれは……エンシェントドラゴン……かな? いや、違う……それよりももっと大きくて強そう……!)
そのモンスターとは見て『エンシェントドラゴン』よりも一回りも大きい体躯と硬く鋭い鱗に覆われたドラゴン系モンスター『八十禍津日神』。強力な種が多いドラゴン系のモンスターの中でも最強クラスのモンスターで、危険種を超えた特別危険種……を更に超えた接触禁止種に指定されている。
危険種や特別危険種は守護女神が対応すれば問題はない。しかし接触禁止種は守護女神であっても苦戦するほどの相手と言われている。
(なんで……こんな強いのが……⁉︎)
接触禁止種の厄介さは強さだけではない。生息地が特に定まっておらず、どこのダンジョンにも前触れなく出現する可能性があること。
そして、もう一つはその精神性。八十禍津日神は理性なく暴れる獣ではない。その敵意は常にその場にいる強者へと向かう。八十禍津日神の眼孔はこの場の強者、つまり女神であるロムを捉えていた。
(どうしよう……向かってくるなら戦わなきゃ……!)
ロムは八十禍津日神レベルの強いモンスターと戦ったことがないわけではない。女神候補生としてゲイムギョウ界の危機に立ち向かう際に、それ以上の強敵と戦うこともあった。しかし、その時には常に共に戦う仲間がいたが、今は彼女一人。
「……っ! 『アイスコフィン』……!」
それでもなんとか恐怖を振り払い、氷魔法を繰り出して攻撃するも、八十禍津日神はほとんどダメージを受けている様子がない。
「そんな……!」
\ ガァァァアアッ!/
「っ……!」
咆哮に怯んで動きが止まってしまったロムの身体を、振り回された尻尾が捉える。
「かは……っ!」
肺の中の空気がほぼ全て吐き出され、声にならない悲鳴をあげ、衝撃により数メートル吹き飛ばされて木の幹に叩きつけられる。
「げほっ……げほっ……うぅ……」
(お姉ちゃん……ラムちゃん………………)
薄れ行く意識の中、突如としてロムの中にある記憶が浮かびあがる。それは、自身の悩みを唯一打ち明けた相手、姉のブランと模擬戦をした時の記憶であった……
『……ん、私の勝ちな』
『負けちゃった……』
『珍しく私に一人で模擬戦を挑んできたと思ったら、戦闘中は心ここに在らずって感じだな。武器持ってんならともかく、素手の私に負けるって相当だぞ?』
『……お姉ちゃん、聞いて欲しいことがあるの……』
『言わなくてもわかるさ。ラムのことだろ?』
(……少し前まではロムとラムは私とミナ、そしてお互いのことしか見えてなかったが、最近は少しずつ外の広い世界を見るようになった。
そして、ラムは好奇心旺盛な性格とそれが噛み合って、どんどん視野を広げて外の世界に駆け出して行ってる。自分の使う攻撃魔法のレパートリーを増やそうとベールの元にリーンボックス式の魔法を勉強しに行ったり、ネプギアと共に魔法と科学技術を組み合わせた新しい武器の製作をしているなんて話も聞くな。
で、ロムはそんなラムに置いていかれてる気がして不安になっているけど、どうすればいいのかわからない。その答えを見つけるためにとりあえず私に挑んできたってところか。
さて、どんな言葉をかけてやるべきか……全部私が答えを示してやるわけにもいかないしな。うーん、とりあえずは戦闘面のアドバイスからしとくか)
『なんつーか。ロム、お前戦うのがお上手になってんな』
『お上手……?』
『そう。上手じゃねえ、お上手だ』
『どういうこと……?』
『お前基本二人以上で戦うだろ? 他人と連携する技術は確実に上がっている。それは良いことだが、逆にそんな戦いばっかしてるせいでお前の可能性ってやつを狭めてんだよ。戦闘における自分の役割がこうだから、自分はこんな風に強くなれば良い……って感じで、自分を型にはめちまってんだ。自分の役割だけを淡々とこなすつまらない戦い方、それがお上手ってことだ』
(まぁ、これはロムだけの話じゃない。正直女神候補生の中でこれが1番顕著なのはネプギアだが、その点は
ユニは候補生の中で1番問題がない。常に
ラムはどっちかっていうと『他人に合わせる』いうより『他人が合わせろ』ってタイプだ。それは未熟さでもあるが、この件に関しては逆に好都合。
でも、ロムは戦闘における自分の役割をしっかりとこなすうちに、自分を型にはめ出しちまって、戦闘で本気を出せなくなってきている。自分が失敗したらパーティが瓦解する……そう思ってるからだろうな)
『……お姉ちゃん……私、どうしたらいいかな? どうすればもっと強くなれるかな……?』
『簡単だ。本気を出せばいい。今のお前は出せてないんだよ』
『え……』
『余計なこと考えなくていいんだよ。自分の役割がどうとか、味方がどうとか、一旦そんな考え全部捨てて本気で暴れてみろ』
『本気で……暴れる……』
『あともう一つ』
『……?』
『ラムが頑張ってるのは、お前に置いていかれないためって言ってたな』
『私に?』
『おっと、これはロムには内緒って言われてたんだった。私が今言ったことはラムに内緒にしといてくれ』
……それはまるで走馬灯のようなもので、実際に意識を失っていた時間はほんの数秒。意識を失う前の八十禍津日神との距離はあまり縮まっていない。
(本気……私の……)
ロムは記憶の中の姉の言葉を思い出し、氷面に映る自身の顔を見る。
(……違う。お姉ちゃんは……ルウィーの女神は敵と戦う時にこんな不安そうな顔なんてしない。もっとお姉ちゃんみたいに、ラムちゃんみたいにキリッとしなきゃ……!)
身体を少し動かして、深く深呼吸をする。
「ぁ……ぁあああああーーーっ! よし……!」
そして顔を上げ、普段のロムでは考えられないような気合の一声を入れ、八十禍津日神を睨みつける。その表情にはもう怯えも竦みもない。
(やってみせる……! 私がこのモンスターを……倒す!)
\ ……ォ、グォオオオオッ! /
それに気圧され怯む八十禍津日神だが、すぐに雄叫びをあげ、ロムに襲いかかる。
(……よく見れば避けれる……うん、大丈夫)
だが、その攻撃がロムを捉えることはない。冷静に的確に、降りかかる八十禍津日神の爪を見極め回避する。避けれなさそうなものは魔法の氷壁で防御する。
(……何でだろう? もう何も怖くない)
先程ロムの魔法が弾かれてしまったのは、魔力が足りないからではない。魔力があっても、それを放つ魔術が拙ければ大した威力にはならない。そしてそれをロムは今この瞬間なんとなく感覚で理解した。
(闇雲に魔力をぶつけるだけじゃ、弱いモンスターなら倒せても、強いモンスターには通用しない……もっと工夫しなきゃ)
それを理解した瞬間、ロムの氷魔法の質が変化していく。ただぶつけるんじゃなくて、凍らせて砕く。尖らせて刺す……そうやって少しずつだが確実にロムの魔法が洗練されていく。
「……もっと強く、もっと自由に……!」
守護女神は最初からそれ相応の強さを持ちながら生まれてくる。だから人のように身体が大きく成長し身体能力が上がることはない。
(私の魔法で相手を倒すイメージ……)
だからこそ、『気持ちの切り替え』……そんな些細なきっかけで女神の強さは大きく変わる。姿形は変わらずとも、ロムはもう数刻前とは別次元の強さを手にしていた。
\ ーーーーーーッ! /
接触禁止種としての意地を見せるかのような八十禍津日神の鋭い爪の一撃がロムの肩を捉え、その傷口から鮮血が飛ぶ。
「……」
しかし、ロムは怯むことなく、左手で練った魔力で回復魔法を使い傷を癒やし、右手で練った魔力をそのまま八十禍津日神に叩きつける。
「『アイスコフィン』!」
先程はダメージにならなかったアイスコフィンだったが、洗練された魔法で再び放ったそれは先程とは比べ物にならない威力を出し、八十禍津日神を吹き飛ばす。
(そっか。最初から悩む必要なんてなかった。ラムちゃんが広い世界に先に進んでしまっても、ラムちゃんの進んだ道を辿って、私も後から広い世界に行けばいい。ラムちゃんはきっと待っていてくれる)
心の曇りが晴れていく。それに反応するように、ロムの中の魔力とシェアエネルギーが高まっていく。
(それに、外の世界とか、そんなことは私にはまだよくわからない。なら私はただ強くなればいい。
そして笑う。普段の悪戯っ子のような無邪気さとブランのような荒々しさを混ぜたような笑みで。
(……強いモンスターさん。あなたに会えて良かったかも。あなたのおかげで大事なことに気づけたから。けど、そろそろ終わりにしなくちゃね……)
「『エンドレスコキュートス』……!」
吹き飛ばした相手にロムは自身の最強必殺技『エンドレスコキュートス』を叩き込む。それでも仕留めきれていないが、それを見て狼狽えるようなことはない。
(耐えるんだ……じゃあ)
相手が倒れないなら倒れるまで攻撃すればいい、ただそれだけのこと。ロムが魔氷で創り出したのは、巨大な銃型のコントローラー。それは、ブランの最強必殺技『ブラスターコントローラー』を真似たもの。
「えへへ……お姉ちゃんのまね」
可愛い台詞ともに、可愛くない悍ましい量の魔力が蓄えられていく。
\ オオオオオオオオッ! /
そうはさせまいと、立ち上がった八十禍津日神の咆哮と共に竜系モンスター最強の技『ドラゴニックレイズ』の閃光がロムを貫く。
「それ……ニセモノだよ」
しかし、その真逆の方向からロムの声が響く。ドラゴニックレイズによって貫かれたロムは、氷の鏡により映し出されていたものに過ぎない。
「これで……終わり……っ!」
充分に魔力がチャージされた一撃、その閃光が八十禍津日神を呑み込む。そして、八十禍津日神は次第に青い光となって消滅していく。
決着、女神ホワイトシスターロムの勝利である。
「ふーーっ……」
エネルギーを使い果たしたロムは変身を解き、そのまま氷原に倒れ込む。
「つかれた……今ごろラムちゃん何してるかな……?」
そして、最愛の双子の妹のことを思いながら、眠りに落ちていくのだった。
*
「接触禁止種の出現反応! しかも、そこはロムがクエストに向かったダンジョンじゃねえか! くそっ!」
いつにも無く焦った表情をしながら、凄まじいスピードで空を駆けるブラン。
(無事でいてくれ、ロム……っ!)
現場に到着し、探し回ること数分。ブランはダンジョンの真ん中で眠りこけるロムを発見した。
「ロム! ……ん?」
(気絶……ってよりはただ寝てる感じだな。それに、ロムの近くに転がってたこのアイテム……)
モンスターは撃破されると消滅するが、稀にアイテムをドロップする。どうやら八十禍津日神は倒された際に珠のような素材アイテムをドロップしたようであった。
(この珠……例の接触禁止種が倒された時に落とすやつじゃねえか? この戦闘の痕にこれが落ちてて、ここにロムが寝てるってことは…………ははっ!)
ブランは寝ているロムを起こさないようにゆっくりと抱き上げる。
「……一人でやっちまったのか。大したやつだよお前は。私の自慢の妹だ」
ロムの頭を優しく撫でながらも、少しバツの悪そうな表情をするブラン。
「あーあー、これじゃあまたラムが焦っちまうな」
そんな独り言を呟きながら、少し前にしたラムとの会話を思い出す。
『ねえ、ラム』
『どうしたの、お姉ちゃん?』
『最近ロムと二人でいる時間が減っているようじゃない。ロムが寂しがってたわ』
『えー! ロムちゃんを寂しがらせるつもりはなかったんだけど、困ったなぁ』
『何か理由があるの?』
『わたしよりロムちゃんの方が魔法が上手いでしょ? ロムちゃんと同じことをしてたらいつまでもロムちゃんより強くなれなくて置いていかれちゃうから、ひみつの特訓をしてるの!』
『……そう』
『あ、これロムちゃんに内緒ね! あ! そろそろネプギアとの待ち合わせの時間だわ! じゃあ、行ってくるね、お姉ちゃん!』
『ええ、いってらっしゃい』
ブランは、自分の知らぬ間にも成長していく妹たちを想い小さく笑うのだった。
「……頑張れよ、二人とも」
ちょっとロムのキャラがズレてたかもしれません。